TVアニメ『ダンジョンの中のひと』OPテーマとして、8月7日にTrySailのニューシングル「マイクロレボリューション」がリリースされた。“リスアニ!LIVE 2024”の大トリも務め、さらなる進化を続ける彼女たちが最新作で標榜するのは――“お祭りマッスルユニット”!?デビュー10周年を目前として成熟期を迎えるTrySailに今何が起きているのか、3人に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)
――今年は“リスアニ!LIVE 2024”の大トリを務めていただき、個人的に昨年はライブツアー『TrySail Live Tour 2023 Special Edition“SuperBlooooom”』のレポートも執筆したので、最新のTrySailのパフォーマンスを何度か拝見しております。今回の新譜にも言えることなのですが、今TrySailは「パワフルな側面を押し出していこう」という方向になっているのでしょうか?
麻倉もも “SuperBloom”ツアーの走り出しの時点ではそうじゃなかったんですけど、久しぶりに声出し解禁のライブをやりながら「こうやってみんなで楽しめるのがTrySailの強みだよね」という話になっていきましたね。
夏川椎菜 お呼ばれしたフェスで曲数が限られているなかでの見せ方を考えたときに、やっぱりお客さんが求めているTrySail像って「お祭りワッショイ」だよねって。私たちとスタッフの中でも共通認識だったので選ぶ曲がそういう方向になり、フェスを入り口にツアーに来てくれた人のために曲を選ぶと2時間お祭りで突っ切ることになり……という。
雨宮天 ツアーの終盤にみんなで話したんですよね、今後のTrySailについて。「もうここまで来たら、このままお祭りマッスルユニットでやっていくのがいいんじゃないか」って(笑)。
――長くインタビューを担当してきましたが初めて聞いたキャッチコピーですね、“お祭りマッスルユニット”。
雨宮 お祭りマッスルユニットでやっていくのが私たちも楽しいし、これまで培ってきた体力やパフォーマンスもあるし、お客さんもヤケクソみたいに暴れ回る私たちを見るのが楽しそうなので。その方向がいいよねという話になったんですよ。
――近年のインタビューでは特に「ライブが楽しいのがTrySail」という言葉を何度も伺いましたが、昨年のツアーと“リスアニ!LIVE”で観た風景はその言葉のお行儀の良さを大きく上回るものでした。レコーディング音源で聴く「adrenaline!!!」や「High Free Spirits」と出力がまったく違っていて、今のTrySailはこんなことになっているのかと驚いた人も多かったんじゃないでしょうか。
麻倉 ライブでやったときにバカになれるというか、自分を全部解放できる曲が増えてきて。この方向でお祭りユニットになったらよりライブを楽しめる、楽しんでもらえるんじゃないかという話をしましたね。
雨宮 最近は常に限界に挑戦している感じがあって。本当にもう何も残さないくらいの気持ちで、1ミリも体力を残さずに終わらないともうやり切ったって思えないから(笑)。そのとき持てるすべてをそこで出し切る。お客さんもいっしょになってはしゃがなかったら逆に恥ずかしくなるくらい、本人たちがはしゃいでやるっていう心意気でやっている感はあります。だから“リスアニ!LIVE”も気持ち良かったですね。私たちを初見の人たちもたくさんいる中で久しぶりにライブができて、一丸となって盛り上がってくれているのを見て「これだよ、このために全部出し切るんだよ!」みたいな爽快感がありました。
麻倉 たしかに本当にただただ気持ち良かったイメージがありますね。以前はお客さんみんなが盛り上がれる曲が「adrenaline!!!」くらいしかなくて、楽しんでもらえる反面コンプレックスみたいなところもあったんですよ。求められるのはもちろん嬉しいけど、それだけに頼っていていいのかって。でも今年の“リスアニ!LIVE”はしばらく出ていなかった数年分の成長をちゃんと見せられたと思うし、1つ壁を乗り越えたTrySailとしてほかの曲でも盛り上げられたり、楽曲の幅も感じてもらえたんじゃないかと思います。
