INTERVIEW
2024.08.22
8月21日にTVアニメ『ダンジョンの中のひと』EDテーマとして、ナナヲアカリのニューシングル「ブループリント」がリリースされた。作品に寄り添いながらも自分の楽曲であるための軸を手放さない彼女が本作で辿り着いた、登場人物たちとナナヲアカリとを繋ぐ言葉とは。あまりにも特殊なその制作過程と、カップリングでリスナーに叩きつけられる取れたて新鮮そのものの自問自答についても話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)
――表題曲「ブループリント」はナユタン星人氏(本作ではナユタセイジ名義)の作曲、Hajime Taguchi氏の編曲、ご本人作詞(ナユタとの共作)による楽曲ですが、こちらの座組はどのように決まったのでしょうか?
ナナヲアカリ 実は非常にややこしい順番で曲が出来上がっておりまして……(笑)。タイアップのお話をいただいて、原作を読み込んで、まず何にフォーカスを当てて作るのかを考えたんです。かわいらしいタッチで、ゆるコメディの要素も多いし、ナユタンさんのキャッチーさが似合うんじゃないかと思ってお願いして。それで快くお請けしてもらえたんですけど、ナユタンさんは4つ打ちのギターサウンドが得意じゃないですか。作品の持つダンジョンとかゲーム性を表現するなら、新しいアプローチとしてがっつりアレンジャーを入れてみようという話になったんですよ。そこからめちゃくちゃお忙しい中でTaguchiさんにお願いして、一緒に制作させてもらうことになりました。それでかなり特殊な、今までにない作り方になったんですよ。最初にナユタンさんにメロと構成のデモを1コーラス分作ってもらって、そこから歌詞をどういった方向性にするかをすごく考えて。
――初稿の時点では完成形のチップチューン的なアレンジはなかったと。
ナナヲ はい、まったく。ザ・ナユタンさん的なサウンドの状態です。
――メロやコードを伝えるためのシンプルなデモというよりは、一旦ナユタン星人バージョンとしてのアレンジが施されているんですね。それは珍しい。
ナナヲ 最初は本当に全然別の曲だったんですよ。メロは同じなんですけど、コード進行もアレンジも違っていて。そこからTaguchiさんがゲームっぽい要素を足してくれて、それと並行して歌詞も書いていって。で、2番以降は先にTaguchiさんがバックサウンドを作って……(笑)。
――えぇ!?
ナナヲ Taguchiさんが「2番以降はこういう構成でどうですか」と提案してくれて、そこにナユタンさんがメロをハメていったみたいな……なんなんだろう、すごい不思議な作り方なんですよ。
――ある種のコライト的な制作過程ですね。
ナナヲ そうなんですよ、蓋を開けてみたらそういう作り方になって。元々そのつもりはなかったんですけど、だからこそすごく面白い曲になりました。結果、構成がすごいじゃないですか。ナユタンさんなんだけどナユタンさんじゃないみたいな曲になったと思いますし、作っていて楽しかったですね。
――並行して行われた作詞作業はいかがでしたか?
ナナヲ 一重にナナヲアカリの楽曲って、100%アニメに寄り添いきるわけじゃないというポリシーがあって。その中でじゃあ何を歌ったら、アニメを観ている人にもナナヲアカリを聴いている人にもリンクする部分を感じてもらえるだろうということを考えていきました。作品として大事なのは、友情ではあるじゃないですか。そこは描きたいと思ったんですけど、じゃあナナヲアカリと共通する部分は何なんだろうと考えたときに、ちょっと世界からはみ出たというか、孤独感のようなもの。すごく大人数の輪の中に誰とでもいられる人間じゃないよね、というのがあって。クレイとベルの2人もそうじゃないですか。自分も長い間生きていく中で、めちゃくちゃ友達が多いわけじゃないけど少しずつ大事な人が増えていっている感覚はあるなと。そこにフォーカスして歌詞の方向性は決めました。
――「正解はいらない」のインタビューでは『戦隊大失格』という作品自体に正義と悪の反転という大仕掛けがあり、そこにフォーカスを絞ったという話がありましたね。
ナナヲ しかもダークヒーローものの感情は描きやすかったですからね。
――対して『ダンジョンの中のひと』について歌詞を書こうとなったときに、そもそもどこにフォーカスを絞るかの選択肢が多い気がします。
ナナヲ クレイの表情って無表情だけど「これは嬉しいんだろうな」とか勝手にその奥を読み解いてしまうじゃないですか。原作を読んでいる時にそういう部分の印象が深かったので、「出会えて良かった」みたいな感情を描きたいなとはすぐに思ったんですよ。
――出来上がった歌詞はすごく後方位置からのポジティブというか、一口に前向きとは言い難いですがちゃんと前を見ている曲になっていますね。たくさんのエクスキューズの中で、ナナヲさんの「この言い方ならポジティブを許せる」というせめぎ合いを感じます。
