「大人のためのアニソンカバー」をコンセプトに森口博子が作るアニソンカバーアルバム『ANISON COVERS』シリーズ第二弾が完成。2023年にリリースした第一弾アルバムが好評だった中、前作に引き続き1980年代、90年代のアニソンを中心に名曲揃いの本作。H₂Oが歌うアニメ『みゆき』のED「想い出がいっぱい」カバーをリード曲に、『鎧伝サムライトルーパー』のED「BE FREE」のセルフカバーも含めた全10曲。豪華ゲストも交えた渾身の一枚について、森口が思いのたけを放つインタビュー。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――——近年、『GUNDAM SONG COVERS』シリーズをはじめ『ANISON COVERS』と様々なアニソンをカバーしている森口さんですが、これだけたくさんの年代の楽曲をカバーされていると、それぞれの年代によってのポップスや音楽の動向を感じられるのかとも思います。ガンダムでは近年のサウンドもカバーされていましたが、最近のポップスの流れのようなものについてアニソンを通してどのような印象がありますか?
森口博子 最近のアニソンは構成が複雑で、ボーダレスなものを感じます。リズムもテンポも歌詞も、畳みかけていくような感じがあって。わたしの青春時代の、昭和の楽曲だったら、Aメロ、Bメロ、サビが来て、みたいな構成だったのが、今では繰り返しのパートもない曲だってありますし。最初から最後まで物語が続いていくような構成もあって、覚えることも至難の業!高度な楽曲が増えたなと思っています。BS11の「Anison Days」でも毎週1曲お届けするのですが、最近の曲になるとなかなか覚えられないです(笑)。
――たとえばどんな曲がありましたか?
森口 アニメ『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』の「不可思議のカルテ」は歌うのが大変でした。まさに不可思議な曲。複雑で浮遊していてフワフワした雲の階段を歩くような曲。細かく転調しているので、頭が1つの音階に縛られると、歌いにくくなるかなと感じました。それからアニメ『【推しの子】』の「サインはB」はとにかく早口で歌わなければならなくて、大変でした。一度身体に染み付いちゃえば大丈夫ですが、ちょっと油断するとリズムが甘くなってしまうので、そこを意識して歌いました。作詞・作曲を手掛けたオーイシマサヨシさんと番組でカバーさせていただいたときに、達成感があってイイ気分でした♡
――今回の『ANISON COVERS 2』は1980年代~1990年代の楽曲を中心に選曲されていますが、そうした時代の楽曲が「シティポップ」として若い世代にも人気となっています。今回のリード曲「想い出がいっぱい」もやはりシティポップを好む人たちからも人気が高い1曲ですね。
森口 今も変わらずポップスのなかでもノスタルジックなスタンダードナンバーだなと思います。当時聴いていた人たちは“いつか振り向く日があるのさ”という歌詞に「いつか今日のこの日を振り返る日が来るんだろうな」と淡い気持ちで思っていただろうし、大人になって今聴くことで、本当に振り向く日が来たことに気づくようなところもあると思うんです。シンデレラとしても聴けて、シンデレラを俯瞰でも見ている、時間差でグイグイくる曲だな、と感じました。
――その『ANISON COVERS 2』はシリーズ第2弾アルバムですが、第1弾の反響はいかがでしたか?
森口 『GUNDAM SONG COVERS』の1、2、3が終わってからもみんなが「この曲を歌ってください」といろんな曲を挙げてくださっていたので、『ANISON COVERS』を作ったときには「やったー!これでまた森口博子のアニソンカバーが聴ける」という喜びの声をたくさん頂戴しました。『GUNDAM SONG COVERS 3』を最終章と謳っていたこともあって、しょんぼりしていたリスナーの皆さんが元気になってくださいましたし、待っていてくださった、という手応えを感じました。だいたいアルバムは10曲ほどの収録になりますが、「あれを歌ってほしい」「これも歌ってほしい」とリクエストを募っていたわけではないのにSNSにそれぞれの想いが溢れていて、みんなのなかで企画が回り始めていたのを見て、すごく楽しかったです。
――そんな今回の『ANISON COVERS 2』の収録曲を決める際には前作できなかったものを中心に、というところですか?
森口 そうですね。前作に収録できなかった曲+「Anison Days」で歌わせてもらったときに「この曲はいい曲だな」とわたし自身が震えた曲や泣けちゃった曲や再発見があった曲、またスタッフの方から「森口さんの声で聴いてみたいです」と言われた曲などから選ばせてもらいました。
――『ANISON COVERS 2』の選曲のポイントを教えてください。
森口 本当にわたしの「好き」を集めました。パワーの強い曲ばかりになったので、みんな、心して聴いて欲しい!アルバムだけど、全部がガッツリと生命力の強さを誇る曲ばかりです。ジーンときたり、気分が上がったり、それこそ“ベスト”の名前のままに、どれもが輝いています。
――一曲ずつ出会いのきっかけなどお話いただきたいのですが、まずは幕開けの一曲でありリード曲であるアニメ『みゆき』のED「想い出がいっぱい」カバーです。こちらはゲストミュージシャンとして鳥山雄二さんと神保彰さんをお迎えしての1曲ですが。
森口 中学時代に普通にヒットしていたので馴染んでいました。原曲を歌われているH₂Oさんはいろんな歌番組にも出演されていましたから、よく聴いていましたね。その頃はいろんなオーディションを受けては落ちまくっていた時期で、H₂Oさんが所属されていたアミューズさんの福岡オーディションに受かったんです。役者さんとしてのオーディションでしたが、主題歌が歌えるというものだったのですが、オーディション会場で歌ったら「君は役者より歌手の方が向いていると思うよ」と現在のアミューズの会長である大里洋吉さんに言っていただいたんです。「改めて今回とは別の、歌手のオーディションを受けに来てください」って。そのオーディションへと向かっているときに「これに受かったらH₂Oさんと同じ事務所に所属して、後輩になれるんだ!」って胸を躍らせていたんですね。結果としてそのオーディションには落ちてしまったのですが、大人になって改めて「Anison Days」でこの曲をカバーしたい、と向き合ったときに、あのときは夢破れた自分だけど、プロになった今この曲をカバーさせてもらえているという喜びと、当時は気づかなかった感動に出会えた曲で、おうちで自主練をしているときに号泣した曲です。
――特に号泣を誘ったのはどんなところですか?