夏川 ちゃんとお客さんを盛り上げつつも、曲としてかっこいい形で届けられたんじゃないかと。ただ元気なだけ、ただがむしゃらなだけでは到達できない、ステージの完成度はなきゃいけないと思うんで。最近のTrySailはそこがちゃんとできていると思いますし、私たちのアイデンティティとして確立できているんじゃないでしょうか。
――ニューシングル「マイクロレボリューション」にも繋がってくるんですが、圧倒的なパワーを感じつつも、どこかご本人たちには余裕を感じるようになってきたように感じます。まずは楽曲の第一印象からお伺いできましたら。
夏川 「あっ、私たちはこれでいくんだ」ですかね(笑)。
――たしかに1つ前のシングルが「華麗ワンターン」ですもんね。
夏川 スタッフ陣の中でも決定したんだな、と。お祭りパーティチューンをやっていくんだな……でも楽曲の方向性でいうと今までやったことのないロカビリー要素があったりして、新しい挑戦でもあるなと思いましたね。
麻倉 こういう方向を押し出していったらいいんじゃないかってみんなで話したというのもあるんですけど、定まったというかTrySailの色みたいなものが見えてきた曲だなと思いました。楽しむし盛り上げるけど余裕を感じるような、元気でわちゃわちゃしている中でも大人っぽさがあるんですよね。
――先ほども雨宮さんがおっしゃっていましたが、「この方向でいこう」という話し合いは具体的にどんな内容だったんでしょうか?
麻倉 ちゃんとした会議というよりは、ライブ後にその日のうちにいつもやっている反省会で話したよね?
夏川 うん。「お祭りわちゃわちゃは強みとして活かしつつ、それだけじゃない面も見せていきたいね」みたいなニュアンスだったと思う。
麻倉 そうそう。“SuperBloom”ツアーは「Lapis」とか幅を見せられる曲があって、「魅せるTrySail」と「マッスルなTrySail」の両極端なギャップが魅力だよねと話したんですよ。
――「Lapis」のような曲でギャップが作れれば、メインはパワフル路線で突っ切っても大丈夫だろうと。
雨宮 曲ごとの世界観への入り込みや切り替えがちゃんとできていた、みたいな話からだったと思うんですよ。全然違うものを1つのライブでやり切れるってあまりほかにないんじゃないかって。その両極端を突っ走っていけたら個性が出るよねって話をしましたね。今まであんまり「TrySailってどういうユニットです」というのが決まっていなくて、そこが“SuperBloom”ツアーで定まったというか、みんなが手応えとして感じられたのかなって思います。
――この路線で行こうと決めるのはなかなか勇気がいりますよね。しかもまもなくデビュー10年を迎えようというタイミングで、「パワー」を前面に押し出すという。
麻倉 最初のほうにやることだよね(笑)。
夏川 絶対違うよね(笑)。でもフレッシャーズには絶対できないと思う!絶対に無理だよね「華麗ワンターン」とか、今回の「マイクロレボリューション」も難しいんですよ。
雨宮 積み上げてきた筋肉があるからね、だからもっと重みを増やせる(笑)。
夏川 だからこそあまりほかの人がやってこなかった道なのかなと思いますね。キャリアを重ねて筋肉がついた頃にはテクニカルな路線に行く人が多いので。
雨宮 私もTrySailでお祭りをやるのがすごく好きなので、曲を最初に聴いた時点ですでにライブの風景が見えましたね。ステージを大きく使ってみんなで息を切らす様子が想像できて、早くはしゃぎ倒したいなと思いました。あと個人的に私はロカビリーのテイストが好きなので、歌うのも聴いてもらうのも楽しみだなって。覚悟が決まったので迷いがなかったです。
麻倉 各々ソロをやっているっていうのも大きかったよね。ちゃんとそれぞれにやりたいことをがんばってる分、集まったときは発散というかヤケクソというか……(笑)。
夏川 最近のTrySailの楽曲ってソロでやってきた歌い方を入れても成立するし、むしろそれが求められているとも思うんですよ。3人で歌うことの意味になっているし、今の私たちに合っているなと思いますね。
――先ほどフレッシャーズにはできない難しい曲というお話もありましたが、レコーディングはいかがでしたか?
