MyGO!!!!!やAve Mujicaといった新バンドの活躍により、“大ガールズバンド時代”の新たな波を起こしている次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」から、またも注目すべきバンドがライブデビューを果たした。彼女たちの名前は夢限大みゅーたいぷ(通称:ゆめみた)。“夢(バーチャル)と現実(リアル)を飛び越える運命共同体(バンド)”として2023年11月に活動を開始した、仲町あられ(Vo.)、宮永ののか(Gt.)、峰月 律(Gt.)、藤 都子(Key.)、千石ユノ(DJ & Mp.)の5人組だ。
普段はLive2Dアバターを使ったYouTubeでの生配信や動画投稿を中心に、いわゆるバーチャルYouTuber(VTuber)のような活動を行っている彼女たち。楽器の練習配信などは(顔は映さないながらも)実写で行うことが多いのだが、8月24日に神奈川・1000 CLUBで開催された1st LIVE「めたもるふぉーぜ」では、メンバー全員が生身かつ素顔をさらした状態でステージに登場。会場に集まった満員のファンを前に、まさにバーチャルとリアルを飛び越えた新たな「バンドリ!」の世界を提示してみせた。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY ハタサトシ
開演前にはメンバーの影ナレによる注意事項のアナウンスが流され、会場の期待が高まるなか、千石ユノが制作したオープニング曲に合わせてメンバーが1人ずつ登壇。千石自身による各メンバーの紹介コメントだけでなく、メンバーそれぞれの声の素材をカットアップしたSEも作り込まれたもので、それだけでも彼女がマニピュレーターとしてバンドにしっかりと貢献していることが伝わってくる。
そしてライブは、ゆめみたの同ライブ時点での最新楽曲「✞animaるパーティ✞開催中✞」からスタート。メンバーのうち宮永ののかにフォーカスを当てて制作されたこの楽曲、作詞・作曲・編曲を手がけたのは堀江晶太で、曲中で何度も繰り返される“✞animaるパーティ✞開催中✞”というフレーズとジャングルのビートを取り入れたハイテンション極まりないサウンドがクセになるナンバーなのだが、ことライブにおいてはその押しの強い曲調が最大限の威力を発揮し、オーディエンスはのっけから大合唱して盛り上がる。しかも曲の途中でいきなり“ののちゃんタイム”が開幕。宮永のリードにより、動物の鳴き声をマネするコール&レスポンスが行われ(なかには「くまくま」「フェレット?」といった本来の鳴き声とは異なるものもあったが)、誰もが自分の中の“アニマル”を解放し、動物のように本能のまま楽しんで最高のスタートラインを切った。
続いて披露されたのは、ナユタン星人「エイリアンエイリアン」のカバー。後のMCで明かされたのだが、なんとこの楽曲の編曲はメンバーの千石ユノが手がけたとのことで、原曲のダンスロックの要素を踏襲しつつ、よりビートを強調した4つ打ちのリズムトラックが会場を踊らせる。宮永と峰月の竿隊2人がお立ち台に上がってギターを弾く姿も堂に入っていたし、メンバーみんなで動きを合わせて足を振る振付もかわいらしい。ちなみに宮永、峰月、藤の楽器演奏組は、ゆめみたの活動に伴って担当楽器を始めたので演奏経験は1年に満たないくらいなのだが、ちゃんと“バンド”になっているところに思わず感心してしまう。きっとこの初ライブに向けて猛特訓してきたのだろう。
その後のMCで改めて挨拶をする5人。衣装はそれぞれのアバター(キャラクター)のイメージを踏まえたデザインになっており、特徴的な動物型の耳の飾りもかなり忠実に再現されていることから、まるでバーチャルの世界からそのまま飛び出してきたようにも感じられる。「バンドリ!」のリアルバンドは基本、キャストがキャラクターを演じる形でステージに立つわけだが、ゆめみたの場合、普段の生配信などでの活動と本人のパーソナリティはほぼ同一であるため、“キャストとキャラクター”という関係性とはまた違うリアリティーが浮かび上がるところが興味深い。
ここで仲町あられが配信でお披露目していたお手製の旗“ゆめみたフラッグ”を取り出すと、「それでは皆さんに笑顔を届けられるこの曲をお届けします」と宣言して、「バンドリ!」の先輩バンドであるハロー、ハッピーワールド!の楽曲「えがおのオーケストラっ!」を披露。仲町はフラッグを振りながらキラキラした歌声を会場いっぱいに振り撒き、2番以降は各メンバーのそばまで移動して寄り添いながら歌う。
そんな笑顔に溢れた一幕から一転、今度は峰月 律をモチーフにしたダークな色調の楽曲「エンプティパペット」へ。メンバー全員でヘドバンをしたり、峰月が叫ぶように心の闇を吐き出して座り込む場面もあり、混沌が渦巻く。ゆめみたのオリジナル曲は、堀江晶太を中心に様々なクリエイターが参画するチーム・PHYZがサウンドプロデュースを手がけるようになって以降、メンバーのパーソナルな一面に寄り添って制作されたものが多く、この曲もまた峰月が普段の配信では見せない葛藤をモチーフにしたものだという。そんななかで、座り込んだ峰月に仲町が手を差し伸べてからラスサビに行く流れは、彼女たちの関係値を感じさせて素敵な演出だった。
