歌手・声優の小林愛香が8月21日に2ndフルアルバム『Illumination Collection』をリリース。本作は、彼女のサウンドプロデュースを手掛ける田代智一が所属するQ-MHzによる楽曲をはじめ、田代と田淵智也が主宰する「アニソン派!」のクリエイターコンペを通じて生まれたものなど12曲を収録した超濃厚な一作に。そんな従来の作品以上に個性溢れる楽曲にまつわる、こちらも濃厚すぎる制作秘話を、小林にたっぷり語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
――まずは、『Illumination Collection』がどのような作品を目指して制作が始まったのかをお教えいただけますでしょうか。
小林愛香 1stフルアルバムの『Gradation Collection』では私がアーティストとして歩んでいきたい道筋や“アーティスト像”みたいなものを前面に出しまして。私の色んな色を出して、それが全部繋がってグラデーションになっている……というアルバムにしたんですね。それを受けての2作目をどんなものにしようかと考えたときに、「私の歌が、皆さんの人生の彩りになってほしいな」と強く思ったといいますか……振り返ったときに思い出の中に側にいてくれる作品を作りたくて、“彩る”にスポットライトを当てたんです。それで、タイトルは前作に続いて「Collection」を使ったうえで、韻を踏んだようなものにさせていただきました。
――たしかに、「Illumination」は直訳すると「淡い光を集めた電飾」という意味ですが、「Gradation」以上に鮮やかな光のようなイメージもある言葉ですね。
小林 そうですね。それに「Illumination」って輝きの強弱や色も様々ですし、その輝きがひとつにまとまってイルミネーションを形作っている……というものまであると思うんです。そのイメージが、「Gradation」とも繋がってきて。色んなジャンルの曲を歌わせていただいているなかでも、色んな形で背中を押せるような楽曲が集まっていったなぁ……とも感じました。
――そのなかでも、本作の新曲には意外と歌われていなかったジャンルの曲が多い印象があります。
小林 それは、チームみんなで「今までやってこなかったジャンルもやってみよう」とミーティングをさせていただいているからだと思います。そのなかでラテン曲やR&B風のバラードみたいな曲を提案していただいたりと、意見を出し合って……私が今まで歌ってこなかったジャンルを意識的に足して、集めていったという感じもありました。
――それもあって、本作を通じて小林さんの持ち歌のグラデーションの細やかさが、さらにきめ細かくなったように感じました。
小林 これは『Gradation Collection』のときにも感じたことなんですけど……色んなジャンルの曲を歌わせていただくなかで、自分の声を楽器ととらえて「こんなこともできるようになっていってるんだ」と感じられるようなものを、今回さらに見つけることができたんですよ。もちろんどのジャンルも難しいし、すぐにできるようになるわけでもないですけど、その発見を通じてまだまだ「私はこれくらいしかできない」と決めつけないほうがいいなと改めて思いました。
――本作の1曲目に置かれたリード曲「Lonely Flight」も、これまでのリード曲や表題曲に多かった速くて力強いロックとは一線を画した、聴く人に寄り添ってくれるような1曲になっていますよね。
小林 この曲はQ-MHzさんが手がけてくださったんですが、依頼の段階でQ-MHzさん側から「Q-MHzにとってもチャレンジングな楽曲になってほしい」と言われていたんです。でもQ-MHzさんって、どんな曲も作れるようなイメージがあるじゃないですか?なのでまず、「Q-MHzさんにとってのチャレンジとは?」ということはすごく考えました(笑)。
――それを踏まえて、どんなイメージを伝えられたんですか?
小林 私の好きなQ-MHzさんならではの強いサウンド感や疾走感にプラスして、大空で、すごく広い空間の中で旗を振っているような……「広い空間の壮大さ」みたいなイメージはお伝えしまして。あと「小林愛香のアーティスト活動の中で軸になっている“みんな”を意識して作っていただきたい」というお願いもしました。そうしたら、なんだかほろっと泣いてしまいそうなくらいに、優しく包んでもらえる曲をいただけて。歌詞も1人1人に寄り添ってもらえるような……離れていてもこの曲を聴いているときは同じ空間にいられるような、とても温かい楽曲をいただけたなと思いました。
――この曲では柔らかさや綺麗さも大事にして歌われていると感じたのですが、それも曲から温かさを感じたからこそ?
