今年も新たな『プリキュア』シリーズの放送が開始した。21年目を迎えるシリーズ最新作『わんだふるぷりきゅあ!』(以下、『わんぷり』)では、犬飼いろはの飼い犬・こむぎがプリキュアに変身!人々とコンパニオンアニマルとの絆を描く意欲作だが、そのOP主題歌「わんだふるぷりきゅあ!evolution!!」に抜擢されたのはシリーズ最多8曲目(北川理恵、石井あみとのデュエット歌唱含む)の主題歌担当にして初のオープニング歌唱となる吉武千颯。「DELICIOUS HAPPY DAYS♪」や「あこがれ Go My Way!!」で披露してきたようなエネルギッシュな歌声で作品がまとう多幸感を増幅させる。“全プリキュア 20thAnniversary LIVE!”(以下、“全プリライブ”)で初披露した際の思い出にも触れながら、吉武が込めた『プリキュア』シリーズや愛犬への想いを探る。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司
――初めてのOP主題歌歌唱担当となりますが、オファーを受け取ったときの感想から教えてもらえますか?
吉武千颯 嬉しさでいっぱいでした!目標の1つでしたし、初めて自分の楽曲から作品が始まるということでワクワクもありました。あとはやっぱり、シリーズ21年目のスタートダッシュを飾る主題歌なので、改めて責任感を感じて「頑張らねば!」と気合いが入りました。
――楽曲に対する印象も教えてもらえますか?
吉武 今までの『プリキュア』シリーズの楽曲を歌っている時は、聴いてくれるお友達みんなに向けて歌う楽曲が多かったんです。でも『わんぷり』は、「人間も動物もみんな友達になれる」というのがテーマの1つにあるので、人間から動物、飼い主からパートナーに向けたところを意識した楽曲作りになっていると思いました。なので、歌詞にいっぱい出てくる“キミ”という言葉では相手をしっかりと意識して、特に後半にかけてはより声を立たせて歌っています。(飼い主の)いろはから(飼い犬の)こむぎに向けても、その逆にも当てはまる歌詞がいっぱいあると思ったので、人間側と動物側の両方の気持ちになりながら、私もワンちゃんを飼っているので自分の気持ちも重ね合わせながら歌を作り込んでいきました。
――人間と動物が会話しているような感じですか?
吉武 そうですね。歌詞を読んだときに絵本みたいに感じたんです。“やったー!待ってたよ”とか“あくびのあの子 話しかけちゃう?”“みんな友達になろ♪”のようにセリフみたいな歌詞が多いので。“涙はかくれんぼ 公園探検隊”のところはすごくかわいいし、色んな動物と交流していくことを感じさせる部分でもあるのでお気に入りです。
――人間と動物、どちらの気持ちも演じながら歌う、という箇所について、具体的に教えてもらえますか?
吉武 特にDメロがそうだったんですけど、“うれしい たのしい やさしい いとしい”は1つ1つで感情を変えながら、メロディはあるけど話しかけているような、掛け合いみたいな気持ちで歌いました。そこから“キミと覚えてこれた気持ち 胸でふくらんでく ”は人間の、“あまえたがり さみしがりも ぎゅっと抱きしめてくれるから 強くなれるね”の2行はワンちゃんの気持ちで一緒に歌っている感覚になって、感情を変えています。そこは家で練習しているときからすごく意識していました。他にも、“やったー!待ってたよ 今日もいっしょに遊ぼ♪”はワンちゃんの気持ちだと思いましたし、“ねえねえ、あくびのあの子 話しかけちゃう?”は一緒にお散歩している人がワンちゃんにお話してるのかな?って想像を膨らませていました。
――いろはとこむぎの関係を描くように。
吉武 はい。ただ、バディに向けた楽曲にしたいとは思っていたんですけど、私にとってはプリキュアも作品を観てくれているお友達もパートナーなので、“私の中での大好きが止まらない”は色んな大好きを詰め込んでお歌を作っていきましたね。あと、第1話を観たら(プリキュアが)敵に対しても「ぎゅっ!」てしていて。
――狂暴化したアニマルを戦わずにハグで浄化させました。
吉武 レコーディングのときは第1話の内容を知らずに録っていたのですが、自分が思い描いていた解釈と重なっていたので、その浄化の仕方を見てすごく嬉しくなりました。
――レコーディングの様子についても教えてもらえますか?