MCで「えがおのオーケストラっ!」は仲町の選曲だったことが明かされると(仲町いわく「ボク自身が好きな曲なので」とのこと)、今度は仲町と藤の2人だけがステージに残って、「ボクとみゃーちゃん(藤)の2人だけでお届けしたい曲があります」(仲町)と歌い始めたのは、MyGO!!!!!の楽曲「壱雫空」。原曲は威勢の良いパンクロックで知られるが、それとはまったく趣きの異なる、キーボードの伴奏のみで歌うバラードのようなアプローチ。歌い始めの歌詞の一節で何の楽曲か気づいた客席からは、どよめきの声が上がる。用意されたイスに座って、藤としっかり見つめ合いながら歌う仲町。クリック音に合わせるのではなく、2人のリズムとテンポで、繊細かつ力強く紡がれていく言葉とピアノ。最後のファルセットによるロングトーンを含め、仲町の歌唱スキルの高さと歌に対する想いの強さがひしひしと伝わってくる名演だった。
ステージに再びメンバー5人が揃い、「『壱雫空』やるならののちゃんも入れてほしかったんですけどー!」(宮永)、「じゃあ次回は“with ののか”で(笑)」(仲町)といった微笑ましいやり取りもありつつ、ライブは、かいりきベア「メンタルチェンソー」のカバーで再開。この楽曲は仲町が歌ってみた動画をアップしているので、ファンにも馴染みがあるのだろう、「オイ!オイ!」というコールやクラップを入れるタイミングもバッチリで、アッパーに沸き立つ。
その盛り上がりを引き継ぐように、藤のリードによるコール&レスポンスが行われ、「働かせていただきありがとうございます!」「限界まで働けます!」「限界まで声を出せます!」と、まるでブラック企業の朝礼の唱和のような声出しで一体感を作り上げると、藤をモチーフに制作されたノリの良い電波ソング「限界現実サバイブ天使」へ。バンドや配信活動を行う傍ら、漫画家/イラストレーターとして活躍し、ゆめみたのジャケットやMVのイラストなども手掛ける藤らしい、クリエイティブに付き物の悩みやイライラを吹き飛ばすような曲調が楽しい。歌詞に2度登場する“X(エックス)”の箇所で宮永と峰月がステージ中央で交差して、そのままポジションを入れ替えるなど、見た目の演出も工夫がたっぷり。最後は藤の挨拶“臨兵闘者皆陣烈在 前!!”をみんなで大合唱して締め括った。
そして仲町が「まだまだ熱くなれるよね?」「もっと大きくお口を開けられるよね?」と観客を煽り、千石ユノをモチーフにした鋭いアップチューン「ビッグマウス」に突入する。ゆめみたはベースとドラムが不在のため、リズムは同期音源に合わせて演奏するスタイルなのだが、そのため従来のバンドよりもサウンドの自由性が高く、クラブミュージックの要素が取り入れられたこの曲もフロアでの破壊力は抜群。サビ前に入る千石の「ふざけんじゃねえよ!」というセリフが象徴するように、怒りや鬱屈をぶちまけたような曲調に観客のボルテージも引き上げられて、会場は興奮の坩堝と化す。2番以降も千石がステージ前に出てきてラップを披露、仲町はマイクではなく拡声器を使って歌うなど、アジテーションするような場面も多く見受けられ、初ライブとは思えないほど客の乗せ方が上手い。
給水タイムを経て、藤がキーボードでしっとりとした旋律を紡ぐなか、仲町が「僕たちが初めて出会って、初めて(バンド練習で)合わせた大切な曲です」と告げ、Poppin’Partyの楽曲「ときめきエクスペリエンス!」を披露する。バンドリーマー(「バンドリ!」ファンの呼称)にとって大きな意味を持つ楽曲のカバーに、フロアのテンションもさらに上がって、コールやクラップなどの合いの手を入れてバンドと一緒にときめきの経験を作り上げていく。バンドらしい熱を感じさせる演奏もさることながら、仲町の伸びやかで張りのある歌声が印象的で、それに沿って歌われる千石のコーラスも青春感を引き立てる。やや特殊な活動形態のゆめみたもまた、「バンドリ!」の一員であることを改めて実感させてくれるカバーだった。
そしてライブは早くも本編最後の楽曲に。やしきん(作詞)×園田健太郎(作曲・編曲)によって制作された、ゆめみたにとって初めてのオリジナル曲「夢現妄想世界」で、ラストスパートを一気に駆け抜ける。とにかく速くて賑やかで、ゆめみたらしさが詰まったこの楽曲、ライブでは仲町と千石が台に乗って勇ましく並び立って歌ったかと思えば(まるで『ふたりはプリキュア』のようだった)、5人で向き合ってヘドバンする場面もあり、ステージから放出される5人のすさまじいエネルギーに当てられて会場も熱狂する。バンドとしての無限大のポテンシャルを感じさせるパフォーマンスでライブを終えた。
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