アニメ音楽に特化した媒体「リスアニ!」と大阪のラジオ局・FM802のラジオ番組「802 Palette(ハチパレ)」がタッグを組んだ新たな音楽メディア「リスパレ!」。アニメ、ゲームカルチャー、ネットミュージック、そしてそれらの枠を超えた様々なアーティストの魅力を伝える本プロジェクトでは、「リスパレ!チョイス」として、今聴いてほしいアーティストを独自の視点で選出。その第1弾として選ばれた6組のアーティストを積極的に紹介していく。
今回は、“泣きながら”や“感情を沢山込めて”歌ってみた動画で人気に火が付き、2022年11月にメジャーデビューしてからは、TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』のEDテーマを2クール連続で担当するなどアニメファンからも注目を集めるシンガー、こはならむをピックアップ。音楽活動の原点や歌に対する想い、自薦曲、他の「リスパレ!チョイス」アーティストとの接点と交流など幅広く語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――まずはレコメンド企画「リスパレ!チョイス」に選出された率直な感想をお聞かせください。
こはならむ 元々「リスアニ!」さんと「FM802」さんのお名前はどちらも知っていたので、その両メディアがタッグを組んだ「リスパレ!」に選んでいただいて本当に嬉しいです。「リスアニ!」さんは以前に“リスアニ!LIVE”でLiSAさんが歌われているときの映像を観たことがあって。
――そうだったんですね。こはなさんは2019年9月から歌ってみた動画を投稿し始めたとのことですが、当時はどんな気持ちで活動を始めたのですか?
こはな 元々音楽に合わせて感情を表現することが好きで、クラシックバレエを3歳の頃から15年間続けていたのですが、怪我で表現する場がなくなってしまったときに、音楽に何度も助けてもらったんです。SPYAIRさんの「BEAUTIFUL DAYS」という、最初の歌詞が“プラスにもっと変えていける”で始まる楽曲にすごく背中を押してもらって。それをきっかけに、それまでは趣味程度でやっていた歌に本気で取り組んでみようと思って、18歳のときにYouTubeでの投稿を始めました。
――それ以前も歌はよく歌っていたのでしょうか。
こはな 中学生の頃に友達が音楽アプリの「nana」で歌を投稿していて、私も歌うのが好きだったので「nana」での投稿を始めたのですが、やっていくうちにどんどんハマっていって、「ここにハモりを入れたい」とか「(歌を)重ねたい」というのを追求していくうちに、本格的にやるのもありだなと思うようになって。それで使っている人が多くて、憧れのSouさんや鎖那(sana)さんも投稿されていたYouTubeでの投稿を始めました。
――音楽はどのようなジャンルのものを聴いてきたのでしょうか。音楽のルーツや影響を受けたアーティストを聞いてみたいです。
こはな 子供の頃に初めて覚えた曲は槇原敬之さんの「どんなときも。」で、物心がついて音楽をもっと楽しみたいと思い始めたのは、美波さんの曲や、ヨルシカのn-bunaさんがボカロPとして個人名義でやっていたときの音楽でした。音楽によりのめり込んだのはボーカロイドの曲だと思います。影響を受けたという意味では、感情表現に関してはSouさんが歌う「心做し」(蝶々P)を聴いて「こんなに感情を込めて歌っていいんだ」ということに気付かされましたし、さっきお話ししたSPYAIRさんの「BEAUTIFUL DAYS」が前を向くきっかけになって。ヨルシカのsuisさんからも歌の表現で色々影響を受けています。
――ボカロ音楽のどんなところに惹かれたのでしょうか。
こはな まずベースとしてボーカロイドが歌っている原曲があると思うのですが、そこから派生して色んな歌い手さんが自分なりの表現をされて、1曲だけでも色んな楽しみ方や発見があるところです。
――歌ってみた活動を行うなかで転機になったこと、自分らしい歌を確立したきっかけがあれば教えてください。
こはな YouTubeで活動するからには全力で頑張りたかったので色々試行錯誤しながら歌を投稿していたんです。週に2回投稿したり、実写の動画の投稿を始めたり。そのうちの優里さんの「ドライフラワー」と蝶々Pさんの「心做し」のカバー動画をきっかけに、海外を含め想像していた何百倍の方に歌が届くようになって。たくさんの曲を歌わせていただくうちに、自分はどんな歌を届けたいか、どんな歌を歌いたいか、どんな歌い方が私の歌声に合っていて求められているのか、どんどん確立していきました。今は中国のbilibiliという動画サイトでも投稿を始めて、中国の方にもたくさん聴いてもらえるようになって、本当にありがたいです。
――こはなさんはどんな歌をうたっていきたいのですか?
