声優・内田真礼がアーティスト活動を始めて今年で10年。そんなアニバーサリーを祝した充実のアルバム『TOKYO-BYAKUYA』が4月にリリースされたあと、早くもニューシングル「パラレルなハート」が届けられた。TVアニメ『恋は双子で割り切れない』のOPテーマとなった本作は、キャッチーなサウンドに内田のキュートな歌声が聴かれる、甘酸っぱい恋愛を描いた1曲になった。“開放と追求”という新たなテーマを掲げ、10周年イヤーのなかですでに次を見据えている内田の現在を切り取った本作について、そして以降に控える弟・内田雄馬とのコラボや自身のワンマンツアーについてなど、“今の内田真礼”をたっぷりと語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――ニューシングルのお話の前に、先日6月28日にリスアニ!よりアーティスト10周年を記念した「リスアニ!Vol.56 内田真礼音楽大全」が発売となりました。誌面はご覧になられましたか?
内田真礼 はい、読みました。私のインタビューだけじゃなく、バンドのみんなの座談会も読みましたが、とても素敵な内容で。私だけじゃなくて、ずっと私を応援してくれている皆さんが読んでも「いいチームだな」と思ってくれるんじゃないかな?という内容ですごく嬉しかったですね。普段、周りから自分の話を聞く機会はあまりなくて。未来の話はしても、過去を振り返ることって意外となかったので。
――なるほど。
内田 ライブの打ち上げなどでバンドのみんなと話しているときは、「じゃあ次何やる?」みたいな話が多くて。だから改めて「そんなこと思っていたんだ」ということが知れて面白かったです。
――またご自身のロングインタビューでは10年のキャリアを自ら振り返る内容でしたが、改めて振り返ってみた感想はいかがでしたか?
内田 強く思い出せることと思い出せないことがそれぞれあるなと思いました。こうやって振り返ってみると、「忘れて突き進もう」という瞬間を人は覚えていて、「そんなことあったっけ?」みたいなことも多々あったなって。それはきっと私の性格上、楽しかったことにフォーカスしたほうがいいという進み方だからだと思うんですよね。そう思うと5年目くらいのときは前に進んでいるけど、自分の中で意固地な部分がすごく見えたりして、振り返ってみて面白かったです。「そんなところにこだわってたっけ……」みたいな。
――そうした10年を経ての今後について、インタビューの締めではいわゆる「開放と追求をしていきたい」とおっしゃっていました。
内田 開放感はありますね。仕事をするうえで大事なものや我慢してきたことが大きかったんですよね。今年はやっとそこから抜けて、ずっと我慢してきた2024年上半期を終えて、アルバムを発売して、企画していたものたちが世に出て皆さんの元に届いていくなかで、やっと言えること、やっとできることが増えたので。
――まさに“開放と追求”に向かう最中にリリースされたのがニューシングル「パラレルなハート」です。こちらはTVアニメ『恋は双子で割り切れない』のOPテーマとなります。amazutiの宮崎 諒さんによる非常にキャッチーかつファンキーな楽曲となりましたが、最初に楽曲を聴いた印象はいかがでしたか?
