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2024.07.25

ここにしかない、特別な空気感――南條愛乃、ライブツアー“南條愛乃 Live Tour 2024 ~LIVE of The Fantasic Garden~ supported by animelo”最終公演をレポート!

ここにしかない、特別な空気感――南條愛乃、ライブツアー“南條愛乃 Live Tour 2024 ~LIVE of The Fantasic Garden~ supported by animelo”最終公演をレポート!

声優の南條愛乃によるライブツアー“南條愛乃 Live Tour 2024 ~LIVE of The Fantasic Garden~ supported by animelo”が6月2日の愛知公演を皮切りに全国3ヵ所にて開催された。このツアーでは、音楽集団・Elements Gardenが全楽曲提供したアルバム『The Fantasic Garden』を伴うもので、セットリストはすべてElements Gardenが南條に提供した楽曲で構成されるというスペシャルなものに。一方で、南條としては昨年末に自身のアーティスト活動10周年を祝した“南條愛乃 10th Anniversary Live -FUN! & Memories- supported by animelo”以降の彼女が垣間見えたステージにもなった。充実のツアーから、ファイナルとなった神奈川公演の模様をレポートしよう。

TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな(SHERPA+)

Elements Garden楽曲オンリーというセットで見せた、南條愛乃の幅広い表現力を見せる刺激的なステージ

この日の会場となった神奈川県民ホールの会場に入り、ステージ上に目をやると、そこにはまるで庭園のような光景が広がっていた。言わずもがな、『The Fantasic Garden』のアートワークでも見られた、南條愛乃がElements Gardenという庭に脚を踏み入れた――南條とElements Gardenのコラボをイメージさせる風景がこの日のステージ上にも見られる。厳密にはステージ前方に降りた紗幕に庭園をモチーフとした画像が映し出されていたのだが、いずれにせよ開演前から『The Fantasic Garden』のコンセプトを幻想的に演出する、実に雰囲気のある空間が展開されていった。

そして開演時間を過ぎて会場が暗転すると、『The Fantasic Garden』から「Welcome to The Garden」のストリングスの旋律が鳴らされる。Elements Gardenを象徴するストリングスで幕を開けたと思えば、すぐさまステージ中央に南條のシルエットが見え、ストリングスに乗せた歌声が響きわたる。そして紗幕が降りてステージの全貌があらわになると同時にバンドサウンドが加わり、生命の鼓動のような柔らかくたしかなビートに乗せて、白い衣装を身にまとった南條も、その歌声に躍動感が足されていく。そしてステージ後方の階段からゆっくりと降りる彼女の眼前――客席はグリーンのペンライト一色に染め上げられる。ライブの演出としては溜めを効かせるというよりかは、実にテンポのいい幕開けとなった。

「Welcome to The Garden」が終わり、拍手とともにその余韻に浸っていると、ハイハットのカウントから星野 威(g)のトリッキーなギターフレーズが耳に飛び込んでくる。ここでいきなり『The Fantasic Garden』から「ホレヴォ」を披露。『The Fantasic Garden』はストリングスなどを基調としたメロディアスなサウンドという、いわゆるElements Garden印の楽曲もある一方で、このようなヒリヒリとしたバンドサウンドなど、Elements Gardenの多彩なアプローチを楽しむこともできる1枚だが、そのなかでも「ホレヴォ」は若手の雄・藤永龍太郎によるとりわけトリッキーな1曲だ。そうした南條のディスコグラフィとしても異色なこの曲をライブの序盤に持ってくるのは実に興味深いものがあるし、一方でのっけから展開されたこのサウンドは実に刺激的だった。ライブ後半のMCでもバンドメンバーが口を揃えてその難易度の高さを口にしていたが、そのぶんここで聴かれるサウンドは素晴らしいものがあった。星野のギターが演奏を引っ張るなかで、キタムラユウタ(b)のスラップ主体の躍動感溢れるベースと、このツアーで新たに加わったYeongkwi Lee(ds)によるタイトで手数の多いドラミングという小気味良い演奏がステージ上の景色を一気に変えた。そして南條はステージ中央で、時折体を揺らしながら高速フレーズを歌いこなす。この熱量の高いパフォーマンスに、観客も「おーおーお おーお」とレスポンスを返す。この、観客とのコール&レスポンスというスタイルも『The Fantasic Garden』の中にはたくさん散りばめられていて、それがこの日も随所に見られたのだが、改めて観客も一体となった“南條愛乃のライブ”の現在というものが自信をもって打ち出されている、と感じさせる瞬間だった。

