三月のパンタシアが、全3編で構成されるTVアニメ『魔法科高校の劣等生』第3シーズン「スティープルチェース編」のEDテーマを収録した9枚目のシングル「スノーノワール」をリリースした。OP主題歌「101」を務めたTVアニメ『魔法科高校の優等生』では、主人公である“深雪”の強い信念と素直になれないかわいさや幼さを描いていた三パシは、現在、明るく爽やかで少し切ないブルーポップの世界から、青春の暗部をも描き始めているが、本作ではどんなアプローチで臨んだのか。三パシにとっては初の映画主題歌として配信リリースされたばかりの新曲「僕らの幸福論」や今年8月に開催されるワンマンライブについても話を聞いた。
※この取材は2024年5月8日(水)に実施したものです
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
――『魔法科高校』シリーズの楽曲を手がけるのは二度目になりますね。
みあ 前回、『魔法科高校の優等生』というスピンオフのアニメで初めて『魔法科』シリーズに携わらせていただいて。元々『魔法科』シリーズが好きで、作品に触れてはいたんですけど、「101」で携わらせていただいてからより作品を深掘りしたときに、さらに作品に対する愛情が深まって。魔法を使ったバトルシーンもスタイリッシュでかっこ良くて魅力的だなと思うんですけど、それと同じくらい人物の感情描写がすごく緻密に描かれてるなと思っていて。だからこそ、それぞれのキャラクターを愛せますし、必ず共感できる部分があるんですね。なので、(司波)深雪や(司波)達也、2人を取り巻く学生たちが今後、どういうふうに成長していくのかをいちファンとして楽しみにしていたんです。しかも、今回は『魔法科』シリーズ10周年というアニバーサリーイヤーでもあるので、こうしてED主題歌として携わらせてもらえるのは、すごく光栄なことですし、純粋に嬉しかったです。
――今回の第3シーズンは全3編で構成される三部作のようになっていますが、三月のパンタシアは2つ目の物語である「スティープルチェース」編の担当です。アニメサイドから何かテーマはありましたか?
みあ まずは、深雪の心情を歌ってほしいということでした。これまでの深雪はいわゆる優等生と言われていて。誰に対しても平等に優しいし、親切だし、お兄様のことが大好きだけど、兄弟という枠組みを超えない思慮深さもある。私はただ側にいられるだけでいいっていう、自分の立ち位置をすごく理解している子なんですけど、今回に関しては、深雪の抑えていた感情が抑えきれずに爆発しそうになっているんですよね。今までは優等生として振舞ってきていたけれど、ものわかりがいいだけじゃいられないって、はみ出てしまった感情が曲になったらいいなって、そういったテーマをいただきました。なので、おそらくちょっと不穏さの漂うような、これまでの深雪とは結びつかないようなダークな曲がいいのかなと思い、そうしたら自分の中でNEEの楽曲が頭に思い浮かんできて。
――どうしてNEE(ニー)でしたか?
みあ ずっとファンとして楽曲を聴いていたんですけど、NEEの曲には色んな要素が混じったごった煮感があるなと感じていて。ロックバンド的なサウンドもありつつ、ボカロっぽさも感じるし、曲によっては、プログレ感があったり、キャッチーなJ-POP感もある。色んなサウンドやテイストが曲の中でせめぎ合っているので、情報量がすごく多いんですけど、歌は真っ直ぐ入ってくる。言いたいこと、伝えたいことが、聞いている人の心の真ん中をちゃんと刺してくれる曲だなっていう印象を強く受けていて。あとは、ちょっと不穏さや不気味さを感じるサウンド感だったり、いい意味での青臭さというか、大人になりきれない心の叫びみたいな部分も感じるんですよね。
――エキゾチックな天才集団と称されることも多いです。
みあ そう、テクニカルでスタイリッシュなサウンド感の印象が強いんですけど、NEEのスタイルの中でも、より不気味で不穏な世界観と三月のパンタシアが掛け合わさったときに、新しくて面白い楽曲ができるんじゃないかなっていう期待を込めて、お声がけさせてもらいました。
――作曲と編曲はくぅ(g、vo)さんで、作詞はみあさんとくぅさんの共作になってますね。
みあ デモに入っている仮歌詞のくぅ節がとにかく強くて(笑)。そこがすごく面白かったですね。例えば2番はラップ調になっていて。
――“とか言っても どうにもこうにも 否定されると にっちもさっちも”のところですね。
みあ ここに最初、“マジやべえな”みたいなフレーズも入っていたんです。私はすごく好きだし、“マジやべえな”って歌いたいなと思ったんですけど、深雪っていう存在を重ね合わせたときに、いや、深雪は“マジやべえな”って言わないよなと思って(笑)。そういう意図を伝えつつ、やり取りを重ねながら歌詞は共作していきました。
――歌詞は深雪の心情なんですよね。ダークさっていう部分では、「青春を暴く」という今の三パシのモードとも重なる部分はありますよね。
みあ そうですね。
――アニメサイドは青春の暗部を歌うようになったことを知っていた?
