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INTERVIEW

2024.08.21

麻倉もも、やりたいことを詰め込んだ4thアルバム『ChouChou』リリースインタビュー

麻倉もも、やりたいことを詰め込んだ4thアルバム『ChouChou』リリースインタビュー

麻倉ももの4thアルバム『ChouChou』が8月21日にリリースされた。2年ぶりのアルバム制作で、これまで強固に積み上げてきた“楽しくてかわいい”パーフェクト・麻倉もも像に変化が訪れる?一貫して普遍の世界で恋を歌い、時が経てば色褪せるような“一過性の言葉”を排除して作られてきた彼女の音楽が今、進化の時を迎えようとしていた。

INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)

「やりたい」を叶える活動と、普段の自分

――前作『Apiacere』から2年ぶりのアルバムですが、この期間で制作体制やアーティスト活動のモードに変化はありましたか?

麻倉もも 『Apiacere』辺りから私のやりたいこと100%で進んできたので、今回もそれをどう叶えていくかを話し合う感じですね。制作過程や作り方が変わった感覚はないんですが、アルバム自体はガラッと雰囲気が変わったかもしれません。

――2年の間で新しく好きになったものや、今回のアルバムに取り入れたものはありますか?

麻倉 そもそもの音楽の聴き方が変わりました。自分から新しい音楽を聴くほうではなかったのですが、最近はSNSで流行っているものを掘り下げてみたり。新しく好みの音楽が増えたというよりかは、自分がやってみたい参考曲を探すようになりました。

――SNSではどういった方向性のものが引っかかるんでしょうか。

麻倉 流行っている曲って何度も何度も流れてきて頭に刷り込まれるじゃないですか。パンチが効いていて、耳を引く音楽がどんなものなのかが少しずつわかってきたような気がします。

――アーティスト活動に反映するかどうかは別として、ご自身が最近好きな音楽は?

麻倉 移動中や空き時間は基本的に自分の曲を聴いていることが多くて……ライブやレコーディングに向けて予習したりしています。

――日常の音楽鑑賞がSNSでの情報収集と予習というのは、麻倉さんは割と仕事人間なんでしょうか?

麻倉 うーん、元からあまり趣味で音楽を聴くほうではなかったので、どうせならこの移動時間を予習に使おうと(笑)。そんなに必死で覚えようとしているわけではないんですよ、せっかくだから聴いておこうくらいの。

――ちなみに余暇はどう過ごされているんですか?

麻倉 プライベートは普通です。寝るか食べるか散歩するか、おばあちゃんみたいな生活(笑)。趣味があまりないので、あとは、マンガを読むか。本当に普通です。

――ライブや音楽活動が非日常というか、大きく離れた場所にあるんですね。

麻倉 そうですね。普段生活している自分からは想像がつかないです。ライブも含めて「自分がこんなことをしているんだ」って、自分自身では結構信じられないことをやっていると思います。

――それはTrySailを含む10年近くの活動の中で切り分けられていったのか、それとも元からあまり現実感がないものなのでしょうか。

麻倉 今たくさんの方に知ってもらえていることは、基本的にはずっと「不思議だなぁ」と思っていますね。こんな部屋でゴロゴロしている私が(笑)。でも普段の私とステージにいる私を切り分けようとも思っていないですし、自然と切り替わっているというのが正しいと思います。

オープニングから新しい一面を!星型のサングラスでキメる「HIT GIRL NUMBER」

――新曲を中心にお話し伺っていきたいと思います。まずは1曲目の「HIT GIRL NUMBER」から。

麻倉 私のアルバムの中でも挑戦の楽曲になりました。この曲こそSNSで情報収集をするようになって、中毒性のある耳を引くような曲を作りたいと思ったのが始まりにあって。サビは同じフレーズのリフレインで、Aメロはラップっぽい感じで……みたいなことを擦り合わせながら作りました。

