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INTERVIEW

2024.06.26

“別れ”と“今の想い”を描いたニューシングル「紫苑の花束を」から見えた、ASCAの人生観の変化に迫る

“別れ”と“今の想い”を描いたニューシングル「紫苑の花束を」から見えた、ASCAの人生観の変化に迫る

シンガー・ASCAのニューシングル「紫苑の花束を」は、収録されている3曲すべてが“別れ“をテーマにした挑戦作である。ASCAの楽曲は王道でパワフル――。そんなイメージを持つ人ほど、今作のASCAの歌声には驚いたはずだ。これまでのインタビューでもたびたび言及されてきたとおり、声帯ポリープの摘出手術をきっかけに彼女の歌声にも楽曲にも変化が訪れている。そんな変化の真っ只中にいる彼女に、今作に懸けた想いを存分に語ってもらった。

INTERVIEW BY 北野 創
TEXT BY 河瀬タツヤ

初恋と別れ、2つの痛みに寄り添う言葉選び

――今回のニューシングル「紫苑の花束を」は、カップリング曲も含めてとても素晴らしい1枚になっていますね。

ASCA ありがとうございます。まず皆さんに覚えていただきたいのは、「紫苑」のイントネーションは「紫(↑)苑(↓)」が正解です!一部でわかりづらいという論争が巻き起こったので(笑)。

――なるほど、 “リボン”や“イオン”と同じイントネーションですね。そんな表題曲の「紫苑の花束を」は、アニメ『魔法科高校の劣等生 第3シーズン 古都内乱編』のEDテーマになっています。『魔法科高校の劣等生』シリーズのタイアップは第2期の『来訪者編』OPテーマ「Howling」、10周年記念PVの楽曲「命ノ証」に続いて3度目になります。今回タイアップのお話をいただいた時はどんな気持ちでしたか?

ASCA 嬉しかったのはもちろんですが、どちらかといえば「さらに良い楽曲を作らねば!」という背筋が伸びる思いのほうが大きかったです。『魔法科高校の劣等生』はとても人気のある作品ですし、私が海外の色んな場所で歌い巡ることができているのも「Howling」という曲があることもとても大きいので、今回の「紫苑の花束を」もそんな大切な曲の1つになると思いました。

――アニメ制作サイドからはどんな要望があったんでしょうか?

ASCA 具体的に、「(古都内乱編の主要人物の)桜井水波と九島光宣の初恋をテーマにしてください」という要望をいただきました。(話を聞いたときは)初恋に寄り添うような可愛いイメージを持ったんですけど、原作を読んだらキーとなる人物が急にいなくなったりするし、全然かわいいだけのお話じゃないなと思ったんです。加えて、私は(八木海莉、三月のパンタシアに続いて)第3シーズン最後のエピソードのEDテーマを担当するので、「初恋だけに寄り添っていいのか?」という疑問も湧いて……。改めて「現在の自分が書きたいことってなんだろう?」と考えたときに浮かんだテーマが”別れ”だったんです。そこから「相手の言うことに一喜一憂してしまうような初恋ならではの痛み」と、古都内乱編で描かれた「大切な人がこの世界から突然いなくなってしまった時の痛み」の両方に上手く寄り添うように言葉を選んでいきました。

――両方に当てはまる言葉選びというのは難しくないですか?

ASCA すごく難しかったです。ただ、今回はminami rumiさんとの共作で主軸はrumiさんがしっかり作ってくださって、私はそこに想いを足していくという作り方で進めていきました。例えば、Aメロの歌詞からは初恋の上手くいかない部分を感じてもらえると思うし、Bメロからは“会いたいけど会えない”といった初恋や遠距離恋愛の感覚を感じられると思います。古都内乱編の1話だけだと水波の恋に寄り添った曲に聴こえますけど、2話を見終えたら全く違う聴こえ方になると思うんです。意図して作ったこの曲の二面性をアニメを通じてお届けできたのはすごく嬉しいですね。

キーワードは“しなやかさ”

