INTERVIEW
2024.05.08
声優・歌い手×ボカロP×ストーリーがクロスする音楽原作プロジェクト「響界メトロ」。暗闇を走る鉄の鋼‟メトロ”を舞台にそれぞれの運命が動き出す。物語を膨らますのは、7つのサウンド、歌詞、歌声、MV、ショートボイスストーリー。メインキャラクターは、ある願いを叶えるため結成されたリンネ(CV:内田真礼)・イツカ(CV:秋奈)・セツナ(CV:konoco)・カナタ(CV:わかばやし)によるボーカルグループQlover。そのすべてに触れた時、初めて、物語の解<カイ>が見えてくる――。
第4回目は、ボーカルオーディションで優勝したわかばやしがCVを務める4人目のシンガー・カナタの楽曲「Q&[ ]」(作詞:RUCCA・海冬レイジ 作曲:ユリイ・カノン 編曲:ユリイ・カノン・廣澤優也)を制作したユリイ・カノン、サウンドプロデューサー・廣澤優也(APDREAM/HANO)、作詞家・RUCCAに話を聞いた。
■【連載】リスアニ!×音楽原作プロジェクト「響界メトロ」クリエイターの音が響く物語を徹底解剖!
INTERVIEW & TEXT BY 小町碧音
廣澤優也 僕はユリイさんとは音楽制作を共にする間柄で、ユリイさんの音楽プロジェクト・月詠みのラジオに出演させていただくこともあって、普段からユリイさんに呼んでいただくパターンが多い気がしていましたが、今回は僕がユリイさんを招くという。逆パターンは珍しいですね?
ユリイ・カノン そうですね。普段は僕がめちゃくちゃお世話になっている身なので。今日はよろしくお願いします!
廣澤 よろしくお願いします。早速ですが、RUCCAさんに「Q&[ ]」の制作エピソードからお聞きしてもよろしいでしょうか。
RUCCA もちろんです。実は「響界メトロ」で一番最初に作った曲が「Q&[ ]」なんですよね。本来は脚本を書いてくださった小説家の海冬レイジさんが、作詞にチャレンジするお話で動いていたんです。でも、海冬さん側でストーリーを伝えたうえで歌詞を書くことが不慣れだったこともあって、僕が作詞に少し協力する形になった経緯がありました。ユリイさんが持つメロディの強さに連動して耳に残る歌詞がどんどん浮かんできて。「Q&[ ]」は、「響界メトロ」の中では、羅針盤と言える曲になったんじゃないかなと思っています。
廣澤 普段はご自身で作詞も手がけているユリイさんから見て、今回のRUCCAさんの歌詞に対する印象はいかがでした?
ユリイ 曲を作るときは、きっとこういう語感の言葉が乗るんだろうなと作っている段階で想像したりするんですけど、それがちゃんと綺麗に再現されていて、すごいと思いました。あとは、RUCCAさんに歌詞を書いていただくことで、初めて自分の曲を客観的に聴くことができたんです。ほかの方が作詞を担当した自分の曲は「Q&[ ]」含めて、まだ2曲しかないので、とにかく不思議な感覚でしたね。
RUCCA ありがとうございます。僕もユリイさんの曲はすごく素敵だなと思っています。一般的にAメロ、Bメロ、サビの順に繰り返すだけではストーリーとして展開させづらいんですよ。でも、ユリイさんの曲はあえて変わった構成で作られていたので、僕としてはストーリーが乗せやすくて。
ユリイ 自分の曲は、急に変なところでCメロとかが出てくるんですよ。普通だったり、みんなと同じことをしたがらないというか。個人的には、最後に、Aで終わるアルファベットの使い方が面白いなと思いました。
廣澤 ちなみに「Q&[ ]」のタイトルは、どのような意図でつけたんですか?
RUCCA “Q&”というと基本は“Q&A”が思い浮かぶじゃないですか。ただ「響界メトロ」のテーマは、恐らく登場人物たちに自分で答えを選ばせることだったと思うんですよね。だから、“Q&”に続くアルファベットがAじゃなくてもいいんです。あえてブランクにしているのは、Aと限らないから。自分で選択をすることがテーマになっていた大元の「Tik[Q]et」に近いテーマ性を感じて、「Q&[ ]」を作りました。読み方は、基本的には“Q&”で、後ろは読まないことにしましょう、と話が進みましたね。
廣澤 ユリイさんは、普段の楽曲制作のなかでどのようにタイトルをつけることが多いですか?
