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INTERVIEW

2024.05.13

【連載】音楽原作プロジェクト「響界メトロ」第7回:じん×廣澤優也 対談――「轍 – Qlover from 響界メトロ」じんが語る「物語」×「音楽」における“葛藤”と“選択”

【連載】音楽原作プロジェクト「響界メトロ」第7回:じん×廣澤優也 対談――「轍 – Qlover from 響界メトロ」じんが語る「物語」×「音楽」における“葛藤”と“選択”

声優・歌い手×ボカロP×ストーリーがクロスする音楽原作プロジェクト「響界メトロ」。暗闇を走る鉄の鋼‟メトロ”を舞台にそれぞれの運命が動き出す。物語を膨らますのは、7つのサウンド、歌詞、歌声、MV、ショートボイスストーリー。メインキャラクターは、ある願いを叶えるため結成されたリンネ(CV:内田真礼)・イツカ(CV:秋奈)・セツナ(CV:konoco)・カナタ(CV:わかばやし)によるボーカルグループ・Qlover。そのすべてに触れた時、初めて、物語の解<カイ>が見えてくる――。

第7回目は、「響界メトロ」の終点となる1曲であるリンネ、イツカ、セツナ、カナタの楽曲「轍」(作詞・作曲:じん 編曲:廣澤優也(HANO))を制作したじんと廣澤優也に話を聞いた。

■【連載】リスアニ!×音楽原作プロジェクト「響界メトロ」クリエイターの音が響く物語を徹底解剖!

【連載】リスアニ!×音楽原作プロジェクト「響界メトロ」クリエイターの音が響く物語を徹底解剖!

INTERVIEW & TEXT BY 小町碧音

空いている場所に自分自身を変化させていく必要があった

廣澤優也 まず、「響界メトロ」の第一印象からお伺いしてもいいですか?

じん 自分も音楽家、小説家、脚本家として物語と音楽を繋げるマルチメディアプロジェクト「カゲロウプロジェクト」を作ってきたので、シンパシーを抱いたのが最初の印象です。物語と音楽をやるのはえらい大変なことだと知っているので、すごく面白そうな話ではあるけれど、とんでもない大変なことをやろうとしているなあと作る側に対する心配がめちゃくちゃありましたね。

廣澤 確かにめちゃめちゃ心配していただいた記憶がありますね。それこそ、00年代の音楽原作プロジェクトにおいてゲームチェンジャーだったのが、「カゲロウプロジェクト」の作品であって、じんさんでした。今回、「響界メトロ」はキャラクターたちの群像劇でもありますし、クリエイターたちの群像劇でもある。色んなクリエイターたちが個性を持って様々な描き方をしてくださった作品を最後にどうまとめていくのかを考えたときに、やはりこれは大変だろう、と話し合いました。その際、どうするのが一番いいのかという議論が行われて、同じように群像劇を描いてきたじんさんしかいないのではないかという結論に至って。じんさんの名前が上がるのは、それほど時間がかかりませんでした。

じん 何か目標を掲げて実現したいと思ったときに、自分の名前が浮かんできたのはすごく光栄なことです。今回、文芸としての泥臭い要素を含んだ音楽プロジェクトを開始されることも含めて、人間味のあるプロジェクトだなという印象がありましたね。「カゲロウプロジェクト」を作った当時は、「音楽を使わないと面白いと思えないストーリーだからミクスチャーな作品にするんじゃないか」とか、めちゃくちゃ批判されたこともあったんです。でも、こういうタイミングで自分の名前が上がったことで、改めて続けることを辞めなくて良かったなと思いましたね。

じん

じん

廣澤 歩みを止めずに今日まで作品を作り続けてくださっていることに、感謝しかありません。ファンの皆さんを含め、多くの人たちが同じような気持ちを抱いていると思います。

じん ありがとうございます。ただ、自分にはもう1つ不安なポイントがあって。これまでは自分で書いたシナリオ、ストーリーに音楽をつけてきたので、今回のようにほかのクリエイターさんといわゆるパズルの1ピースになって大きい絵を完成させていく立場になったときに、空いている場所に自分自身を変化させていく必要があったんですよね。なので、今回の作品の一環として成し遂げられるか不安でした。

廣澤 まず、どのような曲をじんさんと一緒に作ろうかという話をした際に、じんさんの「カゲロウプロジェクト」楽曲の「サマータイムレコード」があがってきたじゃないですか。

じん そうですね。今回、まとめる立場でいうと、例えば登場人物のセリフとか、1人の細かい気持ちを摘まみ上げて具体的にしていくよりは、要は聴いている人たちも共感できる視野の広い1曲にしたいと思っていました。普段からストーリーを書く自分だからこそできる抽象的な作品を作るべきなのかなと考えていたので。「サマータイムレコード」は、まさにそういう曲なんです。

廣澤 ただ、僕としては、今のじんさんの感性でどういうものを作れるか、どういう作品を一緒に作れるか、そういうところに焦点を当てたかったので、「サマータイムレコード」のような良いまとめ方をしつつ、じゃあこのプロジェクトではどう締めていくかについて話し合った記憶があります。

じん そんななかで意識したのは、歌詞が作品の世界とリスナーの皆さんが生きる現実の世界を上手く繋げるようになることでした。

廣澤 「轍」は、共感性の高さもあり、キャラクターの誰かのことを歌っている見方もできるんです。逆に、あのキャラクターのことをここで歌っているけれども、別のキャラクターの目線から見ると、これは別のキャラクターにも当てはまるとか。色んな聴こえ方、見方ができる内容になっているので、じんさんの文章力はさすがだなと改めて思いました。じんさんに頼んで良かったです。

じん そう思っていただけて、マジで嬉しいですね。

物語の行く末は、現実世界

廣澤 歌詞の面では、僕、この出だしからすごく好きで。“繋ぎあった手のひらに こびり付いていた 熱は 次の手を 掴むから 全部 間違っていたことにしよう”。

じん すべてのシナリオを読んだうえで、物語の展開としては、最終的に次に進む必要がある方向を目指されているのではないかなと受け取りました。もちろん、物語の締めの部分を担う立場だったのも大きいです。例えば、僕の人生体験から言えば、その日が終わりになり、帰ることだったりする。明日へ、未来へという言葉は、物凄く希望に満ちている感じはするけれども、結局は終わりだよなと思うんです。“繋ぎあった手のひらに こびり付いていた 熱は 次の手を 掴むから 全部 間違っていたことにしよう”は要するに大人になり別れが寂しくてなかなか別れを決断できない状況から、間違っていたことにして次に進む感覚を表現したものです。ど頭から人間臭さを強調したかったので、そのような表現をしました。

廣澤 今いただいた話もすごく腑に落ちますし、共感するんですけど、やっぱりじんさんの曲には、僕が好きな歌詞の表現があって。自分の内側にこびりついた感情とか、降り積もっていった想いは、重ねれば重ねるほど、重たくなる感覚があると思うんです。じんさんは色で例えると黒い感情のような様々な感情を綺麗な“青”に消化して表現するのがすごく優れた方だなと思っていて。まさにじんさんのフィルターを通すと黒い感情がすごく綺麗に見えるし聴こえる。それが僕の思う、僕の好きなじんさんの作風です。

じん 嬉しい。ありがとうございます。

廣澤優也

廣澤優也

廣澤 色んな感情、物語、キャラクターの良い感情も悪い感情もじんさんのフィルターを通すとすごく綺麗な青に変わって表現されると感じます。それが早速この4行から伝わってきたなと思いました。

