ナナヲアカリがTVアニメ『戦隊大失格』のEDテーマとして送り出した新曲は、彼女のこれまでのアーティストイメージからすると意外性を感じさせる意欲作だった。久しぶりのタッグとなるNeruと共に作り上げた世界観で、彼女が伝えるメッセージとは。作品に寄り添いながら、自己の表現も研ぎ澄ましたしたナナヲアカリの、最新の現在地について語ってもらった。
INTERVIEW BY 青木佑磨(学園祭学園)
TEXT BY 市川太一(学園祭学園)
――7thシングル「正解はいらない」はTVアニメ『戦隊大失格』のEDテーマとなっていますが、まずはこの作品の第一印象はいかがでしたか?
ナナヲアカリ 「おっ、こう来たか」という、ちょっと新しい視点で先の展開も気になるし、春場ねぎ先生のストーリー力みたいなものを原作の1巻を読んだ時点で感じました。自分はダークヒーローものが好きなので、これは好物作品だぞ、と普通に楽しんでいました。
――ちなみにお好きなダークヒーローものって例えばどんな作品がありますか?
ナナヲ 有名な作品だと『東京喰種トーキョーグール』とか、いわゆるヒーローものではないですが『Fate』シリーズも好きです。ダークというか、王道ではないヒーローの物語というか。
――視点が変わると主人公が正義の側ではなくなってしまうあの感覚ですね。
ナナヲ そうですね。『戦隊大失格』もそういった作品だなと思って。まさしく視点を変えると戦闘員Dは正義ではないというところから始まりますし。でも戦闘員Dの視点から見るとドラゴンキーパーこそ全然正義じゃないのが面白いなと思って。
――そういった感想を持って今回の楽曲制作が始まり、Neruさんを作家として迎えたのはどういった経緯ですか?
ナナヲ そもそもは私がNeruさんのファンで、デビュー曲も作っていただいたりしてたんです。そのご縁もあって今回はぜひNeruさんに曲をお願いしたいと伝えたら、快諾していただきました。
――それは『戦隊大失格』の主題歌だからこそという意図もあって?
ナナヲ そうです。
――ナナヲさん的にこういう曲を作ってほしいというイメージがあったのですか?
ナナヲ まずサウンド面が大きくて、最初にNeruさんの骨太なギターサウンドがこの作品に合いそうだなというイメージから考え始めました。
――原作を読んでギターサウンドのイメージが頭に浮かんだと。
ナナヲ そうですね。戦闘員Dを見ていると、やっぱり強いギターの音が欲しいなって感覚がありました。尖ってメラメラと燃えている感情のようなものが伝わりやすんじゃないかと思って。
――そうったオーダーが通ってNeruさんと制作することになり、どんな曲にするか打合せをしたと。
ナナヲ 実は打ち合わせで、アニメサイドから「第4話の内容にフォーカスをした楽曲が欲しい」とオーダーがあったんです。そういったピンポイントなオーダーは初めてだったんですが、まさに原作を読んでいて最初に「おっ」と食い付いたエピソードだったのでとてもイメージしやすかったです。
――いわゆる「この作品ってこういうことをやっていきます」を見せるエピソードですね。
ナナヲ 物語の最初の肝になる部分で、戦闘員Dと桜間日々輝という、戦隊を潰す側と正す側の利害が一致するっていうところがすごく面白くて。さっき話した視点を変えたら正義は裏返るっていうのはこの作品だけじゃなくて、現実でもすごく思ってたことなんです。「自分がこれが正しいと思って発信していても、別の人から見たらそれが攻撃されてるように感じることもあって、そこに争いの種が生まれてしまう」、「私は独りよがりな部分もたくさんあるけど、なるべく他者のこともわかりたいと思っていて、でもそれって結局独りよがりなのか……?」みたいな、複数の視点の感覚とか、永遠にループしていっちゃうジレンマの渦とかの話をNeruさんにバーっと聞いてもらって。それを受けてNeruさんも作品の主題歌としてだけの曲にならないように考えてくれて、第4話の内容と、私の話した内容とを踏まえて、Neruさんが歌詞も含めて1コーラス分のデモを提案してくださって、それを叩き台に制作を進めていきました。
――ナナヲさんの過去の作品を聴いていると、根っこの部分が自罰的というか、コミュニケーションが上手くできないことで、何かが上手くいっていないみたいな曲が多い印象があるんです。その中にあってこの曲ってあまり主観的ではないというか、ちょっと複雑な目線になっていますよね。
ナナヲ そうですね。でもこの曲も元を辿れば、やっぱり根幹にいるのは何もない自分なんですよね。そこはやはりブレない私というか(笑)。紐解いていくとどっちにも取れる曲になってはいると思います。
――主題歌として作品に寄り添っていても、自分の意見というか立ち位置はあまりずらしたくないと。
ナナヲ やはり自分が心から思ってないことは歌えないので、作品としては戦闘員Dに近い歌詞にはなっていると思いますが、でも単純に彼だけの歌でもないという感覚ですね。
――ちなみにクレジットでは作詞がNeruさんとナナヲさんの連名になってますが、どのように作業を進めたのですか?