――「紫苑の花束を」はEDM以降のポップソングを踏襲した作りになっていて、メロディに対する言葉の乗せ方を含めて洋楽っぽい印象を受けました。

ASCA この曲は私が普段歌っている曲よりもフレーズに対して言葉数が多いんです。日本語だと1音に対して1つの言葉を当てはめることが多くなりますが、洋楽は1音に対して3つぐらい単語が入ることで歌に速さが出るので、その影響で洋楽っぽく聴こえるのかもしれないですね。作品側からはそういったオーダーがあったわけではないのですが、近年海外でも活動させていただく中で、日本の方々にも加えて海外の方にも受け入れてもらえる楽曲を増やしていきたいという思いがASCAの中にありまして。これまではリズムタイトに力強いアップテンポな楽曲を「とにかくやるしかない!」「負けない!」という気持ちでたくさん歌い続けてきたのですが、(声帯ポリープの摘出手術で)昨年休んだ際に自分を見つめ直す時間をいただいたことで、「もっと楽しく歌うためにはどうすればいいだろう?」「ASCAとしての声の武器はどこだろう?」と歌にしっかりと向き合うことができ、そのときに声の出し方や体の使い方をイチから見直したことで今回の表現に辿り着きました。

――たしかに以前までのASCAさんはパワフルに張り上げる印象が強かったですが、今回の歌声はしなやかですよね。

ASCA はい、まさに最近そういうふうに人生を生き始めたというのもあり、“しなやか”をテーマに掲げていました。やっぱり強いだけだと折れちゃうじゃないですか。“しなやか“だと折れることもないし適応していけると気づいたときに、それは歌にも通ずるのかなと思いまして。なので、今回はこれまでのASCAにさらにもう1つ武器があるところを皆さんに見せるためのシングルになっています。

――そういう境地に至ったきっかけは何だったのでしょう?

ASCA 単純に活動していく中でパワフルさだけでは表現が足りなくなったというのが理由ですね。立ち止まりながらちゃんと自分の心と相談しながら歩んでこられたら喉を壊すこともなかったと思うので、今回のシングルは自分の心と会話しながら作ることができたと思います。

――先ほど“楽しく歌う”という言葉がありましたが、「紫苑の花束を」ではどのあたりが楽しかったですか?

ASCA それはもう全編を通して(笑)。この楽曲は音数が少ないんですけど、リズムを大事にしないと一瞬にしてダサくなってしまう曲なんですよ。音数が多い楽曲を歌っている時よりもリズムを意識したんじゃないかな?でも、リズムを意識するとボーカルの表現が制限されてしまうので、「いかに縦のリズムを守りながら楽曲を表現するか」という挑戦をレコーディング中はずっとしていて、「こうやって歌ったら悲しく聴こえる」といったように聴こえ方や声の響きを突き詰めながら録っていきました。ラップみたいになっている2Aのパートとか、高い技術が要求されるぶん、上手くいったときに達成感があって、もう“難しくて楽しい”っていう感覚でしたね(笑)。

――そういった挑戦は色んなところで感じられて、サウンド面ではASCAさんの楽曲ではおなじみのバイオリンの音がずっとある一方で、和の雰囲気も入っていますね。

ASCA そうですね、アニメの舞台が京都なので琴の音が入っています。そこは新しさを感じてもらえると思うし、上手に洋楽と和の要素を混ぜていただいたなという印象がありますね。

――ちなみに曲のタイトルにもなっている紫苑ですが、やはりASCAさんがお花好きというのもあって選ばれたんですか?

ASCA そうですね。紫苑の花言葉は「遠くにある人を思う」「あなたを忘れない」なんですが、この歌は後悔の真っただ中にいる人の曲なんですよ。そんな悲しみに暮れている人に対して、「お花を渡せるくらい前向きな気持ちになれたらいいね」「いつかその別れを良い思い出として消化できたらいいね」という祈りを込めて歌った曲でもあるので、そういう意味でも本当に紫苑の花は今回の曲にぴったりだと思っています。

――たしかにこの曲は別れというテーマが色濃く出ていますが、全体を俯瞰してみると結構前向きな雰囲気がありますよね。

ASCA そうですね、そこは意識しながら録っていきました。別れは悲しいものですけど悲しいだけではないし、悲しみを歌声にまで反映しなくてもいいというか、歌声には常に希望を宿しておきたい気持ちもあったので、「きっと前を向けるよね」というメッセージも込めながら歌いました。あとこれは最近の私のブームなんですけども、歌声と歌詞のギャップがあればあるほどいいのかなって。

――ASCAさん自身がそういった別れを通ってきたからこそ書けた部分もあるんですか?

