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INTERVIEW

2024.07.03

堀江由衣、自身による12thアルバム全曲解説『文学少女の歌集Ⅲ-文学少女と夜明けのバス停-』 何でもない、でも特別な日常の“エモさ”

堀江由衣、自身による12thアルバム全曲解説『文学少女の歌集Ⅲ-文学少女と夜明けのバス停-』 何でもない、でも特別な日常の“エモさ”

声優・堀江由衣の2年ぶりとなるニューアルバムは、2019年作『文学少女の歌集』、2022年作『文学少女の歌集Ⅱ-月とカエルと文学少女-』に続く、『文学少女』シリーズの最新作となった。ヨシダタクミ(saji)、清 竜人、あさのますみといったお馴染みの作家陣を迎えて生まれた『文学少女の歌集Ⅲ-文学少女と夜明けのバス停-』は、夏をテーマにメロウな風景を見せている。素朴ながら美しい”文学少女”の世界を語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一

夏の夜、夜明けの”エモさ”を見せる『文学少女』シリーズ最新作

──ニューアルバム『文学少女の歌集Ⅲ-文学少女と夜明けのバス停-』は、2019年から続くアルバム『文学少女の歌集』のタイトルを冠したシリーズの3作目となります。まず堀江さんがニューアルバムを作るにあたって、『文学少女』シリーズとして作ろうというお考えは最初からあったんですか?

堀江由衣 そうですね。今回アルバムを作りましょうかとなったときには、「じゃあ『文学少女の歌集Ⅲ』にしますね」というぐらい、頭から『文学少女』ありきというのは決めていました。

──そのなかで2019年の第1作は夏を、2022年の第2作『文学少女の歌集Ⅱ -月とカエルと文学少女-』は秋と冬をそれぞれテーマにしていて、今回はふたたび夏をテーマにしていますね。

堀江 アルバムの発売時期が夏になりそうというのがあったので、じゃあもう1回夏のアルバムを作ろうと思って。ただ、最初の『文学少女』でテーマにした夏が、色味のトーンで言えば水色とか白とかで、どっちかというと「いえーい!夏休み!」みたいな雰囲気だったものから、今回の『文学少女の歌集Ⅲ』は色味もちょっと落ち着けたりして。時間帯のイメージ的にも夜とか夜明けの、前よりは落ち着いた切なさもある、“切なエモい”みたいな夏の景色になるといいなというのは考えながら作っていきましたね。

──まさに夏のなかでも少し落ち着いたイメージが本作にはありますよね。

堀江 そうですね。でも結局自分で曲を選ぶと、どうしても好きな曲の系統は被ってきちゃったりしますよね。自分の好きな系統の曲があるのはしょうがないとしても、そのなかで前とは違う、いつもよりしっとりした曲も入れつつちょっとトリッキーな曲も入れつつ、というのは意識しました。

『文学少女の歌集Ⅲ-文学少女と夜明けのバス停-』通常盤ジャケット

──そうしたコンセプトで作られた本作ですが、近年の『文学少女』というコンセプトと堀江さんの音楽性が合致した、ジュブナイル的な少女性やノスタルジーを感じさせるもので、このシリーズのキーワードになっている”エモさ”というものが存分に感じられる作品になっていますね。

堀江 ありがとうございます。でも”エモさ”って説明するのが難しいじゃないですか? ちょっと前から世間で”エモい”という言葉が出来てからすごく楽になったんですけど、このシリーズのデザインを担当されている方から、「”エモい”って言葉ができる前から、堀江さんはずっとそのエモさを説明していたんだ」って言われて。私がこういう世界観が好きなのはずっと変わっていないんですよね。最近は”エモい”で伝わることが増えて、それがよりこの『文学少女』のシリーズで”エモい”を作りやすくなったというのはありますね。

──”エモい”が定着する前からエモさを体現していたというのは、まさにおっしゃる通りですね。堀江さんの音楽性、その歌声が琴線に触れるというのが今もっともわかりやすく説明できている。それがあるので、イメージする楽曲も集めやすかったのかなと。

堀江 そうですね、コンペでも『文学少女の歌集』という作品の3作目ですよ、というオーダーでお願いしつつ、清 竜人さんやsajiのヨシダタクミさんにはそれより前に楽曲をオーダーさせていただいていて。なのでそのお二人の曲が早めに出来上がってきました。そこからそのお二人とあまり被らなそうな曲を、このアルバムの世界観で発注して選んでいく、みたいなかたちで作っていきましたね。

──そんな『文学少女の歌集Ⅲ』はダンサブルな小気味良さのある「夏は短し、恋せよ乙女」から始まります。”今年の夏は何しようか”というワクワクする歌い出しですが、全体的な世界観は少し不思議な雰囲気もあって。

堀江 この歌詞の抜け感がよくて。ちょっとだらけた夏休みみたいな。夏休みって実際はちょっとだらけているものじゃないですか? そういう脱力感というか、ちょっと力の抜けた歌詞の世界観とサビの広がり方が私も気に入っていて、こういう感じの曲は今まであんまりなかったなというので、これも早めに決まった曲でした。

──少し肩の力の抜いた状態で夏が過ぎ去るのを見つめているような。

堀江 そうなんですよね。結局夏は繰り返しているし、みたいな。このアルバムのテーマ自体も、「何度目かの夏」みたいなイメージもちょっとありますよね。あと実は、サビは最初”夏が終わる 夏が巡る”という歌詞だったんですよ。

──完成したものは”夏が巡る 夏が終わる”なので、順序が逆になっていますね。

堀江 夏のアルバムだし、”終わる”から始まるのはちょっとなと思って。それなら夏は巡っていくし、それがもう終わっちゃうよみたいなニュアンスにも取れるといいなと思って、そこの歌詞だけ逆にしてもらいました。