ナナヲ 2番からAメロ、Bメロを中心に私が作詞しました。Neruさんが書いてくれた1番の歌詞へのアンサーになっています。私が見ないようにしてた部分をNeruさんがビシッと提示してくれて、じゃあ自分もそれに対して赤裸々に答えようと。
――1番の歌詞で特に響いた部分はどこですか?
ナナヲ “言わば貴方にとっての疚しい法螺吹き野郎の狼少年だ”ですね。誰に対しての演技という名の嘘なのか、わからなくなっているが……はたまた、みたいなところにすごくグッときました。
――1番ができた時点で「正解はいらない」というタイトルはついていました?
ナナヲ はい、ついていました。
――それは結構すごいですよね。この曲のタイトルが「正解はいらない」なのは良いミスリードというか。「正解はない」ではなく、“その程度のちゃちな正解はいらない”と結んでくれる。それを受けてご自身の作詞でも基本的な展開は踏襲して、色んな言い方で自分かもしれないものを表現すると。
ナナヲ 自分もこうなるのかもしれない、そう見えているかもしれないっていう可能性ですね。
――“ちゃちな正解はいらない”という帰結点があるうえで、“描きたい存在に背中を刺される”はなかなか苦しくなりますね。
ナナヲ ここは本当に私をよくわかっているなと思いました(笑)。
――作詞するうえで悩んだ点はありましたか?
ナナヲ まったく悩みませんでした。Neruさんも打ち合わせからデモが上がってくるまでがすごく早かったんです。作るうえでリンクしやすいテーマだったのかもしれませんね。
――これまであまり表現してこなかったテーマって、なかなか文章になりにくいときと、チャージができているから即アウトプットできるときがあるじゃないですか。ナナヲさん的にこういうテーマは形にしてみたかったんですか?
ナナヲ 多分やってみたいかったんだと思います。
――『戦隊大失格』という物語がなければ、この表現は出なかった可能性がある?
ナナヲ そうですね。今回のお話をいただいてなければ、もっと先だったか、はたまた出せなかった気もします。「今じゃないな」「これ言っていいんだろうか」をずっと繰り返してたかもしれないので、『戦隊大失格』のおかげというか、今はすごくスッキリしてます。
――作品に乗っかれるのは確かに大きいですね。一歩踏み出す理由になるというか。上がってきたデモを聴いた第一印象はいかがでしたか?
ナナヲ やっぱりNeruさんはすごいなと思いました。歌詞だけを読むとシリアスで重苦しい歌になりそうなのに、イントロのサウンドでちょっとコミカルというか、軽い印象にしてるバランス感とか。アニメのエンディング映像と合わさったときに、戦闘員達のかわいそうだけどコミカルな日常って部分も踏襲されてて、歌詞と音の両方からNeruさんの視野の広さを感じました。あとナナヲとしてはキーが結構低めに設定されていて、それもNeruさんの意図なんですが、夕方アニメの曲なので、多分ナナヲアカリをまったく知らなかった人が聴く可能性も含めて、高すぎず聴きやすいキーに設定されているというか。
――高く設定することで同じ歌詞でもピーキーに、ヒステリックに聴かせることもできますよね。
ナナヲ そうなんです。だから最初にちょっとキーを上げたバージョンも歌ってみたんですけど、やっぱりしっくりこなくて。私の声でキーが高いとヒステリックにも聴こえるし、軽くなっちゃうんです。ちょっと女性っぽさが出すぎるなって感覚があって、今のこのキーがベストだなっていう。
――曲の方向として感情的にヒステリックなのか、長年自問自答し続けた人間の熟成された意見なのかという選択において、Neruさんもナナヲさんも後者の方向性だったと。実際のレコーディングはいかがでしたか?
ナナヲ 最初から自分の中でも解像度が高かったのでとてもスムーズでした。咀嚼が必要な曲って、ベストテイクがわからないまま何テイクも録るんですけど、今回この曲は自分の中でこれだってイメージがあったので、テイク数もそんなかからず録れました。実は明るい曲の方が、自分の中のポップなナナヲアカリのスイッチを入れないといけなくて、テンション感を探すのに時間がかかります。
――そういうスイッチがあるんですか。
ナナヲ 個人的には、今回のような楽曲はスイッチを入れなくていいので等身大に近いんですよ。こういう曲は数が少ないので周りからはそういう風には見えてないと思うんですけど。等身大というか、どっちも私自身ではあるんですけど、素のテンション感としては絶対的にローな人間なので、こっちのほうが普段に近いという表現が正しいかもしれません。アウトプットの仕方が違うって感じですね。
――ともすれば皮肉っぽくなりすぎてしまいそうですが、ポップさとのバランスは取れてるように聴こえますよね。
ナナヲ 元々シニカルな曲ではあるんですけど、聴き心地の面でいうとコーラスをたくさん重ねていて、これがもしボーカルトラック1本だけだとめちゃくちゃヒリついた曲になってたと思うんです。でも上にも下にも声をたくさん重ねているので、そこでちょっとエンタメ的に楽しく聴けるような状態になってると思います。
――ブックレットで歌詞を読み込んでもらって、想像よりもちょっと鋭利な曲だと気づいてもらうような順序だと。
ナナヲ そうなればいいですね。それが一番いい流れだと思います。
――ED映像との相乗効果もあるかもしれないですね。戦隊ダンスだし。ちなみにナナヲさんご自身は戦隊作品って観られてましたか?