雨宮 勢いがあって元気な楽曲だからしっかり音のアタックを出していかなきゃいけないんですけど、リズムもメロディも難しくてそこに集中すると楽しい感が薄れちゃうんですよ。両立させるのが苦労しましたね。
麻倉 うんうん。文字がギュッと詰め込まれているのでついていくのに必死だけど、それを感じさせない余裕を出さなくちゃいけなくて。
――悩みの渦中にいる人というよりは、その先にいる先輩から声をかけるような構図の曲ですもんね。その余裕感はどのようにして出していくのでしょうか?
夏川 上手く歌えている感が出すぎないほうが、聴いている側が楽しく感じるだろうなというのがあって。「めっちゃリズムに正確にハメてます、かっこいいでしょ!」というよりは、軽くノリで歌っているふうに聴こえるように。そのほうが聴いている人が同じリズムでノれると思うんですよ。
――たしかにこんなにも譜割りが細かく詰め込まれているのに、言葉の置き方が結構ファジーですよね。サビの最後の「ほらね」などはかなり意図的にモタらせてある印象です。
夏川 私がこういう楽曲を歌ううえで特に意識しているのは、録った歌を聴き返したときにちょっとでも笑顔感が薄れていたら、より口角を上げて歌い直すとか。口角を上げて歌っている映像がパッと頭に浮かぶような歌い方を意識していて、それが余裕感やいっしょに楽しもうとしている感に繋がっているのかも。
雨宮 レコーディングの順番は私からだったんですけど、それが土台になるから大事じゃないですか。一番最初の人がバッチリ楽曲のイメージを作れたらあとの人が楽だと思うんです。それで少し男の子っぽくというか勢いとぶん投げ感のある、あまりお上品じゃない感じで固めていって。キーも高いしアタックを意識して歌うと本当に疲れるんですよ。体力との戦いをしながらも、負けじと積み上げてきたマッスルで挑みましたね。そんななかでもサビの最後の「ほらね」は絶対にキメたくて!ここは一度筋肉を捨てるというか(笑)。ずっとぴょんぴょんジャンプしていたところから、しっかりカメラ目線に切り替わるようなイメージで。ここはかなりテイクを重ねた記憶がありますね。聴いている人への投げかけでもあるので、それまでのテンションのまま突っ切っちゃうとそれこそさっきナンちゃん(夏川)が言った「技術面も見せる」って大事な部分がなくなっちゃう。フレッシュでもできることになっちゃうから、勢いだけじゃないニュアンスは忘れないようにしたいなと思いながら歌いました。
麻倉 私は順番的には最後のレコーディングだったんですけど、やりやすかったですね。2人が仮歌には入っていないニュアンスを入れてくれているので、「あ、ここいいな」と参考にできたりとか。方向性は決めてくれているので、あとは自分で意識したのはお祭り感の中でも余裕を出したいなという部分。がむしゃらだけじゃない、大人の女性の余裕みたいな。
――歌表現における「大人の余裕」とはどのように生み出すものなのでしょうか?
麻倉 言語化するのは難しいんですけど、必死感をなくす感じですかね。この曲に限った話じゃないんですけど、私はレコーディングするときに歌詞カードにイラストで「そのときの顔」を描くんですよ。
夏川 ええー、かわいいなにそれ。
麻倉 この曲のAメロだったらニコニコの顔文字みたいな。サビはちょっとニヤリとした挑戦的な笑顔を描いてましたね。表情を描いて感覚を切り替えていっている感じです。
――先ほど夏川さんが言っていた意図的に表情筋を動かす話に近いんでしょうか。
麻倉 うーん、どちらかというと「絵に描いた表情の気持ちになる」というイメージですね。なのでいつもレコーディングが終わる頃には歌詞カードが顔だらけです(笑)。TrySailでは特に切り替えが多い分、描いてある顔の数も多いですね。
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