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INTERVIEW

2024.09.06

「ステージや表現の場だからこそ出せる自分が好き」矢野妃菜喜、ソロアーティストとしての表現とライブを語る 4thシングル「キミといた夏を」インタビュー

「ステージや表現の場だからこそ出せる自分が好き」矢野妃菜喜、ソロアーティストとしての表現とライブを語る 4thシングル「キミといた夏を」インタビュー

『ウマ娘 プリティーダービー』キタサンブラック役や『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』高咲 侑役など、数々の人気作に出演する声優の矢野妃菜喜が、ソロ4枚目のニューシングル「キミといた夏を」を完成させた。風のように舞う歌声、夏の香りが浮かぶ情景描写など、矢野自身が作詞にも携わった本楽曲は、彼女のアーティストとしての瑞々しい魅力がギュッと詰まったサマーソングに仕上がっている。それとはまるで趣きの異なる2曲のカップリングを含め、普段は見せない表情を垣間見せてくれる、矢野妃菜喜にとっての音楽活動という場所に迫る。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

自分のやりたいことをすぐ形にできる、音楽で自由に遊べる場所

――矢野さんは2021年にソロでのアーティスト活動を始動しましたが、これまでの活動を振り返ってどんな経験になっていますか?

矢野妃菜喜 それまでもイベントや声優のお仕事でステージに立つ機会は多くありましたが、ソロ活動は、私を目当てに来てくださるお客さんしかいない空間でライブをやらせていただくので、毎回すごく新鮮な気持ちです。ワンマンライブも回を増すごとにお客さんが増えて、私の歌を聴きに来てくださる方がこんなにたくさんいることを実感できているので、それが自信や活力になっています。

――それ以前から、多田三洋さんとのユニット・DUSTY FRUITS CLUBなどを通じて音楽活動はされていましたが、ソロ名義となると自分の裁量で決められる部分も大きくなるでしょうしね。

矢野 色んなところで歌ったりライブをやらせていただくなかで、「こういうこともやってみたいな」という気持ちが小さいながらも何となくあったので、ソロ活動では、それをすぐ形にできるのが楽しいです。楽曲制作も最初の段階から携わらせてもらっているので、そういう部分は自分名義ならではだと思います。

――そんな矢野さんが普段、どんな音楽を好んで聴いているのかを知りたいです。

矢野 私はランキングに入っている楽曲をざっくばらんに聴くタイプなのですが、ずっと好きで聴いているのはLiSAさんです。DUSTY FRUITS CLUBも結構ロック寄りだったので、そういうバンドサウンドが好みではあります。

――LiSAさんの音楽のどんなところに惹かれているのでしょうか。

矢野 楽曲がかっこいいのはもちろん、やっぱりライブの派手さや盛り上げ方、ライブという空間をめいっぱい楽しんでいる姿がすごく好きで、そういう部分は本当に尊敬していますし、私も参考にしているところがあります。その意味では、自分の音楽活動の軸になっているかもしれません。

――ご自身のライブでもLiSAさんの楽曲をよくカバーされていますものね。ライブでは他にも、スピッツやYUKIさん、家入レオさんなど様々な方の楽曲をカバーされていますが、それもご自身の好み?

矢野 そうですね。小さい頃にお母さんと一緒に聴いていた曲や、自分がこれまでに通ってきた曲が割と多いです。

――ソロでのワンマンライブも定期的に開催されていますが、ご自身にとってどんな場所になっていますか?

矢野 音楽で自由に遊べる場所、という印象があります。私の楽曲は明るい曲調のものが多いのですが、それはライブでみんなと楽しめる楽曲を増やしていきたい気持ちが強かったからで。実際ライブでは、来てくれた人が楽しい気持ちになれることを意識していますし、最近はオールスタンディングでやらせていただいているので、ライブならではの楽しさを味わってもらえているんじゃないかな、と思います。

――矢野さん自身も楽しんでいる?

矢野 もちろん、めっちゃ楽しいです。私は基本的にライブでは緊張しないタイプで、ライブすること自体が好きだし得意でもあるので、緊張するときもありますが、それよりも楽しみな気持ちのほうがいつも強いです。

――先ほどバンドサウンドが好みとおっしゃっていましたが、ワンマンライブは毎回、生バンドを入れてやっていますよね。

矢野 そうなんです。それはDUSTY FRUITS CLUBの活動で培ったものなのですが、シーケンスやクリックに合わせてパフォーマンスする良さもあるとわかりつつ、やっぱり生のバンドサウンドでしかできないライブ、その場でしか生まれないものがあると思うんです。場合によっては曲(のテンポ)が走ってしまうことも生演奏ならではの楽しさだと思いますし、そういう部分を含めてバンドならではの良さを感じながら歌っています。

