INTERVIEW
2024.07.10
ソロデビュー11年目を迎え、アーティストとしてもますます幅広く活躍する声優・小倉 唯。そんな彼女が2023年11月23日に神奈川・パシフィコ横浜で開催したワンマンライブが映像化され、「小倉 唯 Memorial LIVE 2023~To the 11’Eleven~」として7月10日にリリースされた。10周年イヤーを経て、アーティストとしての成熟と新鮮さの両方を見せることに挑戦した本公演は、彼女の“今”を知るうえで欠かすことのできないものと言えるだろう。ピアノの生演奏のみをバックにしたあの名曲の歌唱をはじめ、見どころ満載の本作について、彼女自身にこだわりを語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回映像ソフト化された“小倉 唯 Memorial LIVE 2023~To the 11’Eleven~”は、アーティスト活動11年目に入って最初のワンマンライブでしたが、どんなコンセプトのもとセットリストや演出を決めていったのでしょうか。
小倉 唯 2023年は10周年イヤーを謳って活動していた年で、7月に10周年の記念ライブ(“小倉 唯 Memorial LIVE 2023~10th Anniversary Assemble!!~”)を行ったのですが、11月に開催したこの公演は“To the 11’Eleven”というタイトルの通り、10周年から11年目に移り行く新たなワンステップを自分なりに表現しつつ、皆さんに私の新しい一面を感じていただけるようなライブを目指しました。10周年ライブは“Assemble!!”ということで、これまでの代表曲やシングル表題曲を中心にしたセットリストだったのですが、“To the 11’Eleven”では10周年ライブのときに披露できなかったカップリング曲や、新たな一面を見せられる新曲を中心に構成することで、皆さんに違いを感じてもらえるようなライブにしたくて。10周年のライブが王道感のあるラインナップだとしたら、“To the 11’Eleven”は少し趣向を凝らしたセトリになったと思います。
――10周年ライブは、ある種、それまでの活動の集大成の意味合いがあったと思うのですが、そこから11年目を迎えた新たな一歩として、このライブではどんな自分を見せたいと考えていましたか?
小倉 自分の中での裏テーマとして“かっこいい私を見せる”ということを考えていました。私のアーティストイメージは“かわいい”の要素が多い印象があると思うのですが、そういった自分らしさは大切にしつつ、今の自分の等身大の姿、佇まいや気持ちの面が滲み出るような、表面的ではなく“内面的なかっこよさ”を表現したい。そう考えたときに、このライブではあえて“踊らない私”も見せよう、というのが自分で導き出した結論でした。
――得意のダンスをあえて封印すると。
小倉 これまでの私は、歌って踊るパフォーマンスが主軸だったので、逆に私の新しさや内面的な強さを見せるには何をすればいいかを考えたときに、“踊らない私”というのは新鮮なアプローチになると思ったんです。それを踏まえたうえで出てきたアイデアが“ピアノの生演奏をバックに歌う”ということで、今回のライブではそれが一番大きなチャレンジになりました。
――なるほど。ダンスは小倉さんのパフォーマンスにおける武器のひとつですが、それを封印してなお自分らしいステージを見せられるだろうという気持ちが、10周年を経た小倉さんにはあったわけですね。
小倉 まさにこの10年の月日があったからこそチャレンジできたことだと思います。私は元々振りがあって歌うことをベースに活動する期間が長かったので、昔はフリーで動きながら歌うパートがすごく苦手だったんです。その理由は多分、自分に自信がないからで、振付があればそれを一生懸命こなすことで、ステージ上でも不安な気持ちを抱くことなくパフォーマンスに集中することができるのですが、フリーで動くとなると、どうしても自分を試されている感じがして、ドキドキしてしまって。でも、今は精神的に昔よりも自立して、何回もステージに立つなかで自分なりの解決策も見つかったので、いい意味で少し力を抜きながら今の自分を表現できるようになったと思いますし、最近は振りがなくても自分らしく見せられるようになりました。だからこそこの11年目のライブでは、ピアノの伴奏のみでも堂々と歌い切れたんだと思います。
――それはもしかしたらファンの皆さんとの関係性、この10年で培ってきた信頼関係があるからこそ、そのままの自分を見せられるようになった部分もあるのではないのでしょうか。
小倉 そうですね。自分がまだ精神的に成熟していなかった時期は、目の前にある状況だけでいっぱいいっぱいだったので、たくさんのファンの方たちが応援してくれていても「みんなの期待に応えなくちゃ……!」とか「こんなにたくさんの人の前で大丈夫かな……」みたいに、その状況自体に不安を抱いてしまうこともあったのですが、今はそれよりも集まってくださった方々の背景を考えるようになったので。
――背景ですか。
小倉 やっぱり皆さん、ライブを観るために、チケットを取って、電車に乗って、会場まで来てくださって、その1人1人の方にそれぞれの人生があることまで想像すると、「自分が不安な気持ちになっている場合じゃない!」と思いますし、今は「いいものをお見せして、満足した気持ちで帰ってもらいたい」という考え方にシフトチェンジしていて。その意味では精神的な価値観も変わってきたように思います。
――ここからは改めて、今回のBlu-rayに収録される夜公演の模様をブロックごとに振り返りつつ、セトリや演出のこだわりについてお話いただければと思います。
小倉 はい。
――まず今回のライブは、「Love∞Vision」からスタートしたのが印象的で、成熟した自分を見せるという意味でも象徴的なオープニングのように思いました。
