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INTERVIEW

2024.06.22

デビュー30周年を記念して日本武道館で開催された“Kaji Fes.2023”のライブ映像作品がリリース!これまでの活動を総括した豪華な二日間を、梶浦由記が振り返る。

デビュー30周年を記念して日本武道館で開催された“Kaji Fes.2023”のライブ映像作品がリリース!これまでの活動を総括した豪華な二日間を、梶浦由記が振り返る。

梶浦由記という作曲家の、音楽を愛し、音楽を愛する人に愛されてきた足跡。昨年12月に開催された『Kaji Fes. 2023』はそのように称されるだろう。その二日間を収めたLive Blu-rayが5月29日に発売された(特典グッズ付き完全生産限定盤は追加受注受付中)。AimerやKOKIAといったゲストアーティストを多数迎え、デビュー30周年記念にふさわしい2夜について、あらためて梶浦由記に振り返ってもらうこととする。彼女にとってどのような時間であったのだろうか。

INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司

展覧会のようなDAY1、加速していく流れが素晴らしかったDAY2

――『Kaji Fes. 2023』(以下、Kaji Fes.)についてぜひ振り返ってみての想いをお聞きしたいと思うのですが、まずはセットリストの選曲についてからお伺いできますか?

梶浦由記 Kaji Fes.のコンセプトは、みんなが聴きたいであろう曲を上から順にやる、というところで私もプロデューサーの森(康哲)さんも共通してはいます。なので、セットリストはそれほど悩みませんでした。勿論、上から順に、というのはこちらの主観ですけど。これがいつものYuki Kajiura LIVE(以下、YK LIVE)なら、お客さんを驚かせたい意外な選曲、とか、こちらが演奏したい曲を優先して選ぶ、などという部分もありますけど。

――現在開催中の『Yuki Kajiura LIVE vol.#20』でも、劇伴を手がけているTBS系日曜劇場『アンチヒーロー』の曲「Main Theme」を披露されています。

梶浦 やはり私の本業はあくまでも曲を作ることなので。ライブとライブの間に作った新曲を披露する、ということだけは必ず続けたいと思っているんです。たとえ一曲でも。応援して下さる皆様への、こんな曲をまた作りましたよ、という報告と言うか。それが一番のファンサービスだとも思っているんです。難しいのは、サウンドトラックとなると全ての曲がライブ向きとは限りませんから。演奏できる曲には限りがあるといったところでしょうか。

――劇伴作家である以上、なかなかライブで新曲発表ということが難しいですね。

梶浦 でもKaji Fes.の選曲には意外性は必要なく、なるべくみんなが聴きたい曲を全部やるというものなので。これまでのYK LIVEの蓄積で人気曲というのはある程度ありますし、ゲストさんが来て下さるならそこで曲も決まります。いつも通り森さんに選曲していただき、私が「これだけはやりたい」という曲を足していく、という流れでした。だから、いつものライブよりも早く決まったかもしれないです。むしろ、上がった曲からどれを削るのか、がセットリスト会議の一番大変だったところでした。

――梶浦さんがぜひ入れたいと推した曲というのは?

梶浦 なんだったかな? 色々あったんですが忘れてしまいました(笑)。ただ、ゲストさんが多くいらっしゃった分、非日本語の曲が減ってしまったことは心残りでした。YK LIVEは元々、日本語封印ライブから始まっているので、私としては非日本語曲をあと1時間分くらいは増やしたかったんですけど(笑)、削りに削っても、もう二日で7時間分ほどのセットリストになっていたので、それは無理な話でした。選曲会議は楽しかったですが、「これもできないのか」「あれもできないのか」と悲嘆に暮れてもいました。

