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INTERVIEW

2024.08.07

【特集】「学園アイドルマスター」楽曲の制作秘話に迫る!「学マス」アシスタントプロデューサー佐藤大地×ASOBINOTESレーベルディレクター・加藤瑠伊が語る音楽面での挑戦と熱量

【特集】「学園アイドルマスター」楽曲の制作秘話に迫る!「学マス」アシスタントプロデューサー佐藤大地×ASOBINOTESレーベルディレクター・加藤瑠伊が語る音楽面での挑戦と熱量

「アイドルマスター」シリーズの完全新作として、今年5月16日にアプリゲームの配信がスタートした「学園アイドルマスター」(以下、「学マス」)。アイドルの育成を目的とする学校 “初星学園”を舞台にした本作は、来年20周年を迎える「アイマス」シリーズが積み重ねてきたものを踏襲しつつ、今の時代に寄り添った新しいアイドル像を描く作品として、サービスの開始以来、大きな反響を集めている。

リスアニ!では、そんな「学マス」の音楽面にフォーカスを当てた特集記事を展開!今回は、本作のアシスタントプロデューサーを務める佐藤大地と、「学マス」の楽曲プロデュースを担当する音楽レーベル「ASOBINOTES」のレーベルディレクター・加藤瑠伊に、様々な挑戦が詰まった本作の音楽制作について話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 杉山 仁

「今の時代に、このアイドルたちをどうやって輝かせるか」

――まずはお二人の「学園アイドルマスター」(以下、「学マス」)での役割について教えてください。

佐藤大地 僕は作品のアシスタントプロデューサーとして作品全体を見ていますが、中でも音楽面を中心に担当しています。音楽プロデューサーの佐藤貴文さんと一緒に、楽曲のコンセプト作りから深く関わらせていただいています。また、「学マス」ではアイドルごとに制作担当を分けていまして、自分は月村手毬、倉本千奈、篠澤 広、姫崎莉波、秦谷美鈴の担当をしています。

加藤瑠伊 僕はASOBINOTESのレーベルディレクターとして、主に楽曲周りの制作や進行を担当しています。楽曲やCD商品の制作はもちろん、ライブやグッズなど、主に「学マス」に関わるゲーム外の領域をASOBINOTESでは担当しております。

――「学マス」は、これまでの「アイドルマスター」シリーズとは違って学園が舞台となり、アイドルもプロデューサー(プレイヤーの総称)もアイドル科/プロデュース科所属の学生です。開発時のゲーム全体のテーマやコンセプトはどんなものだったのでしょう?

佐藤 ゲームに関しては“成長”が一番のテーマで、その成長をどんなふうに新しい形で描いていけるかを考えました。そのなかで出てきたのが、例えばライブ演出で、アイドルたちの歌が次第に上手くなっていくような表現でした。

――プレイを重ねていくうちに歌の上手さやパフォーマンスの完成度が変化するシステムを通して、アイドルたちの成長がしっかり伝わってきます。

佐藤 最初はもっと細かく成長を描く予定だったのですが、差分が細かすぎるとレベルが上がったときの違いがわかりづらくなってしまいます。そこで開発のQualiArtsさんからの提案で、差分はむしろ減らして、ライブ自体の尺や場所などを変えることでわかりやすい成長表現を目指しました。

――アイドルによって歌やダンスの得意・不得手がありますが、そうしたメンバーごとの違いについても、かなり丁寧に描かれていますね。

佐藤 その辺りの表現に関しては、キャストの皆さんが本当に頑張ってくださいました。例えば、手毬の場合は、中等部時代はナンバーワンの実力を持っていたといわれるアイドルなので、ゲーム開始当初の状態でも「本当は上手いんだけど……」というニュアンスを小鹿(なお)さんに表現していただいています。こういったことが、アイドルごとに行なわれている形ですね。また、「学マス」の楽曲は、これまでの“アイマスらしさ”はあまり意識していません。……というより、「時代ごとに全力でアイドルと向き合った曲を作る」ことがある種の“アイマスらしさ”だとも思っているので、僕らもそれを続けているつもりです。「今の時代に、このアイドルたちをどうやって輝かせるか」のみに集中して、制作を行っています。

加藤 僕はプロジェクトに途中から参加したのですが、その時点でも「成長を楽しむ」ことがこのゲームの楽しみであるという部分に斬新さを感じました。これはつまり、キャストさんとも一緒に成長していけるということですし、ゲームだけでなくライブや様々な場面でもその成長を一緒に見ていけるのかな、と思いました。そのうえで9人のアイドルたちの個性を楽曲でもしっかりと出すことは大切にしていて、「この子は迫力のあるダンスミュージックが似合うだろう」など、それぞれの個性に合わせていい曲を作ることを意識しています。「このキャラを推したい!」と思っていただけるようなアイドルが最初から9人いることで、音楽面での幅の広さが生まれていったと思います。

――では、具体的な楽曲の制作過程について聞かせてください。まずは全体曲の中から「初」と「Campus mode!!」について教えていただけますか?

