アーティストデビュー5周年イヤーの最中にある富田美憂が、待望の2ndアルバム『Violet Bullet』を完成させた。TVアニメ『デート・ア・ライブ』シリーズとのタッグで生まれたタイアップ曲「OveR」「Paradoxes」、デジタルシングル「Silent Beat」といった楽曲に加え、豪華作家陣の書き下ろしによる新曲を多数収録した本作。富田自身が作詞した「Stellar」に込められた等身大の思いと決意を含め、この5年でのアーティストとしての進化のみならず、人間としての成長も刻んだアルバムに仕上がっている。せわしなく駆け抜けてきた日々の中で、彼女は何を思い、どんな夢を手にしたのか。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回のアルバムタイトルは『Violet Bullet』ということで、衣装を含めて紫色を前面に押し出した作品になっています。
富田美憂 前回の1stアルバム『Prologue』は“序章”や“始まり”という意味を込めたタイトルで、コンセプトカラーを“赤”にしていたのですが、今回はそこからさらに進化していく過程、成長し続ける私の姿を見ていただける作品にしたかったので、“赤”から“青”に変わっていく途中経過の色、“紫”をコンセプトカラーにしました。タイトル会議で“Violet 〇〇”にすることまでは決まったのですが、そこから1ヵ月くらい悩んでいたんです。でもあるとき、ふいに『Violet Bullet』というタイトルを思いついて。響きもかっこいいですし、“弾丸(=Bullet)”なのでファンの方の心を“撃ち抜く”という願いも込めて、このタイトルにしました。
――たしか富田さんは紫色が好きというお話でしたよね。
富田 はい。自分が好きな色でもありますし、スタッフの方からも「富田さんらしい色」と言っていただいて。たしかに私とパステルカラーはあまり結び付かないと思いますし(笑)、その意味でも富田美憂らしさを出せる色だと思います。それと私はKleissisというユニットをやっているのですが、そこでの自分のメンバーカラーが“紫”なんです。
――そういえばそうでした!
富田 昔の私は「芝居をやりたくて声優になったので、歌って踊る活動はしません!」と言っていて、我ながら尖っていたなあと思うんですけど(笑)、Kleissisの活動を通じて、そういうパフォーマンスも自己表現のひとつだと気付くことができて。Kleissisの経験がなかったら、私は人前で歌って踊る活動はしていなかったと思うので、その意味でも私の中では特別な色なんです。
――ということは、アーティスト活動の原点を象徴する色でもあり、進化の過程を示す色でもあると。
富田 はい。今回、進化という意味では、例えばラウド系のような今までになかった楽曲にも挑戦していますし、リード曲の「Ever Changing Violet」は、私のデビュー曲「Present Moment」を作ってくださった作詞の金子麻友美さんと作編曲の睦月周平さんに楽曲制作をお願いしたほか、今までお世話になってきた作家の皆さんにも参加していただくことで、これまでの活動とのリンクを見せられたら、という思いで制作を進めました。
――そのリード曲「Ever Changing Violet」ですが、金子さんと睦月さんには、どうお伝えして楽曲をお願いしたのですか?
富田 他の新曲に関しては、私から事細かにコンセプトやイメージをお伝えさせていただいたのですが、この曲だけは基本お二人にお任せで作ってもらいました。というのも、金子さんには「Letter」(1stアルバム『Prologue』収録曲)を作曲していただいたほか、私が前田佳織里ちゃんとやっているラジオ番組(「富田美憂・前田佳織里の“調査のご依頼、お待ちしてます!”」)にもゲストで来てくださって、私の活動をずっと見守ってくださっている方ですし、睦月さんもキャラソンのお仕事を含めてよくお世話になっているので、そんなお二人なりの富田美憂像を表現していただきたかったんです。なのでアルバムのテーマが“紫”になることだけをお伝えして、リード曲として作っていただきました。
――爽やかな「Present Moment」と比べると、ロックでかっこいい曲調に仕上がっていますね。
富田 “決意”や“信念”のような重みを感じさせる、予想以上にかっこいい楽曲でした。歌詞も私のことをデビュー時から知っている金子さんだからこそ書ける内容で。1番のAメロの“誰かのためだって 結局自分のため そう これでいいんだ”は、私もまさにそう感じたことがありますし、サビの“燃え尽きないで”は私に向けてのメッセージとして書いてくださったみたいで、そのお話をレコーディングのときに金子さんから直接聞いてすごく感動しました。「頑張りすぎて燃え尽きないでね、美憂ちゃん」っていう(笑)。
――“Ah 選び取るPresent Moment”というフレーズも入っていますし、富田さんがデビュー当時から活動テーマにしている“強さ”を感じさせる曲調も含めて、これまでのキャリアを踏まえた楽曲のように感じます。
富田 これは「Silent Beat」の取材の時にもお話ししましたが、アーティスト活動を続けていくなかで、力強く歌うこと・かっこよく見せることだけが“強さ”なのではなくて、自分の個性を見つけたり、自分の苦手なことを受け止める気持ちを持ち合わせることも、ある種の“強さ”なのかなと感じるようになって。そういう今の私の気持ちも歌詞に汲み取ってくださって、すごく嬉しいです。ある種の決意表明みたいな楽曲だと思います。
――“弱さは強さで 強さは儚くて”という歌詞は、まさに今のお話に繋がりますね。歌う際にはどんなことを意識しましたか?
