INTERVIEW
2024.05.14
作曲家・澤野弘之のプロデュースにより2022年4月にデビュー、エモーショナルかつ深みのある歌声で作詞も手がけるマルチな才能をもち独自の世界観を構築しているシンガー、SennaRin。待望の1stアルバム『ADRENA』もまた、澤野が全曲の制作・プロデュースを担当し、聴き手のアドレナリンを引き出す鮮烈な歌とサウンドが詰まった一枚になった。TVアニメ『BLEACH 千年血戦篇』のEDテーマ「最果て」、suis(from ヨルシカ)が共作詞・歌唱で参加した「vous」、ダークな側面をより強く打ち出したリード曲「mЁЯR0r」――この2年の活動の集大成にして今後の活動の指針となるであろう本作について、SennaRinと澤野が語り合う。
INTERVIEW BY TEXT BY 北野 創
――まず澤野さんに質問です。この2年、SennaRinさんのプロデュースを手がけてきたなかで、どんなところに変化や成長を感じますか?
澤野弘之 歌の部分に関しては、元々声を魅力に感じて一緒にやりたいと思ったので、偉そうに言えることは何もないのですが、この2年でアプローチの幅が広がったように感じています。話をしたり制作のやり取りをしていくうちに「こういうこともできるんだ」と気付くことも多かったですし、それをお互い確認して広げてきた感覚があって。ただ、最初の頃は自分も探りながらプロデュースしていた部分があったんですね。例えば、彼女自身がデビュー前にYouTubeにアップしていたカバー動画を踏まえるならばバラードを、年齢的に若いことを考えるとポップで明るい部分を押し出したほうがいいのかな、とか。でも、本人はもっとミステリアスでダークな音楽、かっこいい音楽が好きなんですよ。
SennaRin はい。澤野さんとは普段から好きな音楽とか映画の話をするんですけど、私は暗い音楽が好きでその中でもバラードばかり聴いていた時期もありましたし、映画に関してもグロテスクなものだったり、地球が滅亡したり、バッドエンドで終わるものが好きで。歌詞もバッドエンドでいいと思うような人なんです。
澤野 打ち合わせで、自分が理想としているアーティストについて聞いたときも、シーアやビョークのように少し暗い世界観を持っているアーティストの名前を挙げていたので、実はそういうところをやりたいのかなということに、この2年間一緒にやっていくなかで改めて気付いて。僕も好きな音楽や映画は暗いものが多いですし、劇伴の仕事でもダークやサイバーな雰囲気の音楽をたくさん作ってきたので、そういった自分の好みをお互い自然にぶつけていけば新しいものができるんじゃないか、と思ったんですね。それが今回のアルバムを制作するにあたって意識したことで、ある意味、このアルバムが本当の意味でのスタートになった面もあります。それまでは、序章ではないですが、自分も探っていた部分があったので。
――なるほど。Rinさんはこの2年の活動を振り返って、アーティストや表現者として意識の変化はありましたか?
SennaRin クリエイティブへの積極性は増えたと思います。どんなことをやりたいのかを自分から口にするようになりましたし、アートワークに関しても常に頭の中で考えていて。他にも今回のアルバムの1曲目に収録されている「ADRENA」は、私から澤野さんに「自分の声だけで構築された楽曲をやってみたいです」と提案して作っていただいた楽曲になります。
――自分の中にあるビジョンやアイデアを具体的に形にできるようになったと。
SennaRin それともう1つ、ライブを大事にしたいと強く思うようになりました。私はデビューするまで1度も人前で歌ったことがなかったのですが、この2年間、海外を含む色んな場所でたくさん歌わせていただくなかで、音楽を好きな人が集まった空間でみんなと一緒に音楽に向き合って、歌を直接届けることの大切さに気付いて。ワンマンライブもこれまでに3回やらせていただいたのですが、そこでもどういうことをやっていきたいかを澤野さんに相談しながら作ってきました。
澤野 基本的にステージに関しては、本人がお客さんと向き合うことなので、何か気付いたことがあれば口にするくらいですが、プログラムは自分が考えたりしていますね。ライブパフォーマンスに関しては、初めて観たときと今とではだいぶ違っていて、回数を重ねてきたことによる進化を感じています。
――ワンマンで弾き語りに挑戦したのは澤野さんの発案だったらしいですね。
SennaRin はい。去年はピアノの弾き語り、今年はギターの弾き語りをやりました。前回のライブ(「SennaRin 3rd ONE MAN LIVE“Land of NOD”」)の冒頭で「melt」をアカペラで歌ったのも、澤野さんから「やってみればいいじゃん!」と言われて(笑)。「ええっ!そんな……」と思うこともありますけど、できることはチャレンジするようにしています!
