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INTERVIEW

2024.05.12

楠木ともり、自身も出演するアニメ主題歌でL’Arc~en~CielのTETSUYAと共演!こだわりを詰め込んだニューシングル「シンゲツ」に迫る!

楠木ともり、自身も出演するアニメ主題歌でL’Arc~en~CielのTETSUYAと共演!こだわりを詰め込んだニューシングル「シンゲツ」に迫る!

2023年に待望の1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』をリリースし、ツアーも大成功を収めるなど、ますますアーティストとしての存在感を強めている声優の楠木ともりが、2024年最初の作品となる1stシングル「シンゲツ」を完成させた。自身も声優として出演するTVアニメ『魔王学院の不適合者Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』2ndクールのEDテーマとなる本楽曲は、彼女がかねてよりファンを公言するL’Arc~en~CielのTETSUYAが作曲し、楠木自身が作品のテーマ性に合わせて作詞を行った、いくつもの特別とこだわりが詰まったナンバー。“月”のように神秘的で深く美しい光を放つ、楠木ともりの新しい世界に迫る!

INTERVIEW BY TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 小島マサヒロ

自分の願いを自分の意志で叶える――“新月”に託した想い

――『魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』(以下、『魔王学院』)とのタイアップは今回で2度目になりますね。

楠木ともり そもそも当初は2期の予定はなくて、皆さんの応援によって2期の制作が決まった作品なので、そこからの巡り合わせでもう一度歌わせていただけるのはすごく光栄ですし、お話しをいただいたときはすごく嬉しかったです。ただ、1期のEDテーマだった「ハミダシモノ」のときに『魔王学院』で自分が伝えたいものを全部詰め込んだので、「今回はどうアプロ―チにしていこう……?」という気持ちもあって。

――作品サイドからはどんな楽曲にしてほしい要望があったのですか?

楠木 「ハミダシモノ」のように、EDテーマだけどアップテンポな楽曲というリクエストをいただいて。ただ、「ハミダシモノ」はどちらかというと主人公のアノスを中心に描いた楽曲で、歌詞も力強さを意識したのですが、今回の2ndクールのシナリオを読ませていただいたときに、1期の頃よりもアノス以外のキャラクターにフォーカスが当たることが増えて、なおかつみんなアノスの力を借りるのではなく、アノスと話をしていくなかで自分自身の意志で何かを決めていく印象があったんです。「自分の過去を受け止めて、自分の意志をもって決定していく」というメッセージを、アノスも大事にしつつ、それよりも広い視点で歌詞として書くことに決めました。

――となると「ハミダシモノ」とはアプローチも変わってくるわけですが、今回の楽曲の最大のトピック、楠木さんが以前から大ファンを公言しているL’Arc~en~CielのTETSUYAさんに楽曲をお願いしたのは?

楠木 私にとって大切なメジャーデビュー作に続く『魔王学院』とのタイアップということで、自分の中でより大事な楽曲にしたい思いがあったので、ダメ元でTETSUYAさんのお名前を出させていただいたんです。それで共通の知り合いのスタッフの方に繋いでいただいて、お願いをしてみたところ、まさかのOKをいただけて……本当に特別な楽曲になりました。

――先ほどお話しいただいた作品のテーマ性を楽曲で表現する意味でも、TETSUYAさんであればマッチしたものを書いてくれるイメージがあったのでしょうか。

楠木 それはすごくありました。今回のストーリーは全体的に切なさや儚さがあって、“月”が重要なモチーフとして登場したり、記憶が関わってくる内容なんです。なので「ハミダシモノ」ほどロックな感じではないほうがいいだろうなと思って。TETSUYAさんは色んな楽曲を書かれていて、私の中では美メロといえばTETSUYAさんという印象なんですけど、その中でも少し切なくて泣けてきちゃうような、ドラマチックなメロディラインだけどテンポはゆっくりすぎない楽曲が大好きなんです。そのラインの楽曲を作っていただけたら絶対に良いものになるという確信がありました。

――TETSUYAさんが書いたラルクの楽曲といえば、TVアニメ『鋼の錬金術師』のOPテーマだった「READY STEADY GO」などがありますが、楠木さんが個人的に好きな楽曲を挙げるとすれば?

