TikTokのフォロワー約30万人!弾き語りショート動画が話題のシンガーソングライター・カノエラナのニューシングル「イロドリ」が、現在話題沸騰中のTVアニメ『夜のクラゲは泳げない』のオープニング主題歌に。渋谷を舞台に繰り広げられる少女たちの青春群像劇の世界観のなかで、疾走感と共に煌めく音が奔放に放たれる1曲だ。
JELEEの4人が駆ける姿が印象的なオープニング映像と共に早くも人気急上昇のこの曲について、カノエラナに聞く。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――インディーズ時代からの活動も含めてここまでたくさんの楽曲を生み出してこられたカノエラナさんですが、今、改めてどんなことを感じますか?
カノエラナ ここまでは常にダッシュしているような感覚です。おっしゃっていただいたように曲数も膨大な数を作ってきましたし、ミニアルバムやアルバムをたくさん出してきたので、シングルを出すのが逆に珍しいくらいの感覚もあります。ここ数年で本格的にアニメの楽曲を担当させていただくことが増えたことで、以前の活動とは違う、別のシーンに移ったような気はしています。
――アニメが大好きというカノエさんですし、楽曲提供や様々なアニメ作品との関わりも多くなったことで、制作に向けるものや見える景色に変化はありましたか?
カノエ 基本的にはそんなにないです。自分の成長段階に合わせて、そのときに出来る曲ってあると思うので、自分が年を重ねれば、それだけ変化もあるよな、という感覚ですし、新しい出会いがあればまた曲も生まれてくるし、別れがあればそれに対して生まれた負の感情やドロドロしたものを煮詰めて曲にするという、その段階でしかできないことをやってきているので。やり方は変わっていないですが、いろんな色を携えているという意味では曲がも変化してきている部分はあるかなと思います。
――カノエさん、楽曲に関してはすごく多産系ですよね?
カノエ わたし自身はすごくフラットな立ち位置にいると思っているのですが、出会った人たちや出会うものからの刺激がすごくあって、それをスポンジみたいにギュッと吸収する形になるんですね。そこでの刺激をノリと勢いで曲にするところはありますし、割とそこは早い方だとも思うので、わんさか曲が生まれてくるのだろうなと思います。
――そんな中で今回はアニメのオープニング主題歌となる「イロドリ」が生まれました。この1曲は描きおろしですか?
カノエ 完全な書下ろしの1曲でございます。
――アニメのオープニング主題歌を、と聞いたときにはどのような感想がありましたか?
カノエ あばばばば……みたいな、言語化できない感じでした(笑)。それもオリジナルアニメである、ということでしたし、さらにそんな作品のオープニングを飾る曲ということもあって、圧し掛かるものは大きいのだろうなと思いました。とにかくスタッフさんの熱がすごく高くて、愛が溢れているのをいただいた資料からも感じたので、こちらとしてもそれに応えなければいけないという意味で「やらなきゃ」という気持ちとそれでも「わたしらしくいなきゃ」という想いとのせめぎ合いが珍しく生まれました。
――“わたしらしくいなきゃ”というのはカノエさんが作る以上はありますよね。
カノエ そうですね。わたしとかけ離れすぎてしまったら「誰の曲なの?」となってしまいますし、自分自身が歌って、大丈夫なようにある程度狭める作業もしました。
――資料から作品の印象を受け取られたかと思います。そこで受けたのはどのような印象でしたか?
カノエ イマドキ、ということでした。書かれているものも「SNS」とか「インフルエンサー」とか、動画を作るクリエイターも“今”じゃないと出てこないものだろうなというのもありますし、コロナ禍を挟んだなかで制作をしているだろうし、そういった渦巻いた想いみたいなものも込められているんだろうな、と勝手に解釈しながらだったので、最初に見たときには「今しか表現できない世界観だな」と思いましたね。
――これまでにもアニメのタイアップ曲はありましたが、原作があって、物語をずっと見てきた作品の主題歌と、まだ漠然とした資料を基に楽曲を制作する場合とで、制作への挑み方に違いはありますか?
カノエ まずオリジナルは表情がわからないですよね。たとえば小説やコミカライズされた原作があると、作者さんの一言コメントがあればそこから情報を拾うこともできたのですが、そういったものは全くなかったので、キャラクターの表情を想像するのが難しいところはこれまでとは全然違っていました。想像がしづらくて「どうしようかな」というところはありました。
――そこからのモチーフ探しやテーマ探し。もちろん作品側からのキーワードなどもあったかとは思いますが、どのように進められたのでしょうか。
カノエ サビが突き抜ける感じがいいです、と言われていたんですね。それから「エモーショナルに」と。わりといただいたテーマは大きかったので、それについてはすごく考えましたが、晴れすぎず暗すぎずで、疾走感がしっかりあるようなオーダーではあったので、そこから外れないようにするにはどうしたらいいのかな、というところでした。
――ご自身が楽曲を描くためのモチーフはどういったものになっていったのでしょうか。
カノエ キャラクター全員が自分のやりたいことを見つけられない時期や、きっかけがないと突き抜けられない子たちだったので、そういう子たちとわたし自身をまずは比べてみました。わたしが今、彼女たちのところにいたらどう思っただろうか、なんて声を掛けただろうか、と実際に入り込んでみて引っ張り出しました。4人揃って1つのクリエイティブだ、となっているぶん、「バンドをやろう」となることはなくずっと一人ぼっちでやってきたわたし自身は、みんなで集まって1つのものを作るパワーをキャラクターたちから感じたんですね。ああ、自分は部活のときにはどうしていたかな、と過去のことも振り返りながら作っていきました。
――その「イロドリ」は音色にもこだわられたのではないかと思います。いかがでしたか?
