2024年夏、愛美はアーティストとして間違いなく最高の輝きを放っていた。7月から8月にかけて東名阪の3公演を巡ったライブツアー「AIMI LIVE TOUR 2024 “LIVE IT NOW”」。初めてのオールスタンディング、そしてアーティスト活動を再開してからは初の声出し解禁となった本ツアーにおいて、彼女は一皮むけたように逞しく、活き活きとしたパフォーマンスを我々に届けてくれた。最新アルバムのタイトルでもある“LIVE IT NOW(=今を生きる)”という言葉を象徴するように、彼女自身が今この瞬間に感じている思いを、ありったけの歌に込めて。ツアーファイナルとなる8月4日の東京・豊洲PIT公演のレポートを通じて、今を生きる愛美の輝きに迫りたい。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY Takashi Konuma
2022年10~12月に行われたツアー「愛美 LIVE TOUR 2022 “AIMI SOUND”」以来、約1年半ぶりとなった今回のツアー。その間、2023年には3クール連続アニメタイアップシングル、そして今年6月にはニューアルバム『LIVE IT NOW』をリリースし、持ち曲も一気に増えたなかで、愛美はどんなステージを見せてくれるのか。豊洲PITのフロアを埋め尽くすファンの熱気がこの夏の暑さばりに高まるなか、照明が暗転してついに開演を迎える。愛美の楽曲「Noise in me」のダンサブルなサウンドをオープニングSEにして、まずはバンドメンバーがスタンバイ。そして愛美が白いレスポールタイプのギターを手にしてステージ中央のマイクスタンドの前に立ち、彼女が掻き鳴らすギターの音を合図に、愛美本人が作詞したナンバー「ザ・センセーション」でライブはスタートする。いきなりの高速ロックチューンの投入に、会場は早くもオイ!オイ!と声を上げたりジャンプやヘドバンで熱狂的に盛り上がり、サビの歌詞にある通り“歌え踊れ 狂え叫べ”状態に。
センセーショナルな幕開けに続いては、渡辺壮亮(嘘とカメレオン)が楽曲提供したアグレッシブなギターロック「C’est la vie drive」でさらに加速。愛美はときにクラップを煽りつつ、低音を効かせたハリとツヤのある歌声をクールに響き渡らせる。そんな熱い2曲での立ち上がりに続いて、挨拶代わりのMCタイム。オールスタンディング公演ということで、ステージ下手側に設けられた女性専用エリアに向けて投げキッスのサービスをして黄色い声援を浴びると、いきなり「せやねん」と関西弁を交えて話し始める。兵庫県出身の愛美は関西弁が「母国言語」であるため、標準語で話すとファンとの距離が遠くなる気がするとのことで、本ツアーでは関西弁でしゃべって心の距離を縮めるのが課題なのだという。
「ほな次いこか」とギターを置いて、次に歌ったのは「煩悩☆パラダイス」。シンセブラスの華々しいサウンドと、バンドによるタフな演奏、カラフルな照明演出が合わさって、ラブリーかつパワフルに進化した同楽曲を、みんなで振付を踊りながら楽しくパフォーマンスする。そこから間髪入れずアッパーな夏ソング「瞬間Summer Day!」になだれ込み、オーディエンスはタオルを振ったりクラップしながら賑やかに愛美との夏を駆け抜けていく。そのホットなサマータイムから一転、風通しの良いバンドサウンドと軽やかな歌声によって温かな空間を作り上げたのが「5&I」。終盤の「ラララ~♪」と歌うパートでは、観客も手をワイパーのように左右に振りながら合唱して、今この瞬間の出会いの奇跡を喜び合った。
その後のMCで、初めてアニメのOPテーマとして自分で作詞した「煩悩☆パラダイス」について触れ、デビューから10年以上経った今も新しいチャレンジの機会があること、そんな楽曲をたくさんの人の前で歌えることに対する感謝の気持ちを改めて口にする。さらに最近はネットで話題の“アザラシ幼稚園”のライブカメラを観て癒されていることを明かし、「私もそんな存在になりたいなと思ってます!」と抱負を語る。
そして「この夏がちょっと涼しくなるような曲を」と前置きして「カザニア」を披露。この楽曲は愛美がキングレコードに移籍して最初にレコーディングしたもので、彼女にとっても思い入れの強い楽曲なのだという。ブルーのライトが青空のような景色を演出するなか、愛美は“吹き抜ける風”のように強く伸びやかな歌声を会場いっぱいに届ける。落ちサビ前の間奏部分で「皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます!」「今だけの大切な瞬間を作っていきましょう!」と呼びかけ、この日だけの特別な時間をファンと一緒に紡いでいく。
続いて愛美はアコースティックギターを手にし、“推し”への思いをテーマに自ら作詞したメロウなロックバラード「ステラメロウディ」を披露。暗めのステージに白いライトでまぶしく照らされた愛美は、まるで夜空に輝く星のよう。愛しさと切なさが入り混じった歌声が胸を打つ。終盤には清水”カルロス”宥人(Gt)による熱いギターソロも加わり、音源版とはまた違うエモーショナルなアレンジに観客も酔いしれていた。
