極度の人見知りで陰キャな少女・後藤ひとりと、彼女がメンバーとして加入する4人組バンド・結束バンドの活動と成長を描くTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』。2022年に放送されて一躍話題作となった本アニメを再編集した劇場総集編の前編『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』が、6月7日より映画館で公開される。そこで今回は主人公の後藤ひとり役を務める声優・青山吉能に直撃。本作の見どころや期待しているポイント、結束バンドとしてのリアルライブをはじめ広がり続ける作品への想いについて話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――ついに劇場総集編が公開されます。まずは今の率直なお気持ちをお聞かせください。
青山吉能 この間、TOHOシネマズ新宿の壁面に掲出されている承認欲求モンスター(※劇中に登場する後藤ひとりの妄想の中のキャラクター)の広告を観に行ったのですが、私以外にも写真を撮っている方がいらっしゃったんですよ。なかには海外からの観光客らしき方もいて、そこで(今回の劇場総集編の)PVが流れてきたときに、ようやく映画館で上映される実感が沸きました。それまでは夢の話のように感じていたのですが、「本当に映画館でやるっぽいぞ……?」っていう。
――承認欲求モンスターといえば、5月24日に下北沢で行われた本作の緊急ビラ配布会で、青山さんは承認欲求モンスターの着ぐるみの“中の人”として、サプライズでグリーティングに参加されていました。
青山 そうなんですよ。まさかですよね。全員が予想していていなかったと思います。
――着ぐるみのオファーをいただいたときは、前向きな気持ちで引き受けたのですか?
青山 いや、私が知ったときには着ぐるみに入ることは決定事項だったので。(仕事の予定に)「着ぐるみ練習」「グリーティング」と書かれていたので、マジで「これは何のことなんだろう?」と思いました(笑)。多分、「青山吉能なら(着ぐるみアクターも)イケる」と思われたんでしょうね。自分がそういうことに前向きな人だと思われていることが嬉しくて挑戦したのですが、本当に初めての発見ばかりでした。着ぐるみに入る経験はなかなかありそうでないと思うんですけど……。
――「ありそう」でもないと思いますが(笑)。
青山 (笑)。着ぐるみは“人間らしさ”を出してしまうとダメなんですよ。例えば「うなずく」ときも、普通にうなずくだけだと全然伝わらないので、中の私はヘドバンみたいに激しく動くことで、ようやく司会の人と会話しているような画になるんです(笑)。ステージで(伊地知)虹夏ちゃんのキャラクターソングの「なにが悪い」に合わせて踊ったのですが、それもいつもなら小さく動くだけでかわいくできるのに、着ぐるみだとワイパーみたいに大きく動かないと踊っていることを表現できないことを初めて知って。私は今、すごく“着ぐるみに対する熱意”が高いので、またやれる機会があれば、もっと上手になった私を見てほしいです。でも、「あの着ぐるみの中に青山吉能が入っているかも?」という目で見られてしまう時点でエンターテイメントとして終わりなので、また皆さんが忘れ去った頃に進化した私をお届けできたらと思いますね。
【衝撃の事実】
キャスト解禁の瞬間。https://t.co/8IHI66m5l0#ぼっち・ざ・ろっく #青山吉能 pic.twitter.com/FreuISetlL
— アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」公式 (@BTR_anime) May 24, 2024
――着ぐるみアクターとしての向上心も半端ないですね(笑)。劇場公開されることを最初に聞いたときは、率直にどう思われましたか?
青山 劇場総集編のお話は、別件の稼働をしていたときに「そういえば劇場総集編をやるのですが、その後に……」みたいな感じで、すごくサラッと伝えられたので、「えっ?ちょっと待って?」となった記憶があります(笑)。普通は無料で観られるTVアニメ作品が、総集編として劇場公開されるというのはすごいことじゃないですか。期待値も上がると思いますし、「映画のチケット代と時間を損した」と思われないためにも、スタッフの皆さんが鋭意頑張られていて。今回は新録のセリフはないので、私たち声優にできることは何もないもどかしさはあるのですが、「スタッフの皆さん頑張れー!」という気持ちで応援しています。
――完成した劇場総集編の映像はご覧になられたのですか?