ASCA それはもう、別ればかりです。今回のシングルの3曲は“別れ”を色んな角度から書いているのですが、「落ちるとこまでとことん落ちて悲しみに浸ろう」というようなシングルではなく、「大丈夫!」と様々な角度から言える楽曲になっています。自分が悲しい別れを経験してきたからこそ今一番歌いたいテーマだったし、本当に良いタイミングでシングルをリリースさせてもらっていると思いますね。すごく特別です。

ASCAの人生観を変えた「Gift of Life」

――2曲目の「Gift of Life」はまさに別れに対しての受け止め方について書かれた曲です。作詞はASCAさん、サウンド的には90年代のオルタナティブ/グランジロックの要素が強いですね。

ASCA この曲は周りで好きと言ってくれる人が多くて、私も楽曲デモを聴いた瞬間に「この曲を歌いたい!」と即決したくらい大好きな曲です。あと、チームのみんなが曲作りで今一番大事にしているのが私の声の響きなので、それを活かすにはどの曲がいいだろうという目線で選んだ曲でもありますね。歌のメロディへのハマりも「絶対にかっこ良く作りたい!」と思ったので、今までで一番歌詞を相談しながら作っていった曲になりました。最初に自分1人で書いた歌詞はもっと言葉数が少なかったんですよ。でもそれだとなんかダサくて。なので、音楽ディレクターの角田崇徳さんをはじめ、スタッフみんなとたくさん意見交換しながら作り上げていったのは大きな変化かもしれないですね。「ダサい歌詞もダサい歌も許さない」という厳しいチームですけど、私もダサいものを出したくないのでこの環境がありがたいですし、すごく楽しいです。レコーディングは声の響きが良くなかったら絶対に終わらないんですよ。もちろんOKテイクに至るためにみんなで色々考えるんですけど、妥協して「こんなもんでいいよ」って言われちゃうと悲しくてしょうがないじゃないですか。だから私の熱量とチームの皆さんの熱量が良い具合に同じだったからこそ、この楽曲ができたのかなと思います。

――この曲のASCAさんの歌声は本当に素晴らしいです。ちなみに歌詞は楽曲の雰囲気に引っ張られた部分もありましたか?

ASCA どちらかと言えば同時でしたね。歌詞は大きな別れを経験した直後に書いているんですが、今回の別れは自分でも驚くくらいにショックを受けてしまって、逆にちょっと裏切られたくらいの気持ちになっていたんですよ。「あんなに私のこと好きって言ってくれてたじゃん!」と。でも、私と信頼関係を作り上げてくれた時間があったのは嘘じゃないし、大人になってここまで心を動かされた大切な存在だったのなら、「むしろそこに対して感謝しなければいけないのでは?」と考え抜いた先にそういう結論に辿り着き、それは自分の中で大きい気付きだったので、「それは今しか書けないな」と思って今回書かせてもらいました。

――たしかに、酸いも甘いも経験して一段大人になった楽曲という印象を受けます。まさに出会いと別れ自体が人生のギフトであるということですね。

ASCA そうですね。感謝の気持ちを感じた時に、自分の中でレベルが1つ上がった感覚はあった気がします。人生って別れの連続だけど、今後の人生も別れをそんな風に捉えていけばきっと良い出会いをし続けることができると思ったし、「こういう境地に全員がたどり着けば世界平和になるのでは?」みたいなことも思ってしまうくらい(笑)、素敵な気づきになりました。もうすでにこのマインドを持っている人もいるでしょうけど、この曲がそういった考えに気づくきっかけになれたらいいなと思います。

――先ほど声の響きというお話もありましたが、歌声はハスキー成分というか、中低音域の魅力を押し出していますよね。

ASCA 低音については自分が元々持っている魅力をまだまだ出しきれていなかったという認識があって、そこは今回の制作を通じて改めてチームのみんなから教えてもらいました。だからその中低音の部分が一段大人になったという印象に繋がっていき、結果として説得力を持って届けることができたのだと思います。この1曲を通して自分の歌にも人生にも色々気付きをもらえたので、すごく大事な曲ですね。

――この歌声や歌の方向性は今後絶対ASCAさんの武器になると思います。

ASCA 嬉しい!「私にしかできないことってなんだろう?」とたくさん考えながら作ったシングルでもあるので武器にしていきたいですね!

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