小林 そうですね。いつも張って歌えるような音域でもあえて張らないことで、自分でも爽やかさと少しのお洒落感みたいなものも出せたように思っていまして。ただ、終盤に向けて声を張り気味にして、ちょっと熱さをみせて違いを感じさせる……という歌い方もしているので、1曲の中での熱の変化みたいなものも感じていただけるようにできたかな、とも思っています。
――そういった熱量の変化を持つような曲が、アルバムの1曲目に来るというのもまたいいですね。
小林 はい。しかも、「Flight」というのもいいんですよ。飛行機が飛び立つ前とかって、ドキドキも少しの不安もあったりしますよね?でも空には、飛び立ったときのワクワク感みたいなものもあると思うんです。それを表現しているところもまた素敵ですし、1曲目として「飛び立つ前のドキドキ感」みたいなもののある曲を持ってこられたことも、すごく良かったです。
――そんなこの曲のMVは、電車をモチーフにしたものになっています。
小林 そうなんです。「Flight」というタイトルではあるんですけど……(笑)。でも電車をモチーフにしたことで、皆さんの日常の中により寄り添える作品にできたと思うんです。不安になったり寂しい気持ちを抱えることって日々の中できっとあると思うのですが、さっきもお話ししたように、この曲を聴いているときは皆さんは1人じゃないし。みんなが同じ空の下で繋がっているというのを感じていただけたら嬉しいですし、日常をすごく特別なものに変える魔法みたいなものが含まれているようなMVになったようにも思っています。
――さて、ここまでお聞きしてきた「変わった部分」とは逆に、本作には今までの活動との連続性を持った部分もたくさんあります。例えば1stでの「たたたんばりんりずむ」でのタンバリンに続き、今回は「Breakthroughだ!」でのショルダーキーボードで楽器演奏に取り組まれていたり。
小林 いや、これが本当に難しくて!(笑)。こんなにしっかりとした「アルバムの中に入る演奏」というのは初めてだったので、ドキドキして曲を受け取ったら……終盤に結構難しいソロパートがあったんですよ!正直想定外の難易度だったので、この曲を作ってくれたやしきんさんにまず「こら」って言って(笑)、それからブロックごとにちょっとずつ録っていって……まだ繋げて弾いたことがないので、「いつかライブとかでやるとなったら」と思うとドキドキしますね。
――その演奏以外、楽曲自体についてはどんな印象をお持ちですか?
小林 「ショルダーキーボードを弾く曲」を出発点に制作が始まった曲ということもあって、80~90年代くらいのピコピコなレトロさと新しさとが融合した、より新しい音楽になっているのを強く感じます。そのサウンドに、やしきんさんならではのかわいい歌詞が絶妙にマッチしているんですよ。なので歌っていても楽しいですし、サビにはみんなに追いかけて歌っていただきたい場所もいっぱいあるので、ライブで歌うのも楽しみな曲です。
――また今回は、『アニソン派!』でのクリエイターコンペから生まれた楽曲3曲、「アミュレットメモリー」と「Live goes on!!」、「誰も知らないんだ」も収録されています。
小林 このコンペにはプロ・アマ問わずで159曲も集まりまして、すべて私も聴かせていただきました。その中から気になったものをピックアップしていくという宝探しのようなありがたい経験をさせていただいたんですけど、みんなで意見を出し合っていくなかで「これも良くない?」「あれも良くない?」となっていってしまい……。
――元々は、1曲だけが選ばれる予定だったんですよね。
小林 そうなんです(笑)。そのなかでも「Live goes on!!」については、特にバチッと「私のことを知っている人が書いてくれたんだな」と感じました。
――それはなぜですか?