“夏の香り”が呼び起こす、キミといた夏の記憶

――ここからはニューシングル「キミといた夏を」のお話をお聞かせください。早くも4枚目のシングルとなりますが、作品全体としてはどんな青写真を描いて制作に取り掛かったのでしょうか。

矢野 今回はライブを意識して制作を進めました。自分の楽曲が増えてきたなかで、「ライブでこういう曲が足りないな」という部分を補填したり、「こういう曲があると楽しそう」みたいなイメージを膨らませて作っていきました。

――表題曲の「キミといた夏を」は爽快かつリズミカルなサマーソングで、矢野さん自身が作詞で参加しています(和田アヤナとの共作)。どんなイメージで作られたのでしょうか。

矢野 今まで季節をテーマにした楽曲がなかったので、リリース時期に合わせて“夏”をテーマに作らせていただきました。楽曲自体は、コンペで選ばせていただいたのですが、そのデモ音源に元々入っていたアヤナさんの歌詞をベースにしつつ、実体験ではなく想像でストーリーを膨らませながら歌詞を書かせていただきました。曲調はすごく爽やかで、聴いていて気持ちいいのですが、歌詞は思春期の葛藤みたいな、ちょっと切ないところがあって。そのバランス感が個人的にも気に入っています。

――タイトルの通り、“君”と過ごした夏の思い出を振り返るような内容になっていますよね。

矢野 叶わなかった恋というか、ある種、昔の気持ちを引きずっているような楽曲になっていて。歌詞を書くときは、日常生活の中で何となく言葉を見つけながら書いていくことが多くて、電車に乗りながら青空を見ていて、ふと「書こうかな」と思うこともあったりするのですが、この曲も情景が浮かぶ言葉を日常の中で見つけながら、探り探り足していく作り方をしました。

――自分の中で特にお気に入りのフレーズを挙げるとすれば?

矢野 サビの入り方が印象的な楽曲なので、その部分のフレーズ(“風に舞う 夏の香りが 空に溶ける前に”)は自分でも気に入っています。夏の香りや匂いというのは、すごく印象に残るものだと思うんですよ。この楽曲で描いている気持ちは、ちょっと後ろ向きなものではあるのですが、その夏の匂いと一緒にこびりついている記憶みたいなものを、アヤナさんのサポートもあって、言葉として美しくまとめていただきました。

――なるほど。矢野さんの歌も、爽やかさと切なさの両方が絶妙な塩梅で表現されているように思いますが、レコーディングでこだわったポイントは?

矢野 サビに入る部分は歌い方も印象に残るものにしたかったので、その塩梅を表現するのが難しかったです。いわゆるサビ前は、サビの盛り上がりに向けてクレッシェンドしていくことが多いと思うのですが、この曲はサビ前が少し落ち着いた感じなので、そこからサビ頭の“風に舞う”のワンフレーズで一気にサビの開放感を表現しなくてはいけなくて。そもそも音程自体が難しい曲ですし、歌い慣れるまでには結構時間がかかりました。

――その努力の甲斐もあって、“風に舞う”の開放感ある歌い口がすごくインパクトのある楽曲になっていると思います。

矢野 それとDメロの“すれ違う 日々に”で始まるところは、音がちょっと切ない感じのアレンジになっているので、歌でも切なさを出すことを意識しつつ、でも“背中を押されて”とも歌っているので、そこからはちょっと吹っ切れた感じ、明るくできたらいいなと思いながら歌いました。

――少し脇道に逸れますが、矢野さん自身の“夏の香り”と共によみがえる記憶、印象的な夏の思い出も聞いてみたいです。

矢野 私は高校時代、ダンス部に所属していたのですが、その部活が毎年大会に出場するような、すごく力の入った活動をしていて、特に私が1年生のときは優秀な成績を残したりもしたのですが、高校3年生の夏、私にとって最後の大会のときだけ、予選で敗退してしまったんです。それが本当に悔しくて、みんなで泣いた記憶が残っています。でも、今振り返ると、それってすごく青春だったと思うんですよ。夏休みの期間を全部かけて、冷房もつけずに暑いなか練習をして、みんなで頑張った時間。私は副部長だったので、そういう責任もあるなかで、最後の夏なのに勝ち抜くことができなくて。そういう意味でも、マイナスなことのほうが記憶に残りやすいからこその楽曲になったのかなと思います。

次ページ:劣等感や葛藤を乗り越えて自分を奮起させるような曲

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