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2024.07.03

絶望に彩られた世界の果てに、光を求めて――ワンマンライブ“Ave Mujica 2nd LIVE「Quaerere Lumina」”神奈川公演が示すバンドの核心

絶望に彩られた世界の果てに、光を求めて――ワンマンライブ“Ave Mujica 2nd LIVE「Quaerere Lumina」”神奈川公演が示すバンドの核心

次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」発のリアルバンド、Ave Mujicaによるワンマンライブ“Ave Mujica 2nd LIVE「Quaerere Lumina」”神奈川公演が、6月8日、神奈川県民ホール 大ホールにて開催された。メンバー全員が仮面をつけたミステリアスなビジュアル、7弦ギター2本と5弦ベースを擁するメタル直系の重厚なサウンド、演劇的な要素を含むパフォーマンス。Ave Mujicaのマスカレード(=彼女たちのライブの呼称)は、これまでの「バンドリ!」のリアルバンドのライブとは一線を画するもので、特にワンマンは物語仕立ての意味深な演出も込みで話題を呼んでいる。

キャスト名を明かさない状態での顔見せとなった2023年6月の0th LIVE「Primo die in scaena」、TVアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』での登場を経て注目を集めるなか今年1月に行われた1st LIVE「Perdere Omnia」に続く、バンドとして3度目の単独公演となったこの日。Ave Mujicaは、自らの内に抱える葛藤や苦悩を吐露するような、激しくも美しいステージングで、その深淵の一端を垣間見せてくれた。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY ハタサトシ

“破壊”と“再生”の先に広がっていた壮絶なマスカレード

開演前、会場には、Ave Mujicaの公演ではお馴染みとなっているミュゼット風のBGMが流れていて、その妖しく優雅な音色がこれから始まるマスカレードへの期待を高める。やがて客電が落ちると、冷たく悲愴なSEと共にメンバーたちが登場。ドロリス(Gt. & Vo./CV:佐々木李子)、モーティス(Gt./CV:渡瀬結月)、ティモリス(Ba./CV:岡田夢以)、アモーリス(Dr./CV:米澤 茜)、オブリビオニス(Key./CV:高尾奏音)――それがステージ上での彼女たちの名前だ。

先に少し触れた通り、彼女たちのライブは演劇の要素を取り入れた特殊なもので、ドロリスたち5人は仮初めの命を与えられた“人形”という設定。1st LIVEでは、その“人形”である彼女たちが神の摂理に反して“世界”を破壊し、その後、自分たちで“新しい世界”を創造する物語が公演全体を通して描かれた。さらにその演劇は、TVアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』に登場するキャラクターたちが演じている劇中劇としての側面も含んでおり、キャストは“キャラクターが演じる劇中劇をライブで演じる”という、かなり複雑な構造になっている。アニメの物語やキャラクターの背景とリアルライブが混ざり合うことで生まれる独自の世界。それらを踏まえたうえで観ることによって、彼女たち特有の世界観をさらに深く楽しむことができるのが、Ave Mujicaのマスカレードなのだ。

前奏的なSEを引き継ぐ形でメンバーたちが演奏を開始し、鈍く重たいギターが雷鳴のように轟くなか、ライブは「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」で幕を開ける。1st LIVEでライブ初披露されたこの楽曲は“破壊”をテーマに制作されたもので、すべてを蹂躙するような重々しいバンドサウンドが“世界”を壊し尽くしていく。そこからドロリスの「…ようこそ。Ave Mujicaの世界へ」という誘いのセリフを入り口に、バンド名を冠した彼女たちの代表曲「Ave Mujica」へ。ワルツ調の優雅なBメロを経て、猛々しいアンサンブルが火を噴くサビでは世界が烈火のごとく燃え上がる。

続く「Angles」は“再生”をテーマにした楽曲。オブリビオニスのピアノから始まり、そのそばに近づいて彼女に背中を向けながら歌い始めるドロリス。サビ入りでドロリスが後ろを振り向き、お互いの意志を確かめるようにしっかり目を合わせると、ドロリスはステージ中央まで歩み出て、儚くも孤高の美を湛えた歌声で新しい世界への一歩を踏み出す。サビの“’死’それは私たちを結びつけるわ”というフレーズがアングルを反転させ、耽美で物悲しいAve Mujicaワールドが一気に広がる。ここまでの3曲は、1st LIVEで描かれた“破壊”と“再生”の物語をなぞるようなセットリストで、いわば前回のあらすじ的な内容と言えるだろう。

最後はドロリスのギターソロとモーティスのアルペジオが絡み合って哀愁たっぷりに「Angles」が締め括られると、ここで幕間映像が挿まれる。「破壊の果てに創造した、僕たちの理想の世界。アタラクシア」というドロリスのセリフを皮切りに、メンバーたちの音声に合わせてスクリーンに映し出される言葉の数々。自らが新たに創造した“何もない”世界に空虚さを覚え、レーゾンデートル、生きる意味を求める“人形”たち。本公演のライブタイトル「Quaerere Lumina(=ラテン語で“光を探す”)」と重なる「光はどこ?」という声が響くなか、再びライブパートへ。このタイミングで歌われたのがALI PROJECT「暗黒天国」のカバーというのは、“約束の地”を探して彷徨う彼女たちにうってつけとしか言いようがない。スクリーンに映し出されるサイケデリックな映像も相まって狂乱的な光景が現出するなか、1サビ後の間奏部分で真っ直ぐ向き合いながらギターを弾いたり、終盤でお互いステップに上がって背中を向け合いながらギターを弾くドロリスとモーティスのコンビネーションも印象的だった。

そこからライブで必ず熱狂を生む「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」に突入。髪を振り乱して激しく2ビートを叩き出すアモーリス、間奏でステージ前面に躍り出てギター2人と並んで一緒にヘドバンを行うティモリス、キーボードの前に出てきて逆サイドから弾き倒す(!)オブリビオニスと、危うさを感じさせるほどの陶酔的なパフォーマンスで会場のボルテージを最高潮まで引き上げる。続く「神さま、バカ」では悲痛な想いを重音に込めて放出。この楽曲では、演奏中に上手側のモーティスが下手側のオブリビオニスのほうへ歩み寄っていく場面が前回の1st LIVEでも見られたが、今回はオブリビオニスが明らかにモーティスを諭して追いやるような仕草をしていたのが、気になるポイントだった。

そして再度、幕間映像へ。5人それぞれが己の胸の内に秘めている苦悩や煩悶、怒りや憎しみの感情を独り言のように漏らしていく。ただ、ここで彼女たちが語っていた内容は、“人形”としての想いではなく、本来のキャラクターとしての心情だったように思う。例えば佐々木李子の演じるドロリスの一人称は“僕”だが、この映像パートでの一人称は“私”だった。それは、ドロリスを演じるキャラクター・三角初華の一人称と同じものだ。「ダブルスタンダードが渋滞してる」(ドロリス)、「現実に立ち向かうなんてコスパ悪すぎ」(アモーリス)、「与えるなら、ちゃんとつくってほしかった」(モーティス)など、彼女たちの言葉はやけに生々しく真に迫るものばかり。Ave Mujicaのメンバーであるキャラクター5人のバックボーンについては、アニメでもまだ詳しくは描かれていないため、あくまで推測に過ぎないが、5人がここで吐き出した感情の矛先にあるものは、それぞれのキャラクターに当てはまるものに感じられる。もしかしたら、2025年放送予定のTVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』で描かれるであろう、彼女たちの物語とリンクするものが散りばめられていたのではないかと思う。

次ページ:幕間~ラストの演出が暗示する、Ave Mujicaというバンドの深奥

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