シーン屈指のロックバンド・岸田教団&THE 明星ロケッツがおよそ5年半ぶりとなるニューアルバム『BERSERKERS』をリリースした。岸田を中心とした作家性を最大限に高めた前作『REBOOT』を経て、ベストアルバムやTVアニメ「転生したら剣でした」主題歌など精力的な活動を見せ、バンドとして過去最高のコンディションにあるなかで、あえてバーサーカー=狂戦士と化してかつての攻撃性を取り戻したかのようなサウンドをアルバムに封じ込めた。20年近いキャリアのなかで”岸田教団らしさ”を突き詰めた一作はどのようにして生まれたのか。そして攻撃の限りを尽くした末にバーサーカーたちが見つめる未来とは何か。ボーカルのichigoとベースの岸田に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――まずは東京・新宿BLAZEで先日行われたワンマン”岸田教団春のワンマンライブ2024〜皆の意見を聞こうと思う〜”のお話から。
岸田めっちゃよかったっすよ。
ichigoよかったね。お客さんがあったかかったんだよね。
岸田そうそう。なんか、4、5年ぶりぐらいになんかやった感じするよね、ライブを。
ichigoコロナ禍でしょぼくれていた我々の数年を取り返せたかなっていう。
岸田うん。やっぱりここ5年ぐらい、なんだかんだライブをやっていても、お客さん側も我々も、昔ってもっとすごくバチっていう感じあったよなみたいなのは多分持ってたと思うんですけど、僕は今回やっていて昔と同じ感覚でできましたね。
――お客さんの熱量もですし、ステージ上のみなさんのパフォーマンスも非常にアグレッシブなものになっていて。そこには例えば音響面でのブラッシュアップなどがあったのかなと。
岸田ありましたね。外音、外に出すぶんの音は特に変わっていないんですけど、内側のほうはだいぶ変わりましたね。今までだったら、例えばギターアンプとかベースアンプとかで鳴らしてたんですけど、結局「意味ないな」と思ってやめました。
――えっ、そうなんですか?
岸田そうなんですよ。ライブのステージにマイクを立ててやったりしても、結局ちゃんと音はとれないので。それはステージの床の強度とかに影響受けちゃって、自分たちがレコーディングでやっているような音は出ないんですよね。なので、今回からは全体的にデジタル系に変わっていますね。
ichigo今回というか今年からだよね、多分。
岸田そうっすね。だからギターとかほぼ全部がアンプを使わずに鳴っている状態です。
――岸田教団の音作りは近年マイナーチェンジを繰り返してきていましたが、それはかなり大きな変化ですね。
岸田全体的に機材も減りましたね。その代わりにモニターとかその辺の方にこだわる感じで、セルフモニタリング用のミキサーが俺のところに置かれるという。僕がモニターマンを兼任している感じです。だから手間暇はむしろ前よりかかっている(笑)。
――なるほど(笑)。全体をデジタルに集約して、それを岸田さんのところでコントロールするようにしたわけですね。
岸田レコーディングは今でもアンプを使っているんですけど、やっぱりライブになってくると、レコーディングと同じようにマイクに入っていかないんですよね。だったらデジタルやったほうがいいねってなって。ちゃんと比較してみたらね、固定観念を打ち破られるんですよ。
――アンプから出すよりデジタルのほうがいいぞと。
岸田見た目とか労力って人を惑わせるじゃないですか。でかくて重いアンプを使ったほうが音が良くないなんて信じたくないじゃないですか(笑)。なので目の前で起きたことを受け入れていく覚悟が僕は重要だと思いました。
――また大きな進歩ですね(笑)。
岸田それを受け入れた結果、イヤモニのモニタリングを徹底的にこだわってみようってなって自分たち用のミキサーを購入したわけけです。そこで作り込んだ設定は全部保存されるので、どこでライブをやってもそれを毎回呼び出せるっていう状態ですね。我々はモニタリングにうるさいメンバーが揃っているんで、ライブの前もめっちゃ時間かかるんですよね。それも毎回毎回0から作ってると1時間かかるのが、ある程度できた状態から始めれば5分で終わるんですよ。それにライブハウスによって音響の設備も変わるから、それも自分たちで持ち込めば統一できるので。
――そうしたモニター環境の変化は、ichigoさんも感じていますか?