楠木 たくさんありすぎて選べないです(笑)。「Pieces」もすごく美メロだと思いますけど……切なさという意味で最初に浮かぶのは「砂時計」ですね。割と激しめなサウンドなのですがメロディには切なさがあって、でもバラードとは言えない、すごいバランス感の楽曲でとても好きです。

――その他にはどんなことをお願いしましたか?

楠木 いえ、あえてあまり細かいお願いはしませんでした。でも、最初にデモをいただいたときから、TETSUYAさんが私が歌うことを想定して楽曲を書いてくださったことをすごく感じました。ピアノやキラキラするウワモノがすごく華やかで、でも切なさもある感じが、すごく私に寄り添っていただけている印象があって。そこからサウンド感に関して、打ち込み系とバンド系のどちらでいくかをアニメ側ともお話ししながら決めていきました。

――それで言うとこの楽曲はデジタルの要素が結構入っていますよね。ベースもシンセベースですし。

楠木 はい。強めのバンドサウンドを試していただいたりもしたのですが、実は原作の秋先生からも儚い雰囲気の歌にしてほしいというリクエストもあったので、それであればバンドサウンドだと少し重すぎるということで、キラッとした雰囲気を入れていただいて今の形にまとまりました。

――TETSUYAさんはソロ名義だと打ち込み系の音もよく使われていますしね。楽曲からTETSUYAさんらしさを感じた部分はありましたか?

楠木 すごくありました。まずベースが動きまくっていてドライブ感がさすがだと思いましたし、最初にいただいたデモはTETSUYAさんが仮歌を歌われていたんですよ。お話しによると、ラルクのときも自分で書いた曲のデモでは自分で歌われているらしいのですが、私はそのことを知らなかったので、デモを聴いたらご本人の声が入っていてびっくりしました(笑)。正直、その時点でいい意味でやられてしまって、「自分のものにできるのかな……?」という不安と「自分のものにしたい!」というポジティブでワクワクな気持ちが混ざって、ぐちゃぐちゃでした(笑)。

――そこから作品の内容やテーマに寄り添って歌詞を書かれたと思うのですが、どんなことを意識しましたか?

楠木 まず、楽曲的に大きく動くメロディで音符の数が少ないので、歌詞の言葉数もどんどんそぎ落として、どういう言葉を選べばより鮮明なものになっていくか、という作業を大事にしました。それと「ハミダシモノ」のときはメッセージ性に重きを置いて、気持ちを言葉にしていく感じだったのですが、今回の「シンゲツ」に関しては、それもありつつ、情景描写にこだわっています。アニメにも登場する“月”や“雪月花”の描写、キャラクターの表情が映像として浮かぶような言葉選びを心がけました。「ハミダシモノ」はアノスが先頭に立って引っ張っていくイメージだとしたら、「シンゲツ」は背中からそっと押してくれるアノス、というイメージで考えていて。

――それも今回の2ndクールの物語にリンクしたポイントなのでしょうか。

楠木 あまりお話しするとネタバレになってしまうのですが、今回はアノスが絶対的な存在になれない瞬間というのがあって。そもそもアノスの記憶が抜け落ちているところから始まって、今まではすべてを知っていて、何でもどうにかしてしまうアノスだったのが、逆に不確定要素になるんです。その「これって大丈夫なの?」というドキドキハラハラ感が2ndクールの面白いポイントだと思うので、絶対的な強さまではいかないけど、でも、たしかなものがある言葉選びをすごく意識しました。

――なるほど。あとこれは個人的な感想ですが、「ハミダシモノ」と比べると「シンゲツ」はより女性的な強さやしなやかさを感じました。

楠木 もしかしたら今回はアノスだけでなく、2ndクールから登場するアルカナというキャラクターのことも意識しながら歌詞を書いたので、そういう印象が生まれているのかもしれないです。平歌(A・Bメロ)の部分でアルカナの不安を歌って、サビでアノスとして導いてあげるイメージで、平歌の疑問に対してサビで答えてあげるような構成になっています。

――アルカナが今回のキーパーソンになっているんですね。2ndクールの1話目(第13話)は、アノスと創造神ミリティアが“創造の月”の下で語り合う回想シーンから始まりますが、タイトルの「シンゲツ」もそういった“月”のモチーフを意識して付けたのでしょうか?

