声優アーティスト界のトップランナー・水樹奈々は、2024年もフルスロットルで最前線をひた走る!CDシングルとしては約2年半ぶり、通算42作目となるニューシングル「ADRENALIZED」は、次世代のカーレースを題材にしたオリジナルTVアニメ『HIGHSPEED Étoile』のOPテーマ。主人公の少女・輪堂 凛をはじめ、最高時速500kmオーバーの世界でしのぎを削るレーサーたちのサーキットにかける情熱と、水樹奈々の今届けたいメッセージが重なり合った、最強のデジタルロックチューンに仕上がっている。自身も“クイーン”ことアリス・サマーウッド役で出演する作品とその主題歌に込めた想い、常に今以上の高みを目指す彼女が見据えるエトワール(一番星)とは?今、新たなレースの幕が開ける!
INTERVIEW &TEXT BY 北野 創
――新曲「ADRENALIZED」は、TVアニメ『HIGHSPEED Étoile』のどんな部分に寄り添って制作を進めたのでしょうか。
水樹奈々 今回は作品の「新たな環境に身を投じる」という部分にスポットを当てて制作しました。主人公の凛は、バレエダンサーになる夢を絶たれて、全く経験のないレースの世界に身を投じることになるのですが、ちょっと無鉄砲なところのある女の子で、その世界の常識をよくわかっていないからこそできるやり方や発想でレースに挑むんです。もちろん上手くいかないことのほうが多いのですが(笑)、それでも臆することなく前に進んでいく気持ち、右も左もわからない世界であっても自分らしく輝こうとする気持ちを、言葉とメロディに乗せたいと思いました。プラスしてリリースは4月、学生さんや新社会人をはじめ、新しい環境に身を置く方が多い時期なので、そこにもシンクロするメッセージを届けられたらと。
――水樹さんもチャレンジ精神が旺盛な印象がありますが、その意味でも自分の気持ちに重ねやすいテーマ性だったのではないでしょうか。
水樹 タイアップ曲の歌詞を書くときはいつも、キャラクターやシナリオから受け取ったメッセージだけではなく、そこで自分が感じたことや共感したことを自分の経験を織り交ぜながら言葉にしているのですが、今回はそういった部分がとても多くて。特にDメロの“近道はどこにもない 無駄だってどこにもない 望む結果-答え-があるなら ひたすらに突き進め”という部分は、この曲の核になっています。
――この部分は、努力を重ねてきた水樹さんだからこそ説得力を乗せて歌うことのできるフレーズだと感じました。
水樹 何をするにしても、簡単にいくものはなくて(笑)。でも、そのときは行き止まりだと思ったことも乗り越える過程で得られるものがあったり、一見無駄に思えることもすべて自分の血肉となって、自分だけのオリジナリティとして発揮できるときが必ずくる。だからこそどんな時も全力で、私もそうでありたいという思いも込めています。凛にもそういう部分があって、バレエダンサーを目指していたときの感覚がレースに活かされることで、それが他のレーサーにはない個性になって、オンリーワンの存在になっていくんです。
――そのお話を聞くと、たしかに水樹さんの今までのキャリアと重なる部分があるように思います。
水樹 私も子供の頃から演歌歌手を目指してトレーニングしてきたことが、今の歌唱法や楽曲制作に繋がっていて。一見すると繋がらない世界ですが、それが今の自分自身のオリジナリティになっているので、似ているところはあるかもしれませんね。
――作編曲は光増ハジメさんが手掛けていますが、今回は指名とコンペのどちらだったのですか?