富田 例えばBメロの“Ah”のところはちょっと色っぽく歌うように意識しましたし、Dメロからラストにかけてのドラマチックに展開するパートでは、自分の内に秘めている熱さを発散するような、叫びに近いイメージで歌いました。私はよく初対面の人に“クールな人”と見られがちなのですが、実は熱い一面があることまでこの楽曲が表現してくれている気がして(笑)。本当にお二人(金子と睦月)からのプレゼントみたいな楽曲になりました。
――MVは、その睦月さんを含むバンドメンバーを交えての映像に仕上がっていますが、撮影はいかがでしたか?
富田 今までのMVは、ほぼ私1人だけが登場するものばかりだったので、バンドとの撮影はあまりなかった経験だったのですが、バンドの皆さんがどっしり構えてかっこいい演奏してくださったので、私も気持ち良く撮影することができました。それと今回のMVは、ずっとお世話になっている監督が撮ってくださったのですが、端々に今までの要素が散りばめられているんですよ。「Prologue」と書かれたカードですとか、「ジレンマ」のMVを彷彿とさせる額縁、『Fizzy Night』のジャケットっぽいブラウン管とか。色んなセクションの方がこの曲に想いを込めてくださって嬉しかったです。
――今作にはその他にも6曲もの新曲が収録されているので、収録順にお話をお聞かせください。4曲目の「Make a New Day」はYouSeeさんが作詞・作曲・編曲を手がけた、爽快な雰囲気のナンバー。
富田 サビの歌詞に“そよ風のダンス”とあるとおり、そよ風のように爽やかに吹き抜けていく楽曲だと感じていて。この曲は前回のシングル(「Paradoxes」)のカップリングを探していたときに出会った曲で、結果的に「Golden Rain」がカップリングになったのですが、「この曲も絶対にどこかで歌いたいです!」とお話させていただいて、今回のアルバムに収録することになりました。YouSeeさんの言葉選びが本当に素敵で、歌詞だけで温度や匂いが伝わってくるなあと思います。私の解釈としては、過去の恋人への気持ちを歌った曲なのかなと思っていて。季節の終わりに聴きたくなるような切なさを感じます。
――まさに。爽やかだけど切なさも感じさせるんですよね。
富田 当初はアウトロの英語のフレーズがフェードアウトして終わる構成だったのですが、レコーディング当日に、サビ頭の“そよ風のダンス”というフレーズを最後に持ってきて締める形に変更して。それが入ることで、ただ昔の恋人への切ない気持ちを歌うだけではなく、それを乗り越えて次に踏み出していく強さが出たと思います。
――富田さんはこういう切ない心情の曲を歌うことが多い印象です。
富田 私がソロ名義で歌うラブソングはほとんど失恋の曲なんですよね(笑)。「恋人と結ばれる曲を歌うことがあまりなくて。昔、とあるディレクターさんに「哀愁を感じさせる声質だから、切ない曲を歌わせたくなるんだよね」と言っていただいたことがあるくらいで、それも私の個性のひとつなのかなと思っています。でも「My Guiding Star」(『Fizzy Night』収録)みたいな、恋人との温かなひと時を感じさせる曲も歌っていますし、これからも色んな楽曲に挑戦したいです!
