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REPORT

2024.05.21

「この瞬間」にしか生まれない表現を、堪能できた空間――“青山吉能 Birthday LIVE「C’est nickel!」”レポート

「この瞬間」にしか生まれない表現を、堪能できた空間――“青山吉能 Birthday LIVE「C’est nickel!」”レポート

5月11日、横浜ランドマークホールにて“青山吉能 Birthday LIVE「C’est nickel!」”が開催。3年連続となる同会場でのフルバンドを従えた青山吉能のバースデーワンマンライブ、今回もタイトルは年齢の原子番号にちなんだもので、直訳すると「それは完璧だ!」の意を持つスラング。そのタイトルに偽りのない、多彩な表現を通じて様々な感情を観客に抱かせてくれる、2時間弱とは思えないほど濃厚な公演だった。本稿ではそのうち、2部(夜公演)の模様をお届けする。

TEXT BY 須永兼次
PHOTOGRAPHY BY スエヨシリョウタ

“生”を感じる意義がある、この時だけの表現が続々と

ここ1年の声優としての出演作の主題歌を中心とした客入りBGMが流れるなか、開演時間を迎えたところで場内はゆっくり暗転。拍手のなかまずはバンドメンバーがステージに上がり、「空飛ぶペンギン」冒頭のスキャットが響くと青山がステージに登場。スーッと美しくて伸びやかな歌声は、この日の青空を彷彿とさせるような爽やかさと透明感をもったもの。ペンライトの輝きでブルーに染まった客席を目にしながら、笑顔で歌いライブの幕開けを飾ってみせると、「Mandala」ではシティポップ風の楽曲がもつグルーヴ感にしっかり乗って、さらに気持ち良さを滲ませながら歌唱。2サビ明けにはソロパート直前のキーボードをフィーチャーしてみたりと、3年連続のバースデーライブならではの余裕感すら感じられた。

さらに続けたデビュー曲「Page」も、一音目から音源とは違い、やや強めな歌い出しとなっていたのも印象的だったポイント。やはりここにも、すでに楽しさを感じていたという青山の心情が表れていたのだろうか。サビに差し掛かるとさらに歌声のスケール感は増していき、やがて嬉しさを「にじませ」ではなく「放ち」ながらの歌声に。終盤はさらにぐわっと圧力を持たせ、抱えたエモーショナルさを大サビでは隠さず炸裂。“今”の青山吉能の「Page」を、聴かせてくれたように思う。

3曲披露し、最初のMCから「皆さんの心を掴んで離さない、“あれ?気がついたら横浜にいる”みたいな生活をこれから1年送ってもらうんで」と独特の表現で意気込みを表したりと、軽妙なトークでハートを捉える。このMC力も、彼女のライブにおける魅力の1つだ。

そんな雰囲気とは真逆のバラード「ツギハギ」から、ライブは再開。MC中に「1部でエモくなりすぎてしまった」と反省を込めた紹介に続いて始まったこの曲だが、2部ものちに自身で「魔物だった」と振り返るほどのものに。一声目から切なすぎる歌声で観客を惹き込んでいく。あえてかすれさせたファルセットは虚脱感の表現としてドンピシャだったし、徐々に想いが溢れ出していくなかで感じられた歌声の圧とのコントラストも抜群。ドレスの裾を掴みながら感情を放出したDメロなどをはじめ、ただ切ないだけではない、青山吉能の歌声の凄みを堪能できる1曲となっていた。その後奏に雨音がかぶさり、ピアノがインサートするとそのまま「あやめ色の夏に」へ。この日は歌声に少しあどけなさ・子供っぽさが加わり、丸みのある歌声が楽曲冒頭を彩る。「ツギハギ」からの流れも相まって、特に楽曲中盤から後半にかけては憧憬や過去を振り返るようなイメージを強く想起させる、この日だけのストーリーを構成していたような印象。その解釈だと、ラストの「歩き続けよう ずっと」のフレーズがどこか救いのように感じられたのは、筆者だけだっただろうか。

そんな2曲の流れを「このライブでのアレンジがまた違う思い出としてプラスされていくことが、またすごい“ライブ”だなぁと思って、楽しませてもらいました」と振り返ったところで、続いてはバースデーライブ恒例のカバー曲コーナー。まず1曲目として選んだのは、日食なつこの「ログマロープ」。「昨年M-1グランプリに突如ハマってから、PVに使われていたこの曲も何度も聴いた」との選曲理由の説明から、アッパーなナンバーに乗せて一言一言に鋭さや力強さをもたせた歌声を披露。客席からのクラップにも乗って、ソロでの持ち歌とはまた違った魅力・エッセンスをもつ楽曲を、1-Bメロでの尻下がりのロングトーンなどフックも作りながら力をぐっと込めて歌唱。最後はかき回し中に「今夜の優勝は、青山吉能ー!」とシャウトして締め括った。

そして「昼公演はギター、夜公演はピアノ中心」といったカバーコーナーのコンセプトを明かすと、「故郷の、昔の思い出を浮かべながら聴いていただけると」との言葉に続けて、彼女が大好きだという手嶌葵の「明日への手紙」を歌唱開始。椅子に座ってしっとり優しく響かせ始める、ファルセットも効果的に交えながらの美しいボーカルは、とんでもなく胸にしみるもの。落ちサビでのアカペラも、改めてハッとさせられる、それでいて胸にじんわり染み入るものだった。

さてここで、スタッフが登場してミッションを青山に手渡し、観客協力型の謎解き企画コーナーへ。「自分に関する数字の人のいる座席」に隠された最初のヒント探しに悪戦苦闘したり(※正解は事務所名にちなんで”8”列”1”番)、最終課題「指定した列に、3年以内にスキーで滑った人が3人以上いる」の○×クイズでは一度「いない」を選択し失敗するものの、別の列での泣きの1回で「いる」を選択し無事成功。バンドメンバーの「Happy Birthday to You」の演奏と観客からの大合唱を受けた青山に、始まりの曲「たび」にちなんでか、ちょっぴり早いバースデープレゼントとして旅行券5万円分が贈られた。

そうして会場にまた違った一体感がもたらされたところで、「My Tale」からライブ後半戦がスタート。パープルの逆光に浮かび上がるなか、ノビももたせつつ無機質なボーカルワークをもって表現していくと、1サビ後にそのままDメロへと繋がり、さらに徐々に「moshi moshi」間奏のコールがバックに重なってその「moshi moshi」のサビへと塗り替わる。同じく無機質さはありつつもやや甘めに振った歌声を響かせて、この一連の流れの効果的なワンポイントになると、サビ明けには「My Tale」へとカムバック。歌唱部分の組み合わせが、心の中の寂しさや葛藤を感じさせてくる。と、それに続く「Sweetly Lullaby」が、世界を一気に明るく転換させる。歌声や身振りはもちろん、表情変化も含めてウキウキ感を表現。2-Aメロでは歌詞の「ジュエリー」に合わせてアクセサリーを手にして揺らしたり、「揺れるスカート」のフレーズではスカートをつまみながらスピンしたりと、視覚的にもウキウキを伝えていった。

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