――持ち味の1つとしてポエトリーラップは過去曲にもありましたが、それよりもかなりスタイリッシュに振り切った印象があります。

麻倉 そうですね、この“かっこかわいい”感じ。音はかっこいいけど歌はゆるく歌って、でもキメるところはキメる、というのはやりたかったことで。でも思っていたより難しい曲が来てびっくりしました。曲をいただいたときから「これどうしよう」と(笑)。絶対に歌いたいけど、これを私が歌ってキマるのか不安だったんですよ。でも作詞作曲のかわいあこさんと編曲の星銀乃丈さんが、対談形式のラップ講座みたいな動画を送ってくださったんですよ。本当にそれのおかげで上手くいったと言っても過言ではないくらい助けられました。こういうふうに歌うとか、こういうふうにリズムを取るとか、一言一言教えてくださって。すごく不安だったんですけどレコーディングも上手くいって、こういう曲もアリなんだなと新しい扉を開いてくれた曲になりました。

――過去のインタビューで「年齢や性格など、曲の中の主人公を設定する」と伺いましたが、この曲ではいかがでしたか?

麻倉 この曲は詳細な人物像というよりかは、「10代の女の子がちょっとスカして歌っている」みたいなイメージでしたね。

――性格というか、服装が見える感じですよね。

麻倉 あー、そうですね!バチバチにキメてるというよりかは、星型のサングラスをしている感じ(笑)。

――本当にかっこいいというよりは、背伸びしてかっこつけていたり少し抜けている雰囲気ですね。

麻倉 まさにそういうイメージでした。それでいて目指していた「中毒性」も達成できていると思いますし、私の新たな一面としても皆さんに好きになってもらえるんじゃないかなって思います。アルバムの曲順が1曲目というのも、これからこういう部分を見せていくぞという意味も込めて。

――こちらは最初から1曲目の予定で制作が進んでいたんでしょうか。

麻倉 これは周りのみんな(スタッフ)も自然とその認識になっていましたね。「おっ、違うぞ」というのを見せたい気持ちが全員一致であったと思います。

――ボーカルにおいてもポエトリーラップのウィスパーとは違う、今までの麻倉さんと異なる仕上がりになっていますね。

麻倉 このちょっとねっとりまったりした歌い方は、仮歌でかわいさんが歌っていたのを「これをやりたい!」と目指してみたところがあります。癖を盗ませてもらいました。

――続いて、かわいらしいエレクトロファンクの「もしかしてもしかする」についてはいかがでしょうか。

麻倉 こちらは紆余曲折ありまして。制作の中では終盤に作った曲で、ライブツアーで盛り上がれるものがほしいという話になったんですよ。タオルをみんなで回せる曲があったらいいんじゃないかというところから始まったんです……が、方向性は少し違うものの、いい曲が上がってきて(笑)。最初の予定とは違いましたが、歌いたいなと思う曲に出会えたのでそのまま制作に入っていきました。ヤマモトショウさんに作っていただいたんですが、FRUITS ZIPPERさんが好きで、私もいつかお仕事したいと思っていたので候補でお名前が挙がったときに「ぜひ!」とお願いしました。

――タオル部分の発注については置いておいて、上がってきた曲の印象はいかがでしたか?

麻倉 音はかっこいいけど、印象はかわいいが先行している曲だなと。私のイメージの中では作り込んだ声や歌い方をしたいな、なんというか「やっちゃえ!」って思いましたね。

――ナチュラルよりはキャラクター寄りのボーカルが似合いそうだなと。

麻倉 それこそヤマモトさんが普段作られている、グループアイドルの曲のような印象があったんですよ。複数人で歌っているのが想像できるみたいな。Aメロも歌詞が被っていてひとりじゃ歌えないようになっていましたし、私の中で「THE(グループアイドル)」みたいなものを取り入れたかったんです。AメロBメロはあえてあまり起伏を付けずに、そこからサビはキャラクターソングのような感情の乗せ方をして。

――かなり具体的なプランニングですが、それは周りと相談して決めるものなのでしょうか?

