すでに国民的エンターテイナーとしての地位を確立しつつある宮野真守。アーティスト活動15周年イヤーを全力で駆け抜け、16年目に突入した彼の最初のリリースは、アニメ『現代誤訳』の主題歌として書き下ろされたダンサブルなアッパーチューン「The Battle」だ。コントアニメの主題歌に“自分自身との闘い”を当てはめた真意は何だったのか。富士急ハイランドとのコラボ楽曲「Apollo」、そして6月に行われた初のオーケストラコンサートの感想も含めて思いの丈を語ってもらった。
INTERVIEW BY 北野 創
TEXT BY 河瀬タツヤ
――昨年6月から始まったアーティストデビュー15周年イヤーが無事完走となりました。改めて駆け抜けた今のお気持ちはいかがですか?
宮野真守 15周年を自分たちにとって大事なものにしていこう」という思いを胸に、スタッフも含めてみんなで15周年を盛り上げられたと思います。ツアーにリクエスト、オーケストラと3つの形態でライブが行われたのも今までになかったし、特に6月に行われたオーケストラコンサート「billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024 ~AUTHENTICA~」は僕にとっても初めての試みだったので、このコンサートで締めくくれたのは、自分にとって非常に大きな1歩だと思っています。15年というキャリアがないと立ち向かえなかった大きな壁を制作の段階から色々感じていたんですが、その難しさも含めて楽しかったし、やり終えてからはアーティストとしてワンステップ上がれた感覚もあるので、本当に良い経験をさせてもらったと思っています。
――制作の段階から難しさを感じていたというのはどのあたりでしょうか?
宮野 僕の楽曲は結構多様なので、ポップスをオーケストラアレンジにしたときの空気感は特殊なものがありました。観に来てくれたお客さんを飽きさせないようにゲームチェンジを行うのが非常に難しくて。なので、あえてロックやダンスの曲をオーケストラアレンジにして、それがちゃんと成立するのかも含めて打ち合わせを重ね、セットリストを組んでいきました。東京公演のオーケストラの皆さんとは1回だけリハーサルはできたんですが、リハでは今までのライブとは違ぶ部分が多く、カルチャーショックの方が大きかったんですよ。なので、本番はアーティストとしての地力が試されるところではあったんですが、自分が15年間で培ってきたボーカリストとしてのスキル、ミュージカルでやってきたスキル、いろんな場で歌ってきたという事実が自分の背中を押してくれました。今まで目指していた“魅せる”方向性でのパフォーマンスとはまた違う「音になる」という感覚に、本番ではなれた気がして。特に京都公演の会場(京都コンサートホール)はコンサートホールで響き方が全然違ったので、自分が楽器の1つになってオーケストラを成立させたような境地が見えた気がしました。
――その感覚は今後の制作に活かせるかもしれませんね。
宮野 今回は音楽プロデューサーのJin Nakamuraさんにサウンドプロデュースに入ってもらったのですが、Jinさんからいただいたキーワードがタイトルにもなっている「AUTHENTICA」で、これが“本物”という意味なんですよ。自分自身のことを“本物”と言うのに怖さを感じる部分もありましたが、でも今は、自分にプレッシャーをかけながらも“本物”という看板を掲げて戦ったことは良い経験だったと思えるし、自信にも繋がったので、自分を信じて良かったと思いましたね。
――オーケストラコンサートでは「AUTHENTICA」という新曲も披露されました。宮野さんがご自身で歌詞も書かれて。
宮野 このコンサートのための楽曲があってもいいよね」ということでJinさんと作っていきました。Jinさんは“宮野真守のエンタメ”について改めて深く考えてくれたみたいで、オーケストラに映えるコード進行や楽曲の広がり方も緻密に考えたうえでデモ曲を作っていただきました。その時にJinさんから、「宮野くんのエンタメからは“人の心に寄り添う態度”が感じられる」「この曲は困難にある人・悩んでいる人に寄り添ってあげられるような曲にしたい」という言葉をもらったことで書くべきことがすごく明確になりました。“本物”というタイトルだからこそ、本当の気持ちをさらけ出すことがどれだけ怖いのかを歌いたくて、 “君は君のままでいいんだよ”と歌ってあげられる曲を作っていきました。
――Jinさんとは長く制作をご一緒されていますが、やっぱりちゃんと自分のことを言い当ててくれるという感覚はあったのでしょうか?
