声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。
「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。
そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。
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私は爪が弱い。とにかく爪がペラペラなのだ。昔から自分の爪の弱さ、形、色すべてがコンプレックスだ。そりゃあ人間だからコンプレックスだと思うところはいくつかあるが、その中でも上位にくる。実は、この気持ちは幼稚園の頃からあった。同じ組の子の爪をまじまじと見ては「〇〇ちゃんの爪は綺麗で、指も長くて大人っぽいな。いいな。」と心の中で羨ましく思っていた。私の爪は薄めで短め、どこかにぶつけるとすぐに折れたり、割れたりしてしまう。水やお湯にも弱く、頭を洗うのも爪が割れないよう気を使うのでひと苦労だ。なので、丈夫そうで縦長の美しい爪を見ると、これぞ健康美だよなと惚れ惚れする。改善するため、色々試してきた。ネイルオイルや補強するマニキュア、美しさは内側からだと思い、ミネラルが豊富な海藻を食べたり、サプリメントを飲んでみたりした。これらは現在も細々と続けているが、私の爪が丈夫になっている実感は、未だ得られていない。自分で行うケアに限界を感じた私は、もうプロに任せようとネイルサロンを探し始めた。そんななか、たまたま一緒にご飯を食べていた先輩に、おすすめのお店があると教えてもらった。ちょうど通っていた大学の卒業式も近かったため、奮発して行ってみることにした。ネイルサロンに行く日が来るなんて、大人になったなあ。としみじみ思った。
初ネイル当日。完全予約制に加え紹介限定のそのお店は、レトロなマンションの一室にあった。インターホンを鳴らし中へ入ると、かわいくもシンプルで、どこか自分の部屋にいるかのような雰囲気。緊張でガチガチだった私も、少し落ち着くことができた。「こんにちは」と笑顔で迎えてくれたネイリストのHさん。私が部屋に入ってキョロキョロしていると、「来てくださってありがとうございます。何か飲みますか?」と言って、きっとご自分で作成したであろうメニューの紙を渡してくれた。アイスティーやゆずティー、ラテなど、ここはカフェですか?と疑うほどのバリエーションが書いてある。「ネイルサロンって飲み物も出てくるの!?」と、おもてなしに感動が止まらない。アイスティーをいただきながら、さっそくネイルのケアが始まった。人生で初めてみる器具たちが、テーブルの上にずらりと並んでいる。まるで歯医者で使いそうな先の尖ったものや、細長いスプーンのようなもの、たくさんのコットン。多分これで爪に塗るんだろうな、という色んな形の筆。どれも興味深くて「これは何用なんですか?」「甘皮ってどの部分ですか?」「へ~、青ってこんなに色があるんだ」とまさに初めて感丸出しの質問を、作業中のHさんに投げかけていた。Hさんは少しも嫌な顔をせず、丁寧に1つ1つ見せながら教えてくれた。
不思議だった。私のカサカサに乾燥しきった爪が、ツルツルに元気になっていく。甘皮や表面のケアが終わっただけでも、随分と見違えた。私の爪にこんなポテンシャルがあったなんて……とニヤついていると、「どんなデザインにしますか?」と聞かれた。そうだ。デザインまでしてくれるんだ。卒業式には、朱色の着物に緑の袴を着る予定だった。でも初めてのジェルネイル。二週間ほど外せないことも考えると、日常生活でも浮かないナチュラルなのがいい。と考えていた。その旨を伝えると「わかりました。ではベースはこの透明感のあるピンクで、式の雰囲気を出すためにドライフラワーを少し…お祝いなので、金箔も気持ちのせたら特別感がでますよ」。どうなるのかのイメージを、実際に色を当てながら見せてくれた…うわー!可愛い!これです!控えめながら品があって、まさに私のオーダーにピッタリ。天才!それからは自分の爪に花が咲いていく様子を、目に焼き付けた。長年コンプレックスであるはずの爪が、みるみる美しく飾られる様子は、私を限りなく幸せにした。自分がダメだって思っていたのって、勘違いだったのかもな。だって、こんなにキラキラでツヤツヤで…今、世界で一番輝いている爪なんだから!
スキップしながら帰った。周りの視線も気にせずに。家についてからも、しつこいくらいに爪を見ては、「かわいいね」と自分の爪に向かって呟いた。
今でも、ライブや大事な仕事のたびに、お世話になっている。毎回季節によって色を決めるのが楽しい。Hさんとも、世間話やお互いの近況を喋る仲になった。ネイルなんて剥がれたらおしまいだし、お金もかかるし……と思っていた自分が恨めしい。もっと早く行けば良かった。ジェルでしっかりと補強されて丈夫になり、かつ気分まで上がる。そして何より、自分の嫌いを好きに変えてくれる。ネイルでこんなにワクワクするなんて、私も女の子らしいとこあるじゃん、となぜか上から目線になりながらも、そんな自分も愛おしく思えた。
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