青山 まだ観ていないです。でもこの間、(喜多郁代役のキャストの)長谷川育美さんが“劇場総集編の最初は誰のセリフから始まるのかクイズ”を開いて、最初のセリフは誰が発するのかだけは教えてもらいました。すごく意外な答えだったので、皆さんにも楽しみにしていてほしいです。
――ということは、TVアニメとはちょっと雰囲気の違うものになることは間違いなさそうですね。
青山 最初にセリフを発する人が全然違うので、(TVアニメの)第1話からのお話をそのまま並べただけではないはずです。でも、私はそれ以外のことは何も知らないんですよ。ファンの皆さんと一緒でまだPVしか観ていないので。「なんで育美さんは知っているの?」っていう話なんですけど(笑)。
――そのPVでも流れていましたが、オープニングーマは結束バンドの新曲「月並みに輝け」ということで、喜多ちゃんの歌声からは“存在証明”という言葉も聴こえてきて、ぼっち(後藤ひとり)が書きそうな歌詞だと思いました。
青山 そうですね。私もまだファンの皆さんと同じところまでしか知らないのですが、アニメ12話を経て、色んな楽曲を書いてきたうえでの“結束バンドの新曲”なんだろうなと感じました。個人的に総集編に向けた新曲というよりも、アルバム(『結束バンド』)の楽曲やその後の「光の中で」を書いて成長を経たうえでの新曲、という感じがしています。
――今回公開される前編では、改めてどんな部分を劇場で楽しんでほしいですか?
青山 そもそも『ぼっち・ざ・ろっく!』は原作が4コマ漫画で、起承転結がしっかりとある作品なので、それを全12話のTVアニメにするにあたって、シリーズ構成・脚本の吉田恵里香さんが手腕をピカピカと光らせていたのですが、今回はその神脚本をどうやって総集編にしたのか?というのが注目すべきポイントだと思います。4コマ漫画ならではの面白いワードやシチュエーションがポンポン出てくる作品なので、それをギュッとまとめたらオチだらけ・ボケだらけになると思うんです。なのでそれをどのくらい削って、どれくらい活かすのか。その出し引きの加減が私も気になりますし、大ボケ・小ボケのバランスをぜひ味わってほしいと思います。
――大スクリーンかつ素晴らしい音響で上映されるという意味では、どんな部分をお薦めしたいでしょうか。
青山 ライブシーンが圧巻なものになることは皆さん予想されていると思いますが、せっかく大きなスクリーンで観られるのであれば、『ぼっち・ざ・ろっく!』は背景や小物・プロップが細かく描かれている作品でもあるので、例えばSTARRY(※劇中に登場するライブハウス)に貼っているポスターを観て「あれってもしかして……あのバンドのじゃない?」みたいな部分も、よりよく観られると思うんです。すでにお話の内容はある程度わかっているファンの方も、逆に小さな画面では気付かなかった映像の細かさを楽しんでいただけると思います。
――ライブシーンも映画館の大きな画面とクリアな音像であれば、自宅のテレビでは感じられない迫力がありそうですね。
青山 ライブシーンは必見だと思います。何も考えず、音だけを受け取るも良し、映像の美しさを受け取るも良し。多分、一度観ただけでは味わい切れないと思うんですよね。1回目は「えっ!?音デカい!すげえ!」で終わってしまうと思うので、2回目は落ち着いて観る、3回目はまた別の角度から観る、みたいに皆さんそれぞれの楽しみ方で観ていただけたら嬉しいです。
――ちなみにTVシリーズの最初のアフレコのことは覚えていますか?
青山 第1話のアフレコは忘れられなくて。結構長い時間をかけて、「終電までに終わるか?」というくらいの時間まで収録をしたんです。第1話はほぼ後藤ひとりしかしゃべっていないので、ほとんど私の責任なのですが、終わった後は正直、達成感や「この作品に携われて幸せ!」という気持ちよりも、自分のことを責める気持ちが強かったなかで、CloverWorksの梅原(翔太/本作のアニメーションプロデューサー)さんが席を立って拍手でキャストを迎えてくださったんですよ。スタンディングオベーションみたいな感じで。その後に原作のはまじ(あき)先生から「後藤ひとりを青山さんにお任せして良かったです」というお言葉もいただいて、大号泣してしまって。私はこの作品では座長だし、(結束バンドのキャストのなかでは)一番先輩になるので、「かっこいいところを見せよう!」と思っていたなかでの、みんなに時間を取らせてしまって情けないと感じていたタイミングだったので、神や天使のお言葉のような気持ちで受け取った記憶があります。
――どういうところで時間がかかったのでしょうか?
青山 第1話ということでキャラクターを固める作業に時間がかかってしまって。それはどの作品でも同じことなのですが、後藤ひとりは本当に難しくて、“内側にいる自分”と“外側から見えている自分”が違うキャラクターなんです。彼女は明るく「おはよう」と言っているつもりでも、人にはそう聞こえていないお芝居をしなくてはいけない。「あ、はい」というセリフひとつにしても、全部地に投げる感じというか、ぼっちちゃんは虹夏としゃべっているつもりで話しているけど虹夏には聞こえていない、というしゃべり方を求められて。とはいえモノローグではぼっちちゃんの感情をそのまま発露しなくてはいけないので、そのスイッチの切り替えが最初はすごく難しかったです。音響監督の藤田亜紀子さんが、妥協することなく時間をかけて向き合ってくださりました。
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