佐藤 「初」は制作のかなり初期の段階で作り始めた曲で、作詞・作曲の原口沙輔さんは当時まだ高校生だったと思います。もちろん、当時からご活躍はされていましたが、新進気鋭の方に新タイトルの全体曲をお願いするのはシナジーを感じましたし、とても攻めたサウンド作りをされる方でもあるので、ポップさと攻めた音の両方を上手くひとつにしていただきたいと思っていました。

――原口さんと言えば「人マニア」のような奇抜なプロダクションの楽曲が得意なイメージもあると思うので、要所にひねりが加えられつつも王道ポップな雰囲気の「初」の音楽性には驚いた方も多かったんじゃないかと思います。

佐藤 僕らが楽曲を発注したのは「人マニア」などがまだ出ていない頃で、むしろそれ以前の楽曲を聴いてお声がけしていたんです。また、楽曲制作をお願いする際に、今までの「アイマス」楽曲のイメージに寄せなくていいですとお話ししました。指名で楽曲制作をお願いする場合は、そのアーティストの方の魅力と楽曲を歌うアイドルの魅力の掛け算になってほしいという理想が明確にあるので、“アイマスらしさ”にとらわれるとコンセプトがブレてしまうと考えているからです。

――「初」はタイトル通り、アイドルたちの“はじまりの曲”ですね。

佐藤 そうですね。原口さんには、その時点で出来上がっていた「初星コミュ」(育成シナリオとは別に「学マス」の世界観などを伝えるコンテンツ)のシナリオを資料としてお渡しして、そこから作品のイメージを掴み取っていただきました。それと今回は負けん気の強いアイドルが多くて、お互いぶつがりがちなところがありますので(笑)、“自信”“未完成の魅力”“成長”などのキーワードを提示した記憶があります。また、これは「Campus mode!!」にも言えることですが、アイドルたちが特にこだわって歌うであろう歌詞があって、「初」で言えば“私らしい姿を目指したあの頃から 変わらない夢を掴み取るの!”という部分はそのひとつでした。小美野さん(小美野日出文/「学園アイドルマスター」のプロデューサー)がこのフレーズを入れるために、ゲームサイズの楽曲の構成を変更するくらい大事にした部分です。中等部のトップだったところから落ちてしまった月村手毬や、当初は妹アイドルとして売っていたけれど上手くいかなかった姫崎莉波など、「学マス」に登場するアイドルたちは様々なバックボーンを持っていて、それぞれに自分だけの“私らしい姿”があります。ですから、各アイドルがどんな感情でこのフレーズを歌っているかに注目していただくと、より想像が膨らむと思います。

――ゲーム内の印象的な場面で流れる、いわばエンディングテーマのような扱いの「Campus mode!!」はいかがでしょう?

佐藤 この曲は各アイドルの育成において、ある条件を達成した節目に「エンドロールを入れたい」というアイデアから生まれた曲でした。そのシーンはある種の節目でありつつ、同時に彼女たちの物語のはじまりでもあるので、小美野さんから「オープニング曲のような楽曲にしたい」というアイデアが出てきたことから、イメージがどんぴしゃだった田淵智也さんに依頼させていただきました。歌詞には“ありがとう”という言葉がたくさん使われていますが、その中でもひとつ、「ここは特にプロデューサーに向けたものにしたい」と考えた箇所があります。

――ラスサビの“何度も何度も何度もありがとう!”の部分でしょうか? このパートは、楽曲が流れるシーンに辿り着くまでに、何度もゲームをプレイすることで生まれたプロデューサーとアイドルたちとの思い出が浮かんでくるような歌詞だと思いました。

佐藤 その通りです。この部分は、実際にボーカル収録のときにキャストさんにも制作チームの思いを伝えさせていただきました。アイドルとともに歩んできた思い出が最後に昇華されるような、そんなパートになったと思います。

加藤 この曲は、配信タイミングにもひとつエピソードがあります。「学マス」では、ゲームのサービスを開始した5月16日に「初」と9人のソロ曲のサブスク/DL解禁を行ったのですが、実は「Campus mode!!」もそのタイミングで配信する案もあったんです。ですが、この曲は皆さんがアイドルのプロデュースを重ねたうえでこそ聴く価値のある曲だと思ったので、配信開始を6月10日にずらしました。とはいえ、5月1日の生配信(「学園アイドルマスター」大公開!音楽ニュース!)でCDの収録曲として曲名だけ先にお披露目したので、「どんな曲なんだろう?」と皆さんに想像していただく時間も作れたと思います。

――なるほど、サブスクに出す判断ではなく、出さない判断をすることで、ゲーム体験がより印象的なものになると判断したのですね。

加藤 親密度10に達成したものしか聴けない「隠し曲」があることで、ゲーム体験としてもプロデュース体験としても価値が生まれたと思います。

次ページ:プロデューサー視点を大切にした、アイドルたちのソロ曲制作秘話

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