楠木 「シンゲツ」は月が真っ暗な状態の“新月”と心に月と書く“心月”から取っていて、なので表記は片仮名にしました。とはいえメインは“新月”のほうで、“新月”に願いを託すと“満月”に移り変わる過程で願いが叶うという言い伝えがあるらしいんです。今回のアニメのお話しも、絶対叶わないと思っていた願いを捨てきれない、自分の理想を叶えるために決心するキャラクターがたくさん登場するので、みんなの「自分の願いを自分の意志で叶える」スタート地点という意味で、このタイトルにしました。

――そういった月の満ち欠けを色んな想いと重ねられる歌詞が秀逸ですし、サビの“君の華咲かすのは 君が知る 記憶の涙(カケラ)”といったフレーズも印象的です。“記憶”というのは“過去”に紐づくものですが、そういった“過去”が自分自身の証明になることを歌っていて。

楠木 これは「ハミダシモノ」の頃から変わらずあるものだと思うのですが、『魔王学院』という作品自体に“過去”や自分が生きてきた時間を肯定してあげるようなセリフが多い気がしていて。この作品の登場人物はみんな過去に失敗を経験していて、それこそ世界をおびやかすような大失敗をしているキャラクターがたくさんいるんです(笑)。それをアノスが「忘れろ」とも「受け止めろ」とも言わず、「でもそれがお前自身だろ」と言ってくれるシーンがたくさん出てきて。そのメッセージ性を私も楽曲として届けられたらと思っていたので、実はこの楽曲の歌詞を提出するときに、秋先生にお手紙を書かせていただいたんです。

――そうだったんですね。

楠木 自分の意志や願い、「こうしたい」とか「こうなりたい」という気持ちは、“過去”がないと生まれないものだと思うんです。過去に失敗をしたからこそ「次こそは!」と思えるし、新たな決断ができるのが私たち人間だと思っていて。そう考えると、辛い記憶や失敗、忘れたいことも実はすごく大事なもので、それをないがしろにしたり、目を背けるのではなく、その経験そのものも自分自身なので、過去の自分を肯定してあげられたらいいんじゃないか。そういうことをお手紙に書かせていただきました。

――その想いを象徴するのがサビのフレーズというわけですね。ちなみに楠木さん自身も“過去”のことを顧みながら前に進むタイプですか?

楠木 そうだと思います。私はそもそも失敗が苦手で、結構引きずってしまうタイプなんです。済んだことなのにグルグル考えてしまって捉われがちなんですけど、色々な経験をしていくうちに、ただ捉われていると苦しくなってしまうので、それを糧にして強くなろうと思うようになって。職業柄、失敗や後悔することが多くて、例えば「あのときこういう演技ができたのに……」と思ったりするんですけど、でもそれがあるから「次のときはこういう演技をしてみよう」と思えるんですよね。どうせ過去に捉われるのであれば、結果的に良い形になるよう捉われてみようと、だんだん意識的に思うようになりました。

――意識的、なんですね。

楠木 はい。最初は苦手で、苦しいし、しんどいし、本当に見たくないと思って。「過去に捉われるのは良くない!」と思ってそれを止めようとしたときもあったんですけど、自分には合わな過ぎて無理でした(笑)。忘れようとしても忘れることができなくて、結果、「ああ、また気にしちゃっている……」ということが気になり始めて(苦笑)。だったらいっそ向き合おう、と思うようになりました。