吉武 プロデューサーの方も作家の皆さんも「ありのままで歌っても大丈夫だよ」と言ってくださったので、本当にありのままで歌いました。でも最初は、自分ではいつも通りの気持ちで歌ったんですけど、「すごく気合いが入っているので、力を抜いてください」って言われてしまって(笑)。今まで歌ってきた楽曲でも「プリキュア」という言葉が歌詞に入ることはありましたけど、作品タイトルの「わんだふる!」が何度も入るのはオープニング主題歌ならではなので、やっぱり嬉しかったんでしょうね。
――それでつい力が。
吉武 しかも、作品タイトルの『わんだふるぷりきゅあ!』という言葉が(歌詞の中に)フルで入っていますし、そこから楽曲が始まるので、少し意識しすぎたのかもしれないです。だから、自分の中で「これだ!」という歌い方が見つかるまでは思う通りにいかなかったところがありました。歌詞の意味を深く考えすぎてしまうところもあるからだと思うんですけど。でも、オープニングだからこそ、「今日はどんな物語なんだろう?」とか「どういう冒険が待ってるのかな?」とワクワクしてもらえるような楽曲にしていけたら、とはすごく思っていました。
――レコーディングはどのように進んでいきましたか?
吉武 最初にTVサイズを録りながら方向性を固めて、休憩を挟んでから2番も録っていったのですが、でも自分の中の感情がこう(手で波を表しながら)流れていくような楽曲だったので、Aメロ、Bメロ、Cメロと録っていく中で表情を少しずつ変えることを意識していました。
――A、B、Cと個別に録りながらも繋がりを意識して。
吉武 でも逆に、サビ前半の“育ってく”からサビ後半の“ずっとそばに”に繋がるところは、歌としては繋がっているんですけど、“ずっとそばで”の歌い方をサビ前半の雰囲気とは変えてみることになって、何テイクか重ねてみました。
――それはどういう理由からだったんですか?
吉武 昨年は『プリキュア』シリーズ20周年という記念すべき年に、『ひろプリ(ひろがるスカイ!プリキュア)』のシンガーとして1年間活動させていただいて、「絆ってすごいな」と改めて感じたのですが、『わんぷり』では「動物と人間の間にどういう絆が生まれるんだろう?」と考えたんです。そのとき、「一緒にいられるだけで嬉しいくらいに大好きで、楽しくて温かさもいっぱいあるな」と思ったので、“ずっとそばで”はちょっと歌い方を変えて、ワクワクの中に温かさみたいなものも入れ込みながら歌いました。
――この楽曲はすでに“全プリキュア 20thAnniversary LIVE!”でも披露されています。やはり緊張されましたか?
吉武 本番も緊張しましたけど、全体リハが本番以上に緊張したかもしれないです(笑)。歴代シリーズのプロデューサーさんたちがいて、出演者の皆さんがいて、しかも(「わんだふるぷりきゅあ!evolution!!」の)視聴動画が公開される前だったので、ほとんどの方がそこで初めて楽曲を聴く状態だったんですよ。『プリキュア』への愛がすごい皆さんが、「どんな歌なんだろう」って楽しみにされている前で歌うというのは……それはもう!(笑)。
――期待に満ちた視線を浴びながら。
吉武 本番でも、歌うことを告知していなかったので会場のみんながどんな反応をするかわからないですし、『プリキュア』に関わらせていただいた5年で一番緊張しました(苦笑)。本当に心臓がバクバクで。その前に「Dear Shine Sky」(『ひろがるスカイ!プリキュア』後期ED主題歌)を歌っているときは、楽曲と『ひろプリ』のみんなのこと、会場のみんなのことを思っているので大丈夫だったんですけど、お辞儀して暗転した瞬間、多分素の状態に戻っちゃったんですね。「始まるぞ……」「どうしよう……」ってなってました。まず、初披露の場所が横浜アリーナになるなんて思ってもいなかったですし。
――何から何まで緊張する要素でいっぱいだったと(笑)。
吉武 「Dear Shine Sky」を歌い終えたあと、キュアスカイが21年目の友達として『わんだふるぷりきゅあ!』の2人を紹介していたとき、私は裏で必死に階段を下りていたんですけど(笑)、イヤモニをつけていてもみんなの歓声が聞こえました。そのあとに明かりがついて、キュアワンダフルとキュアフレンディが見えた瞬間、パンッて気持ち切り替わりました。あと、ファンの皆さんが初披露なのに一緒に掛け声を言ってくださったのでびっくりしました。CD発売前で視聴動画しか公開されていなかったのに、「さすがだな」って思いました。
――そこでようやく緊張がほぐれました?