宮野 大いにありました。自分が看板として立つライブを誰かにプロデュースしてもらったのは今回が初めてだったんですが、頼もしかったですし、常にポジティブな言葉を僕に向けてくれました。厳しい言葉もありましたけど、宮野だからできるという思いが内包されているので、すごく嬉しかったですし幸せでした。トップクリエイターの人が自分をこんな風に思ってくれているのだったら、自分はもっと上に行けるかもしれない。未来が見えるような、そんな経験をさせてくれました。
――単純に初めてのオーケストラというだけではない何かを経験できたのかもしれないですね。
宮野 だからJinさんと一緒にできて良かったです。初めてのオーケストラが自分主体だったら、パフォーマンスメインの “魅せるオーケストラライブ” になっていたかもしれない。Jinさんは宮野真守が外からどう見られているのかを的確にジャッジしてくれるので、安心して委ねられました。Jinさんやstyさんといったトップクリエイターの方々と長年一緒にお仕事させてもらえるのは稀有な状況ですし、本当に人に恵まれたなと強く思います。
――そんな15周年イヤーを経て、16年目の最初のシングルになるのがTVアニメ『現代誤訳』の主題歌「The Battle」。作詞はstyさん、作曲はMitsu.Jさんとstyさんです。
宮野 まずアニメの出演が決まった時点では主題歌も担当することになるとは全然思っていなくて、そこから主題歌のオファーを受けたのですが、作品がコント形式なので(笑)、楽曲のイメージが全然つかなかったんですよ。でもアニメサイドからは楽曲はお任せすると言っていただいたので、自分がかっこいいと思うアプローチで進めていきました。楽曲はコンペで選ばせていただいたのですが、やっぱりstyさんの楽曲がデモの時点で世界観もあって自分に刺さったんですよ。その世界観は“価値観の闘い”を表現していて、自分の価値観をどう打ち出していくかの挑戦をストイックに歌っていた。でも楽曲はパーティーチューンという(笑)、このバランスがとてもかっこよくて、ある意味この曲がコント作品の主題歌だったら面白いと思ってもらえると期待して制作していきました。『現代誤訳』は津田(健次郎)さんと浪川(大輔)さんが企画からディレクションまでされて、芸人さんに脚本を頼んでさらにコメディを生み出してもらうというすごい企画なんですよ。カルチャーのクロスオーバーというか、最終的にそれを声優が演じるというのもなかなかハードルが高いのですけど(笑)、そんな説明をstyさんにしていくなかで、偉人の名言を間違えて覚えていたとしても解釈違いでも、それがその人にとって人生の指針になっているのだとしたら、それは大事な価値観じゃないかという話になったんですね。なので、自分の価値観をどう生きていくかの方をフィーチャーして作っていきました。
――それは「自分らしさを貫こうぜ」というメッセージにも置き換えられると思いますが、宮野さんはご自身のアーティストとしての“自分らしさ”をどのように捉えていますか?
宮野 今の話と少し矛盾してしまうかもしれませんが、僕自身はアーティストの始まりがシンガーソングライターではないから、自分らしさの表現の仕方ってやっぱりプレイヤーなんですよ。だから、僕が示している“自分らしさ”とはどんな曲でも歌いこなすとか、どんな表現でも身につけてやるみたいなところになる。トップクリエイターの方と一緒にやっていると、自分が想像もしていなかったようなかっこいい楽曲が上がってくるわけじゃないですか。それを「じゃあどう乗りこなそう?」となるのが、今度は僕のプレイヤーとしての矜持になってくるわけですね。
――まさに、いただいた楽曲に対して自分なりの解釈で表現することになりますね。
宮野 確かに、「やっぱり宮野くんが歌うとエモーショナルになるね」「言葉を大事にするよね」とかstyさんやJinさんたちは言ってくださるんですよ。だから自分がプレイヤーとして培ってきたスキルや経験則は、自分が意識していなくても必ずどの曲にも注ぎ込まれているのだと思います。
――サウンドに目を向けると、今回もすごく宮野さんらしい楽曲になっていて、ソウルやファンクの雰囲気とモダンなサウンドの要素がうまくマッチングしています。
宮野 今回Mitsu.Jさんがトラックを、styさんがトップライン(メインとなるメロディ)を書いているので、これまでのstyさんの楽曲とはまた違ったニュアンスが出ているかもしれません。やっぱりトップラインのメロディはsty節が気持ち良かったりするし、その融合が今回すごく面白いなと思いました。
――宮野さんの楽曲にはR&Bやソウルの要素とEDMの要素が上手く混ざっているような楽曲が多いですよね。
宮野 ヒップホップや R&Bから始まり、そこからポップだけじゃないノリ、例えばレゲトンやドラムンベース、最近ならソウルだったり、自分が知らなかったジャンルも含めてどんどんstyさんに広げてもらってきた感覚はありますね。それもあって、僕もそういう音楽をどんどん聴くようになりました。やっぱりブルーノ・マーズとかを聴くと、ファンクやソウルのかっこ良さに気づくじゃないですか。昔はそれこそEDMとか音数をたくさん重ねていたけど、最近は音数が少ないのにアガるというか、スカスカ感にかっこ良さを感じていて。
