声優・降幡 愛によるニューシングル「ホホエミノオト」は、TVアニメ『アストロノオト』OPテーマという、自身初のアニメタイアップ作となった。およそ4年近いソロキャリアのなかで80’sサウンドあるいはシティポップサウンドを基調に独自の音楽活動を展開してきた彼女が、自身も松原照子役で出演する『アストロノオト』と出会ったことで、またそこに自身が敬愛するヒットメイカー・森雪之丞を迎えて生まれた「ホホエミノオト」で見せたあらたな世界とはなんだったのか。
INTERVIE & TERXT BY 澄川龍一
――ニューシングル「ホホエミノオト」がTVアニメ『アストロノオト』OPテーマということで、降幡さんのおよそ4年近いソロキャリアのなかで初のアニメタイアップとなりました。
降幡 愛 そうなんですよ。何かすごくフレッシュな気持ちで。
――初アニメ主題歌というのも意外といいいますか、たしかに新鮮ですよね。
降幡 自分が活動していくなかで音楽の世界観も決めて勝負していたところで、アニメが自分の音楽とこんなにドンピシャでハマることがあるのかと思いましたね。自分がアーティスト活動するなかでアニメ主題歌というビジョンがあまりなかったので驚きはあったんですけど、シンプルに嬉しかったですね。
――声優でありつつも、降幡さんの80年代サウンドというコンセプトがしっかりとあるアーティスト活動のなかで、どちらかというといわゆる“アニソン”とは重ならないものがあったというか。
降幡 そうなんですよ。タイアップとかはあまり意識せず、自分の好きなものばかりやってたんですけど、今回お話をいただいたときにもレトロでノスタルジックなアニメーションということで、こんなにも自分の音楽とハマる作品があるのかって思うものでもありました。なので、最初は実感がなかったんですけど、今回タイアップが決まって、自分もアフレコをしたりしてどんどん制作が進み、こうして放送がスタートして、「本当にタイアップが決まったんだ、すごいことだ!」って思うようになっていきましたね。
――ご自身の音楽が自然とアニメとフィットした、いわゆるアニメの音楽との関係性としては非常に幸福なかたちでのタイアップになったわけですね。
降幡 はい、本当にそうですね。
――またTVアニメ『アストロノオト』ではOPテーマとしてだけではなく、地下アイドルの松原照子役としても出演されています。公式サイトのコメントでは作品と出会ったのが3年前とお話されていました。
降幡 私がお声がけいただいたのは3年前で、そのとき照子のバックボーンを見て、自分の活動も似ているし、どこか性格も似ていて本当に運命と言いますか。「やっぱりピンクキャラなんだな」というのもちょっと思ったりしたんですけど(笑)。
――降幡さんが演じてきた黒澤ルビィもイメージカラーがピンクでしたね(笑)。いわゆるステージ上ではアイドル然としていますが、舞台となる“あすトろ荘”では酒好きな、アイドルらしからぬ日常を送っているという。
降幡 そうなんです。普段の声質とかもわりと自分に近いというか、1話のアフレコもドスの効いた声のシーンからスタートだったんですけど、そこでも「もっともっとやって」というディレクションもいただきつつ、「もっと自分らしくやっていいんですね?」みたいな感じだったんですよ。なので声も素に近いというか、あすトろ荘にいるときの照子は演じているというよりは、「私がいる」ぐらいな感覚でした。
――演じるキャラクターも降幡さんの近いところにある役柄だったわけですね。そもそも作品としても、窪之内英策さんのキャラクターデザインからして80〜90年代のテイストがあって、そこも含めて降幡さんに刺さる作品と出会えたという。
降幡 はい、もう作品自体はドンピシャで「こういうのを待っていた」というか。普通にいちアニメファンとしてもこういう作品を令和に観られるのもいいなって思いましたし、高松(信司)総監督とラジオでお喋りしたときも、「今の時代にやるからこそ意味がある」とおっしゃっていて。お茶の間でアニメを観る機会が少なくなった今だからこそ、こういうドタバタラブコメディーというものをやる意義みたいなものをお話してくれました。私自身もこういうラブコメが大好きな身としては、キャラクターとしても作品に携われて、その主題歌も歌えて本当に幸せだなって思います。
――そんな『アストロノオト』のOPテーマである「ホホエミノオト」ですが、制作が結構前だとすると、楽曲の制作も結構前になるんですか?
