リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

INTERVIEW

2024.06.06

Aimerの音楽世界のさらなる広がりを実感できる新作EP『遥か/800/End of All/Ref:rain -3 nuits ver.-』をAimer本人が語る。

Aimerの音楽世界のさらなる広がりを実感できる新作EP『遥か/800/End of All/Ref:rain -3 nuits ver.-』をAimer本人が語る。

Aimerから新作EP『遥か/800/End of All/Ref:rain -3 nuits ver.-』が届けられた。「遥か」(TBS ドラマストリーム『からかい上手の高木さん』主題歌・映画『からかい上手の高木さん』主題歌)、「800」(映画『マッチング』主題歌)、さらにオンラインイベント「原神新春会 2024」で歌唱された「End of All」、6月からスタートする海外ワンマンライブツアー“Aimer 3 nuits tour 2024”のために再アレンジされた「Ref:rain」のアナザーバージョン「Ref:rain -3 nuits ver.-」を収録。Aimerの音楽世界のさらなる広がりを実感できる本作について、彼女自身にじっくりと語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 森 朋之

新たなアプローチで臨んだ「遥か」

――新作EP『遥か/800/End of All/Ref:rain -3 nuits ver.-』がリリースされました。「遥か」はTVアニメとしても話題を集めた『からかい上手の高木さん』ドラマ版、映画版の『からかい上手の高木さん』の主題歌です。

Aimer まず原作のマンガを読ませていただいて、「何がこの作品の魅力なんだろう?どういう楽曲を作ればいいんだろう?」と考えるところから始めて。私自身は、この作品の透明度の高さ、ピュアさに惹かれているんだなと思ったんですよね。主人公の高木さん、西片の日々のやり取りって、言ってみたら“からかって、からかわれて”というだけなんですけど、「いいな」ってずっと眺めていられるし、「2人の関係はどうなるんだろう?」とワクワクしてしまう。それはやっぱり、2人が純粋でキラキラしているからだと思うんです。なので楽曲としても、2人の関係を象徴しているものを思い描けるようにしたくて。それは多分、高木さんと西片が暮らしている環境に起因しているような気がしたんですよね。もし2人がもう少し都心の街にいて、ビルが立ち並ぶなかで暮らしていたとしたら、もしくは海からすごく遠いところにいたとしたら、ああいうたわいもない会話ややりとりは生まれていないと思うんです。

――海の近くの街に暮らしていることが、『からかい上手の高木さん』を象徴している、と。

Aimer はい。作品の中に、夏休みの宿題で“素敵な景色のランキング”を作るという話があって。高木さんが海で遊んでいる姿を収めた写真が西方西片の中で1位だったんです。そのエピソード、すごく素敵だなと思って。この曲を作っているときも、聴いてくれる方の脳裏に“海が見える街”や2人が遊んでいる場面がパッと浮かぶようにしたいなと思っていました。

――明確なイメージを持って制作に臨んでいたんですね。

Aimer そうですね。「遥か」のデモ音源を初めて聴いたときに、メロディがすごくいいなと思っていたし、既に田中ユウスケさんの言葉(歌詞)が乗っていたんですよ。その雰囲気もすごく良かったので、そこに自分の言葉を重ねて。なので歌詞は共作なんです。

――歌い出しの“海外線の雨 ちらばった君の影”を聴いた瞬間、頭の中に風景が広がります。

Aimer そうすることでダイレクトに海を想起させる曲にしたかったので。

――“君から届くなんてさ ありえないような”という最後のフレーズは?

Aimer 表記は“ありえないような”ですけど、“ありえないよな”って1人で呟いているような感じも合うし、どちらにも取れるのがいいなと思って。

――なるほど。ピュアさや透明感と同時に、温かさを感じられるボーカルも印象的でした。

Aimer サウンドや言葉に引っ張られる形で歌ったんですが、「遥か」に関してはサビもあえて声量を抑えて歌ってみたんです。普段だったらもっと声を張ったりするんですけど、曲の中に空間が見えるような感じにしたくて。そのためにはボーカルが主張しすぎないほうがいいかなと。サウンドもボーカルも“Aimerらしい”ということをあまり考えず、曲としていいものにしようという気持ちもありました。自分にとっても新しい感覚がありましたね。

――Aimerらしさをしっかりと確立できているからこそ、そういうアプローチができたのかも。

Aimer 確かに以前だったら、自分らしさみたいなものにこだわっていたかもしれないですね。今はファンの皆さんとの信頼関係もありますし、この曲に関して言えば田中ユウスケさんたちと交わりながら「いい楽曲を作ろう」というところに向かっていけました。

――どこかのタイミングまでは“自分らしさ”を確立することに意識が向いていたんですか?