小林 この曲は最初から完成版くらいのクオリティで、丸々1曲で送られてきていたんですけど、それがサウンドやコールの入り方から歌詞に至るまで、「これ、私を知ってる人じゃなきゃ書けないな」という部分がたくさんあるものだったんです。いきなり宇宙の話が出てきたり、“愛香”になぞらえた「Here I come!!」というフレーズがあったり……あと、これは偶然かもしれないんですけど、最後のほうに出てくる「夢はいくつあってもいいじゃない」というフレーズが、私が昔に言っていたXのポストの内容に似ていたり……(笑)。そういうところにもハッとして、色んなところでリスペクトを感じたのもあって、この曲は最初のほうから私はずっと候補として挙げていました。
――となると、レコーディングでもライブの光景などを思い浮かべながら、自然に歌えた?
小林 そうですね。もうライブの楽しさを知っている私だから「ここはきっとみんなで歌うんだろうな」ということを感じながら歌えましたし。本当にすごく自然に、私の曲として馴染んでいったような感じがありました。
――続いて、その他2曲についてもお聞きできますでしょうか。
小林 他の2つのクリエイターコンペ曲も、本当に「掘り出したね」という感じがすごくあるんですよ。そのうち「アミュレットメモリー」は、歌の部分がボーカロイドで送られて来ていたのもあって、最初は少し冷たさがある感じがしたんですね。でも制作が進むにつれて弦楽器が足されていったりして、すごく温かい作品になっていったのがすごく面白かったし、その過程でどんどん曲が進化していくのを感じられたのもめちゃめちゃ楽しかったんです。今までは最初に「こういう曲が欲しいです」と大枠があるところからデモをいただいていたので、ここまでガラッと変わっていく過程に触れたのは初めてだったような気がします。
――それを経て上がってきた楽曲を、歌ってみていかがでしたか?
小林 すごく楽しかったです。この曲に関してはすべてが音として入ってしまうので、息すら歌みたいに、タイミングや量を考えながら吸っていたり……。
――先ほどご自分の歌を「楽器の1つ」と捉えているようなお話もありましたが、特にその要素が強かった?
小林 そうですね。やっぱり今まで色んな楽器が支えてくれていたというのもあったので、“ピアノと私”の空間になったときには、いつも以上に自分の声や息を吸うタイミングの一つひとつに気を配りながら歌っていきました。
――そしてコンペからのもう1曲、「誰も知らないんだ」は、まさにアルバムの最後にふさわしい曲になりました。
小林 実はこの曲こそ、コンペを経て一番変わった楽曲というイメージがあるんですよ。最初に1コーラスで送られてきていたときはすごくシンプルな歌だったんですけど、曲の作り方がすごく丁寧で、「このあとドラマチックな展開がありそうだなぁ」という期待も込めて選ばせていただいたら……1番が終わってから、期待以上にすごく変わって(笑)。世界観が、ものすごく広く大きくなっていったんです。
――まさに、満天の星空が似合うというか。
小林 そうなんです。それと私、いつも歌う前には「どういう意味で、この言葉を歌うんだろう?」と歌詞のことをよく考えるんですけど、「誰も知らないんだ」は色んな解釈を持てるところがすごく多いんですよ。なので、あえて私は俯瞰として、第三者の目線で歌ってみようと考えまして。
――まるでストーリーテラーのように。
小林 はい。皆さんの想像の中で遊んでもらえたら一番輝く曲なのかなとも思ったので、歌い方的にはあまり感情を入れすぎず、真っ直ぐストレートに歌う感じをイメージしました。
――直前の曲が「Original My Life」なのもあって、エピローグ感をもって1枚を閉じるのにもぴったりな1曲だとも思いました。
小林 そうですね。「続きはね、また明日」で始まって「本を閉じよう」でアルバム自体も閉じていく感じも、すごく素敵だと思っています。
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