みあ いや、そうじゃなかったと思います。制作は結構前だったので、三パシの新しいテーマについてはお伝えしてなかったんですけど、ちょうど自分もダークな世界観にチャレンジしてみたいなと思っていたので、作るのが楽しかったです。
――深雪の心情と三パシが描きたかったことで重なった部分というのは?
みあ この曲の主人公は“あなた”っていうたった1人の人をずっと強く想い続けていて。その人だけでいいというか、その人のためなら自分すらも犠牲にできるし、その人か世界かのどちらかしか救えないと言われたら、迷わずにその人を救うっていう。たとえ世界が滅びようがどうでもいい。自分にはその人が存在してくれることが一番の幸福だ、喜びなんだっていう思想の女の子を描いていて。
――強い愛ではあるけど、美しいだけではないですよね。
みあ 愛情って強ければ強すぎるほど、他の感情も連れてくるんですよね。例えば、嫉妬心とか。そういった、人を想う気持ちの尊さや美しさだけではない、裏側にあるただれた感情、暗部の部分をこの曲で歌いたかったんです。
――それは「スティープルチェース」編で深雪が抱えている心情ともリンクしている?
みあ 原作のマンガに「お兄様は私以外のものを大切にしなくたっていいのです」っていう意味合いのセリフがあって。たとえどんなに犠牲が出ようと、私さえ大事にしてくれればいい、私以外はどうでもいいっていう。結構すごいことを言ってるなと思うんですけど、そういう、想いが強すぎるが故のやや歪んだ感情みたいなものを、この曲の中でちょっと暴いてみたかったんですね。
――“この思い 夜を越えて”というフレーズもありますが、四葉家の当主である四葉真夜や「よる」というコードネームを持つ黒羽亜夜子(文弥の双子の姉)とかけてますか?
みあ あぁ、そこは意図してなかったんです。
――真夜を超えて、お兄様と結婚してやるくらいの執着を感じたりしました。
みあ 確かに、アニメのエンディングがかなり四葉にフィーチャーされて、四葉+深雪という女の子たちのダークな世界観が表現されていて。達也に対する愛憎を含めた愛情みたいなものをひしひしと感じられたし、今までの魔法科のエンディングの中であんまりなかった映像になってますよね。
――達也と深雪の2人か、学校の仲間が出てくるようなイメージが強かったんですけど、この曲のエンディングは真夜、亜夜子、深雪がフェードイン・フェードアウトしていくので、最初、誰の心情を歌っているのかなと思ったんです。
みあ 私もそういう映像になるっていうのは知らなかったので、深雪がずっと真ん中にいるようなアニメ映像になるのかなと思っていたんです。でも、実際は色んな女性たちの、おそらく達也に対する感情が短いアニメ映像の中で、少し暗めの色彩の中で怪しげに表現されていて。物語性も感じられる映像でかなり気に入ってます。
――また、タイトルは「スノーノワール」になってますが、“ノワールブルー”は出てくるもの、“スノーノワール”とは1回も歌ってないですよね。
みあ はい、歌ってないです。
――どうしてこのタイトルにしましたか?
