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REPORT

2024.08.13

憧れの場所“野音”に広がった美しい光――楠木ともり、初の野外ワンマン“TOMORI KUSUNOKI SUMMER LIVE 2024 -ツキノミチカケ-”東京公演を振り返る

憧れの場所“野音”に広がった美しい光――楠木ともり、初の野外ワンマン“TOMORI KUSUNOKI SUMMER LIVE 2024 -ツキノミチカケ-”東京公演を振り返る

楠木ともり、初の野外公演となるワンマン“TOMORI KUSUNOKI SUMMER LIVE 2024 -ツキノミチカケ-”の東京公演が、7月15日に開催された。会場は野外ライブの聖地・日比谷公園大音楽堂。昨年に設立100周年を迎え、数々の伝説的ステージの舞台となった“野音”こと日比谷公園大音楽堂は、音楽をこよなく愛する楠木にとっても憧れの場所。声優としてだけでなく、シンガーソングライターとしても着実にキャリアを築いている彼女の、この先、何度となく振り返られるであろう思い出の1ページが、夏の野音にて刻まれた。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY Kosuke Ito

初めての野音ライブに吹き抜けた、熱風のごときパフォーマンス

この日の東京の天気は、朝からずっと曇り。予報では、ちょうどライブの時間にあたる夕方から夜にかけて雨が降る可能性も伝えられていて、楠木自身が“雨女”を自称することもあり、筆者も雨合羽を持参して現場に向かったのだが、結果、その心配は杞憂に終わった(楠木いわくマネージャーが“晴れ女”らしい)。むしろ空が分厚い雲に覆われていたため、直射日光にさらされることもなく、気温も涼しさを感じるほど。野音に時折吹き抜ける風が気持ち良くて、正直、快適と言っていいくらいの環境だ。

チケットはソールドアウトとのことで、客席はライブグッズなどを身にまとったファンでぎっしりと埋まるなか、定刻の17時半を少し過ぎた頃、彼女のライブではお馴染みの幻想的なSEが流れ出し、ついにライブが開幕する。まずはバンドメンバー4人がスタンバイすると、1曲目「眺めの空」のイントロと共に楠木が登場。真っ白の衣装が、明暗のコントラストが強い野外の空間によく映える。夏の情景を描いたこの楽曲、やや気怠さを感じさせる曲調ということもあってか、これまでライブのオープニングで歌われることはなかったように思うが、サビの歌詞にあるとおり“くらくらする”ような陶酔感が夏の匂いと合わさって、観る者を“アーティスト・楠木ともり”の世界観へと一気に引き込む。

そのディープな立ち上がりから一転、タオルを手にした楠木は「みんな盛り上がってー!」と元気いっぱいに呼び掛けて「僕の見る世界、君の見る世界」へ。いわゆるタオル曲として彼女のライブには欠かせないこのナンバーが早くも投入されたことで、会場のボルテージは瞬く間に最高潮へ。楠木は曲中で「ここにいるみんなで最高の夏にしましょう!」と宣言し、オーディエンスもタオルや大合唱でその想いに応える。

軽い挨拶のMCで「“暑い”って言おうと思ったけどいい感じだね!」と過ごしやすい気候に触れつつ、油断せず水分補給を欠かさないように呼びかけると、ここからはTOOBOE提供のアッパーな「青天の霹靂」、ワンマンライブ初披露となる2ステップ調の浮遊感溢れる「MAYBLUES」、レイドバックしたリズムと歌い口が野外の空気と最高にマッチした「もうひとくち」と緩急の効いた流れでオーディエンスを揺さぶる。さらにギターのセンチメンタルなイントロが流れた瞬間、客席からどよめきが上がったのが「タルヒ」。聴き手の心に寄り添うような、冷たい日々も溶かすような温かい歌声が、どんより曇った空のもとで優しく沁み込んでいく。あまりにも満ち足りた時間だ。

その後のMCで、野音に吹く涼しい風が気持ち良くて「“タルヒ”のときに寝そうになっちゃった」と笑う楠木。距離を感じさせないリラックスしたトークはいつも通りで、むしろ客席を見渡しやすい野音ということもあってか、いつもよりテンション高めのように感じられる。

そして「ここからはちょっと、お水飲んどいたほうがいいと思う」と期待を煽ると、涼しい野音を熱くする怒涛のセトリへ。楠木の声を多重録音した清涼感あるコーラス音源が流れ出すと、そこから「Forced Shutdown」に移行して会場は熱狂の渦に巻き込まれる。Cö shu Nieが提供した「BONE ASH」では野音の屋根に投影されたライトがサイケデリックな空間を演出。さらにバンドのアンビエントな演奏を挿み、雨音と楠木の「雨が……」という言葉を合図に始まった「遣らずの雨」では、楠木の感情を剥き出しにしたような歌唱が、どしゃぶりの雨のように激しく打ちつける。特にラスサビ前のフレーズ“そばにいさせて”での叫びにも似たロングトーンは鬼気迫るものがあった。

この日の白眉とも言えるパフォーマンスだったのが、次の曲「absence」。曲間のしばしの静寂にセミの鳴く声が響き渡るなか、切なくも優しいタッチのピアノを伴奏に、楠木は心の揺らぎさえもそのまま形にしたような深く繊細な歌声で、“不在(absence)”の哀しみを描いたこの楽曲を表現する。かつての思い出を懐かしむような、“君と一緒”だったかもしれない未来の可能性に思いを馳せるような、そして別々の道を辿ることとなった相手をいつまでも想う気持ちを携えて。最後に力なくつぶやいた“いつまでも 笑ってて”という言葉が、虫の音と共に夏の空気に溶け込んでいった。

その深い余韻を破り、未来への希望を大空へと解き放ったのが「シンゲツ」。楠木が敬愛するL’Arc~en~CielのTETSUYAが作曲・プロデュースを手がけた、彼女の最新シングルの表題曲だ。TVアニメ『魔王学院の不適合者Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』のEDテーマとして、月の満ち欠けをモチーフに楠木自身が作詞したこの楽曲、この日はあいにくの空模様のため月は見えないが、それでも月に届かんばかりの高らかとした歌声が大きな軌跡を描き、野外というロケーションをロマンチックに盛り上げる。

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