麻倉 いえ、最初に聴いたときからそのイメージが固まっていたので特に相談することもなく、スムーズに決まりましたね。

――「Aメロはあえて起伏をつけずに」などはかなりコンセプティブな歌い方ですが、事前に言葉で周りに説明したりするんでしょうか?

麻倉 とりあえず「一回歌ってみます」でプランを出してみて、という感じですね。信頼してもらえていてありがたいです。ただプランまでは良かったのですが、歌うと難しくて!息が続かなくて、1人で歌うのが大変な曲でした。実はデモの段階から一度は「息継ぎのポイントを作ってほしい」という要望は出したんですけど、やっぱりこの曲は間がなくて畳み掛ける感じがかわいいのかなって思い直してそのまま歌うことにしました。ライブでは私をあと3人くらい召喚してみんなで歌いたいです(笑)。事前に収録しておいて、モニターに映し出したりできないかなぁ。1人は本物の私で、架空グループアイドルみたいな。

新しい言葉を許す、「麻倉ももの掟」破り

――「Muted Peony」についてはいかがでしょうか。

麻倉 シティポップはどうだろう、とスタッフさんから提案してもらった曲ですね。候補の1つはマイナーで少し暗い雰囲気の、“夜”みたいなイメージ。もう1つが明るめの、ライブで盛り上がりに持っていけそうな曲。後者の方が「Muted Peony」になりました。似合いそうと言っていただいたので、私も「やってみたいです」というところから始まりました。

――どのような理由でこちらの楽曲が選ばれたんでしょうか?

麻倉 結構最後まで迷ってはいて。今回目指していたシティポップの懐かしい感じを表現するなら「Muted Peony」のほうが合っているなという感じでした。選ばれなかったほうも、アレンジを変えてまたどこかで歌わせてほしいくらい気に入ってはいたんですよ。

――レコーディングはいかがでしたか?

麻倉 これは苦戦なく、楽しかったイメージがあります。言葉も楽しく発音できて、キー的にも気持ち良く歌えて。歌い始めてすぐに「これはもう大丈夫だね」と言われたのを覚えています(笑)。新曲が大変なレコーディングが多かったので、オアシスみたいな曲でしたね。

――楽曲ジャンルとしては新たな挑戦ですが、確かに声のトーンや歌い回しにおいては一番聴き馴染みのある印象でした。

麻倉 そうですね、新曲の中で一番“麻倉もも感”のある歌声になったと思います。歌詞も自分で「こういう雰囲気にしてください」とお願いしたのですが、“片想いの女の子の複雑な乙女心”を書いてほしくて。曲を聴いたときに、キラキラ感もありつつ少し切なさを感じたんですよ。いつもはアルバムを作るときはほとんどの曲で歌詞の希望を伝えるのですが、今回のアルバムでは私のイメージでお願いした曲が少なく、「この人に書いていただこう」を決めて、その方にお任せするかたちが多かったです。その分私が自分でお願いするなら「THE(恋愛ソング)」みたいなものがいいと思って、片想いの曲をお伝えしました。

――片想いではあるけど、悲しすぎないかわいらしさがありますよね。

麻倉 まさに発注に書いてあります(笑)。「サビのメロディが明るいので暗くなりすぎないようにお願いします」。片想いだけど、どちらかというと楽しい方にフィーチャーしたイメージで書いていただきました。

――ちなみに以前のインタビューで「麻倉ももが歌う少女マンガ的な世界観の中で、使いたくない現代的な言葉は変えてもらうことがある」と伺いましたが、今回は変えてもらった歌詞などはありましたか?

麻倉 ありました!あったんですけど、変えなかったんですよ!「もしかしてもしかする」に出てくる“やばい”みたいな言葉は、今までだったら変えてもらっていたと思います。「HIT GIRL NUMBER」の“ブクマ”などの省略語も普通の歌詞として出てきたら変えてもらおうと思うようなところだったのですが……先日30歳になりまして、違う自分も見せていきたいという気持ちになって。せっかく私のために作っていただいたのもあるし、1つそこを破ってもいいんじゃないかと思ったんです。「HIT GIRL NUMBER」は今までに見せたことのない自分というのもありましたし、曲の雰囲気に歌詞も合っているし。やってもいいんじゃないかと思えたんですよ。

――では全体通して“普遍的でないから”“今風だから”のような理由で変えた言葉はない?