――現在ツアー中で日本語封印ライブである『Yuki Kajiura LIVE vol.#20』にはその想いが……。

梶浦 結構入っています(笑)。

――Kaji Fes.は、全体を通してのリハーサル時間が取れなかったとお聞きしました。

梶浦 そうなんですよね。(11/4~18に開催された『Yuki Kajiura LIVE vol.#18』の)アジアツアーからKaji Fes.まで3週間もなかったので。『Yuki Kajiura LIVE vol.#18』ツアーそのものは、ファンクラブ限定のイベントでアルバム『PARADE』をかなり歌い込んでからの流れでしたから、感覚はすごく良かったんです。リハからの仕上がりが早かったですし、楽しんでやる余裕もあり、アジアまで行っていつもよりメンバーと長く一緒にいられたのもあり、ツアーの終わりには「次はKaji Fes.だ。頑張ろうね」みたいに和気藹々としていたんです。ところが、Kaji Fes.のリハが始まったら思ったよりも大変なことに気付き始めて。もっと早く気づけって感じなんですけれど(笑)。曲をやってもやってもリハが終わらない。基本的にKaji Fes.はYK LIVEのベスト版なので、あのときは初披露曲は2曲(「櫂」「夕闇のうた」)だけだったんです。それでも、残りの曲をぱっとさらうだけでも時間がギリギリでした。問題は並びですよね。さすがに二日間で7時間分ある曲の並びを全て頭に叩き込む余裕はなく、「次の曲はなんだっけ」状態を残して手元のセットリストをちら見しながら本番に挑まざるを得なかった。そんな色々で、相当錯綜していて、緊張感のある始まりではありましたね。

――ライブの流れとしては、梶浦由記の足跡をたどるような年代順を感じさせました。

梶浦 そうですね、「NOIR」から始めて「PARADE」で終わる、というのは決めていました。でも、それ以外は森さんすごく頭をひねってくださった部分ですね。特にDAY2の流れは、ライブ感があって演奏していてもとても楽しかった。体感的にはライブ2本分の気の抜けない4時間でしたけれど、普段だったらここでライブが終わるかな、というタイミングでFictionJunction YUUKAのメドレーを放り込んで来たり。みんなが疲れてきたかな、というところで加速を始める、演奏側も無理やりアゲられるあの感じ(笑)。あれはすごく良かったですね。二日間を並べたとき、DAY1はお披露目コンサート的に、展覧会のように一つひとつ作品を並べていく感覚でとても落ち着いて楽しく演奏出来たんです。DAY2の方は、二日目でこちらも一日目の疲れが残っていた筈なんですけれど。頭からテンション高めで、気づいたらセットリストの加速に巻き込まれてこちらも振り落とされないように必死で(笑)。疲れたと感じる間もなく4時間が終わってしまった。ライブらしいライブでしたね。

 やっぱり緩急は必要なので。3時間、4時間を飽きさせないというところもありますし、次の曲が始まったときにやっぱりワクワクしないといけないので。そこがすごく難しいんですけど。なので、作品ごと、年代ごと、というところは意識しながらも曲の繋がりや流れを優先しました。

梶浦 DAY1では、ご縁深く歌っていただいた曲も多いAimerさんはゲストさんコーナーではありますが時間を長くいただいたり、そうすると自然ゲストさん世界の色も濃いライブになりますしね。それもあってDAY1は少し落ち着いた雰囲気になっていましたね。

――Blu-rayには収録されませんが、Sound Horizon / Linked HorizonのRevoさんと共作した「砂塵の彼方へ…」も本編ラストという大きな枠を用意していました。

梶浦 そこはちゃんと時間を取らないと! RevoさんにはMCにもご参加いただく予定でしたので、そこは覚悟が必要でした(笑)。

――そこは意識しておかないといけない部分ですか?(笑)。

梶浦 勿論です! Revoさんに「MCは短めで」なんて失礼なことを言うくらいならお呼びしないです。でも逆にとても私たちに気を遣って下さって。どこまで行って下さるのか期待と不安が半分半分だったんですけど(笑)、締めにふさわしい暖かいMCをいただきました。収録出来なかったのは残念ですけれど。

――落ち着いたDAY1を踏まえて、DAY2は前日終盤の「My Story」からのつなぎを感じさせるインストゥルメンタル曲を経て、序盤から『魔法少女まどか☆マギカ』曲で盛り上げました。

梶浦 DAY2冒頭の、インストから「Magia」に進み、Kalafina曲に入るセクションは演奏していても否応なしに気持ちが上がってしまう流れなんですよ。リハーサルの時、時間が足りずDAY2の全曲通しはできず、ブロックごとの通しだけだったんです。そのときから「頭からこんなに上がって4時間大丈夫かな」とは思っていました。かといって抑える訳にもいかず、出ずっぱりのバンドさんや弦の皆様には本当に大変な思いをさせた、特にDAY2だったと思います。皆さん流石で、何の問題もなく全編見事な演奏をして下さいましたけれど!