ナナヲ それを感じ取ってもらえているのは嬉しい(笑)。最後のサビに出てくる“失って転んで君とやっと出逢えた軌跡に”とかも、普通に歌っちゃうと普通じゃないですか。最初にアニメのエンディングのために1コーラスを完成させたときにはもうあった歌詞なんですけど、ここに至るまでにどんな物語あったらこの1行が活かせるかなと思ったんですよ。だからラスサビに移動させて、そこまでをすごく考えました。
――この強い言葉を言うためにどう自分を許すかが肝だったと。作品のテーマにはすごく合っていますもんね。
ナナヲ クレイとベルにも寄り添ってまずは1コーラスを完成させて、だからTaguchiさんが作った2番以降の展開はまだなかった状態ですね。アニメとしてはそこで成立するんですけど、ナナヲアカリとしてはいきなりこのラスサビを歌ってしまうと違う。ちゃんと後半戦から線がぐちゃぐちゃになるように、経過を丁寧に書きたかったんです。そのために2番の迷路のような展開はちょうどよかったですね。
――先にゴール地点を決めてしまった作業というのは難しいものですか?「最終的にはこの言葉を言える私になってなきゃいけない」という。
ナナヲ かなり難しかったです。でもTaguchiさんの変態構成のおかげで救われましたね。色んなセクションで色んなことが歌える状態にしてもらったので、先が見えた感じはありました。これが1番と同じメロの繰り返しの2番だったら、すっごく迷っていたと思います。
――作品の持つピュアさやイノセンスの部分自体は、書くことに難しさはあまりないんでしょうか?
ナナヲ クレイとベルのことを思えばすんなり書けるなかで、自分のどこのピュアさと照らし合わせるかですね。めちゃくちゃ自分に自信はないんだけど、周りの人のことが好きだから、その人たちに好いてもらえる自分のとこは好きでいられるよなって気持ちがあって。自分のことはそこを頼りに書いて、クレイとベルは2人とも不器用で友達も今までいなくってという感じじゃないですか。
――その上で2人はあまり不器用に自覚がないですよね。
ナナヲ そうですね。そのピュアさと、自覚しきっているナナヲと(笑)。自分に2人のようなピュアさがあるとは思っていないので。
――ちゃんとクレイとベルの関係性に聴こえるように1コーラスはできているので、フルで聴いたときに驚かれる方もいるかもしれませんね。
ナナヲ 構成としては「ワンルームシュガーライフ」に近い形になっている気がしますね。こっちも1コーラスで聴くと『ハッピーシュガーライフ』というアニメの曲なんですけど、フルで聴くとめちゃくちゃナナヲ。
――“失って転んで君とやっと出逢えた軌跡に”という作品に寄り添った帰結点が決まっている中で、ナナヲアカリの曲として成立させるための言葉は具体的にどのような部分なんでしょうか?
ナナヲ ナユタンさんが書いてくれた部分なんですけど、“「どこでもいける!」ってイキっていこ 恰好もつかないままで 傷だらけのアンダーラインを”の部分ですかね。作品の中にある「第三者からみて不器用な2人」と、自分の上手くいかない生きづらい部分を1つの楽曲として繋いでくれている言葉だと思います。2番の私が書いたところは詳細というか具体例が多いので。ナユタンさんが「ブループリント」という楽曲と『ダンジョンの中のひと』という作品の広い枠組みの言葉を書いてくれて、その上で2番の展開が多い部分では詳細を書いてほしいって言われたんですよ。
――ラリーのような特殊な分業の仕方なんですね。
ナナヲ そうなんです。結論があった上で、そこに辿り着くための具体例を頼まれて。「その感覚はナナヲさんの方がわかっているので」という感じでしたね。2番で間を書いたことによって、ナユタンさんもその後に繋がるサビがスラスラ出てきたらしいです。かなり不思議な作り方です。
――具体的にどの部分がナユタセイジさんでどの部分がナナヲさんなどの区分けはあるんでしょうか。
ナナヲ これもややこしいんですけど、そもそもの叩きというか「こういう言葉を入れたい」は私が書いていて。それをメロに合わせてナユタンさんが整えていく感じなんですよ。例えば“真っ白な設計図”っていう歌い出しは、叩き台の状態だと“真っ白な地図”になっていたり。私が色んな言葉を書いていった中から、ナユタンさんがチョイスしてメロディにしていくという作り方なんです。
――それは昔から共同作業をしている人とでないとできない方法ですね。
ナナヲ 今回は大きく「友情」をテーマにしつつも、ナユタンさんって歌詞の制作で素材があればあるほど捗るタイプなんですよ。だから最初のテーマ性だけだと足りなくて、叩きの歌詞を一旦こちらで制作して、どういうことを言いたいかを含めてナユタン語にしてもらうという。その過程で何度も書き直したり、言葉の選択肢をもう思い出せないくらい大量に提示したので……もうめちゃくちゃ大変でした(笑)。
――その上でボーカルは少年の雰囲気というか、普段よりイノセンスを強く感じる声質のように思えました。レコーディングはいかがでしたか?