内田 冒頭の掴みというか、“パラレルなハート 交差していく”という、この音がすごく気持ち良くて。バーンと入ってくる感じにグッと心を掴まれました。この曲を作るうえでamazutiの敬也さんと宮崎さんが原作の小説をたくさん読んでくださったそうで、アニメの世界観が歌詞にすごく入っているんです。
――たしかにキャッチーなサウンドとキュートな歌詞がまず印象に残りますよね。
内田 しかも私が歌うということもあって、私が演じるヒロインの那織の要素を入れてくださっていて。特に2番以降の“甘いもの食べて出直します!”や“本で読んだ知識なんて なんの役にも立たないんだ”など、この歌詞からすごく彼女の様子が見えるというか。そういう歌詞をたくさん入れてくれていて、とても感情移入できました。
――そうしたアニメのモチーフが散りばめられた楽曲であり、また楽曲全体でも冒頭のシンガロングやBメロでの“大問題!”といったコール&レスポンスを想定させるようなパートが随所にあって。
内田 ライブで盛り上がりそうですよね。お客さんに歌ってもらえたら嬉しいです。
――そういったフィジカルの楽しさもありつつ、バンドサウンドはテクニカルでインテリジェンス、というところも作品の双子性を感じさせるといいますか。
内田 難しかったですね。特にサビでのノリが難しくて、なかなか上手くハマらなかったんです。何度か挑戦してみて、声の強弱も、高いところは抜けてしまうと力強さがなくなってしまって。バランスをとるのが難しかったです。
――ボーカルの表情のつけ方で面白いなと思ったのが、2番のインストに入る前の“不完全なハート”というところの語尾が少し不思議な感じがして。
内田 そうですね。なんかこう、もにょもにょもにょ…と動く感じで(笑)。
――あそこで聴かれる感情の機微が、まさに恋に割り切れない心情として出ているのかなと。
内田 どこか完璧じゃない、というのを感じますよね。恋をすると弱くなってしまって、なんだか上手くいかない。そういう「どうしたらいいの?」みたいな、かわいらしい感情が見えます。
――そこも作品との親和性が高く表現されているのかなと。
内田 そうですね。この作品のヒロイン2人って、強いような弱いような、どちらの面も持っているんです。その2人の魅力がとても出ていると思います。言葉では強く言っても内面は泣いていたり、何もできなそうに見えて意外と考えていたりというのが2人ともにある。どっちつかずで、どうなるかわからない恋模様がこの1曲に入っています。
――まさにそうですね。
内田 でも、双子と恋愛するのは危ないです。幸せになれないからやめて!と思います(笑)。
――多くの視聴者が主人公に対して思っていることですね(笑)。まさにこういったラブコメ特有の危うさもあって。そういったお話を聞くと、ますますこの曲はピッタリだなと。
内田 そうですね。上手くいかないというのを含めて、恋愛っぽいと思います。
――そんな「パラレルなハート」ですが、アートワークも双子感のある仕上がりで素敵ですね。
内田 ありがとうございます。今はスマホで音楽を聴くことが多いと思いますが、そのときに映るジャケット写真も小さいじゃないですか。だからスマホで見たときもきちんとハートに見えるようになっていて、とても素敵だと思いました。水色とピンクという配色も、双子の姉妹のテーマカラーになっているんです。
――なるほど。MVのほうでもそれぞれ性格の異なる内田さんが登場するような仕上がりになっています。撮影はいかがでしたか?
内田 とにかく大変でした(笑)。1日かけて同じシーンを何度も撮っていました。穴の空いた板のうしろで私が色々と動くシーンも、同じようなカットを着替えて2回撮りました。またカメラも寄り・引き・中くらいの距離で何カットも撮るので、途中で眠たくなってしまって。カートに乗るなどの動けないシーンも多くて、動かないようにしてると「…寝そう!」となりました(笑)。撮影中は、仕上がりがあまり想像できていませんでしたが、いつもお世話になっている監督の安井(塑宇)さんに任せておけば大丈夫だ!と思っていました。仕上がったものを観たらすごすぎて、「すごい!こんな映像になるんだ!」と感動しました。
――映像でもかわいらしい振りもついていましたし、こちらもライブが楽しみですね。
内田 そうですね。ライブでもやりたいと思っています。私のMVって意外と振りつきのものがないんです。ライブに向けて振り付けを作ることはありますが、MVの段階で出来ていることはほとんどないんですよ。おそらく「aventure bleu」以来なので、2018年から6年ぶりにMVでダンスをしましたね。
――なるほど。
内田 この曲を最初に聴いたときに、振りをつけてみたい気持ちが私の中であって。できればMVでも入れてほしいということで、振付していただきました。
――久々のダンスというものをやろうと思ったのはどうしてなんでしょう。
内田 10年目になって、私自身6年ぶりにダンスをするのは挑戦だったんです。でも今後を考えたときにダンスができるのはプラスなことですし、できないと言うばかりではなく、やるか!という前向きな気持ちもあり、今回挑戦してみました。
――それもまた“追求”の1つですよね。
内田 そうです。ダメだダメだと言っていても、意外と折れてないという感じです。今後も色々できると楽しいだろうな、と思っています。
――ではカップリングの「ジェミニ」についても。こちらは作詞作曲にΔさん、編曲に鈴木Daichi秀行さんという、音的には2000年代あたりのクラブミュージックを思わせるサウンドですね。
内田 Δさんの曲は大好きで、今回書いていただいてありがたかったですし、Daichiさんも世代なのでアレンジしていただいてとても嬉しかったです。レコーディングのときも「平成の歌姫の気持ちで歌って」とディレクションしていただいて。
――まさに2000年代の女性シンガーをイメージしていたんですね。
内田 「自分の中の歌姫って誰だろう?」と思いながら、自分だったらどう表現するかを意識してレコーディングしました。
――“平成の歌姫”というのがすごくしっくりきたんですが、ここでの内田さんのボーカルは、いきなり最初の歌い出しからして堂々とした、すごくかっこいい仕上がりですよね。
内田 ありがとうございます!