降幡 そうですね。脚本も出来上がった状態で、キャラクターデザインも見せてもらったあたりで、そこから音楽もほぼ同時進行ぐらいで動いていました。今回も本間(照光)さんに作曲、編曲していただいたんですけど、高松総監督と春日森(春木)監督やプロデューサーの皆さんにも聴いていただいてブラッシュアップしてという、制作期間としても結構長かった気がしますね。それも3年ぐらい前で。
――となると、作品としてはアルバム『Super moon』よりも前ですね。
降幡 そうですそうです。だから前回のインタビューのときには楽曲も出来上がっていて、私もライブとかイベントで早く言いたすぎてもう喉まで出かかっていたのを「危ない危ない」って(笑)。
――まさに「早く言いたい」となるような楽曲でもありますよね。トピックとしては作詞にあの森雪之丞さんを迎えているという。
降幡 以前、中原めいこさんの「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」をカバーさせていただいて(中原めいこ・森雪之丞の共作詞)、そこからのご縁といいますか、今回森先生に書いていただくようになったんですけど、アニメのストーリーも汲んでいただいた歌詞になっていて、なんかもう「やっぱ本物はすごいな」って思いましたね。自分じゃこのフレーズは思いつかない。
――もともと森先生の作詞は決まっていたんですか?
降幡 最初は自分が書こうって思っていたんですけど、やっぱり難しくって。そこから森先生にというお話をいただいたときに、「絶対もうドンピシャにすごいものが来るだろうな」って思っていたら、オファーからものの数日で歌詞が来て。
――数日後!
降幡 私は、歌詞を書くときになかなか思いつかないなっていうことがよくあったんですけど。さすが森雪之丞先生、素晴らしいなってしびれましたね。
――しかもアニメのOPテーマであることを意識したフレーズも散りばめて。
降幡 そうです。フルで聴いてもらったら、アニメの「そういうことか!」みたいなものがわかる仕掛けにもなっていて、本当に主題歌らしいものをあげていただきました。
――タイトルからして作品タイトルとも絡んだダブルミーニングになっていて。そんな森先生による歌詞と本間さんのサウンドが合わさった楽曲の印象はいかがでしたか?
降幡 今回は私がずっとやってきた音楽とはまた違う、一つ抜けた感じの懐かしさというか、別ジャンルのノスタルジックな曲を歌えたかなと思いますし、それこそ今までで一番明るい歌を自分のオリジナルで歌えた気がします。
――たしかにこれまでのディスコグラフィーのなかでもとびきりポップで明るい印象がありますよね。
降幡 そうですね。サウンド感としても、本間さんはやっぱりすごいなと思いました。高松総監督がおっしゃっていたものに完璧に応えたというか。最初の“トキメキ・キラリ・ユラリ”のところとかの一回聴いたら忘れないフレーズというのは、やっぱり本間さんならではだなと思いますし、アレンジもすごくすごく豪華にしていただいて。
――そうしたなかで降幡さんのボーカルも、これまでウェットな要素が強かったのが、明るく抜けがいい歌声を聴かせていて。フレーズの頭が強くなるようなアタック感のある歌い方だなと。
降幡 でも「ホホエミノオト」のレコーディングは意外とさくっと終わったんですよ。普通に歌ってダブルで録って「はいオッケー」みたいな感じで。アプローチとしては、とにかく明るく歌うっていうのはもう大前提として、ただフレーズ的に“トキメキ・キラリ・ユラリ”とかカタカナのところをいかに大切に歌うかは考えましたね。何言ってるかわかんなくなっちゃうのはよくないなと思って、流れちゃわないようにというか。言葉がぱっと耳に入ってくるところを意識しましたね。
――そうしたフックのあるフレーズと同じく、サビも躍動感があって、特に“大好きデス”という入りですよね。
降幡 そうですね。自分が書いた歌詞だと“大好きです”とか絶対使わないので、歌っていてちょっと恥ずかしかったです(笑)。でも作品もそういうストーリーだったので、素直に歌えて逆によかったですね。
――ここもポイントですよね。特に最後のサビでは“大大好きデス”になるわけで。
降幡 私はもうこっぱずかしいなって思って歌っています(笑)。
――改めて、“信号機の「止まれ」を見つめる 沈黙がじれったい”など、フレーズがいちいち素晴らしいですね。そこでのボーカルも甘酸っぱいといいますか。
降幡 ちょっと古いけど新しい、みたいな。ちょっと違ったアプローチができたんじゃないかなって思いますね。
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