ナナヲ そうですね、すごくがなるような曲ではないのでその辺りは意識しつつ。でも実際歌ってみるといかんせん曲がめちゃくちゃ難しいので、力まなくていいようにすごく練習しました。最初はがんばらないと歌えなかったんで。感情むき出しにならずに歌えるようにするには慣れしかなかったんですよね。
――言葉を細かく詰め込むにしろメロディの乱高下の制御にしろ、筋肉がいるじゃないですか。それをあまり使わないようにするというのは、練習でどうにかなるものなんでしょうか?
ナナヲ 練習でどうにかなりました(笑)。レッスンをしてくれている先生が、「多分難しいって思いすぎ」って指摘してくれたり。そんなに「今から歌います」をしなくていいよって言ってくれたことで変わったので、蓋を開けてみたら意識の問題だったという。
――1コーラスが作品に寄り添った形で成立した上で2番では個人的な感情に切り替わる訳ですが、この辺りの変化はどのようにアプローチされたんでしょうか?
ナナヲ 2番はすごく内側ですからね。難しくはありましたけど、ここは大事なセクションという意識もあったので。メロにも歌詞にも感情のクレッシェンド感があったから、歌ってさえしまえば大丈夫でしたね。
――その上で、最初に完成させてしまった決着の言葉を歌うことになるわけですが……。
ナナヲ 1コーラスの状態はアニメのためというか、クレイとベルの視点で歌っていたんですよ。そこからフルで詳細が埋まって、ちゃんと自分の、ナナヲアカリの着地点になったときに全然違った言葉に聴こえて。全然違う歌になったなと思います。
――フル尺ではアニメで使われている1コーラス目も歌い直しているということですか?
ナナヲ そうですそうです。そんなに露骨に差が出ないようにはしていますけど。本当はバレずにいこうと思っていたので、これを読んで興味が湧いた人だけはこっそり聴き比べてみてください(笑)。
――カップリングに収録される「キュートフィクション」は、「FASHION feat. GaL」の制作クルーであるGalのメンバー・⌘ハイノミ氏による作編曲。こちらはどういった意図で選ばれたのでしょうか?
ナナヲ 「ブループリント」とのバランスを見て、⌘ハイノミさんが作ってくれたこの曲がいいなと思って選びました。
――表題曲からある程度作品に見合うイノセンスを感じる分、カップリングは対極的になんというか……砂糖コーティングされた棘のような。
ナナヲ ふふふ、上手い(笑)。やりたい放題ですね。「キュートフィクション」を作る前には“BLUE+PINK”というツアーを周ることがもう決まっていて。“BLUE”の意図は「ブループリント」と準えてあるんですけど、“PINK”はナナヲアカリのランドマークであるところのダ天使ちゃんのカラーでもあるんですよ。それで⌘ハイノミさんのかっこかわいい曲に歌詞を書くにあたって、表すならピンク色の曲にしたいと思ったんです。それでこの曲に乗せて何を歌いたいだろうと考えたときに……これになりました(笑)。
――一番肩の力を抜いて、なんでも書けるぞという状況でこれを書くのがナナヲアカリなんですね。
ナナヲ そうなんですよ、ヤバいですよね。良くないと思います(笑)。
――メロのキャッチーな部分には「一旦ポジティブにも聴こえる言葉」が乗るようになっているし、それをその直後に一瞬でひっくり返されるこのナナヲアカリ感。この作詞はあまり苦労などもなく?
ナナヲ そうですね、Aメロの部分がサッと書けて。サビは最初は違う歌詞だったんですけど、より開き直り感の強いものに変えて。でもこれはもうだいぶ速かったです。意味合いはすぐに決まっていて、それをどのくらいキャッチーにしていくかの作業でしたね。サビの「嘘だらけでyeah!!上等じゃん」は、自分の中のモヤモヤというか葛藤をすごくポップに描けたんでお気に入りです。活き活きしている感じが伝わりましたか?