そうしたエキサイティングな序盤のあとには息つく間もなく、今度は佐々木聡作が鋭いシンセメロディを鳴らす。オレンジ色にステージが染め上げられるなかで、2015年リリースの南條愛乃×Elements Garden屈指のアンセム「黄昏のスタアライト」が幕を開ける。だ。長年歌い続けてきた楽曲でもあってか、ヒリヒリとしたシンセサウンドのなかでも南條は歌いながら3階席の観客に手を振るなどリラックスした雰囲気を見せる。しかし、終盤に“心から(幸せ) 笑顔(感じ) 浮かべる(2人きり)”というコール&レスポンスを見せたあとのボーカルは、序盤ながら一段ギアを上げたような力強さを感じた。ここでのメロディアスながら荒々しくもあるダイナミズムは、およそ10年近く聴かれたなかでもベストとも呼べるテイクと思わせるものだった。

あまりに熱量の高いライブ序盤を経てのMCでは、改めてこの日のセットがElements Garden楽曲オンリーであることを告げたあと、「もうすでにアンコールかな?ってくらいの“もや”が現れておりますが……」と冒頭からの盛り上がりを実感している様子。そんなMCを挟んで、続いては『The Fantasic Garden』から「ナイショの午睡」へ。アシッドジャズ的なゆったりとしたサウンドのなか、南條のリラックスした歌唱も心地良い。ハイトーンとバンドのアンサンブルが折り重なる充実したクライマックスを迎えたあとはツアーの日替わり曲として、デビュー作『カタルモア』から南條と菊田大介のタッグによる「iD*」へ。観客の歓声と赤いペンライトが光るなか、アグレッシブなサウンドに力強くエモーショナルな歌唱が響きわたった。続くMCでは「次からのコーナーは悲しい曲が続くから」と観客に着席を促すと、ここからは南條の真骨頂でもあるメロディアスな楽曲が続く。まずは『The Fantasic Garden』から「ゆれる金魚鉢」。キタムラがエレクトリックベースからシンセベースへと持ち替え、アンビエントな空間が演出されるなか、南條のボーカルも静寂のなかで息を多分に含んだ歌唱を聴かせる。この空間的な音作りも素晴らしかったのだが、そこからドラムが入ると曲の風景がゆっくりと変わっていく。そしてここからの、リズムを得た南條の歌唱がまた絶品で、彼女の豊かな表現力にうっとりとした時間が過ぎていった。続く「breathe in」では佐々木のピアノをバックに、ステージ上段から瑞々しい歌声が響く。バックのコーラスとの溶け合い方も美しく、引き続き南條のボーカリゼイションを存分に堪能できた。そして南條がステージ上段から階段を降りて始まった「涙流るるまま」では、星空のような美しい背景をバックに、さらにエモーショナルな歌唱を聴かせる……というか、このブロックでは「ゆれる金魚鉢」から徐々にエモーションが蓄積されていくような、南條の歌声もサウンドとともに広がりを見せていくようで、南條のパフォーマンスと共にセットリストの妙味も感じられるブロックとなった。「涙流るるまま」を短縮バージョンで聴かせたあとは、このブロック最後に「サヨナラの惑星」を披露。佐々木のピアノをバックに南條の独唱から始まる「Acoustic for you. 」バージョンを思わせるアコースティカルな仕様だ。そこから2コーラス目でバンドが入ると南條の声はより輪郭を帯び、クライマックスに向かうにつれて感情が乗っかっていく素晴らしいボーカルを披露していた。

その後のMCでバンドメンバーを紹介したあとは、南條が「聡さんと旅に出ますか」と言って次の曲「物語よ始まれという願う空に」へ。佐々木のドラマチックなピアノソロから始まり、南條も佐々木のいるキーボードへと立ち位置を近づけて、ピアノと息を合わせるように歌い上げる。ピアノとボーカルの緊張感溢れるパフォーマンスを見せるこの曲、やはりここも前ブロックのエモーションを引きずるように、前面に出た南條の歌唱が素晴らしい。そこから、バンドが加わっての「シュガーポット」でステージ上は再び広がりを見せる。”悲しい曲”=静かな展開を見せる楽曲が続くこのブロックではあるが、そのなかでも感情のわずかな機微が描かれているようで、観客は着席しながらその揺れ動きに心を奪われているようだった。そこでふと思い出したのは、昨年12月24日に行われた10周年記念ライブ“FUN! & Memories-”のDay2“Memories”のこと。あの日はバラードや静かな楽曲を中心とした構成で、観客も南條の歌唱を着席しながら堪能していた。ここでのブロックはあの日を想起させるというか、まるであのときの手ごたえを経て、比較的長尺なバラードパートとしてここに落とし込んだのだろうか、とも思わせる。いずれにせよ、昨年の10周年ライブを経ての、南條のライブのその先の一端をここで見た気がした。そしてそんな美しいブロックの最後には、再びピアノ1本で「「だけど」」を切々と歌い上げる。構成、演奏、そして南條のパフォーマンスが十二分に発揮された、この日のハイライトの1つとなった。

次のページ:観客との深い絆を感じさせる南條らしいステージ。そして「またね」の先に待っているものとは――

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