カノエ 監督の「こういう曲がいい」というリクエストがしっかりとあったんです。そういった空気感でのアレンジをしましょうとなったので、曲もぶつからないようにしようという想いはありましたが、そこはやはり曲先行ですし、アレンジ次第でなんとかなるだろうと思ったので、わたしのサウンドでのバンドの音で考えました。バンドサウンドとなるとわたしの曲は低いタッチで、あまり高音でギャンギャンいかないところがあるので、そこで暴れずに、カノエの初期の空気感を捉えつつの曲にしたくて、「こういう曲でやりたいです」という提案もわたしの方から何曲か提出しました。
――そのサウンド感の中で描いた歌詞についてはいかがでしたか?
カノエ 彼女たちの中にわたしが5番目の立ち位置としていたらきっとこうだったな、という想いを歌詞にしたので、アニメ盤のシングルのジャケットでJELEEのみんなと一緒に存在していて、嬉しかったです。曲を聴いていただいて、そういった解釈をほかの方にしてもらえたことがとても嬉しかったですし、このジャケットのような気持ちで作らせてもらった、と伝わっていたこともめっちゃありがたいなって思いました。作っているときには漠然と、そうした想像をしながら書きました。ただ自分自身の曲なので、わたしの想いを伝えないと意味がないので、「自分だったらこう思うよ」ということを強く歌詞にしました。でも5月の、ちょっとじめっとした、暑くも寒くもないような、想いが振り切れないような空気感を書こうと意識して臨んだ歌詞です。
――歌ってみていかがでしたか?
カノエ とにかく上から下まで全部を使っているくらいレンジとして広い曲になったので、難しいなぁ、と思いました。メロディはいつもより難しくないんです。だけどやったことのない歌い方をしているから難しく感じてしまうんですよね。レコーディングのときには「どうしたらいいだろうか」と結構、悩みました。
――そんな「イロドリ」。ライブではどのように歌いたいですか?
カノエ ライブを想定してサビでも「君と共鳴」って歌っているので、一緒に盛り上がれる曲になってくれたらいいなと思いつつ、エモーショナルな空気もあるので、どこで歌おうかなと考え中です。最初に歌うのか、最後に歌うのか。そこの想像はまだついていないのですが、ライブをしながら育てていけばいいかな、と今は思っています。
――MVもとても印象的でした。『夜のクラゲは泳げない』の舞台でもある渋谷の街に見え隠れするカノエさんの姿が印象的です。撮影はいかがでしたか?
カノエ 少女を見守る立ち位置の、謎の存在としてわたしが存在しているMVですね。少女がたどった形跡をわたしもたどっている感じが、過去に自分はどんな曲を作ってきたっけ?という雰囲気もありますし、過去のMVのオマージュなども散りばめています。これまでの曲でも渋谷を舞台にしたものもありますし、それを「面白く絡めたいです」と監督に伝えました。わたしの作る曲は渋谷をモチーフにした曲も多くて、出会いや別れをそこに投影して歌っているものも多いので、それを加味していただけた演出でした。ただ、撮影当日に雨になるとは思っていなかったんですよ。
――でもあの傘はむしろクラゲ感がありましたよ?
カノエ そうなんですよね(笑)。実は当日までどんな傘を渡されるのかもわからなかったのですが、フィルム調で、角度が変われば色味も変わるというクラゲのような傘だったのがすごくよかったです。これはわたしの雨を引き寄せる力があってこそだったかな、と思いました(笑)。
――その「イロドリ」が実際にアニメで流れた際の感想をお聞かせください。
カノエ 汗びっしょりでした(笑)。最初に見たのは先行試写で、みなさんがいるところで一緒に見たので、ぎゅうううっと手を握り締めてしまいましたし、汗でびちょびちょになりました(笑)。本編では、実際には2話から流れたのですが、1話のときにはコマーシャルの提供のところで一瞬流れたのが最初だったんです。そのときにもビクッ!となりました。2話が放送されたときには友だちも一緒に見てくれていたので、それもあって緊張が紛れたのですが、大勢のなかで見たときには「みんな、どう思っているんだろう……」とドキドキしました。やっぱり自分の歌が主題歌になるというのは、何回経験しても慣れないですね。自分の声がテレビから流れてくるのも不思議ですし、アニメーションと一緒に流れるときには歌詞とリンクしたような表現をしてくださるので、何回見ても発見があることも驚きですし、これを11回とか耐えられるのかなぁっていつも思っちゃいます。
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