7月15日、立川ステージガーデンにて<伊藤美来 Live Tour 2024“from now on”>の東京公演が開催。伊藤美来最多となる4会場をめぐる全国ツアーのファイナルとなったこの公演は、豊かさを増した声の表現や新たに取り組んだステージ演出などを通じて、タイトルに冠した「これから」への期待膨らむ充実のステージとなった。
TEXT BY 須永兼次
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな
開演時間を迎えると、ステージ奥のLEDスクリーンにレコーディングマイクが映され、モノローグと共に“声”とツアータイトルにフォーカスしたOP映像が展開。最後に最新シングル「Now On Air」の歌詞を引用してツアーロゴが映し出されると、伊藤がステージに登場。その「Now On Air」からライブをスタートさせる。冒頭のフレーズから歌声は美しく涼やかでありながらも中音域にはぐっと力を込め、“声”の力でこの曲に意志を乗せて表現していく。Dメロからはそこに腕を使った振付も加えてその意志の力を増幅させ、ツアーのコアとなる要素を発信したところで、今度は「Plunderer」で場内を盛り上げにかかる。自らも腕を振り上げて観客のコールを煽ったり歌唱しながら左右を向いて視線を交わしたりと、ファンとのコミュニケーションを通じて一気に場内のボルテージを高めていくと、続けたのは「all yours」。先ほどまでの凛とした表情からうって変わって、「みんなー!会いたかったよー!」との言葉どおりのウキウキな心情にじむ笑顔を振りまいていく。サビや間奏ではクラップも交えながら、ファンと一緒にロケットスタートを決めてみせた。
そしてあっという間のツアーファイナルを惜しみつつも、「私の声や想いやメッセージをたくさん伝えていこうと思います!」とのメッセージに続き、最新シングルのカップリング曲「らびちゅ」からライブ再開。サビの最後“好きって”のフレーズに合わせて寄ったカメラにバッチリアピールも決めるなどのパフォーマンスを通じて、ピンクの輝きに染まった客席へとラブを届けていく。またイントロ中に登場したダンサーとも、サビ後半の「らびらびらびしたい」部分でのツイストしながらの移動など、息を揃えたダンスで魅せていった。歌唱後にステージのセンターへと移ると、今度は1人ライトを浴びて「ワタシイロ」の歌唱をスタート。この日もそれぞれの“ワタシイロ”を灯すファンも点在するなか、伊藤の歌声はその自分らしさを肯定しながら、優しく背中を押してくれる。クライマックスに歌われることの多かったこの曲のこの位置は少々意外に思えたかもしれないが、続く「トロイメライ・ミライ」と共にツアータイトルに紐づく“これからの自分探し”へと出発する流れを作るという、非常に大事な役割を担っていたように思う。その「トロイメライ・ミライ」では、イントロのクラップなどで高まりをもたらしつつ、美しさを感じさせるしなやかな身振りとキュートさとを両立させて視覚面からも魅力を発揮していった。
2つ目のMCでは、今回のツアーについて「“私の未来”を考えるいい機会になった」と述懐。自身のワンマンライブに初導入したLEDスクリーンについても、その理由を「ここから、これから」というツアータイトルにちなんで「アーティスト活動においても未来を想像してもらえるような新しい演出をしたかった」と明かす。そして「皆さんにも、自分自身と向き合うきっかけになる声を・歌を届けられたら」と改めて意気込みを語り「傘の中でキスして」の披露へ。この曲では、そのLEDスクリーンを用いた表現が非常に重要なものに。美しい雨粒の映像に始まり、続いて傘を用いてダンスするシルエットが登場し、1番では男性、2番では女性のシルエットがステージをお洒落に彩る。2サビ後にはその2人が、ステージ上の2枚の可動式LEDにそれぞれ移り、伊藤がセンターを取って3人でのダンスを披露すれば、落ちサビではその2人が一緒にメインスクリーンに戻って「傘の中でキス」。最後には「シルエットからなる無声映画を、生歌・生パフォーマンスで彩る」かのように視点が転換する、1つのショーのような形で魅了してくれた。