――楠木さん自身の“過去”との向き合い方も投影された楽曲でもあると。歌ううえでこだわったポイントもお聞かせください。

楠木 「ハミダシモノ」くらいキーが高い曲なので、最初は張って歌う予定だったのですが、秋先生からの儚い歌い方というリクエストがあったので、プリプロを何度か重ねて新しいバランスを模索しました。特にサビは、芯はあるけど強すぎない感じ、息を混ぜて切なさが出るようにバランスを取るのが難しかったです。「ハミダシモノ」みたいに自分の気持ちをガッと出すというよりも、自分の過去を見つめているような歌詞でもあるので、ちょっと後ろ髪を引かれているような歌い方にしたくて。でも最終的には前向きに持っていきたかったので、切ない方向に持っていきすぎると気持ちが負けてしまう感じになるし、強すぎるとこの歌詞の意味がなくなってしまうし……バランスが難しい歌詞を書いてしまったがゆえの苦労がありました(笑)。しかもキーは高いので、裏声と地声の選択を含めて今まで以上に緻密に歌い方を練って、多分、これまでにない歌い方になったと思います。

――ファルセットを織り交ぜるようなアプローチが素晴らしいです。ちなみに楠木さんは本作のヒロインの1人、ミーシャ役で出演もされているわけですが、この楽曲にミーシャを重ねられる部分はありますか?

楠木 私が頭に浮かびやすかったのは2Aの歌詞ですね(“明日のこともわからないくせに 生まれた意味だけ探して 忘れられた遥かな希望も 僕のすぐそばにあるのかな”)。1期ではミーシャとサーシャの2人が、自分が生まれた意味を見つけることがテーマになっていて、ミーシャはアノスに助けてもらったことで、2期になった今はすぐそばにある幸せをたくさん感じられていると思うんです。なので、この2Aの部分、未来への希望の導き役として「希望はあるよ」と温かいアンサーを届けられるのはミーシャなのかなと思っていました

――めっちゃいい話じゃないですか。

楠木 ありがとうございます(笑)。ここの部分は歌詞だけ見ると切ないんですけど、少し温かさも入れた歌い方をしていて。そこはミーシャに引っ張ってもらった部分もあると思います。

――MVのお話もお聞かせください。

楠木 あまり声を大にして言えないですけど、今回はビューティー系に挑戦しました(笑)。今までのMVは顔をはっきりと映さなかったり、カットがバババと切り替わる感じだったので、ここまで寄りで顔をしっかりと映すMVは初めてで。楽曲自体がきれいで煌びやかだけど儚い感じで、今までの楽曲との違いをすごく感じていたので、MVでも新しいことをやってみました。

――憂いを帯びた表情が素敵で、月のシーンなども含めてどこか神秘的で美しい映像に仕上がっています。撮影はいかがでしたか?

楠木 山奥にある廃墟で朝から夜までかけて撮影したのですが、時期が1月だったのでとにかく寒かったです(笑)。風もすごいし、廃墟なので暖房がバスにしかなくて。あとは今まで以上に顔が映ることの恥ずかしさもあったんですけど、壮大な雰囲気にしたかったので、特にサビの動きは意識しました。このMVを撮影してくださった青木監督は、毎回、動きを明確に伝えてくださって、しかもあまりカット数を撮らないんです。なのでなるべく無駄なカットがないように、1つ1つ集中して撮りました。

――衣装はCDのジャケットと同じものですが、こちらのこだわりは?

楠木 今までの衣装は色んなブランドの服をスタイリングしていただいていたのですが、今回、初めて衣装を作っていただきました!スタイリングはいつもお願いしている森(俊輔)さんで、月の優しい光をイメージして、全体的に光沢感があるけどキラキラし過ぎない素材を選んでいただきました。シースルーの下にキラッとしたものがレイヤードされていたり、カットによって素材の違いを楽しめるような衣装になっていて。他にも座ったときにスカートがきれいに広がって月みたいな丸さが出るようにしていただいたり、垂れるようなリボンもたくさんあるので、シルエットも楽しんでいただけるものになりました。今回は、歌い方や衣装も含めて色々な新しい挑戦をしているので、より新鮮な楠木ともりを見ていただければ嬉しいです。

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