吉武 はい。全プリライブは、改めてみんなでバトンを繋いでいく、という演出だったじゃないですか。だから、「絆が未来に広がるように頑張らねば」という21年目の責任みたいなものをすごく感じていたんですよね。それに「わんだふるぷりきゅあ!evolution!!」を歌っているときは、みんなが後ろにスタンバイしている状態だったので。
――『わんぷり』コーナーの次が、キュア・カルテットによる『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~』コーナー、そして全員での「キラキラKawaiiプリキュア大集合♪ ~よろこびの音~」でしたから。
吉武 感情が大変なことになっていたと思います(笑)。
――プリキュアシンガーの皆さんから何か声はかけられましたか?
吉武 キュア・カルテットの皆さんには「これから1年頑張ってね」と声をかけていただいて、北川理恵さんにも「最高だよ」と言ってもらえました。Machicoさんとは帰りが一緒になったんですけど、「プリキュアは千颯に任せたぞ!」と言ってもらえて、その瞬間にまた泣いちゃいましたね。ライブでひとしきり泣いて涙腺がゆるんでいたのか、大変でした(笑)。
――ダンスについてはいかがでしたか?こちらも初披露でしたが、OP主題歌ですし、吉武さんがアクターズスクール広島出身で特技はダンスだからか、しっかり振付されていますね。
吉武 最初にいただいたときはかわいすぎてびっくりしましたけど、意外と踊るんですよ(笑)。でも、『映画プリキュアオールスターズF』の復活祭で歌わせていただいたとき、振付を見せるのは2回目なのに一緒に踊ってくれる子がいたんですね。「“全プリライブ”のアーカイブも見てくれたのかな?」って思ったらめちゃめちゃ嬉しかったです。ワンちゃんっぽい動きとかかわいいポイントがいっぱいなので、OP主題歌ですけど「エンディングのようにみんなで一緒に踊ってもらえたらいいな」って思っています。
――ダンスでお気に入りのポイントは?
吉武 やっぱりワンちゃんっぽいポーズ、(両手を横で丸く握って)これが好きですね。でも、猫にも見えるんじゃないかと思っていて。今後の(アニメ本編の)展開と合わせて、すごく楽しみなポイントでもあります。
――お友達に向けて、歌うときのアドバイスをするとしたら?
吉武 誰か1人、大切な人を思い浮かべながら歌ってもらうと“大好き止まらない!”とか“一緒にいようね”がより際立つと思います。ペットを飼っていたら動物でもいいですし、プリキュアでもいいと思うし、好きなものを具体的に思い浮かべながら歌うと、より「わんだふる!」な曲になるんじゃないかと思います。
――でも、誰かを思い浮かべるのは試しやすいですね。吉武さんの歌にエナジーが溢れている理由も、具体的にイメージしているからかもしれませんね。
吉武 一緒に過ごす中で生まれる“うれしい たのしい やさしい いとしい”って1つじゃないと思うんですよ。“うれしい”の中にも色んな嬉しいがあると思うし、“たのしい”にも色んな思い出があると思うし。いつもお友達やプリキュアたちに向けて歌おうと思っています……勝手な妄想にはなってしまいますけど(笑)、でもそれがすごく楽しいです。
――本当に元気で楽しくて、吉武さんのためにあて書きしたような楽曲だと感じました。プリキュアソングでありながら、吉武千颯という「個」を感じましたし、歌が迫ってきました。
吉武 本当ですか?(笑)。でも、一緒に手を繋いで「行くぞ―!」って言っているような感じで、本当に楽しい楽曲ですし、楽器もたくさん入っているんですよ。ぜひオケだけのバージョンもCDで聴いていただきたいくらい。“一緒に遊ぼう”のところで鳴っている音のように、楽しくなるような音やメロディのおかげで自分も感情を乗せられたと思います。
SHARE