小倉 そうですね。11年目の新たな一歩ということで、レーベル移籍の第一弾シングルでもあり、自分が初めて作曲にも挑戦した「Love∞Vision」が適任かなと思い選びました。曲調的にも神秘的なところがあるので、あえてこの楽曲を1曲目に持ってくることで、ファンの方に「今までのライブとはちょっと違うのかな」と感じていただけるんじゃないかと思って。ただ、この楽曲はどちらかと言うとライブのプロローグ的な意味合いで、2曲目の「FUN FUN MERRY JAM」が本当の始まりのようなイメージで構成しました。
――「Love∞Vision」から「FUN FUN MERRY JAM」に移行する間に衣装の早着替えをされて、小倉さんもケープを纏った高貴な佇まいから、キュートな雰囲気にガラッと変わりましたものね。
小倉 この早着替えの演出はどちらかと言うと衣装ありきで考えた部分でした。2曲目以降はポップなナンバーが続くので、このブロックはライブ全体のなかで一番ポップでかわいらしい衣装にしようと思い、カラフルな衣装を作っていただいたのですが、その衣装だと「Love∞Vision」を歌うには少し元気すぎるかなと思って、趣向を凝らして1曲目は上にケープを着飾るような形にしたんです。でも、最初の衣装も1曲だけなのがもったいないくらい、雰囲気があってお気に入りでした。
――たしかに素敵でした。序盤は2曲目以降も「Merry de Cherry」「トキメキWeekend!」「Baby, Baby, Baby」と、シングル表題曲ではない楽曲で固めていく構成になっていました。
小倉 「FUN FUN MERRY JAM」は1stライブ(2015年7月5日開催の“小倉 唯 1st LIVE「HAPPY JAM」”)の1曲目に歌った楽曲で、ちょうど会場もこの日と同じパシフィコ横浜だったこともあって、セルフパロディーではないですけど「久々にこの会場に戻ってきたよ!」というイメージで2曲目に持ってきました。
――なるほど!エモいですね。
小倉 ありがとうございます。「Merry de Cherry」は掛け声が印象的なライブの定番ソングなので、声出しがOKになって、皆さんの声を聞きたいということで選びました。「トキメキWeekend!」も、元々ライブの盛り上がるパートで映える曲になるだろうなと思いながら制作していたので、ここに持ってきて。ライブ初披露だったのですが、ファンの方たちの盛り上がりは初めてとは思えない一体感があって、毎度のことながら驚きました(笑)。「Baby, Baby, Baby」をライブで歌うのは久々だったのですが、これも掛け声や会場の一体感を考えたときにすごくハマるだろうなと思って選びました。「Love∞Vision」以降は、ファンの方たちのテンションが右肩上がりになっていけばいいな、というイメージで組んだゾーンになります。
――そして次のブロックが、先ほど話題に挙がったピアノの生演奏をフィーチャーしたパートです。そもそもピアノというアイデアはどこから?
小倉 たしか私から提案した気がします。生バンドという案もあったのですが、それをいきなりやるのは唐突かな?と思ったときに、ピアノだけで歌うという案が出てきて。あえて歌にフォーカスする見せ方が、新しい一歩として軸になると思って取り入れました。
――しかも「白く咲く花」はピアノの伴奏のみでフルコーラスを歌われました。実際にやってみていかがでしたか?
小倉 すごく緊張しました。私もピアノの伴奏で歌う気持ちではあったのですが、やるとしても1コーラスくらいかな?と勝手に思っていたので、まさかまるまる1曲それで歌うことになるとは思っていなくて。でも、リハーサルのときにスタッフの方々から「是非フルコーラスで歌ってほしいです」とすごく説得されて、私は自信がなかったのですが、「聴いている側としてはとても素敵なので、自信を持ってやってほしいです!」と言われたので、「……そこまで言うなら、やってみようかな?」という感じで挑戦しました(笑)。ごまかしが効かないので、本当にチャレンジングなことをしたなと思います。
――いや、本当に素晴らしかったです。
小倉 ファンの方からもこのブロックはすごく好評で、「泣きながら観ていました」という方もたくさんいて。その意味でも挑戦して良かったなと思いましたし、自分のステージングの一番のベースにあるのはダンスをしながらのパフォーマンスだと思っていたのですが、意外と歌声だけでも楽しんでもらえることを、ファンの方たちのリアクションから知ることができて、この先の可能性が広がったなと思います。アコースティックライブのような見せ方も今後の視野に入れてみてもいいのかな?と思って。
――それはぜひ実現してほしいですね。このブロック、夜公演では「白く咲く花」「ショコラ」「アステリア」と、バラード調の3曲を並べていたのが、選曲も含めて素晴らしいなと思いました(昼公演では「アステリア」の代わりに「慈しみカンパニュラ」を歌唱)。
小倉 ここではピアノの生演奏に一番重きを置いていたので、セトリを考えたときに、ピアノ伴奏が映える楽曲を選びました。元々のオケでもピアノのメロディが活きている楽曲が集結したようなイメージです。「ショコラ」では照明やシチュエーションを含めて、歌詞の内容やボーカルを活かせるような演出にできたと思いますし、「アステリア」は星を題材に制作した楽曲なので、照明も星のようなLEDを散らせていただいて、魅せ方にはこだわりました。
――このパートの衣装はシックでドレッシーなコーデでしたが、どんなところにこだわりましたか?
小倉 新しい一歩を踏み出すということで、今までとは少しテイストの違う衣装にできたらと思って、スタイリストさんからアイデアをいただき、色んな素材を組み合わせた衣装にしていただきました。個人的には黒いベルトでウエストを締めていたり、黒いブーツを履いているところがポイントで、一見ドレス風の衣装のなかに、固めな合皮素材やふわふわしたシフォン系の素材を組み合わせることで、甘辛ミックスのような雰囲気にできたかなと思います。それがバラード曲にもハマりますし、後半の「Tomorrow」「Future Strike」というロックナンバーにもハマるような衣装になりました。個人的にもお気に入りです。
SHARE