澤野 ただ歌うだけでなく、色んな一面を持っていることをお客さんに知ってもらうのもいいことだと思うんですよね。ステージの演出的にもフックになると思いますし。まあ自分がやるわけではないので、無責任に「やってみればいいじゃん!」と言っています(笑)。
――作詞という面に関してはいかがでしょうか?
澤野 最初の頃は歌詞をしっかり書けるのかわからない部分もあったので、cAnON.にも入ってもらうようにしていたのですが、実際に書いてもらったら言葉の選び方や繋げ方、世界観の構築の仕方が独特で面白かったんですよね。なおかつ、僕が重要視しているサウンド的な響きや音のハメ方に関してもちゃんとかっこよくハメてくれる。これは元々持っているセンスなんだと思います。英詞に関しては今もcAnON.に助けてもらう部分はありますが、すごくいいと思います。
SennaRin 澤野さんのメロディに歌詞を当てはめるのは言葉選びが難しいんですけど、「NOD」のときに「英語や日本語を組み合わせた言葉でもいいんじゃない?」と言ってくださったことで、正解はないし何でもありなんだと思えるようになって。そこからさらに世界を広げられるようになって、楽しく作詞しています。
――Rinさんの書く歌詞はデビュー当初から世界観がしっかりと構築されている印象ですが、元々歌詞や詩を書くことに興味はあったのですか?
SennaRin いえ、自分には文才はないと思うし、詩も書いたことはなかったのですが、昔からコンセプトを考えることが好きで、カフェでサウンドトラックを聴きながら、この世界にはこういう人がいてこういうことを考えている、みたいなことを想像するのが好きなんです。多分そういう部分が活きているんだと思います。
――今回の1stアルバム『ADRENA』に関しては、どのようなコンセプトで制作を進めたのでしょうか。
澤野 僕は元々アルバムにコンセプトを持たせて作ることはあまりなくて。ただ、きっかけとしては、ワンマンライブをやるにしても曲数の関係で[nZk]やサントラの楽曲のカバーをしてもらうことが多かったので、SennaRinの楽曲だけで構成したライブをやりたくてアルバムの制作に取り組んだ部分もありました。なので、SennaRinのライブに集まるお客さんはどういう音楽を求めているか、それを見せられるアルバムにしたいと思っていました。それは先ほどお話ししたサイバーやダークという部分もそうですし、僕としては海外のダークなアニメや映画のエンディングでかかるようなかっこいい音楽を彼女と突き詰めたいという気持ちもあって。
――それは例えば?
澤野 Netflixの『アーケイン』というアニメに一時期ハマっていたのですが、その挿入歌やEDテーマのような世界観を彼女と構築していければと思っています。それは[nZk]で当初やっていたことでもあるのですが、[nZk]はその時々でポップなものや色々なことに挑戦する形になっているので、SennaRinのプロジェクトはその方向を突き詰めて、日本だけでなく海外の方にも刺さるような音楽を発信していきたい思いがあって。特にアルバムの前半は「SennaRinはダークな方向性でいくんだ」ということをわかってもらえるような作りを意識しました。
SennaRin 私もそういう音楽が好きですし、そういう世界を想像するのも大好きなので、澤野さんからいただいたデモを聴いたうえで、1曲1曲に向き合いながら、かっこいい歌詞にしたいなと思いながら歌詞を書きました。前に立って牽引していくような歌詞が多くなったと思います。
――ここからは新曲を中心にお話を聞いていきます。アルバムの1曲目「ADRENA」は、先ほどお話しされていたようにRinさんの“声”のみで構築された楽曲。
SennaRin 自分がそういう楽曲を聴くのが好きで、私もやってみたかったのもありますし、声を強みにしていきたいので、澤野さんにお願いして作っていただきました。
澤野 これまでも山下達郎さんをはじめ色んなアーティストの方が、楽器を使わず声だけで構成した楽曲を作られてきたと思うのですが、僕が作るのであればアカペラのハーモニーを重ねてフワッと聴かせるコーラスみたいな楽曲というよりは、シーケンスで構築した後ろのフレージングがメインのメロディの聴こえ方に作用するような音楽の作り方を“声”の素材だけでできればと思って。あとはアルバムのイントロダクション的な楽曲になるので、そこで全体の雰囲気が伝わるように、声のみだけどダークな雰囲気、暗いけど後半は力強くなる感じを意識しました。
SennaRin 歌詞に関しては、サビとラップの部分は新たに制作したのですが、A・Bメロの部分はこのアルバムに収録されている楽曲の歌詞を少しずつ引用して組み立てていて。その意味でもイントロダクションの役割を果たしている楽曲になっています。
――ちなみにアルバムタイトルにもなっている「ADRENA」という曲名の由来は?