ナナヲ 子供の頃に好きだったのが『爆竜戦隊アバレンジャー』なんです。家族の前でエンディングのダンスをずっと踊ってました。『戦隊大失格』のOPテーマの、キタニタツヤさんの「次回予告」のMVもすごく特撮を踏襲してるじゃないですか。なのであれも懐かしい気持ちで見てます。
――ちょうど話題に出たのでMVについても伺います。素顔のナナヲさんのところに怪しい誘い人がやってきて、見知らぬ世界を巡るうちに……。という映像ですが、どのように制作を進めたのですか?
ナナヲ 最初は作品にならって本当に怪人とかを出すのかとか、いわゆる戦隊もの定番の崖ロケーションで撮るのか、みたいな話も出てたんですけど、曲を聴いた監督はそういうものじゃなくて、ダークヒーロー寄りというか、案内人に誘われてくうちに染まってしまうってアイデアを出してくださって、あくまで曲の内容を表現できるのはそっちだなと思ったので決まりました。自分はこういった実写のMVをあんまり撮ったことがなくて、どんな映像になるのかまったく想像がつかなかったんですけど、海外映画っぽい質感になって個人的には気に入ってます。
――撮影はいかがでしたか?
ナナヲ 自分の中ではあまり苦労はなかったんですけど、撮影全体でいうと苦労だらけっていう(笑)。ずっと台車みたいなのに乗ってるじゃないですか。あの廊下って1ヵ所というか1本なんですよ。1本の廊下をまったく別の場所に見せるために2時間おきにセットチェンジが入るっていう。撮影は廃墟の建物でやったので、電気が通っていなくて、寒いし明かりもつかないところで20時間くらい撮影して、本当に貴重な経験をさせてもらいました。
――映像的には文学の中で登場するような地獄巡り感がありますよね。色んな種類の地獄を見て回るみたいな。
ナナヲ そうですね。最初はそういう景色が恐ろしく見えてるけど、自分が染まってしまえばみんな仲間だなっていう。
――そもそも「正解はいらない」ってすごく短い曲じゃないですか。映像で観たときに、その短さの中でのグラデーションも含めてすごく面白いと思います。短い曲というのは元々制作意図にあったんですか?
ナナヲ 短くしようっていう意図があったわけではないんですけど、この曲はDメロとかを入れるのは何か違うな、余計なものは足さなくていいなと自分では考えていて、そこはNeruさんとも解釈一致してたと思います。
――歌詞の方向性的にも、煮えていった感情がどんどん展開するっていう可能性もありましたよね。
ナナヲ もちろんその気持ちもあるんですけど、それで4分半の曲とかになるのは違うなって思って。言ってる内容は結局1個なんですよ。だからサクッと終わったのかなと。
――完成した「正解はいらない」をご自身で聴いてみて、どんな感想を持たれましたか?
ナナヲ ミックスが終わってからは、自分ではドンピシャに好きな曲になったので繰り返し聴いてました。短いから何回も聴けるのもいいですよね。もっと長かったり展開すると説教臭く聴こえちゃうかもしれないですし。
――曲の中で「では君はどうだ?」って問われないのがいいなと思います。考えるも自由、考えないも自由みたいな。ちなみにご自身のリスナー層で、『戦隊大失格』以前からナナヲさんを応援している人にこの曲は刺さると思いますか?
ナナヲ いわゆるインディーズ時代のナナヲアカリらしさがある曲なので、昔からナナヲを聴いてくれてる人は嬉しいんじゃないかなと勝手に思ってます。原点回帰みたいな印象を持ってもらえるのかなと。
――そもそもナナヲさんのYouTubeチャンネルで一番最初に公開された作品がNeruさん作曲の「ハッピーになりたい」ですよね。活動7周年目というこのタイミングでNeruさんとの再タッグというのは、『戦隊大失格』が呼び込んだものなのか、どこかのタイミングでまたやろうと思っていたのか、どっちなんでしょう。
ナナヲ どっかのタイミングでは絶対にご一緒したいと思っていたんですけど、7周年目だからっていうのは自分の中では意識してなかったので、単純に『戦隊大失格』が運んできてくれたものだと思いますね。
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