麻倉 はい、ないです。全体通して1つも変えなかったですね。殻を破るというのとも違うんですけど、違う自分も見せたくなったんですよ。

――TrySailの新譜「マイクロレボリューション」のインタビューで「歌詞カードに感情の動きに合わせて顔の絵を描く」とおっしゃっていましたが、今作のレコーディングではいかがでしたか?

麻倉 ソロでもユニットでもキャラソンでも関係なく、“こういう顔をしよう”は描いていますね。「Muted Peony」だとBメロの前半は眉が下がった表情とか、そこから少し笑って、サビはパッと弾けた顔を描いていました。あとそうだ、「HIT GIRL NUMBER」は顔を書いてなかったと思います! 感情とちょっと違って、一貫して星のサングラスのイメージだったので(笑)。

――続いては「Wonderland」についてお聞かせください。

麻倉 青春を感じる爽やかな曲を歌いたいな、というところから始まりました。そこからfhánaの佐藤純一さんがいいんじゃないかと提案してもらって、ぜひぜひというかたちでお願いしましたね。

――楽曲の第一印象はいかがでしたか?

麻倉 疾走感があって爽やかでそれでいて切なさもある、私が求めていたものでしたね。ただ歌ってみたらめちゃくちゃ難しくて、高低差もあるし高いところはずっと高いので。練習の時点で「どうしよう」と思ったままレコーディングに行くことになりました。当日は佐藤さんが現場に来てくださったんですけど、ワンコーラス録ったくらいで「キーを半音上げたほうがいいんじゃないか」と提案があって。練習していたキーでもかなり高かったので「今の状態でも大変だけど歌えるかな」と。でも声のトーンでいうと上げた方が良さそうで、「ライブどうしようかな……」と思いながらキーを上げました(笑)。アルバム全体の中でもとにかくライブが大変そうな曲になりましたね。

――何か解決法というよりは、とにかく食らいつく形で完成させたんでしょうか。

麻倉 そうですね。パワーが必要でした。でもレコーディングが終わって聴いたときに、キーを上げたほうが苦しそうな感じも含めて叫びに近いような歌になっていて、青春感があっていいなと思いましたね。ただやっぱりこの先のライブを考えると、レコーディングは歌だけに集中できるからいいんですけど……ねえ(笑)。

――TrySailの活動においてもキャリアによる立ち位置の変化というか、歌の主人公の年齢感も聴き手より上になることが増えた印象です。その中にあって青春の必死感を歌うというのは、アルバムの幅を出すための意図的なものなのでしょうか?

麻倉 意図して幅を作ったつもりはないんですけど、前までは歌詞も曲自体も「これは私っぽくないかな」でやらないことがあったんですよ。わかりやすくかわいかったり、みんなも楽しいほうがいいのかなという時期もあって。特に前作の『Apiacere』が「ちょっと大人すぎないかな」と不安だったりしたんです。今までの私の曲たちが好きだった人にとっては、ちょっと違うんじゃないかとか。でも皆さんが肯定的に受け取ってくださったし、自分でも音楽をやっていくなかで「こういうことをやりたい」「ここをもっとこうしたい」みたいな要望が出てくるようになって。「もっと色んな曲をやりたい!」と思えたんですよ。だから今回は「大人っぽくないかな」とか「攻めすぎかな」とか思わずに作れたんだと思います。

――何か大きめの心情の変化があったわけではなく?

麻倉 というよりは、やっぱり『Apiacere』を経ての皆さんの反応が大きかったですね。あとは作り終わったときの達成感や、身の周りの方から「良かったね」とたくさん言っていただけたのが自信に繋がって。それがあったから今回何も懸念点なく作れたんだと思います。

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