ユリイ 自分はタイトルから始めて中身を作っていくこともあります。例えば、タイトルのワードを曲中のサビの頭とかフックになる部分に持ってくることで、曲の作りもその時点で変わってきたりします。
RUCCA 僕の場合、歌詞が全部完成したときに見直して、確信的に良いなと思えるタイトルが見つかるので、最初はタイトルを仮で適当につけることが多いですね。最初の段階でタイトルが完成することは滅多にないと思います。
ユリイ ただ、タイトルが出てこないときは本当に全然出てこなくて……最後のほうまで曲名がないことがあって困るんですよね(笑)。
廣澤 共通して作詞に携わるお二方でも、タイトルの付け方には、結構な違いがあるんですね。
RUCCA タイトルは強いて言うと、「商品名」なんですよ。だから、ドキッとするタイトルだと聴いてみようかなって気持ちに一歩近づくと思うんですね。例えば、普通にローマ字で書かれたDREAMというタイトルがあったとしても、DREAMは、今までに何万曲あるかわからないくらい存在しているんです。最近は誰も選ばないタイトルだから、逆に良いと思わせる裏技もあるかもしれません。でも、基本余程のことがないと、DREAMから興味を持つ人は少ないと思うんですよね。僕は、適度に奇抜なタイトルに走る傾向がありますね。
廣澤 ユリイさんにお聞きしたいのですが、今回の僕のアレンジはいかがでしたか?
ユリイ 自分の出したデモと比べ物にならないくらい、カッコよくなっていました。最近は、ほかの方に編曲してもらう過程を繰り返しているうちにデモを出すのが怖くなっていて。こんな状態で出していいのかなと思うときがあるんです。
廣澤 いやいや、十分だと思います。今回の「Q&[ ]」でイントロのフレーズに合わせてギターのフレーズとかベースのスラップのフレーズとかも組み立てていったんです。ユリイさんの曲を触っているのは毎回楽しくて。
ユリイ 編曲してもらうことになると、少し甘えて、細かい作りは任せてもいいかなと思ったりするんです。でも、場合によっては、自分で気に入っているところが変えられちゃう不安もあって。ただ、廣澤さんに関しては、自分の想いを上手く汲んでくれているので、助かっています。自分がアレンジしていないのに、ユリイ・カノンっぽくなっていたりもしますし(笑)。
廣澤 僕は、作曲者からいただいたエッセンスを汲み取って広げただけです。表現した結果、作曲者本人の個性として捉えていただけるのは、アレンジャーとしてこれ以上にない光栄なことだなと思います。
ユリイ 自分の想像を超えた編曲ができるのが、毎回すごいなと思うんですよね。全体的に自分では手を掛けなかったところにベースやギターなどの細やかなアプローチが入っていたりして。出来上がった曲を聴くと毎回溜息が出ます。
RUCCA 良い溜息ですねぇ。
ユリイ はあ、良いなぁと(笑)。
廣澤 気になったのは、作曲だけでも隠しきれないユリイ節が完成版からも伝わってくることでした。どういった心境がユリイ節に作用したのか思い浮かぶことはありますか?
ユリイ 普段は、自分らしくなるメロディを意識して曲作りはしていないんですけど、今回は曲のみを担当する中でもちゃんと自分の色も出せたらいいなと思いつつ、まず自分が一番使っているユリイっぽいBPM、メロディ、リズム、テンポ感を意識して作っていきました。なので、ユリイ・カノン節が強めに出ているのかなと思います(笑)。時々、先方のリファレンスに沿って曲を作るときでさえ、結果的に全然そのイメージに近づけないことがあるんですよ。そこで完成した曲は、なんだかんだユリイ・カノン節になっていて……。
RUCCA どうしても隠しきれない個性はありますよね。
廣澤 作りたい作品を完成させた結果、自分の味になるのは、自分で食べるために作って、自分の好きな味になる男の料理に近いですね(笑)。
ユリイ 僕、中華料理を一時期めちゃくちゃ作っていたことがあって。味覇(ウェイパー)っていう調味料を使うと全部辛くなって、美味しい味になるんですよ。(笑)。
RUCCA 職業作家の僕の場合は、依頼があって初めて歌詞を書くんです。そこで歌詞を書いても、自分が納得のいく好きな歌詞になっていないと人に提出できない。むしろ、締め切りを1日伸ばしてくれと言ったりすることも全然あります。作った瞬間にそのまま渡すと、結局あとで直したくなっちゃったところが見つかるのが嫌なので、時間を置いて推敲するようにしています。整えたりすることでより自分が好きな味に近づけることができるのは、料理を作った時に自分好みの味になる話と実は近いなあと思いました。
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