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INTERVIEW

2024.04.24

作品を通じて見えてくる景色、“変わること”で生まれるもの――TVアニメ『ゆるキャン△ SEASON3』キミのね×亜咲花 スペシャル対談

作品を通じて見えてくる景色、“変わること”で生まれるもの――TVアニメ『ゆるキャン△ SEASON3』キミのね×亜咲花 スペシャル対談

待望の新作『ゆるキャン△ SEASON3』では、これまでシリーズ諸作品で主題歌を歌ってきた亜咲花が初めてEDテーマを担当し、新人アーティストのキミのね(つむぎしゃち・大谷 舞・久下真音)がOPテーマを歌うという、新たな布陣が敷かれた。それぞれに尋ねると、キミのねには大役を任された重責があり、亜咲花には新たなポジションにおける存在意義を探すという、それぞれの『ゆるキャン△』の主題歌に対する向き合い方や姿勢、作品を通じて見えてくる景色が浮き彫りに。対談部分では涙と共に想いの丈を語る今しか聞けない部分もあり、それぞれのアーティスト活動に重要な瞬間が訪れていることが伺い知れる貴重なインタビューとなった。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

風を感じ『ゆるキャン△』の世界に寄り添うOPテーマに

――キミのねの皆さんは、普段はご自身で物語を構想してから楽曲作りをするスタイルを取られていますが、今回初のアニメ主題歌ということで、変化はありましたか?

つむぎしゃち そうですね。私たちは活動を始めて1年ほどですが、最初はタイアップがなかったので、自分たちで架空の物語を作って、そこに対して主題歌を当てるスタイルで曲を作っていたんです。だから、今回の『ゆるキャン△ SEASON3』のOPテーマというお話を最初に聞いたときにはまず「本当ですか?」という思いが先にきました。

大谷 舞 「今回は架空じゃないんだ!?」って(笑)。これは私個人の話なのですが、『ゆるキャン△』がキミのねというユニットに巡り合わせてくれたんです。というのも、キミのねの結成前に私は1人のバイオリン奏者として『映画 ゆるキャン△』の劇伴に参加していて、そのご縁で久下(真音)さんに出会い、キミのねに参加することになったんです。そこからまたこうして『ゆるキャン△』に、今度は主題歌アーティストとして関わらせていただけて、何重にも驚きました。

――どんなアプローチで臨もうと思いましたか?

つむぎ 長く愛されてる作品ですから、そこにプレッシャーも感じながら、キミのねができる100%の『ゆるキャン△』サウンドを探そうと話し合った記憶があります。

大谷 『ゆるキャン△』という作品のオープニングは、やっぱり亜咲花さんが作ってきた世界観があるので、そこをどうやって自分たちで守っていけるかをまず考えました。周りに聞き込みをして『ゆるキャン△』像を探ると、想像以上にファン層が幅広くて。アニメファンはもちろん、キャンパーもいれば、通勤中にキャンプ気分を味わいたくて劇伴を聴く人もいましたし、ペットにキャラクターの名前を付けた人もいました。そんなふうにこの作品が色々な形で愛されていること知ると、「もっと愛されるような作品にしなければ」と私たちが考えていたことは傲慢だったなと。「こうしてあげる」ではなく、すでにある『ゆるキャン△』の世界観にどこまで寄り添えるか。それを音で表すことが大事なんだと思いました。

久下真音 僕自身、これまで作家仕事として携わってきた作品ともまったく異なりましたのでとても新鮮でしたし、楽しかったです。『ゆるキャン△』の主題歌は、起承転結に重きを置いていないのが特徴なんです。もちろん良い意味で。作品を拝見しても、作品で次の話を観たくなる動機が「癒されたいから」というのも珍しいですから、アニメに対する曲の寄り添い方がほかの作品とは異なりますね。

――「レイドバックジャーニー」はどんな作り方をしていきましたか?

久下 これまでの亜咲花さんの楽曲もそうだったように、’70年代のサウンド感を継承するようにしました。それをベースに、キミのねのポップでキャッチーなかわいらしさを出していくようにしました。ラップ調の緩いメロがあったり、サウンドも大谷さんのバイオリンが入ったことで引き算していくようなアレンジにしています。例えば、Aメロはテンションコードを多くしていて、旅が楽しみだけどちょっと不安な感じを持たせつつ、サビではシンプルな構造にして前向きな感じを作りたいとメンバーに提示して、そこから3人でブラッシュアップして、最後は引き算をしていきました。大谷さんのバイオリンがやっぱり肝なので、そこはシンセを入れすぎないようにしています。

――大谷さんはストリングスのパートをどのようにアレンジされましたか?