ichigoダンチです。今までずっと、歌える日歌えない日はただ調子の違いだと思ってたんですけど、このモニターシステムにしてから調子が割と安定しているんですよね。今までは「今日は声しっかり出るかな?」ってぐらいの気持ちで臨んでいたんですけど、このモニターのシステムになってからはそういう心配が本当になくて。周りの音が聴こえれば声が出るという自信がついたのもあるんですけど、結局聴こえているつもりで聴こえていなかったとか、声を出しているつもりで出せていなかったとかっていうのが、今まではうまくモニタリングできてなかったのが原因だったというのが9割ぐらいあったかもしれない。
岸田だから最近はライブ始まる前のichigoさん、ちょっと前よりタラっとしているもんね(笑)。リハの段階で「あ、できる」と思っているから、前より放っている雰囲気がタラっとしてる。
ichigoまあそもそも普段からタラっとしているけどね(笑)。
岸田そうそう、さらにタラっとしてる(笑)。でもそれも、もう大丈夫っていう気持ちのもとでやれているから。悪く言えばタラっとしてますけど、よく言えばリラックスしてるから、それはいいことでしかない。
ichigoそうそうそう。今までは最初の一声を出すまではやっぱり気負ってたんですよ。今日その日、ちゃんと楽器の音や自分の声が聴こえるかどうかわかんないなかでやっていたんだなと思って。それも今の環境だと気も楽だし。私はかなり違いましたね。
――リハの負担が軽減されたことで、ライブ本番までも悪い意味での緊張感が減ってリラックスして臨めると。
ichigo緊張感は元々そんなにないけど(笑)。でも前よりピリピリしなくなりましたね。
岸田うん。ichigoさんも多少ピリッとしたところがあったんだけど、それがなくなったから、今まではある意味マイナスの状態からスタートしていたのかなと。
ichigoいや本当に。だから最近は、ライブ前にみっちゃん(ドラム)と「よし、今日も今日もリラックスしていこう。やる気出しちゃダメだよ」って話してるもん(笑)。今までは「いい結果を出さなきゃ」っていう気負いがあったと思うんですけど、今回モニタリングのシステムが変わって、いい結果が出るなという確信ができて、いつも通りやればできるという感覚でやり始められたのはすごく大きいですね。
岸田そうか。俺の場合はいついかなるときでも、俺がやることなんだから絶対にうまくいくと思って生きてるから、多分そこの違いはあるかもね(笑)。
ichigoうるさいな(笑)。
岸田「俺だからいける」と思っているから、実際何にもわかってなくてもそのまま堂々と出ていける自信はある。
ichigoだからと言ってできるとは言ってない(笑)。
岸田そうそう(笑)。しかもできなくても後悔せず帰って来られる。
ichigoそれやばい奴だよ、あんまり言わないほうがいいよ(笑)。
――そうした環境の変化によって、バンドのコンディションがいいこのタイミングでアルバムが出るというのも興味深いですね。
岸田はい、アルバムもその調子の良さがそのまま出てると思います。ライブでのモニタリングを変えたことで、レコーディングのほうでもその辺をこだわり始める。なのでそうした変化が全員のパフォーマンスを高める方向には向かってますね。
――その結晶が今回の『BERSERKERS』というアルバムになるわけですが、オリジナルアルバムとしてはおよそ5年半ぶりになるんですよね。
岸田『REBOOT』以来。今回は『REBOOT』とはまったく違うコンセプトで作られたアルバムですね。
ーーなるほど。
岸田わかりやすくシンプルに言うと『REBOOT』というものは、要は自分の作家性みたいなものをうんと高めて最大限発揮すると、結局そのバンドらしさみたいなものはやっぱ削げるじゃないですか。その作家性を限界まで発揮したアルバムを作りたかったのが『REBOOT』なんですよね。で、その作家性を限界まで発揮した結果、みなさまからやっぱり”らしさ”が欲しいという意見が多かったので戻したという感じです。
――では方向性としては明確なものが最初からあったわけですね。
岸田もちろん『REBOOT』はかなり好きなアルバムで、ただみんなが欲しいのはバンド総体としての勢いやパワー感みたいなものらしいので。
ichigoそこは今回アルバムを作るってなったときに最初から言ってたもんね。もう小難しいことせずに、やれること、得意なことをやるんだっていう。
岸田そうそう。そこはシンプルにね。全体的にシンプルにするというコンセプトはもう当初からあったので、その代わりシンプルなぶん情報量が落ちるわけですから、そこをみんなの個々のパフォーマンスで埋めるというかたちを取った感じですね。
――たしかにそこは、先行配信された「エイトビート・バーサーカー」に”岸田教団らしさ”感じたファンの多さからもわかりますね。
岸田うん。僕はシンプルに顧客のことを考えて生きてるんです(笑)。真摯な態度、真摯な気持ちでリスナーと向き合ってきた気持ちが、このアルバムを作らせてくれました。
――なるほど、動機は非常にシンプルですね。しかし「エイトビート・バーサーカー」で鳴らされた爆発力のあるサウンドはやはりフレッシュな衝撃があって。すでにライブでも披露されていますが、ichigoさんとしては歌っていていかがでしたか?
