INTERVIEW
2024.08.07
――アイドルたちのソロ曲についても聞かせてください。花海咲季の楽曲「Fighting My Way」はGigaさん節全開のクールなサウンドが印象的です。
佐藤 1曲目のソロ曲に関しては、基本的に各アイドルのプロデュースを行った最後に聴ける曲なので、その過程を踏まえたうえで楽しめる曲にしたい、という意図がありました。彼女たちがアイドルとして成長していく姿を見て、作中のプロデューサーは最初のソロ曲としてどんな曲を渡すか。咲季の場合、彼女は「アイマス」シリーズの赤担当アイドルでは珍しく、「足手まといはいらない」なんてセリフを言うタイプの強気な子で、元々は主人公として考えていた妹の花海佑芽のライバルとして生まれた経緯もあり、勝負好きで快活なところが魅力です。それを楽曲で表現するために「挑戦や自信をテーマにした真っ赤で尖った曲にしよう」ということで、Gigaさんに楽曲をお願いしました。
――その結果、EDMやトラップ、R&Bがブレンドされたエッジの効いた楽曲が生まれたのですね。
佐藤 正直なところ、想定以上に強い楽曲が上がってきたのですが、「かっこいいからこれでいこう!」と判断をしたのを覚えています(笑)。それくらい、Gigaさんの楽曲のパワーが強く、作詞のHIROMIさんにもかっこいい歌詞を上げていただきました。
加藤 咲季というラスボスのようなアイドルに、キャストの長月あおいさんも色んな重圧を感じながら歌っていると思うのですが、キャストさんも一緒に成長しているという面でも、これからの楽曲やライブでのパフォーマンスがとても楽しみです。
――実際、この曲は非常に難しい楽曲のひとつですね。ラップパートでトラップ特有のフロウの細かいニュアンス付けまで意識されていることも伝わってきます。
佐藤 収録の際にはGigaさんにも来ていただいて、歌い方の指導をしていただきました。長月さんもレッスンのたびにかなり自主練を重ねてきてくださったことが伝わってきましたし、ご本人の努力のおかげでとてもいい曲になったと思います。
――続いて月村手毬の最初のソロ曲「Luna say maybe」についてはいかがでしょう? シンガーソングライターの美波さんが楽曲を提供しています。
佐藤 手毬に関しては“自分の本心を上手く話せない子”という部分をポイントに置いて、手毬のプロデューサーなら、歌うことで自分の本心を吐露できるような楽曲を用意すると考えました。そこで美波さんらしい、等身大な不安や臆病さが表現できる楽曲を作っていただきました。
――途中で感情が爆発するような歌の表現が印象的ですね。
佐藤 普段の美波さんの楽曲にもそういう瞬間があると思うのですが、それを声優さんが“演じる”ことで、新しい化学反応が起きたと思います。
――手毬の楽曲がギターサウンド中心のものになっているのは、感情を吐露するという部分とのリンクを感じます。
佐藤 等身大の言葉を伝えるということにおいて、バンドサウンドはぴったりでした。また、手毬は歌が魅力のアイドルなので、その武器を活かして太く戦えるジャンルを考えていった記憶がありますね。
――藤田ことねの「世界一可愛い私」はHoneyWorksが制作。
佐藤 彼女は裏表があるタイプのキャラクターではあるものの、それをそのまま曲にして渡すのではなく、ことねがやりたいアイドル像をちゃんと作ってあげるのが作中のプロデューサーの仕事だと思うので、「アイドルの王道を走る、一番アイドルらしい曲にしよう」と考えました。実際、彼女は今作のかわいいアイドル要素を全部背負ってくれている気がしています(笑)。
――それならば、楽曲はHoneyWorksしかないだろう、と。
佐藤 「現代のアイドルソングって何だろう?」と考えたとき、自然に行き着きました。曲のコンセプトでいくと、ことねは自分の容姿には自信があるものの、アイドルとしての自己評価は低い子なので、その子に対してお客さんに「かわいい」とコールしてもらう曲を渡すのは、ある意味プロデューサーの愛なんじゃないか、と考えました。また、この曲はゲーム内での歌やパフォーマンスの上達のレベル分けも頑張った部分かもしれません。最初はバイトをしすぎていてヘロヘロになっているところを表現してもらいつつ、2段階目ではできているんだけれどもまだぶりっ子の仮面が強すぎるという雰囲気になっていて。最終的には、ぶりっ子の部分がいい感じに取れて、ことねが本心で楽しんでいるような姿に変わります。その流れがとても美しいレベル分けになっているように思います。
加藤 ライブでコール&レスポンスがしやすい楽曲で、振付も非常にアイドルらしいものになっているので、8月のライブ(8月10日からスタートするライブツアー“学園アイドルマスター DEBUT LIVE 初 TOUR -初声公演-”)はきっといいものになると思います。
――有村麻央の「Fluorite」はいかがですか?