最後に愛美が「ありがとう」と告げてステージからはけると、半田彬倫(Key)による「ステラメロウディ」のメロディをなぞったアドリブは奏でられ、そこからバンドの演奏コーナーへ。この日の愛美のライブを支えたのは、清水、半田、菊嶋亮一(Dr)、川崎哲平(Ba、バンドマスター)の4人。いずれも実力派のプレイヤーだが、この日の演奏は全体的に安定感は担保しながらも小さくまとまるのではなく、ときに熱気がはみ出るような勢いを感じさせるもので、ひと言で言えば“歴戦のロックバンド”のような佇まい。それもまた“LIVE IT NOW(=今を生きる)”精神を感じさせるものだった。
ここからライブはさらに過熱していく。衣装を着替えてステージに舞い戻った愛美は、BRADIOが楽曲提供したブラスサウンド入りのノリノリなロックチューン「オネシャス!」で後半戦に突入。豪華絢爛に飾り付けられたマイクスタンドと上空で回転するミラーボールが豊洲PITをファンキーな空間に塗り替え、愛美とオーディエンスはダンシングしながら今この瞬間を楽しみ尽くす。そこから荒ぶるドラムソロを導入に「HELP」へ。愛美は赤いギブソンSGのギターを弾きながら、理不尽で救いのない世の中への憤りを歌でぶつけ、強烈なロックンロールが会場の熱気をどこまでも上昇させていく。さらにボカロPのすりぃが提供したアップチューン「メリトクラシー」で尖りまくった気持ちを放出。関西弁で観客との距離を縮めた効果か、この日の愛美はいつも以上に感情をさらけ出して歌っている印象だ。
その後のMCで愛美は新衣装をアピール。ジャケットは愛知/大阪公演とは別のものを用意し、トップスの丈も東京公演のために短くしてもらったことを明かすと、会場は大きく沸く。愛美いわく、彼女は“骨格ウェーブ”と呼ばれるくびれが付きやすいタイプの骨格のため、最近はウエストを出すようにしているという。さらなる豆情報として、前日の夜、眠る前に日課のイラストロジックを寝転がりながらiPadで楽しんでいたところ、手が滑ってiPadが顔に当たって唇が少し腫れたため、「今日はいつもよりセクシーです!」と報告。会場はさらに大きく沸いていた。
続いては、ニューアルバム収録曲の「if」を、イスに座りながらアコギの弾き語りでパフォーマンス。この楽曲は、愛美が出演するとあるゲームのキャラクターに宛てて愛美自身が作詞したもので、そのキャラの“気持ちのレアリティ”を表現するために“手紙”をモチーフに歌詞をしたためという(※詳細はアルバムのインタビューを参照してほしい)。清水によるアコギのサポートも交えつつ、歌声にもギター演奏にもたっぷりとエモーションを乗せて届ける愛美。そのまま感動的に歌い終える……のかと思いきや、最後のフレーズでギターの演奏をミスってしまい、「くそー!」と中断してしまう。客席からは「もう1回」コールが巻き起こり、「頑張って!」の声に背中を押されながら、愛美は最後の一節をもう一度歌い直し、今度はバッチリ決めてみせた。
「あともうちょっとだったのに!」と悔しがりながらも、客席からの「緊張しないで」という声が嬉しかったと語る愛美。普段はステージに上がると緊張することが多いらしく、「もう1回言ってもらおうかな?」と観客におねだりし、大人数からの温かな「緊張しないで」の声に「すごい!リハみたいな気分でやれそう(笑)」と喜んでいた。
ファンからの歓声でエネルギーを充填した愛美は、ここからクライマックスに向けてさらにギアを上げていく。まずはアーティスト活動の再開に際し、“リスタート”に向けた気持ちを形にしたキングレコード移籍第1弾楽曲「ReSTARTING!!」を元気いっぱいに歌い、クラップやコール、サビ終わりの“Going my way! AI Mean It!”というフレーズの大合唱で会場の気持ちをひとつにしていく。ラストは「ジャンプするよ!」と呼び掛け、みんなで一斉に飛び跳ねて締め。さらに、心に秘めた思いを解き放つような力強い歌唱が印象的だったDECO*27提供の「ドレス」、ハードコアなバンドアレンジと“歌え”“叫べ”“破壊”という盛大なコール&レスポンスで爆発的な熱狂を生み出した「MAGICAL DESTROYE R」を連続で畳みかけ、豊洲PITはキラキラの極点に至る。
ついに楽しいライブも終わりの時間に。ここで愛美は今回のツアーを改めて振り返り、「声出しの解禁が出来たのが本当によかった」と語る。「ReSTARTING!!」の頃からライブを意識して楽曲を制作し続けてきた彼女が、いつかみんなで歌える日を夢見て作詞したという「愛世界」。それがこの日のライブ本編の最後のナンバーだ。前回のツアーでもアンコールのラストで歌われた楽曲だが、そのときに歌うことができたのは愛美のみ。でも今回は違う。愛美の“何処にいたって思い出せるように 歌い合おうぜ この場所で”という歌に応えて、会場が揺れんばかりの大きな声で大合唱するオーディエンス。愛美とファン、お互いの想いが、溢れんばかりの愛が、歌になってひとつの大きな世界を作り上げる。誰もが忘れられない景色を生み出して、ライブは幕を閉じた。
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