水樹 コンペでした。かなり難航し、2回行いました。というのも、今回は元々レーサーを目指していたわけではない女性が主人公の作品なので、監督からは「爽快」「マイナー調ではない楽曲」というオーダーをいただいていて、1回目のコンペではそのキーワードに引っ張られ過ぎて、元気でポップな楽曲が集まっていたんですね。でも、それだとレースのスピード感がでず…。
――なるほど。となると、2回目のコンペではどんなテーマで楽曲を募ったのでしょうか。
水樹 「明るさ」や「軽快さ」もありつつ、命がけであるレースの迫力や緊張感を出すことを考えたときに、デジタルロックでいこうとなりました。当初は『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズのイメージがあり封印していたのですが、『シンフォギア』の楽曲は血を流しながら歯を食いしばって絶唱する、昭和のど根性アニソンのような要素があるので(笑)、すべてマイナー調の楽曲なんです。でも今回は、同じバトルとはいえスポーツマンシップに則って戦う作品で、レース後はそれぞれの健闘を称えあうような関係性が描かれていて。そういった意味での明るさを描けば、同じデジタルロックでも違ったものを生み出せるのではないか、と第2弾のコンペを行い、光増さんの楽曲に決まりました。
――相当こだわって楽曲を選ばれたんですね。
水樹 オリジナル作品だからこそ、最初のインパクトがとても大事になるので、ものすごく試行錯誤しましたね。この曲に決まってからも、光増さんにはサビの部分をブラッシュアップしていただきました。というのも、この曲はA・Bメロが個性的で、Aメロは歌っていて舌がもつれそうになるくらい音符を畳みかける譜割りですし(笑)、Bメロも変拍子っぽくなっているので、その部分でレースの駆け引き感やトリッキーさは十分表現できているから、サビはホームストレートを突っ走るような豪快さと直球感が欲しいなと。なので第1回目のコンペから考えると、1年くらいかけての制作になりました。
――そこから水樹さんが作詞をされて。
水樹 とにかく楽曲制作に時間をかけすぎたので、私が歌詞を書く時間が短くなってしまって(苦笑)。本来は2022年中にTVサイズを仕上げなくてはいけなかったのですが、メロディ完成と同時に “(NANA MIZUKI)LIVE HEROES”(2023年1月21日・22日に開催されたライブ)のリハーサル期間に突入してしまい、「 “LIVE HEROES”が終わったあと、皆さんからいただいたたくさんのエネルギーを込めて集中して書かせていただいても良いでしょうか……本当にすみません!!」とお願いして、ライブが終わった直後に取り掛かって1週間くらいで書き上げました。待ってくださったアニメ制作チームのみなさまに感謝の気持ちでいっぱいです!(涙)
――歌詞については、先ほどDメロのこだわりについてもお話しいただきましたが、作品の内容にも寄り添いつつ、全体的に新しい環境で背中を押してくれるような内容になっています。
水樹 ありがとうございます!新しい世界でどれだけ自分の力を発揮できるのか、不安と緊張もありつつ、どこかワクワクしている部分を表現したいなと思ったんです。それは『HIGHSPEED Étoile』だけでなく、4月で新しい環境に身を置く方にも当てはまると思いますし、プラスしてアフターコロナに移行して新しい生活様式になったことも意識しています。冒頭の“Come on! New world!”というフレーズは、コロナ禍以降の新しい世界へ向けて、「かかって来いよ!」という意志表明でもあって。
――アフターコロナに向けたメッセージ性は、2023年夏に開催されたツアー“NANA MIZUKI LIVE PARADE 2023”でも演出やセットリストで表現されていましたよね。
水樹 はい。 “LIVE HEROES”直後から “LIVE PARADE”の制作も進めていたので、この曲の歌詞にもその影響があると思います。私もすべてが繋がっている感じがしますし、自分の今のありのままの気持ちを乗せることができて嬉しいです。
――もう1つ、歌詞でぜひ聞いてみたかったのが、水樹さんならではのルビの振り方です。今回も“目標”と書いて“星”と読ませるなど、作品のテーマに寄り添いつつ様々なルビが振られていますが、特にサビの“試練”を“愛”と読ませるところに水樹さんらしさを感じまして。
水樹 アハハ。これはもう昭和ど根性世代だからこそのルビだと思います。演歌っぽいとも言われるんですけど(笑)。愛があるからこそ、様々なアドバイスをしてくださったり、しごいてくださると思うんです。この世に存在して試練が与えられることは、それを越えていくことで成長でき、新たな可能性が広がる素晴らしい機会でもある。そのすべてを踏まえて“愛”という言葉に集約しました。私も日々、鍛えていただいています!(笑)。
――実際、この楽曲も歌いこなすのは相当難しかったと思います。
水樹 光増さんの楽曲はいつもそうなんですよ。Elements Gardenさんとはまた違った角度での“愛”がありますね(笑)。光増さんは楽曲を制作するにあたって、今までの私の楽曲を改めて聴き込んでくださって、新しい切り口の楽曲を必ず提案してくださるんです。左脳的な作り方で、メロディライン、楽曲の構成、ジャンル、とにかく色んな角度から解析して、これまでになかった切り口を見つけて取り入れてくださって。今回もまだ見ぬ世界に連れて行ってもらえる感覚があって、レコーディングはすごく楽しかったです。ちょうど“LIVE PARADE”の準備をしている時期だったので、ステージで駆け回っている姿をイメージしながら歌いました。レースのスピード感、コンマ1秒を競い合う、瞬きすら許されない高速の世界。練習通りにやったとしても天候やコンディションによって変わる部分は、何が起こるかわからないライブステージにも通じるところがあると思うんです。
――ご自身にとって新しい扉を開けた部分はありましたか?