大谷 普段だと譜面をじっくりと書いて試演してみるという手順を踏むのですが、今回は自然に出てきた音を反映したほうが『ゆるキャン△』に寄り添える気がしたので、久下さんのデモに合わせて弾いたものを、ほぼそのまま使っています。

――それもこの作品らしいオーガニックな感じがしますね。

大谷 オーガニックという表現は、まさに私にとって嬉しい言葉です。以前、別のバンドで楽器を持ってキャンプに行ったことがありまして、そこで焚き火を囲んでのセッションをしたんです。ちょっと肌寒い中で焚き火を感じながら音が生まれる、あの雰囲気を思い出しながら今回も自然に溢れてきた音を弾いていきました。ソロの部分はとにかくたくさん弾いてみて、印象に残ったフレーズを思い返しながらまとめた感じです。『ゆるキャン△』のサウンドの印象としては、立山(秋航)さんによる劇伴も、民族音楽的な風味が強い曲が多いので、それもスパイスとして少し入れせてもらおうと思って、装飾音や音の運びやフレーズにそれらを込めて演出しています。ソロのあとには、笑い声みたいなキュッキュッって音をアドリブで入れて、楽しくて笑っちゃった感じを表現してみました。

――バイオリンでボーカルと対旋律を弾いている部分がありますが、どのように組み立てていますか?

大谷 私自身、対旋律を書くことに幸せを感じる人間なんです(笑)。キミのねのほかの曲でも入れていて、普段は結構楽理的に考えて作っていくのですが、『ゆるキャン△』では本当に自然発生した感じですね。サビが3回出てくるところでは、そのたびに音の手数を増やしたりテンション感を調整したりしています。

久下 この曲では対旋律のところのミックスもほかの曲と結構違いますね。ボーカルもバイオリンも両方とも聞こえやすく調整しています。

――それぞれの場面で、大谷さんのバイオリンと、つむぎさんの歯切れの良い歌声の調和が素晴らしかったです。

つむぎ バイオリンと歌でデュエットするというのが、キミのねの主軸になっています。一緒に歌っている感覚を大事にしています。

――歌詞を書くうえではどのように構想しましたか?

つむぎ 今回、SEASON3なので今までの主題歌へのリスペクトを第一に考えていました。“たどり着いた場所から 最高を描こう ここはまだ道のトチュウ”という歌詞があって、散歩の中で見つけられる小さな幸せを集めていこうという歌詞になっています。オープニングの映像でも歩いてるシーンから始まりますが、この曲は歩きながら聞くとBPMがとても心地良いんです。普段、歌詞を書くときはカフェとかのことが多いんですけど、この曲はあえて散歩をしながら、外の風を受けながらスマホにメモをしていくように書いてみました。

久下 こちらとしては、良いワードを出し合ったり、韻を踏むところをフォローしたくらいです。元々のつむぎさんの歌詞がとても素敵だったので、そういった遊び心をちょっと加えた感じですね。

つむぎ 良い意味で張らないというか、頑張らない歌い方、言葉選びを心がけました。どんなに疲れて帰ってきても『ゆるキャン△』を観ると、体の中に風が吹き抜けたり、深呼吸しているような感覚になるんですよね。最初はガッと歌ってしまったのですが、初めて作品を観たときの気持ちを大事にしようと、もう少し風を感じるように、力を抜いて歌うことを心がけました。

久下 風はテーマの1つですね。アニメで風を感じられるのって、なかなかないことですし。

つむぎ サビの後半に“Lucky Lucky Lucky”とあって、初めて聴いてくれた方はきっとここが一番頭に残ると思うのですが、ここは小さい子もご年輩の方でも、幅広い『ゆるキャン△』のファンに覚えていただきたいなという意識で歌っていました。アニメのオープニングでもここに合わせて薪を割るシーンがあって、それが想像の何百倍もかわいくて好きです。

大谷 自分たちの曲に映像を当てていただけるのも初めての経験だったので、感動がすごかったですね。視覚的にも『ゆるキャン△』の曲の解像度を上げていただいた感じで、とても幸せでした。

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