――空白感がグルーヴを生むといいますか。
宮野 そうそう。やっぱりどんどん引き算になっていくんだなと思って。大人になった僕が引き算な楽曲をやり始めているのは良い傾向だと思いますし、今の自分なりの魅力を探求しているところです。
――「The Battle」のボーカルはかなりソウルフルなアプローチですね。
宮野 ボーカルとしては結構カロリーが高くてハイトーンなので、実は若干ライブが心配ではあるんですよ(笑)。後半のラップパートも難しかったですけど、styさんのラップは口馴染みがいいというか、ボーカリストが作るラップだからなのか、メロディへの乗りがすごく心地良いし、言葉の運びがお洒落。ラップの発音が緩いノリなのもデモ曲のstyさんの歌声に引っ張ってもらったからで、聴いていて癖になるものになったと思います。
――MVは、宮野さんと仲間たちが集まって音楽やダンスなどを楽しむ内容に仕上がっています。どういったコンセプトで撮影されたのでしょうか。
宮野 MVの監督は映像的にフィジカルなバトルも表現したいということだったんですが、アニメの世界観とは少しは繋がりや関連性は欲しいと思っていたので、もしそういう直接的なバトルの映像を作ってしまったらアニメがそういう作品だと結びついてしまいかねない。そこで、最終的に楽曲のパーティチューンな楽しい空気感と、価値観の部分を大事にすることにしました。そこから導き出した答えが、「それぞれの価値観で闘っている人たちが楽しむための秘密基地」だったんです。だから、ダンス、バンド、スケボーなど、いろんな価値観で闘っている人たちが出てくる。その中に書道家がいたら、言葉という観点で『現代誤訳』と繋がるなと思って、(MVの中で)「闘」という字を書いていただきました。
――エンタメの世界で闘っている宮野さんがその中心にいるという構図も良いですね。
宮野 それは僕が招待しているというイメージを監督が大事にしてくれたからで、仲間たちに色々楽しみを提供しているような場所になっています。でも、最後には急にポツンと1人になって自問自答するようなパートもあって。
――歌詞の中に“自分自身が勝負相手” “The battle within myself”とありますが、宮野さんもご自身の活動に“自分自身との闘い”を感じることはありますか?
宮野 …ずっとその年月は自分自身との闘いでしたね。僕がアーティスト活動も含めて色々始めた時はあまり周りに例がなかったので、自分をアップデートさせていくことでしか自分の価値を高めていく方法がなかったです。でも世の中には素晴らしいエンターテイナーの方がたくさんいますし、自分は全然まだまだだなと思うことの連続だったので、「自分には何ができるのか」「どう面白いものを作るのか」といったことをぐるぐる考えながら自分自身と闘ってきた日々でしたね。
――もう一方の楽曲「Apollo」は富士急ハイランドとのコラボ企画「FUJI-Q “MAMO”LAND」のテーマソングとして制作された楽曲です。
宮野 テーマパークのイメージを打ち出していきたかったので、デモ曲の中でも可愛らしくてハッピーになれる楽曲を選び、さらにアレンジで華やかにしていきました。テーマパーク内やコラボバスの車内でもかかる楽曲なので、テーマパークへ向かう道中も楽しい楽曲としてみんなの気持ちを盛り上げられるように、歌詞もブラッシュアップしていけたと思います。
――タイトルにもなっている「Apollo」は遊園地やテーマパークとは直接結びつかないモチーフですよね?
宮野 それはどちらかというと子供の頃の自由な発想というイメージで、子供の頃は宇宙船に乗って遠くの星まで行っちゃうぐらいの想像力があったのに、大人になるにつれていろんな現実を見てしまう。そんな人たちに対して「ポケットを探ったらまだアポロが入っているでしょ?」と童心をくすぐるような楽曲に出来ればいいなと。テーマパークには空想の世界がたくさんあるし、みんな富士急さんで遊んだ記憶がきっとあると思うから、その夢を解き放って楽しい気持ちになってほしいですね。
――ちなみに宮野さんも実際に富士急ハイランドには行かれたそうですがいかがでしたか?
宮野 いやぁ、不思議でしたね。自分の看板がでかでかと富士急さんの中にあるのを目の当たりにして、これはすごいコラボなんだと実感できました(笑)。コラボは2ヵ月という長い期間だったので飽きちゃったらどうしようと思っていたんですけど、僕がやっているラジオ番組(「宮野真守のRADIO SMILE」)に毎週みんなから報告が届いて、グッズが売り切れるくらい行ってくれたみたいで驚きましたね。嬉しかったです。
――なかなか個人でテーマパークとコラボなんて聞かないですよね。
宮野 やっぱりそうですよね!僕も最初プロデューサーがこの話を持ってきた時は、「そんなコラボあるんだ!?」と信じ難かったし、グッズが少し置かれるだけなのかなと思ったんですよ。それが「提携のホテルともコラボします」とか、「コラボフードも出します」とか、ガチな企画がいっぱいで。実際に僕も富士急さんに行ったらもっとガチなのが伝わって。看板の大きさも含めて(笑)。
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