──それによって、これを1曲目にして始まるというイメージが強調されますね。またこのアルバムも7月上旬という、夏が始まるタイミングでのリリースですし。

堀江 そうなんです。それもあって歌詞を変えていただいて。そこから「だらけていると夏、終わっちゃうよ」みたいな意味合いにもなるといいなというのは考えていて。あとは曲順なんですが、1曲目をこの曲にするか、ヨシダさんの「Love me Wonder」にするかは、すごく悩んだところだったんですね。

──なるほど。

堀江 「Love me Wonder」はまさにオープニングテーマっぽいですよね。夏の始まりみたいな青春感を出すのがヨシダさんはすごくお上手で、今回もそういう真正面のイメージで開放感のある、夏に溢れたエモエモな楽曲をいただきました。なので、「夏は短し、恋せよ乙女」と「Love me Wonder」のどっちを1曲目にするかはめちゃくちゃ悩んだんですけど、夏は巡って終わる、という意味合いもあり、今までにない感じの雰囲気もあって「夏は短し」を1曲目にさせていただきました。

自身による作詞を思わず諦めた!? 「推し活」テーマ楽曲の完成度

──そういった点では、この冒頭2曲が『文学少女の歌集Ⅲ』と夏そのものの幕開けを感じさせるものになりましたね。そこから3曲目の「水色と8月」へと続きます。ここで堀江さんがおっしゃっていた、風景が落ち着いた夏のしっとりとした雰囲気へと変わっていきますね。

堀江 そうですね。この曲がアルバムの雰囲気に一番近いのかなと思っていて。ジャケットとかの写真もそうなんですけど、そこに写っている素朴な街の景色のなかに住んでいるみたいなイメージと、この曲のピアノで素朴に始まっていくところとか、サビのちょっとした高まりのバランス感がこのアルバムのなかで一番やりたいことに近いのかなって思いながら作らせていただきました。

──清浦夏実さんの歌詞もそうした素朴な夏の風景を感じさせるものですし、また印象的なのが、後半からドラマチックな展開になっていくのに対して、堀江さんの歌声はどこか高まりすぎない熱量といいますか。

堀江 そうなんです。このアルバムは曲によってはできるだけ普通にというか、特別な感じじゃなく、できるだけさらっと歌いたいというのがあって。この『文学少女』シリーズに入ってきてからそういうモードなんですよね。このシリーズでの歌は、できるだけ素に近い、あんまり飾った歌にしたくなくて。

──なるほど。

堀江 そうやってなんでもなく歌うと、ちょっと幼く聴こえたり、今度は逆に暗くなったりするんですけど、そこを変に取り繕わずに、できるだけさらっと飾らず歌えたらいいなというのは今回ずっと思っていて。だからこの曲でもドラマチックにわーって歌いたいところも、あんまりそういうふうにしたくなかったんですよね。

──そうしたサウンドとのコントラストは、この曲ではよく出ていますよね。

堀江 あとこの曲はちょっと変わっていて、コーラスやハモがあまりなくて、そのかわり変わったパートがいっぱいあったんですよ。ウィスパーで、それだけ聴いたらお化けみたいな囁き声の「……君は答えた」みたいな声を重ねていて。ハモリじゃなくてオクターブ下のところで聴こえていたりとか、途中でコーラスの人数が急に増えたりとか、聴こえ方としてはちょっと引っかかるような変わった作り方を作家さんがしてくださって。

──そうした音作りも含めて、これまでにない夏感が見られる楽曲になりましたね。そこからまた景色がガラッと変わって、4曲目の「まじめにムリ、すきっ」へ続きます。こちらはいわゆる「推し活」をテーマにした曲で。

堀江 そうなんです。このシリーズでは毎回1曲ぐらい作詞をしていたので、今の自分だったら推し活の曲が書けるなと思って、推し活っぽい楽曲をコンペでも集めていたんですけど、そのなかでこの曲は歌詞まであって。この”ムリ ムリ ムリ マジで無理”という歌詞を見て……まだ私、1行も書いてないんだけど「もう負けてる!」と思うぐらい推し活曲として素晴らしすぎて。もうこれはお任せしよう、と思って作詞を諦めました(笑)。

──見事に堀江さんのお気持ちを代弁された歌詞だったと。この”ムリ”を重ねていくような早口がまたキュートですが、歌ってみていかがでしたか?

堀江 歌っている側としては、どんどん声がクロスしていくような曲なんですよ。それが推し活をする人の気持ちの高まりとか、好きすぎて早口になるような感じになっていて。自分も録るときには2行ずつとか1ワードずつ歌って、それをどんどん重ねて最後にガチャッとはめるみたいな作り方をしています。

──いわゆる動画でいうジェットカットというような、間を極力詰めていくようなエディットの仕方ですね。レコーディングも通して歌うのではなく、細かく分けて歌っていくと。

堀江 そうです。歌詞を2行だけ歌って1回止めて、また次の行から歌ってまた止めて……という感じでクロスさせて歌っていきました。これが結構ストレス溜まりましたね(笑)。

──ストレスが溜まりましたか(笑)。

堀江 だって、歌えども歌えども進まないんですよ(笑)。普段は結構テイクを重ねるものが、この曲は極端に少ないです。

──でもそれが推しに熱をあげる、食い気味な歌い方に聴こえて気持ちがいい仕上がりになっています。

堀江 私も仕上がりは気に入っています。でもライブとか歌うときはどうなるのかな……(笑)。

次ページ:清 竜人の楽曲で交わされた“ハートマークのラリー”とは?

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