こはな 私は元々ネガティブに考えがちな人間で、バラードをよく歌っていたんです。「心做し」もそうですけど「わたしのアール」(和田たけあき)だったり、「天ノ弱」(164)だったり。そういう楽曲を歌った動画のコメントを見ていると、「歌で救われました」と言ってくださる方や、自分の人生を語っている方が結構いて。そういうのを見ているうちに、「私はこういう人たちの心の助けになれればいいな」と強く思うようになりました。求められているのであればどんどん歌っていきたいです。
――答えるのが難しいかもですが、自分自身の歌のどんな部分が、色んな人にとっての救いになっていると分析しますか?
こはな 私は歌や楽曲に対して感情移入するタイプで、動画に“泣きながら”というタイトルが付いているものは、別に泣こうと思って泣いているわけではなくて、泣いてしまったものを投稿しているんです。そういう動画のコメントでよく見るのは、「代わりに泣いてくれているように感じる」というもので。ほとんどの人は家で大声で歌うことはできないと思うので、私が代わりに泣きながら歌えたら、という気持ちはあります。
――“泣きながら歌ってみた”シリーズは、演出で泣いているのではなくて、実際に泣いてしまったことで生まれた動画だったんですね。
こはな はい。“泣きながら”は「ドライフラワー」が最初だったのですが、そのときに初めてレコーディング中に泣いてしまったんです。でも「逆にこれもいいかも?」と思って投稿してみたら、たくさんの方に反応してもらえて。「これでもいいんだ」と思えました。
――“感情を沢山込めて歌ってみた”シリーズもありますが、こはなさんは感情に任せて歌うタイプですか?それとも歌のプランをしっかりと組み立ててから歌うタイプでしょうか。
こはな それで言うとどちらもだと思います。私は歌詞を覚えるのが苦手なんですけど、それをポジティブに考えると、毎回歌詞を読むたびに初めて読んだみたいな気持ちになれることだと思うんです。それに加えて、歌ってみた動画のレコーディングは自分の家でやっているので、何回でも録り直せるんですよ。それこそ眠くなるまで(笑)。なので「ここのフレーズはもう少しこういう歌い方ができるんじゃないか」ということを考えながらレコーディングしていると、1日で終わらなくて、2~3日かけることもたまにあります。一言をレコーディングするために50回くらい歌い直すこともざらにあって。
――すごいこだわりですね。それだけ楽曲ごとに表現したいビジョンが浮かぶということでしょうか。
こはな そうですね。それとこれは色んなボカロを聴いてきたからかもしれないですけど、J-POPの楽曲をカバーするときも原曲をたくさん聴いて覚えた後に、その曲の歌ってみたやカバー動画をさらに聴いて「この人のこの部分を吸収してみよう」ということを考えたり、日々色んなものを吸収しようとしています。
――研究肌なタイプなんですね。では、音楽活動を通してリスナーに伝えたいこと、“歌”や“音楽”で表現を行うにあたって大切にしていることはありますか?
こはな 私は大勢の方に向けて歌うイメージではなくて、ずっと1人の“あなた”に向けて歌をうたっていて。ライブの場でも“あなた”に届けたいという気持ちは変わらないので、それが伝わればいいなと思いながら歌っています。
――そういったスタンスの源泉にはどんな想いがあるのでしょうか。
こはな 私はみんなで楽しむために音楽を聴くというより、1人で苦しいときや、気分を上げたいときに聴くことが多いので、それが理由かもしれないです。それにYouTubeのコメントを見ていても、きっと1人で聴いてくれているんだろうな、と思うことが多いんですね。なのでその方に向けて、“あなた”に対して歌う気持ちはずっと頭の中にあります。
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