――5曲目の「Dear Teddy」は美しいコーラスワークも印象的なミディアムナンバー。
富田 これは「片思いはじめました」(1stアルバム『Prologue』収録)の作家のお二人(作詞:宮嶋淳子、作曲・編曲:トミタカズキ)に作っていただいた楽曲になります。「片思いはじめました」はファンの方にもすごく喜んでいただけたので、その進化版のイメージでお願いさせていただいて。この曲もすごく切ないんですよね。ピアノとベルの音から始まるので、最初は温かな雰囲気なのですが、大好きな人に向けて「幸せでいてね」と伝えるような歌詞になっていて。でも、ただ切ないだけでなく、温かな気持ちや次に踏み出していこうとする気持ちが含まれていると思います。
――「片思いはじめました」と比較してどのように受け止めましたか?
富田 (楽曲の主人公の)年齢感が上がったように感じました。「片思いはじめました」は学生の甘酸っぱい青春を感じさせる世界観だったのですが、この曲もそういう少女マンガ的な雰囲気を感じさせつつ、ちょっとお姉さんになったような気がして。なので歌声の年齢感も上げて歌いました。特にイントロの“雨宿りして”のニュアンスとか。あとは全体的にモノローグ色の強い歌詞に感じたので、いつもより優しく繊細に、何かにぶつかったら壊れそうな脆さみたいなものも意識して表現するようにしました。
――大切な“Teddy”に宛てた楽曲ということで、テディベアを連想したりもしますが、ご自身としてはどんな相手を思い浮かべましたか?
富田 特にAメロがわかりやすいのですが、子供の頃に大事にしていた熊のぬいぐるみと大好きな人を照らし合わせた歌詞だと感じていて。その意味でも、ただぬいぐるみをかわいく愛でるだけではない感じが出せたと思います。
――ちなみに富田さんは子供の頃にぬいぐるみを大切にしていた思い出をお持ちですか?
富田 私、小さい頃はヒツジのぬいぐるみをすごく大事にしていたんです。マザー牧場で買った“めーちゃん”というぬいぐるみで、あまり記憶はないのですが、私がどうしても欲しいって駄々をこねて買ってもらったものらしいです(笑)。もうだいぶ薄汚れているんですけど、お母さんが「捨てられない」と言うのでいまだに実家にあります。
――6曲目の「la la lai」はポップで弾けた感じのギターロック。これはライブで盛り上がりそうです。
富田 ライブを意識して制作した楽曲で、私から「タオル曲がほしいです!」とお話して作っていただきました。歌詞にもある通り“踊れる曲”にもなったらいいなと思っていて。でも、その“踊る”の意味合いが、それこそ「片思いはじめました」みたいに、ライブでみんなが同じ振付を踊るのではなく、クラブみたいにもっと自由に踊る感じをイメージしていて……と言いつつ、私はクラブに行ったことがないので実際はどうかわからないんですけど(笑)。みんなで好きに踊って楽しんで大団円!みたいな空気感がほしくて。お祭りっぽい感じの楽曲になればいいなと思っています。
――レコーディングでもみんなが盛り上がっているイメージで歌われたわけですか?
富田 私もマイクにノイズが入らない程度に体を揺らしながら歌いました。でも、この楽曲を録ったレコーディングスタジオはブースがガラス張りになっていて、ミキサールームから見える作りだったので、歌いながらノッているところを見られてちょっと恥ずかしかったです(笑)。でもノリノリになれる、みんなではしゃげるサマーソングになったかなと思います。
――サビはリズムが4つ打ちになるところもいいですよね。
富田 そうなんです!歌うときも4つ打ちを意識しました。あとAメロや歌い出しの部分は少しスタッカート気味に、跳ねる感じで歌うようにディレクションをしていただいて。その部分を含めて歌声の軽やかさも出せたと思います。
――今までの富田さんの楽曲とはちょっと毛色が異なるのが、アイドルソングっぽいコールが入った7曲目の「Sweet Sweet Sweat」。「インソムニア・マーメイド」(3rdシングル「Broken Sky」のカップリング曲)の作編曲を手がけた園田健太郎さんが作詞・作曲・編曲を担当しています。
富田 「インソムニア・マーメイド」とは真逆の雰囲気の楽曲ですよね(笑)。でも、園田さんは『となりの吸血鬼さん』のOPテーマ(富田がソフィー・トワイライト役で歌唱参加したキャラクターソング「†吸tie Ladies†」)でもお世話になっていて、その曲と結構近い雰囲気なんです。特に間奏の部分に園田さん節を感じて。
――その繋がりで今回、園田さんにお願いしたのですか?