澤野 これはたしかアルバムのタイトルをどうするか話していたときに、自分が“アドレナリン”というワードを出したんですよ。歌っているときはアドレナリンが出ると思いますし、彼女は普段からテンションが高いので「いつもアドレナリンが出ている感じだよね」みたいなことを冗談で言っていて(笑)。そこから“リン”を取って“アドレナ”にすれば響き的にも面白いかな、ということで決まりました。
SennaRin “リン”を抜いたのは“アドレナ”という響きがいいからだったのですが、結果的に私の名前と同じ“リン(凛)”の部分を抜いた形にもなって。エナジーも感じられるし私もピッタリのタイトルだと思います。
――それとアルバムの締めに収録されている「AND/ARE」は、この楽曲と対になっているような内容ですよね。
SennaRin はい。タイトルもアナグラムになっていて。不協和音や不気味な音がたくさん入っていて挑戦的な楽曲になりました。
澤野 アルバム全体をループして聴いてもらうと繋がっているような聴こえ方になればいいなと思って、「ADRENA」のトラックをベースに、コード進行は多少変えているのですがピアノを入れたり、Rinちゃんに語りも入れてもらいました。最初に出したEP(『Dignified』)もイントロとアウトロの曲(「Dignified-IN」と「Dignified-OUT」)を同じような形で作って、それを彼女のライブのイントロダクションとエンディングにも使っているんです。なので今後のライブでは「ADRENA」と「AND/ARE」をそういう位置づけの曲にできればと考えています。
――語りのパートでは感情を乗せて演技のようなこともされていますよね。
SennaRin 「ADRENA」の歌詞を朗読しているのですが、喜怒哀楽の感情表現がそのまま入っています。被せの収録をしているときに私が間違えて笑ってしまったのを聞いて、澤野さんから「喜怒哀楽を表現してみて」と言われて。その順番通り表現したあとに、締めで叫びました(笑)。
――アルバムのリード曲となる「mЁЯR0r(ミラー)」はどんなイメージで制作した楽曲ですか?
澤野 実はこの楽曲は彼女とのプロジェクトを始めるにあたってプリプロ用に作った楽曲のうちの1つで、彼女とハマりが良かったし個人的にも気に入っていたので、いつか良いタイミングで出せたらと思って温めていたものなんです。ただ、あまり寝かせてしまうとサウンド的に楽曲としての鮮度が落ちるので、アルバムのリード曲として出すことにしました。歌は録り直しています。
SennaRin 私もすごく大好きな曲で、プリプロ用に録ったミックス音源をこの2年間ずっと繰り返し聴いていたんです。歌詞は“ヴィラン”“悪者”にフォーカスを当てていて。この楽曲のデモを聴いたときに叫んでいるイメージが浮かんだのですが、それは絶対にヒーローではないなと思ったんですよね。沸々としてやっと出てきた感じの叫びだと思って。サビの“ハッピーエンドの続きを 誰もが知らない”という歌詞は「ヒーローが世界を救ったハッピーエンドだけど、その続きは……」みたいなイメージで書きました。当時、この歌詞を書くためにヴィランの映画をたくさん観て、『ジョーカー』のスピーチをするシーンの言葉をそのまま引用している部分もあります。
澤野 Rinちゃんはヒーローよりも悪役に惹かれるイメージがあるよね。ヒーローの場合もダークヒーローが好きそうな感じがする。
SennaRin はい。大好きです。
澤野 それとプリプロ当時、『アリータ:バトル・エンジェル』という映画のエンディングでデュア・リパが歌っている「Swan Song」に通じるものをこの楽曲に感じた、とRinちゃんに言われたのを覚えています。
――歌は録り直したとのことですが、がなり系のアプローチをされていて、今までの楽曲でも一番アグレッシブな歌い方をされている印象です。
SennaRin この曲は元々私の声に合っている感覚がすごくあったのですが、今回録り直したことで、これまでの活動で培ってきたこと、澤野さんに褒めていただいて気付いたがなりの良さを出すことができたと思います。でも、実はダブルになっているもう一方の歌声は2年前の歌をそのまま残しているんです。
澤野 そうそう。昔のSennaRinと今のSennaRinの声が混ざるのも面白いなと思って。当時歌ってもらったときも、この曲にはがなる要素が合ってかっこいいと思ったんですけど、そこから色んな曲を歌っていくなかでより激しいアプローチを掴んだと思うので、もう1度レコーディングした意味があったと思います。以前の歌のままだとこの2年での変化を感じられなかったと思うので。