みあ タイトルは一番最後に決めたんですけど、デモを制作していただくより前から、私のほうから“ノワールブルー”っていうフレーズを入れたいっていうリクエストをくぅさんにお伝えしていて。というのも、前作の優等生のエンディングだった「101」の中で……。
――“フレアブルーに染まってく”と歌っていましたね。
みあ まさに、青い炎が燃え上がる気持ち、深雪の思いの強さと気高さみたいなものを“フレアブルー”っていう、ブルーの入った造語で表現していて。それと、ちょっと繋がるような造語をこの楽曲の中でも入れたいと思って。じゃあ、何ブルーなんだろうって考えたときに、ビターブルーかな?とかも思ったんですけど、ビターよりもっと深い部分にある感情だよなと思ったときに、ノワールはフランス語で暗黒という意味なので、ノワールまで言っていいんじゃないかと思って。
――でも、タイトルにはしなかった。
みあ 自分の中で大事にしていたフレーズだったので、そのままタイトルにする案もあったんですけど、AメロやBメロでは、自分を俯瞰で見てるような冷徹な視点も持ち合わせていて。雪のような冷たさっていう意味と、深雪の雪をタイトルの中に込めさせてもらいました。冷たい黒、冷たい闇というイメージですね。
――ダークやクールというイメージが出ていますが、一方で“アイラービュー”や“アイニージュー”というかわいいフレーズもあります。歌入れはどんなアプローチで望みましたか。
みあ 全体感としては、やっぱり不穏さだったり、クールさを伝えたかったので。歌唱はかっこ良く歌えるほうがハマりは良さそうだなと思って。なるべくかっこつけて、クールに冷徹に歌うようには意識はしてるんですけど、感情的になるサビはキーが少し高くなっていて。自分の声質の特性として、キーが高くなるほど、抜けが良くなってしまって、響きとしてかわいく聴こえてしまう部分がある。そこはかわいくなるよりは、クールさを保ったまま、力強く歌い上げたいという思いでレコーディングは臨んで。色んなテイクを取りながら、一番かっこ良く歌えたかもというテイクを選んだんですけど、つい先日、エンディングの3アーティストと、オープニングを担当されるLiSAさんと鼎談をさせていただく貴重な機会があって。他のアーティストさんから、「サビのこの部分の歌い方がめちゃくちゃかわいかった」って言われて(笑)。あ、まだかわいかったんだって。
――あははは。でも、AメロBメロは心の中の声だけど、サビはお兄様に向かって言っちゃっているくらいの差が出てていいと思いますけどね。
みあ まさにそういうふうに言っていただいて。やっぱりサビって感情的になる部分でもあるし。深雪は人格者で優等生的な部分がありますけど、まだ高校生の少女ですし。サビで、年相応の本音の部分みたいなものを感じてもらえてるんだったら、ベストテイクだったのかなと思います。でも、そうやって、完成したあとに、こちら側が意図していない解釈をしてもらえるっていうのは、リリースするたび面白さがありますね。
――今、お話に出た3部作を3アーティストでリレーしていくことはどう感じましたか。
みあ 今は色んな作品でよく見かけますけど、私は初めての経験だったんですね。でも、今回は、物語がそもそも全然違う3部作で、描く主人公も全員違うんですね。もちろん同じ世界観の中ではあるし、『魔法科』という作品を愛する気持ちは、LiSAさんも含めてみんな同じ気持ちで対峙していると思う。でも、作品のどの部分を楽曲に落とし込むかはそれぞれ違っていて。例えば(八木)海莉ちゃんの曲は割とオープニングに近いような爽やかさと疾走感のある楽曲と曲想の中で、七宝くんっていうキャラクターの嫉妬心や劣等感、醜いとされる感情を歌い上げている。ASCAちゃんの曲は、今までのASCAちゃんになかったような、洋楽テイストの楽曲になっていて。エンディングの中でもこんな三者三様で、全然違うエンディングで紡がれていくんだなっていうのは、第三者的な視点で見たときに、すごく面白いなって感じましたね。
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