Aimer あまりにも目の前のことに必死だったし、そのことを自覚しながら向き合っていたかどうかはわからないんですけどね(笑)。どんどん曲を制作していくなかで、「こうやって音を重ねたほうがAimerらしいかな」「こういう歌い方が自分っぽいな」というものが無自覚のうちに出てきたのかなと。それは経験を重ねてきた証でもありますし、良くも悪くも枠みたいなものができてきた気がして。今はそこにこだわらずにやっていきたいという気持ちもありますね。

――あえて枠を外れてもいい、と。

Aimer 色んな方向があると思うんですよね、それは。「遥か」を聴いてくれた人は「そんなに外れていないんじゃない?」と思うかもしれないけど、自分としてはかなり面白いアプローチができたと思っています。

――ドラマ、映画の両方の主題歌になることについては?

Aimer すごくありがたいですし、「共通の主題歌になります」と伺ったときはビックリしました。映画は10年後の2人を描いているので、そこにも親和性がある曲にしたくて。過去と今を含んだ空間が感じられる曲というか。映画はオリジナルストーリーだし、私もすごく楽しみです。

“不穏”を意識した「800」の世界観

――2曲目の「800」は映画『マッチング』主題歌。こちらはダークな雰囲気が色濃い楽曲ですね。

Aimer 映画のストーリーとしては、マッチングアプリをきっかけにして――主人公は何も悪くないのに――悲劇的な事件にどんどん巻き込まれてしまうというお話なんですよ。マッチングアプリはニーズがあったから生まれたもので、そのことで幸せになっている人たちがたくさんいるんだけど、映画の中では悲劇的なことが起きてしまう。現実にもそういう側面があるような気がするんですよ。

――たしかに。SNSもそうですよね。

Aimer それを作った人も使っている人もそうですが、全然思ってもないようなことが起きてしまったり。そういう不条理を前にしたときは、それをコントロールしようとするのではなくて、自分のふがいなさ、やるせなさを見つめなくちゃいけないんじゃないかなと思ったんですよね。映画の主人公のように自分の中で何が本当で何がウソかわからなくなって、負の連鎖みたいになることもあるだろうけど、そういうときこそ自分自身の内なる戦いが大事だろうなと。難しいけど、そういう要素を音や言葉に出来たらなと思ってましたね。

――映画のテーマや世界観をAimerさん自身に引き寄せて作った楽曲なんですね。

Aimer そうですね。自分の中で波打っている感情にシンクロしている曲にしたいなと。全体のサウンド感として映画「マッチング」のチームから“ノイジー”“重々しさ”というリクエストをいただいて、それに沿う形で作っていきました。

――それも“Aimerらしさ”の中にある要素ですよね。

Aimer たしかにそうかも。映画『マッチング』の主演は土屋太鳳さんなんですが、太鳳さん主演の映画『累-かさね-』でも主題歌(「Black Bird」)を担当させてもらったことがあって。またご一緒できたことが嬉しかったですし、「800」を制作していたときも「Black Bird」の延長にある曲と想像していたところもありました。

――ダークな不穏さがありつつも、すごくかっこいいサウンドに仕上がっていますよね。

Aimer ありがとうございます。それはもう玉井さん、百田さんのおかげですね。すごくかっこいい間奏やリフを作っていただいて、不穏な雰囲気もありつつ、しっかりノレるような曲になったので。ボーカルのレコーディングもあまり迷わなかったですね。

――「800」というタイトルについては?

Aimer こっちはかなり迷いました(笑)。さっきもお話したように、自分の中の嘘や本当、不条理といったテーマがあったんですが、ふと「タイトルは数字がいいかな」と思って。「ONE」という曲はありますけど、数字をそのまま曲名にしたことはなかったですし、800って象徴的だなと思ったんです。八百万の神々とか嘘八百もそうだし、色々な捉え方ができるのもいいなと。

――なるほど。ちなみにAimerさん自身は、自分ではコントロールできない状況に直面したとき、どうやって対処しているんでしょうか?

Aimer すごく下手だと思います(笑)。それこそ曲を作るときもそうなんですけど、自分との戦いみたいなところがあって。予期してなかったことが起きるとパニックになりそうになったり、自分で自分を繕ったり、本音とは違う言葉がパッと出てしまうこともあるんですよ。あとは意地を張ったり、自分を守ろうとしたり。そういう人間っぽい部分がどうしても出てしまうんですよね。

次のページ:「End of All」の制作で実感した英語詞の奥深さ

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP