INTERVIEW
2024.05.12
声優・歌い手×ボカロP×ストーリーがクロスする音楽原作プロジェクト「響界メトロ」。暗闇を走る鉄の鋼‟メトロ”を舞台にそれぞれの運命が動き出す。物語を膨らますのは、7つのサウンド、歌詞、歌声、MV、ショートボイスストーリー。メインキャラクターは、ある願いを叶えるため結成されたリンネ(CV:内田真礼)・イツカ(CV:秋奈)・セツナ(CV:konoco)・カナタ(CV:わかばやし)によるボーカルグループQlover。そのすべてに触れた時、初めて、物語の解<カイ>が見えてくる。
第6回目は、「Tik[Q]et」(作詞;RUCCA 作曲・編曲:Giga&TeddyLoid)を制作したTeddyLoidサウンドプロデューサー・廣澤優也(APDREAM/HANO)、作詞家・RUCCAに話を聞いた。
■【連載】リスアニ!×音楽原作プロジェクト「響界メトロ」クリエイターの音が響く物語を徹底解剖!
INTERVIEW & TEXT BY 小町碧音
廣澤優也 Qloverというボーカルグループが世界を変えるための問題提起として作っていく曲が今回の「Tik[Q]et」になっています。当プロジェクトにおいては主題歌に近い立ち位置の曲になるので、初期段階から制作が難航しましたね。グループのメンバーは、社会現象を起こす気持ちで「Tik[Q]et」を作っていることもあって、まさにシーンを牽引しながら今をときめくTeddyLoidさんとGigaさんにお声掛けさせていただいた経緯があります。
TeddyLoid 僕は、いつも東京の中心にあるサウンドだったり最先端のサウンドをキャッチして自分の作る楽曲に落とし込もうと思っていて。自分の音楽を電車に例えて言えば、山手線なんですよ。
廣澤 逆に僕はGigaさんに対して、深く潜っていく地下鉄のようなイメージがありました。鳴り響く重たいビートというか、そんなイメージ。もちろんGigaさんの出自が、元々アンダーグラウンドと呼ばれていたボーカロイドを使ったネットシーンであることも関係していると思います。「響界メトロ」にふさわしい山手線と地下鉄。素晴らしい組み合わせですね。
TeddyLoid たしかにGigaちゃんは地下鉄の感じがするし、僕は様々な路線を繋ぎ合わせることができるような存在になりたいと思っているので、その通りだと思います。
廣澤 「Tik[Q]et」で、日常と非日常の揺らぎを演出したいと思っていたなかで、TeddyLoidさんとGigaさんにインドのR&Bアーティストの楽曲をお送りしたと思います。お二人はそこからどのようなやり取りをしていったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか。
TeddyLoid まずは、いただいたリファレンスを聴くところから始めました。中東だったり、アジアチックな楽器はGigaちゃんも僕も随分前から使っていて馴染みがあったし、最近はインド音楽がトレンドなんですよ。シタールの音色をはじめ、オリエンタルな音色を使うことが多くなってきていることもあるので、Gigaちゃんと相談して、とにかく色んな楽器を入れてみましたね。サウンド面においては、表と裏を表現したかったので、表の世界と裏の世界だったり、切り替わりが激しいセクションがあるような楽曲を目指しました。
廣澤 ちなみに、Gigaさんの仮歌が入ったデモ音源から、RUCCAさんはどのような影響を受けましたか?
RUCCA 僕の場合、ジャニーズ界隈で作詞することも多いんです。シンセメロに合わせて作詞することもあれば、外国人の作曲家さんが歌った英語のフレーズに合わせて作詞することもあって。でも、今回はいずれにも該当しなかった。まず、いただいたデータにデタラメ語と書いてあったんです。何語でもないのかなと思いつつ、同時にデタラメ語だからこそどういう意図なのかなと考えました。ここの音にはこういうフレーズ感、音の感じ、子音とか、色々と再現してほしいアイデアがめちゃくちゃ詰まっているんだろうなとすぐに察することができたんですね。聴こえたままに歌詞にしても良い歌詞にはならないので、僕の中に普段ない言葉をいっぱい引っ張ってもらえた感覚がありました。
TeddyLoid 僕らは、デタラメ語をスクラッチボイスと呼んでいるんですけど、スクラッチボイスには、子音や母音、文字数、リズムだったりと、色々な要素が詰まっているんです。ただ単にシンセとかの楽器で音程を入れるよりもリリックが書きやすい面も出てくるので、僕らはこの方式でいつも楽曲を作っています。僕たちの考えていることをそのまま汲み取ってくださる日本の作詞家の方は意外と少ないので、RUCCAさんにちゃんと意図を汲み取っていただけたのは、とても嬉しかったです。
RUCCA びっくりしたのは、この曲がたったの2分34秒しかないことでした。現実的には短い曲なのに内容的には時空が歪んだように盛り沢山に聴こえる。J-POPは、曲調によって4分後半になったりするじゃないですか。テンプレート化していた従来の考え方と比べても、構造が革命的に違うなと思いましたね。
TeddyLoid 僕らの音楽は、はちゃめちゃなイメージで捉えられがちなんです。でも実はすごく計算してあるので、緻密に組んだうえでのはちゃめちゃなんですよ。RUCCAさんのリリックにも似た印象を受けました。激しいことも言っているけれど、ちゃんと整理されているからこそ成り立っている。なので、今回RUCCAさんの歌詞と僕らの楽曲の相性が良かったのかなと。
廣澤 RUCCAさんの歌詞が届いたとき、Gigaさんはどんなことをおっしゃっていたか覚えていますか?
TeddyLoid Gigaちゃんは、RUCCAさんの歌詞を見てすごく歌いやすい、と言っていましたね。例えば、ほかの方に作詞していただいたときに文字数が多めになっていると、日本語的に歌いづらかったりすることがあるんです。でも、RUCCAさんの歌詞はまったくそういうことがなくて、すごく整理されている印象が強かったです。
廣澤 個人的には、イツカを演じる声優の秋奈さんが強烈な歌詞を歌っているのが面白いと思いました。
RUCCA 普段、言わなそうな人が言うからこそ、よりその言葉の攻撃力が増すみたいなギャップ萌えを狙いました。若者目線からの大人の責任感のない発言ってたくさんあるじゃないですか。“キモチわりぃな”とか“他の飼育?”は、“オジサン”に繋がっている言葉なんです。この主人公たちは、今の世界が嫌になってとにかく違う場所に行きたいと思っている。だからこそ尖らせて書いたんですけど、尖らせようと思うほどに、遊び心がいっぱい出てきちゃって(笑)。ほかにも、より良くするの意味がある‟Better”を‟バカ”と発音してもらったりもしていたり。色んな意味で皮肉だらけの歌詞になっていますね。
廣澤 “5×6×4 掛けるわ”は、1回、リテイクが入ってもおかしくない箇所ですよね(笑)?
RUCCA 表記こそ違いますけど、言葉としてはそう聴こえますね(笑)。実は、あとから修正して“5×6×4 掛けるわ”の表記になったんです。「響界メトロ」は、すごく色んなところに謎が散りばめられている物語なので、「この表記がギミックになるんだったら、なおさら、OKです」とプロデューサーさん側が言ってくれたんです。かわいい声の側面を持ったボーカリストの皆さんに社会に対する不満の象徴物として、あえて尖ったフレーズを歌ってもらうようにしました。
廣澤 「響界メトロ」はJ-POPシーンの作品でありながらも、どちらかというとアニメ、声優シーンに通じる要素が多い。そういったアニメ、声優シーンにも半分踏み込んでいるプロジェクトを通して「Tik[Q]et」をシーンに投下できたことが、音楽業界に対する1つの問題提起になったなと思っています。僕はアニメシーンで長く活動させていただいていますけど、声優さんに尖った歌詞を歌ってもらうことはなかなか難しいことなんですよ。だからこそ今回、「シーンに厳つい曲をぶち込んでやったぜ!」みたいな気持ちがすごく強くて。素敵な作品を作っていただけたことに心から感謝しています。
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