水樹 とにかく瞬発力と順応性を試される曲です。水樹はこれまで様々なタイプの変態曲を歌ってきたのですが(笑)、この楽曲は、明るく爽快でありつつ、トリッキーなところがポイントで。なので暴れ馬を乗りこなす攻め攻めモードでいくのではなく、どこか気持ちにゆとりがあって、その緊張感すら楽しむ形でないと、ただ勢いで流されてしまう。常に口角が上がっている感じで、「次はどうしようかな?」と瞬間的に楽しみながら考えられる余裕がないと、この楽曲の軽快な良さは発揮できないと感じました。そういった意味では今だからこそ表現することができた曲だと思います。
――たしかに力押しではない細かな歌の表現がこの楽曲の魅力の1つで、ブロックごとどころかフレーズごとに歌のニュアンスが切り替わるところに驚かされました。
水樹 もちろん全体を通して物語を構成しているのですが、それぞれのフレーズに細かいニュアンスを付けていて。アクセントを強くする部分もあれば、あえてレガートに歌う部分もあったり、そのレガートの具合も伸縮性のあるものにしてみたり。この曲の良さを十分に出せるように発想力やアドリブ力が試されました。
――まさに、レーサーがアクセルやブレーキの強弱、ハンドルさばきなどを細かく調整しながらコースを走るノリを、歌声でも表現されているわけですね。
水樹 そうなんです!主人公の凛は踊るようにアクセルを踏んだり、意表を突いたラインどりをしたり、天性の感覚で走る子なんですよ。レーサーたちの常識を覆すような動きをするので、そういったところを歌でも表現できればと思いました。それと私が演じているアリスもまさにそうで、走るたびにラインどりが違うキャラクターなんですよ。
――アリスも天才肌のレーサーなんですね。圧倒的な勝率を誇るレーサーで、通称“クイーン”と呼ばれているという設定ですが。
水樹 すごく強いので実際に天才と呼ばれていて、自分がその瞬間にやりたいと思う走りをするキャラクターなんです。だからこそ凛に興味を抱くんですね。逆に鳥海(浩輔)さんが演じるキング(ロレンツォ・M・サルヴァトーレ)は、まったくブレることなく機械のように正確に同じラインどりをするキャラクターで。様々な個性を持つレーサー達が繰り広げるレースの駆け引きや、何が起こるかわからないライブ感溢れる空気、マシンに乗って風になっている感覚を楽曲からもぜひ感じ取っていただきたいです。
――「ADRENALIZED」のMVも拝見したのですが、あれは本物のレース場で撮影されていますよね。
水樹 富士スピードウェイで撮影しました!普段は関係者以外、入れないスペースで、『HIGHSPEED Étoile』のご縁で特別にお借りすることができたんです。本当は天候が良ければサーキット場のホームストレートで撮る予定だったのですが、雨が降ってしまい……。でも、真横にホームストレートを感じながらガレージを歩くあの構図は、この楽曲の中で表現している「自分との闘い」や、レースに向けて自分自身と向き合い、気持ちを昂らせる様子を逆にしっかり表現できたと思います。
――ちなみに衣装はバックバンドのメンバーを含めて白で統一されていましたが、あれはどのようなこだわりが?
水樹 新たな世界に真っ白な気持ちで飛び込んでいく、というイメージで全員白にしました。こういったテイストの楽曲では、ダークトーンの衣装になることが多いのですが、この楽曲の持つ前向きなエネルギーや爽快さ、駆け抜けていく明るい雰囲気をMVからも感じてもらえるように意識しました。
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