そうして表現面での“これから”への期待を持たせた曲に続いたのは、再びツアーのテーマに沿うように自身の未来をのぞく曲「あお信号」。温かく柔らかな表情でゆっくりと会場を見回しながら、未来へ向けての道を微笑みながら歩き出す姿を想起させるかのようにして披露すると、「あの日の夢」ではその出発したあとに直面する葛藤や、それに向き合う姿を表現。きれいさの中に切なさやほのかな哀しみも滲ませ、さらにそこに湧き上がる想いも滲ませた、技術とこの瞬間だけのものが入り混じった素晴らしい歌声を響かせていく。こうして改めてツアーのコンセプトを強く意識させたところで、ライブは折り返し。伊藤の降壇と共に、幕間映像が流れ始める。
再び“声”にまつわるモノローグの幕間映像は、かすかにモールス信号の音が流れるなか、音の波形がやがて満天の星のように展開して星座を形成。そこに衣装チェンジを終えた伊藤が再登場すると、“モールス信号”と“星座”から連想されるナンバー「点と線」からライブ後半をスタート。ぴんと張り詰めた空気のなか、ときおりウィスパーも交えながら、サビではハイトーンな部分もとにかく涼やかかつ美しく歌い上げていく。それが星空を思わせる映像と組み合わさることで、最後にはその声の広がりをもって壮大ささえ感じさせてくれた。続くラテン調の「ガーベラ」ではサビ部分を中心に歌声を巧みに押し引きすることで、楽曲の持つ熱情を増幅。大サビでは一段前に歌声を打ち出すのと同時に、身体を振り乱したりもしながらその熱を伝える。さらに「ルージュバック」では、楽曲の持つグルーヴ感を生かしながら、ファルセットも交えてこの曲らしく大人に表現。直前よりも表情はやや柔らかくなりながらも、ほのかな切なさも漂わせて見事に表現しきってみせた。
歌唱後には2着目の衣装などについてのトークを経て、自ら作詞・作曲を手がけた「パスタ」を披露。「自分につい“頑張れ”と言ってしまうタイプだけど、そんな自分に疑問が湧いた」ことを端緒に生まれた「簡単なことを選ぶ勇気」を描いたこの曲は、ときおりステージのへりに座ったりしながらの歌唱。リラックスしてコロコロ表情を変えながら、カメラ越しに語りかけるように、ゆるっとしたポジティブさを届けていく。そうして寄り添ったあとには、サンバ調のポップなナンバー「空色ミサンガ」を通じて、軽快なサウンドとともに心を明るく軽くしてくれる。間奏ではここから合流したダンサーと共にサンバ風のダンスを披露すると、「一緒にー!」とマイクを向けた先の観客に「ラララ」の大合唱を湧き起こす。落ちサビでもその観客のクラップが、彼女の歌声と共に楽曲を作り上げていき会場の一体感を増せば、続く「閃きハートビート」からライブはますますヒートアップ。ポップで煌めくような楽曲に乗せて、キュートさを軸にDメロでは歌詞に沿ったファニーさも散りばめ表情豊かに歌唱表現。ダンスも頭サビ明けから見せ場満載で、サビでは拍ごとにピタリと止めてメリハリ利かせて見事に魅せていく。魅せるという意味では、続く「Oh my heart」でのLEDスクリーンを生かした演出も忘れてはならないもの。この曲ではライブ配信風の画面に映し出されるなか、スタイリッシュさを歌声・ダンスの両面に思いきり乗せてパフォーマンス。2サビ明け間奏のダンスパートには大人感も乗せ、直後には歌声にもそれをプラス。披露中、画面の中で増え続けた“いいね”の凄まじい勢いは、会場を盛り上げながらツアーのコンセプトも体現してみせたこの曲に対する観客の心とリンクしていたことだろう。そこにキラーチューンの1つ「Shocking Blue」が、さらなる盛り上がりをもたらす。サビ前の指差し振付のシャープさや少し粗めに出す歌声がこの曲ならではのカッコよさを引き出すと、間奏では「ファイナルいくぞー!」とオーディエンスを煽り、場内をよりいっそうアツくしていった。
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