――DAY1、DAY2と共通して、ライブスタートはアコーディオンの佐藤芳明さんが一人で担いました。アンフィシアターでのYuki Kajiura LIVE vol.#15を思い起こさせる演出は印象深かったですが、どのような意図が込められていたのでしょうか?

梶浦 大きな会場ですと客席がすごく遠いので、客席から登場してもらうことで自分の部屋で奏でられてかのように、音を一瞬身近に感じてもらうことはすごく効果的だと思っています。vol.#15のときの佐藤さんもとっても素敵でしたし、本当は今回も客席から登場してほしかったんですよね。でも残念ながら武道館では禁止されているので。あと、佐藤さんはアコーディオンが素晴らしいのも勿論ですが、ああいった俳優さんのような……場を作る立ち回りもとってもお上手ですよね。衣装の選び方ひとつにしても。

――道化師的立ち回りが見事でした。

梶浦 とても心得ていらっしゃいますし、すごくかっこいいですよね。SNSを拝見していても、「え! 今日も!?」と思うくらいライブの数をこなされている方なので、ライブ会場でのお客様との付き合いに関しても大先輩です。だから、そういう方に個としてのパフォーマンスを最初にみせていただくと、ステージと客席を近づけていただけますし、何よりも、私がMCで「楽器も主役のライブなんです」と話すよりも先にあの登場シーンがあったことで、その説明の説得力がぐっと増したと思うんです。そういった意味でもすごく大きな役割を果たしてくださったと思っています。

――YK LIVEが見せる、数少ない演出であり、外連味だった気がします。

梶浦 そうなんですよね。YK LIVEって3時間やろうが4時間やろうが映像も含め「演出」と呼ばれるものはほぼやらない、ある意味不親切なライブでもあるので。今回は会場が広いということでスクリーンに(カメラで寄った)サービス映像は映しましたけど、それが私たちにとってもとても新鮮でした。ただ基本的にはBGMが中心のライブではあるので、何らかのストーリー性を感じてもらえた方が楽しんでいただけるとは思っています。いつもはその役割を、音に合わせとても美しく作っていただいている照明が果たしてくれていると思っているんですが、今回はイントロにちょっとした演出を設ければより物語性を感じていただきやすくなるかな、ということもありました。Kaji Fes.に驚きは必要ないと思ってはいますけど、まあ冒頭くらいは少しだけいつもと違うことを、と。

――特別感ですね。

梶浦 通常のツアーはいつもそのツアーに合わせて作る、まあ大抵これでライブが始まるの!? という不穏な音ですけれど……overtureが流れて始まるんですよ。でも、「いつものあの感じ」ではなく佐藤さんの登場とアコーディオンの生の音から始まったことで、特別感を感じてはいただけたんじゃないかと思います。佐藤さんが一人で登場し、次は弦と(YURIKO )KAIDAさんだけが加わって一曲。それからやっと「いつものあの感じ」でみんなが登場しますから。思わせぶりなイントロダクションで少しドキドキしていただいて、そのあとのovertureで「ついに始まった!」と思っていただけたらと。

――また、Kaji Fes.が見ていて面白かったのは、バックスタンド席としてステージの背面側にも客席が用意されていたところです。ステージとの距離が非常に近く見えて。あの雰囲気は梶浦さんも当日までわからないところだったかと思いますが?

梶浦 そうですね。バックステージにもお客様がいることは無論知っていましたし、だいたいこんな距離感、と図面では見せて貰ってもいましたが、まさかあそこまで近いとは(笑)。今回のBlu-rayにも、バックステージの特に前列の方々は個人が特定できるレベルで映っていますから、「大丈夫かな」という気持ちはちょっとあります(笑)。

――でも素敵な記念になると思います。

梶浦 そう思っていただけたなら嬉しいです。

――演者としては演奏しながらいつもと違う感覚はありましたか?

梶浦 でも、私や楽器隊は動けませんから。どんなに近くてもたまに手を振るくらいしか出来なかったんですが、歌い手さんたちは難しいんじゃないかと思っていました。前ばかり向いていても良くないけれども、みんなが一緒にうしろへ行っても変なので。どうパフォーマンスを振り分けるか、そこは任せるしかありませんでした。でも、ゲストさんも含めて、歌い手さんたちは私なんかよりも大きな会場に慣れている方ばかりなので、そこはさすがでしたね。

次ページ:音楽をやっていて良かったと思える二日間

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