――しかも楽曲名が“ミラー”なので、2人の自分がいるようなイメージにも繋がりますよね。
SennaRin 意図せず“善の私”と“悪の私”みたいな声になっていて。
澤野 じゃあ今は悪じゃん(笑)。前はピュアだったけど、今は世間に揉まれて黒く染まってしまったっていう。
SennaRin 2年分くらい闇落ちしました(笑)。
――アハハ(笑)。この楽曲はMVも制作されていますね。
澤野 監督の谷さんと相談しつつ、CGを使って未来感やSF感のある映像にしていただきました。Rinちゃんがやってみたかったことにも挑戦していて。
SennaRin 色んなものをバーッと浮かせるイメージがあったので、そういう映像をCGで作っていただきました。それと澤野さんが初めて私のMVに出てくださって。ミラーの中にいるラスボスとして出演しています(笑)。
澤野 Rinちゃんはヴィラン的な位置づけなんですけど、その裏にもう1人いるボスが僕という設定みたいです(笑)。
――「vous(ヴー)」はヨルシカのsuisさんをフィーチャーした楽曲で、2人で歌っているほか歌詞も共作されています。澤野さんは以前にもSawanoHiroyuki[nZk]の楽曲「B∀LK」(2023年)でsuisさんとご一緒されていましたね。
澤野 ヨルシカの2人とご飯に行く話になって、せっかくなのでRinちゃんも誘って4人で食事したんですよ。そのときにsuisさんとRinちゃんが仲良くなって、2人で連絡してやり取りするようになったみたいなんですけど、そもそも彼女は前からヨルシカの楽曲を聴いていてリスペクトしていたという話から、今回のコラボに繋がりました。
――楽曲自体はどんなイメージで作られたのですか?
澤野 実は僕が[nZk]でsuisさんに歌ってもらうとき、バラード調とダンサブルな曲の2曲を提出して選んでもらったんですよ。僕はてっきりバラードを選ぶだろうなと思っていたのですが、ダンサブルな方を選ばれた結果、生まれたのが「B∀LK」で。ただ、suisさんはもう一方の曲も歌ってみたかったというお話だったので、今回、その曲を使うことにしました。
SennaRin お食事したときにも「もう1つの曲も歌姫になれそうな感じで素敵でした」というお話をされていたんですよ。歌詞はまず私が全部書いたうえで、それをsuisさんにお渡しして、好きなところを書き変えてもらう形でお願いしました。
澤野 元々は2番の歌詞をがっつり変えてほしいという話をしていたのですが、suisさんが彼女の書いた歌詞をすごく良いと思ってくれたみたいで、書き変えられそうな部分を選んで書いてくれた感じです。
SennaRin 「何も変えたくないです」と言ってくださって。2番の“乞う”や“祈りを抱いて”、その後の“どれだけ出会い直して 罪が重なってしまっても 揺れてぼやけるくらい”の部分、あとは“数ある清廉な願いと相反した 青に眩んだ赤 二人は悪に非ず”のところはsuisさんが書いてくださったもので、1つ1つの言葉選びにsuisさんらしさを感じました。元々私がこの楽曲で想像していた世界にも切なさみたいなものがあったのですが、suisさんの言葉が加わることによって、その世界の層がもっと広がって、より切なくなりました。
澤野 他にもミラクルがあったよね。
SennaRin 私は歌詞を書くときにその楽曲のテーマに合った映画をたくさん観るんですけど、この楽曲は澤野さんに「ラブソングがいいんじゃない?」と言われて初めてラブソングを書くことになったので、「恋を学ぼう!」と思ってそういう作品をいくつか観ていたんです。そのなかでも『今夜、世界からこの恋が消えても』という映画を参考に歌詞を書いたのですが、その作品の主題歌(「左右盲」)を担当していたのがヨルシカさんだったんです!
澤野 で、suisさんがRinちゃんの歌詞を見たときに、「この歌詞、自分たちが過去に主題歌を担当した映画を思い出します」と言ってくださって。
SennaRin その映画を参考に書いたとはsuisさんに話してなかったので驚きました!奇跡です。
――お二人の歌声もすごくマッチしていますよね。
SennaRin suisさんと私は全然違うタイプの歌声だと思うんですけど、サビの重なり合うところで溶け合って聴こえる部分があって。suisさんもレコーディングのときに「全然違うのに不思議だね」とおっしゃっていました。
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