佐藤 麻央は“かっこいい”と“かわいい”の融合をどうやって表現するかをかなり考えました。例えば、楽曲の中で“かっこいい”と“かわいい”を分けて表現することもできますが、シナリオのことを考えると、そういう融合の仕方はしたくない。「それは本当の融合と言っていいのか?」と。そこで、“かっこいい”と“かわいい”をどっちもやれるジャンルを考えたときに、ビートの重さとフューチャーベース系のキラキラした音が特徴的なMoe Shopさんに楽曲をお願いしました。作詞はやぎぬまかなさんですが、「自分らしくいていいんだよ」というメッセージをとてもきれいな言葉で入れていただいて、麻央のアイドルとしての軸がより強固になったなと思っています。自分らしさを認めたうえで、“かっこいい”も“かわいい”もできるということを、透き通った歌詞で表現していただきました。
――葛城リーリヤの「白線」はどんなイメージで作られたのでしょうか。
佐藤 リーリヤの1曲目のソロ曲に関しては、最初はもっとしっとりめの楽曲を想定していたのですが、小美野さんから「アイドルになる覚悟を持って海外からやって来た意思の強さが魅力だからこそ、1曲目からゆったりとした曲は違うんじゃないか」と意見をもらって。そこで、彼女のがむしゃらさが光るような、楽曲に食らいついていく姿が魅力的になるような曲として、ナユタン星人さんに仕上げていただきました。
加藤 これは個人的に気になっていたことなのですが、リーリヤは「白線」でこんなに透き通った歌を歌うのに、ライブ衣装が真っ黒なのはなにか理由があるんですか?
佐藤 衣装に関しては、全体曲の「初」で着ている白い衣装は“プロデュースする前のアイドルたちの姿”、1曲目のソロ曲の衣装は“親愛度コミュを経て成長したあとのアイドルたちの姿”がコンセプトになっていて。そういう意味でリーリヤは、「何色にも染まれる白から、何にも染まらない黒」に変わっているんです。これも小美野さんのこだわりですね。
――倉本千奈の楽曲「Wonder Scale」についても教えてください。
佐藤 千奈は本人の能力自体は低いけれども天真爛漫さが魅力なアイドルなので、そこを最大限魅力として出しつつ、足りない部分を後ろの楽器の演奏の壮大さでカバーしてもらえるような雰囲気の楽曲に仕上げていただきました。
――ここでも「こんな曲ならこのアイドルが魅力的に輝いてくれるだろう」という、作中のプロデューサーからの愛情がそのまま楽曲になっているんですね。
佐藤 そうですね。管弦楽やミュージカルっぽい要素を入れていただいて、そのなかで本人は自由にやっている、という雰囲気の楽曲にしていただきました。発注の際は、「千奈が楽器隊を指揮しているような曲にしたい」とお伝えしたんですが、すごく壮大だけれども、それをちゃんと千奈が先導しているといいますか、千奈が動き出してから楽器隊がついていくような構成になっています。
加藤 歌詞の面でも大森祥子さんが千奈のピュアで純真な魅力を曲に落とし込んでくださったので、MVも絵本チックなイメージで制作しました。
佐藤 一方、紫雲清夏の「Tame-Lie-One-Step」は何回か方向性が変わった楽曲でした。最初はもっとトラップっぽい、かっこいい路線という話があって、そこから今よりちょっと遅い四つ打ちのJ-POPっぽい方向性の楽曲にしようとなった時期もありました。要するに、トラウマを抱えたアイドルである清夏を「どこまで踊らせるのか」が議論の争点だったんです。トラウマというのは、一発で克服できるような軽いものではない。そこで、最初から完璧に踊り切るような楽曲にはしたくない、と小美野さんと話していました。。
――なるほど。
佐藤 その結果、最終的な着地点として、「みんなで踊ろうよ」という方向性の楽曲になっていきました。かつてバレエ選手として個人で踊っていた清夏が、アイドルになったことで、お客さんとみんなで踊ってひとつのステージを作る。その最初の一歩を踏ませてあげる楽曲、というイメージです。
――この楽曲は歌詞でも歌われている通りビートが2ステップ/UKガラージになっていて、歌詞の“One-Step”というフレーズに合わせて1歩、2歩と前に踏み出していく姿が表現されているところも印象的でした。
佐藤 これは楽曲を作ってくださった東(優太)さんの歌詞が素晴らしくて。なかでも“大事なのは 浮いた踵 隙間 埋めていくことでしょ?”のところは、まさに清夏らしい歌詞に仕上げていただいています。この部分は小美野さんも「これこそが清夏なんだ!」と絶賛していました。非常に解像度の高い歌詞を書いていただきました。
加藤 サウンドとしても、90年代の終わりから2000年代の初めごろのクラブミュージックやポップミュージックの空気が伝わるようなものになっていて。それを現代のギャルが歌っているという意味では、全国のおじさまたちにも喜んでいただける楽曲でもあるのかな、と思います(笑)。
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