――伝わりました。試行錯誤というよりは、普段から自問自答をしている脳内がズルズルと芋蔓式で出てきたような。考えていることを歌詞のアイデアとしてストックしていたりするんですか?
ナナヲ あー、ありますね。大枠の感情のストックはいくつか持っていて、それを曲のテンション感に合わせてどういう言葉にしてアウトプットするかですね。
――歌詞に書かれていることは、過去思っていたことではなくて今も現役で思うことですか?
ナナヲ これはもう、現役バリバリですね。過去のことならもっと哀愁漂う感じにするし、こんなノリノリでは歌えないと思います。「嘘だらけでyeah!!上等じゃん」は全然バリバリに思っていますね。
――釣りたてだから活き活きしてるんですね。とはいえ作詞した作品や過去のインタビューでの発言を含め、割と正直にお話ししている人というイメージはあるのですが。
ナナヲ こういう場ではありがたいことに正直でいさせてもらっているんですけど。なるべく正直者ではいたいんですけど……勝手にフィルターをかけられることが多々あるから。嘘をついているわけじゃないけど「ナナヲアカリはこういう人」っていうフィルターって何重にも、知らないままにかけられてるじゃないですか。私がどれだけ本当でいようが嘘になってるというか。そのフィルターをどこまで大事にするのか、というのが自分の中にあって。かけられているフィルターの種類もわかるわけじゃないですか、その中でどれだけ自分がそのフィルター通りに生きるの?というのもあるし。
――応援してくれている人にとっても、最初に出会った地点でイメージが止まってしまう場合がありますからね。レッテルを貼るつもりがなくても、どう見えているかが実際と食い違ってしまうことがあると思います。
ナナヲ 昔の自分が自分に対して貼ったレッテルも、取りきれていないのかなって気持ちがありますしね。いつの間についていたんだろう、みたいな。
――活動歴が長くなってきた中で、最初の頃の自分と今の自分は別人のようだと思いますか?それとも同一人物ですか?
ナナヲ 過去の自分が歌っていることは今でもすごくわかるんですよ。すごくわかるんですけど、色んなことを経て「わかるけど、望みすぎ!」って思ったり(笑)。それを別人というのかはわからないですけど、その頃を尖りナナヲアカリとするならば今は悟りナナヲアカリなんですよ。
――「キュートフィクション」の歌詞を書いた人間が悟りナナヲアカリというのは意外性がありますが……。
ナナヲ でもこれは、昔ならこうなってなかったと思うんですよ。多分“嘘だらけでyeah!!上等じゃん”とは言えてなかったんじゃないかな。嘘だらけで辛いよって歌になっていたと思うんです。
――デビュー初年度で“嘘だらけでyeah!!上等じゃん”という言葉を使うアーティストは、ちょっと信用できない気がしますね。
ナナヲ そうなんです!怖いですよね。やっとこの言葉を書けて、のびのび歌えるようになったってことなんだと思います。
――人によってはこの言葉を歌う2024年のナナヲアカリに「そんなこと言うっけ?」と思うかもしれないけれど。
ナナヲ そんな人もいるかもしれないけど、根本は変わってないので。吹っ切れたんだと思ってもらえたら嬉しいですね。
――少し性格の悪い質問になってしまうんですが、今のナナヲアカリはどう思われていると思います?
ナナヲ 多分いまだに私の家の電気が止まっていると思ってる人がいると思うんですよ。申し訳ないけど、もう止まってないんですよ(笑)。わかりやすく言うと「あかりんの家の電気は止まっていてほしい」と思われいてると思うんです。でもやっぱり上京して8年目とかになるとね、ちゃんとできるようになってきてしまっているんですよこれが。そこに申し訳なさも感じていたりするんです。「なんかごめんね、ちゃんとした人間になっちゃって」みたいな。
――そこに希望を見出したり、そこがかわいいと思っている人がいたりするけれど。
ナナヲ そうそうそう、ちょっと普通になってきちゃったかなって。まあ何が普通かはわからないんですけど。ナナヲアカリとダメ天使っていうキャラクターを、最初はほぼ同一人物だったものを今はすごく切り離して考えていて。やっぱり大多数の人はナナヲアカリ=ダメ天使だと思っていると思うんです。でも段々違ってきているんじゃない?というのが今のところですね。
――生活ができるようになること、自分とダメ天使が離れていくことは、ご自身にとっては喜ばしいことなんでしょうか?
ナナヲ 自分の中では面白いことだと感じていますね。喜ばしいことでも悲しいことでもなくて、ナナヲアカリを昔から知っている人にとっては悲しいことなのかもしれないけど、残念ながら私だって成長するし歳も取るし。うん、不思議だけど面白いことですね。
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