森口 阿木燿子さんの歌詞で“時は無限のつながりで 終わりを思いもしないね”というところに震えました。これがリリースされたときは学生時代で、すべて永遠の延長線上にいるような、そんな時間軸で生きていたんですね。なんの疑いもなく、今が永遠に続くんだって。でも大人になると、そうではなくて、すべては有限のものであると感じて涙しました。“手に届く宇宙は 限りなく澄んで 君を包んでいた”というのが最大の推しポイントなのですが、子供の頃の無限の可能性を「手に届く宇宙」と表現する阿木燿子さんってなんて天才なんだろうって。だって子供の頃って可能性に手が届くんですよ。それも限りになく澄んでいて、それだけでも泣けちゃう。でも大人になると遠くなっている。そのことも教えてくれた曲です。今回コラボさせていただいた鳥山雄司さんのアレンジとギターがとても温かくて、神保さんの心地良いドラムと、最高にオシャレに仕上がりました。
――続いてアニメ『幽遊白書』のOP「微笑みの爆弾」はいかがでしたか?
森口 「Anison Days」でカバーさせていただいたときに、AメロBメロと淡々と繰り返していくけれど、すごく心に入ってくるなと思ったのです。改めて歌詞を見たときに“都会(まち)の人ごみ 肩がぶつかって ひとりぼっち 果てない草原 風がビュビュンと ひとりぼっち” “どっちだろう 泣きたくなる場所は 2つマルをつけて ちょっぴりオトナさ”って。普通に考えれば、果てない草原の方がひとりぼっち感がありますが、そういえばわたしも上京してきたときに大都会で寂しいって感じていたなと思い至ったんです。東京という都会に上京してくる人が多くて、ひとりぼっち達の街なんだって。そうか、あのときのわたしは「ちょっぴりオトナ」だったんだって思ったんです。あの頃の自分は頑張っていたなってこの曲をカバーしながら思った、そんな1曲です。そしてカバーしたときに、この歌詞にあるように、メチャメチャ厳しい人たちや優しい人たちと出会ったから今があるとも思わせてくれました。
――そして『おジャ魔女どれみ』のOP「おジャ魔女カーニバル!!」です。こちらはゲストアーティストにももいろクローバーZの百田夏菜子さんを迎えた1曲です。
森口 これはももクロちゃんたちが番組にゲストで来てくれてカバーして歌ったときに、なんて可愛い曲なんだろうって。純粋に世代じゃない大人なわたしが勇気づけられたんです。キラキラとパフォーマンスする彼女たちを通じて「よくできた曲だなぁ」と感心してしまいました。ももクロちゃんとは番組で何度もご一緒してきましたし、夏菜子ちゃんの衣装をお借りして、ももクロちゃんの曲をカバーなんてこともしてきたので、関係性もばっちり!「おジャ魔女どれみ」の映画『魔女見習いをさがして』で声優もやった夏菜子ちゃんと一緒に歌いたいなと思ってお願いしました。とにかく夏菜子ちゃんのキュートな歌声で聴いた人みんな、口角が上がって笑顔になれます!この曲はわたしにとっての挑戦曲でしたが、夏菜子ちゃんの若いエキスを吸い取りながらのレコーディングでした。
――続いて『AIR』のOP「鳥の詩」はいかがでしたか?
森口 「Anison Days」で出会ったときに、なんて美しくて幻想的で、わたしの好きな世界がいっぱい詰まっている曲だろう!と思ってカバーをさせていただきました。ディレクターさんからは「80年代、90年代中心だよ」と言われていたのですが、「この曲には夏のイメージもあるし、今回は夏のアルバムだから」とわがままを言わせていただいて収録しました。麻枝准さんのノスタルジックな歌詞と、折戸伸治さんの転調が続くメロディによって、何とも言えない幻想的な世界に浸れる、本当に美しい曲。アウトロの部分でオリジナルにはないフェイクとか、わたしなりのものが湧き出てきて、レコーディングの時にアドリブで入れてみたらたときにはドラマティックになっていったので、そこもみなさんに注目して聴いていただきたいです。
――そして『ちびまる子ちゃん』の「ゆめいっぱい」は鳥山雄二さんと柏木広樹さんを迎えての一曲となりました。
森口 作曲をされた織田哲郎さんが「Anison Days」のゲストに来てくださったときにご一緒に歌わせていただいたのですが、改めてほっこりとしながら元気が出るステキなメロディだなぁと。世代を超えて本当にいい曲ですね、と織田さんにお伝えしたら「僕の曲って長持ちするんだよ」ってお茶目に語ってくださったんです。まさに!と思いました。それもあってこの曲の歌詞とメロディをじっくり噛みしめて歌いたくなったんです。それでボサノバにしちゃおうと思って、優しいギターをお願いします、と鳥山さんにお願いしたところ、鳥山さんから「柏木さんのチェロも入れたらもっと素敵になると思うよ」とアイディアを頂戴して、今回のコラボレーションとなりました。まさに上質なサウンドで大人のボサノバで聴く「ゆめいっぱい」になったなと思っています。
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