ichigo聴いていてどう思うかわかんないんですけど、めっちゃ難しいんですよ。難しいくせに、サビの最後は「じゃん、じゃん、じゃんじゃんじゃん」じゃないですか。あの最後をかっこよく締めなきゃいけないってなったときは「まじか」って思いましたね。「これをかっこよく歌うの?」みたいな。
――シンプルな情報量をボーカルでどう高めていくかというところですね。
ichigoうん。これはメンバー全員にその勇気と責任感みたいなものを試されているなっていう感じ。あの曲は決しておしゃれとは言えないメロディーじゃないですか。
岸田『REBOOT』で岸田教団らしさみたいなものからある程度離れてでもいい曲を作ろうっていう意識で作っていたところから、らしさに戻ってこようとしてるわけですから。この曲はだいぶ前に発注しているんですけど、自分たちらしさって自分たちではわかりにくくないですか?
――たしかにそうですね。
岸田なので自分たちを外から見た人に、自分たちらしさを突き詰めた曲を書いてくれ頼んだほうが俺が書くよりよりらしくなるんじゃないかって、そこで(草野)華余子さんに作曲をお願いしたんですね。だから逆に言うと、華余子さんの色を出さずに岸田教団らしいものを書いてほしいという。
――クレジットを見ると意外でもあって。これが実に岸田教団らしい楽曲になっている。
岸田外から見た我々というのは誰が見てもいちばんらしいものに仕上がるんじゃないかというか、客観的に見た我々を我々があえてやる。そこで俺たちは自分が自覚するよりもはるかに馬鹿だってこともわかった(笑)。
ichigoさっき「おしゃれじゃない」って言ったけど、「外から自分たちはこんなふうに見えてんだ、やべえな」と思った(笑)。
岸田だから受け入れるしかない(笑)。俺たちはこれからもこのまま生きていくしかないんだという。
ichigoうん、これを望まれてるなら、もうここから一生BPMは下がらないし、キーも下がらないし。もうやっていくしかないですよね。私は筋トレを続けるしかないし、もう本とか読む必要もない(笑)。
――どんどん脳筋になっていくと(笑)。まさしくバーサーカー(狂戦士)ですね。でもそれも、『REBOOT』やその前作の『LIVE YOUR LIFE』といった、いろいろ本を読んだ末に立ち戻ったからこそ生まれた攻撃性でもあると思うんですよね。
岸田そうですね。シンプルによくしようとしたら結局戻ってきちゃったんですよ。うん。結局ひとりの人間が作れるいいものは1種類しかない。だからいろいろやって結局戻ってきてしまいましたっていう話ですね。結果、これについてはいいことなんじゃないですか。前より良くなった点も多々あるし、10年経って一緒って言えるってことは、10年前より絶対いいんですよ。
――たしかに。
岸田だからみんなが「岸田教団が帰ってきた」って言われますけど、前よりはるかに進歩できているんだなと思います。
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