――歌詞の文字数としては少ないですが、その語尾の落とし方とかものすごくキマっているといいますか。そこは内田さんがご自身で考えられて?
内田 そうですね。この曲を歌い切れたらかっこいいなと思っていて、普段しない、選ばない表現を結構取り入れてみたんです。自分の中に内田真礼像があって、「内田さんってこういう歌い方するよね」というのはなんとなくあるのですが、「そこから外れてみよう」と考えていました。
――なるほど。
内田 “平成の歌姫”というキーワードもありましたが、自分も普段から使う場所がなかった表現を結構持っていたりして、それをやってみるというか。何度か録ってみて、1個ずつはめていく作業をしていきました。
――メロディも独特ですし、そのなかでビートへしっかりアプローチしたり逆にそこに囚われないような表現もあって、非常に自由なボーカルが聴けるなと。
内田 いつもは、歌詞の内容を重視して歌詞先行で歌うことが多いんです。でも今回はメロディ先行で歌っていることもあり、普段とは聴こえ方が違うかと思います。歌詞先行というのは、声優である以上あたりまえのような気がしていて。例えばキャラソンも、歌詞の内容をそのキャラが思っていることとして伝えるみたいな。なのでメロディに乗るというのは、普段の私はどっちかというと甘くて、歌詞がセリフに近くなればなるほどメロディには甘くなる気がするんですね。
――なるほど。
内田 なので今回はそれよりも、音のハマりの良さを重視してみました。そうすると今まで追求してきた私の歌と離れるんですよね。
――内田さんのこれまで追求してきた10年間にはない、新たな“追求”がここで見られたと。
内田 だからこそレコーディングは面白かったです。「なるほどな、これいいな」というのを試しながら。
――ただ逆説的にこれまでの蓄積もあってこの新しい世界が見えたというのもある。
内田 そうですね。ただ、曲の内容としては新世界など前に進むイメージの曲なのですが、この曲を歌う前の私はすごく悩んでいたんですよね。
――悩んでいた?
内田 悩んでいたというか…大変なお仕事があり、少し疲れているタイミングでした。そのお仕事が終わったらすごく開放されて、「ああ、世界はこんなにきれいだったんだ……!」と現実に戻ってくるという(笑)。それをきれいに描いていただきました。なので自分の生活や、春の大変だったものが終わって、新しいところに出かけていくみたいな心情ではあるんですよ。
――なるほど。歌詞に対してフェティッシュではないボーカルアプローチをしつつも、内容としてはリアリティのあるものになっているんですよね。これもまた“開放”という今の状況にぴったり。
内田 はい。曲の打ち合わせを冨田(明宏プロデューサー)さんとしたときに、私が「最近疲れているんですよね」みたいな話をしたところからキーワードを得て、この曲になったのかもしれません。真実を話すとちょっと色気のない話ですが、カップリングは私が今考えていることから落とし込んでいることが多く、これも最近の私という感じです。だから開放感がすごく感じられるんだと思います。
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