富田 アルバムの中で1曲、コミカル色のある楽曲がほしいという話になって。私は「Broken Sky」みたいなロックでかっこいい曲を歌うことが多いので、そのイメージが崩れないかな?とも思ったのですが、ファンの方は絶対こういう感じの楽曲も欲しいだろうなと思うので、思い切って挑戦してみることにしたんです。それで、どの方に作ってもらうかを相談したときに、園田さんのお名前が挙がって「ぜひ!」と思ってお願いしました。
――曲中にコールやセリフも入っていて、かなりユニークな楽曲ですよね。
富田 それこそキャラソン以外では、こういうジャンルの楽曲を歌ったことがなかったので、「私に合うのかな?」という気持ちもあったのですが、レコーディングで歌ってみたら体にジャストフィットしてすごく歌いやすくて。サビのメロディがすごくキャッチーなので1度聴いたら耳から離れないですし、園田さんが私のパブリックイメージを意識して歌詞を書いてくださったのですが、ただ甘々でかわいい感じではない、ちょっと塩っぽいところが、自分でも「私っぽい!」と思いました(笑)。
――そうなんですか?
富田 番組の罰ゲームとかでかわいいセリフを言わされることがたまにあるんですけど、そこで「かわいい!」みたいな反応をされると、自分はたしかに「はいはい」みたいな感じで塩対応になるなあと思って。だからこの曲をもらったときはすごく恥ずかしかったです(笑)。
――間奏の“好き好きとみー!らぶりーとみー!”コールからの“ごめん マジ無理 ないわ”という返しは、完全に塩対応ですからね(笑)。
富田 ここのセリフは、ちょっと優しめに言ってみたりとか、色んなパターンを試して収録したんですよ。そのなかでも「本気でマジ無理」パターンを使っていただきました(笑)。全体の歌声もツンデレっぽさを意識していて。1番の“炎天下様の到来”から“君が拭いてくれるんでしょ?”までのブロックは「フンっ!」みたいな感じで歌っておきつつ、そのあとに猫なで声を出したりしています。
――富田さんはツンデレっぽいキャラクターを演じる機会が多いですし、その意味でもファン的にグッとくる楽曲だと思います。
富田 間奏のセリフの部分も、ライブで披露するごとに遊べそうだなと思っていて。もし、(客席からの)“好き好きとみー!らぶりーとみー!”のコールが控え目だったら、私は続きを歌わないかもしれない(笑)。
――あはは(笑)。でもこのコール、ファンは絶対に盛り上がりますよ。本人公認でこんなことを大声で言える機会はなかなかないですから。
富田 その意味でもライブが楽しみです(笑)。ガヤやコールのリズムが結構細かくてトリッキーなので、「これはみんなライブでできるのか?」という声もあったんです。でも、園田さんが「いや、みんな覚えてきてくれるはず」と言っていて。ファンの方への信頼のもと作られた曲なので、皆さんを試します(笑)。
――そこからガラリと趣きが変わって、8曲目の「Oblivion」は艶やかさも感じさせるドラマチックなラウドロックチューン。
富田 ぜひギャップを楽しんでほしいです(笑)。今までバンドサウンド系のロックな曲が多かったのですが、よりその部分をフィーチャーした楽曲を試してみたくてラウドっぽい曲をお願いしました。完全に振り切った曲調だったので、デモをいただいたときから「早く歌いたい!」とすごくワクワクして。私は歌うときにしゃくりを強めに入れがちで、キャラソンの現場ではそれを抑えて歌うことが多いのですが、この曲に関してはそのクセを活かしたほうが逆に合うと思ったので、しゃくり、エッジボイス、がなりを好き放題詰めて歌いました。だいぶクセが強いと思います(笑)。
――富田さんはこういう曲調が好きなのですか?
富田 大好きです!この曲は、いつもディレクションしてくださっている方と違って、こういうラウドなジャンルが大好きな日本コロムビアのお姉さんにディレクションしてもらったのですが、2人でウキウキになって収録しました(笑)。Airaさんのアレンジも、ただ重々しいラウドさだけでなく今っぽい雰囲気が入っていて、“お洒落ラウド”な楽曲になりました。
――“贖罪”や“滅びという名の救済”といったワードが散りばめられたダークな歌詞を含め、いわゆるビジュアル系にも通じる世界観を感じます。
富田 ああー、たしかに。歌詞の世界観は完全にお任せだったのですが、私はシドを聴いて育ってきたので、そういうルーツがチラ見えする曲かもしれないです。
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