じん 色んな感情があるのに、透明に聴こえるのは、僕自身がめちゃくちゃこだわっているところだったりします。例えば、料理の中で言うと、すごく美味しいラーメンのスープがありますよね。透明度の高い、淡麗なスープです。ああいうスープを飲むと、奥深くから様々な情報が伝わってくるんです。「あ、昆布の気配。あ、あご出汁の気配、野菜の雰囲気もあるな」といった感じです。今回の曲は、まとめていくタイプのものだったので、様々な情報をそのまま曲に組み込むよりも、透明な色の絵の具で塗っていくような感覚が合っていると感じました。その上で何層も重ねていくと、透明な色を塗っているはずなのに、やっぱりその奥からあらゆる情報が青に変わって表れることがあるんですよ。なので、曲の奥に隠れた想いを、異なる色として廣澤さんに感じてもらえたことが嬉しいです。「轍」は、物語が終わっても、現実に接合する気持ちで作ったので、キレがあり、コシがあり、淡麗。そんな仕上がりになったのではないかなと思います(笑)。

廣澤 実を言うと、「響界メトロ」の物語は「轍」がまだ存在しない段階では、かなり陰鬱な雰囲気を持っていたんです。

じん 暗いですよね。殺伐としている、に近い印象ですね。

廣澤 報われるのか、ハッピーエンドになるのか最後までわからなかったんです。でも見事に「轍」を描いていただいたおかげでハッピーエンドだったんだな、ちゃんと明日へ向かうんだな、みたいに思える。歌詞上ではその次が、“次の手”と表現されていて、その次を掴むことに対して前向きな感情でいられます。物語の結末にすごく腹落ちできて、テンションが上がりましたね。

じん 廣澤さんは編曲の面でこだわった点はありますか?

廣澤 実は「轍」では、ハイハットを4本鳴らしているんです。それぞれ異なる音色とリズムパターンを持った4本のハイハットのビートが、1つのハイハットのビートに聴こえるように組み合わせています(笑)。この方法を使って、ボーカルグループ・Qloverの4人のキャラクターの「轍」を音楽で表現しました。

じん なるほど、めちゃくちゃ良い話ですね。

廣澤優也 「轍」を歌ったQloverのメンバーでもあるリンネ(CV:内田真礼)・セツナ(CV:konoco)・イツカ(CV:秋奈)・カナタ(CV:わかばやし)さんの歌で印象に残っていることはありますか?

じん サビは感情が露わになればいいなと思いながら作ったんですけど、完成品を聴いた際、Aメロなどのほかの部分もよりリアルに感じました。特に2Aの“思い出す 日差しの光線と”の歌詞が、良い意味でフィクションっぽくなく、バックのオーケストレーションに負けないような肉感的な歌い方が楽曲に残っていて好きですね。ボーカルディレクションに関して、特に心掛けたことはありましたか?

廣澤 前提として、4人がめちゃめちゃ楽曲と向き合ったうえで現地入りしてきてくださったんですけど、それでいて悩みを抱えた状態だったんです。正解を持ってくるのももちろん素晴らしいパターンだと思うんですけど、向き合った結果、答えがわからない状態は、逆に健全だと思っていて。そこで一人ひとりに対して、「あなたの表現における正解はどこなんだろう?」と一緒に組み立てていくことを心掛けていました。

じん 「響界メトロ」のすべての物語に通じる要素は‟葛藤”と‟選択”だと思っています。レコーディング現場で4人が悩みながら自分たちで正解を見つけ出そうとする作業をしていること自体が、「響界メトロ」の物語に通じていて、とてもエモーショナルな光景ですね。

廣澤 「轍」には彼女たちが楽曲と向き合った結果、それでもまだ正解が見えない悩みがしっかりパッケージされているんです。彼女たちの繕うことのないリアルな姿勢は「轍」を歌うのに、すごく良いマインドだったなと感じますね。与えられたメロディ、歌詞を咀嚼した4人が歌ってくれたのが、じんさんの感じたリアルに一番繋がっているのかなと思いました。僕のディレクション云々よりかは彼女たちが最高だったと伝えたいです。

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