INTERVIEW
2024.04.16
現在大ヒット上映中の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』。日向翔陽擁する烏野高校と孤爪研磨たちの音駒高校。盟友である二校が念願の対決が春高バレーの3回戦で叶うことに。カラスとネコの、伝説の“ゴミ捨て場の決戦”再び!という『ハイキュー!!』でも人気のエピソードが劇場公開アニメとして上映を開始して2ヵ月を迎えたが、今も多くの観客が映画館へと足を運んでいる。
その映画の主題歌「オレンジ」を歌うのはSPYAIRだ。TVアニメ『ハイキュー!!』最初のOPテーマ「イマジネーション」を作ってから10年。新生SPYAIRとして走り出したばかりの彼らにとって『ハイキュー!!』はどんな存在なのか――楽曲制作の要でもあるベースのMOMIKENに話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――今回、大ヒット中の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌「オレンジ」をご担当されましたね。
MOMIKEN 映画も主題歌も大ヒット中で、本当にありがたいです。
――SPYAIRと『ハイキュー!!』の出会いとなった「イマジネーション」から10年となりました。
MOMIKEN そうなんですよ。僕らもお話をいただいたときに「もう10年」という話になって「え?ついこの間出した感覚だったんだけど!」って驚きました。そんなに時が経っていたのかって思いましたね。
――これだけ長く携わってこられた作品ですが、バンドにとってどんな存在になりましたか?
MOMIKEN バンドがちょっとゴタゴタしたタイミングで、いつも『ハイキュー!!』に救われてきました。今回の「オレンジ」も、ボーカルが変わって、きっと「新しいSPYAIRは聴かない」という人もいるだろうなというなかで、たくさんの人に聴いてもらえるチャンスを与えてくれました。バンドがグッと落ち込んだ瞬間に、救いの手を差し伸べてくれる。まさに救世主のような存在です。
――ただ、この10年で、『ハイキュー!!』を通してSPYAIRに出会った人たちも少なくはないと思うのですが、そういった実感などはありますか?
MOMIKEN 反応を見ていると、そういう方が多いし、今回の映画でまたSPYAIRの音楽と再会してくれた、という方も多いように感じます。「あのとき見ていたアニメ」みたいな感覚で劇場版を観に行って、「オレンジ」を聴いてすごくエモくなった、という反応をいただきましたし、作品もそうだけど、思い出の中にも楽曲がある。10年という時間があるからこそなんだなって思いました。ファンの子と話をしていて、「初めて『イマジネーション』を聴いたのは高校1年生のときです。今は25歳で、社会人を頑張っています」と言われて。そういう年齢になるよねって……小学生だったけれど、今はもうハタチです、とか。そういう言葉を聞くと、僕自身もエモい気持ちになります。
――ご本人にとっても、この10年という時間とバンドのことが思い起こされる作品でもあるのですね。
MOMIKEN そうですね。
――2018年にさいたまスーパーアリーナで開催された“ANI-ROCK FES.”の『ハイキュー!!』をフィーチャーした日に出演された際、目の前がオレンジに染まる経験をされたと思います。ほか、『ハイキュー!!』にまつわるイベント出演などもありましたが、どんな景色が思い出されますか?
MOMIKEN 去年、武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナでの『ハイキュー!!』のイベントに出演させていただいたのですが、以前「イマジネーション」のタイミングでイベントに出演した際には、そこまで大きな会場ではなかったんです。そこからさいたまスーパーアリーナ、そして去年と会場の規模がどんどん大きくなっていく瞬間を一緒に感じてこれたので、仲間というか、一緒に切磋琢磨して駆け上がっている戦友なんだな、と感じています。
――1つの作品に4曲という楽曲で関わるのも珍しいことかと思いますが、共に歩んでこられたこの時間の中で最も印象に残っている出来事を教えてください。
MOMIKEN 思い出、たくさんありますよ。「イマジネーション」を出したときには、「ヒットしているな」と思った矢先にバンドが活動休止になって、「よし、再始動しよう」となったときに「アイム・ア・ビリーバー」で支えの手を差し伸べてもらい復活できました。「One Day」は僕が作詞作曲で初めて関わらせてもらえた作品となったこともあって、個人的に思い入れがとても深いですし、今回の「オレンジ」は新体制になって初めてのタイアップ。しかもこんな大きな作品で。だって、お話をもらった時点ではまだ新体制になってからの新曲はなかったんですよ。
――えっ、そうだったんですか。
MOMIKEN まだ世の中に出してない曲が1曲あっただけだったんです。そんな状況で『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌をお願いしますって。感謝しかなかったです。この先どうなるかわからないバンドに、この大事な劇場版を任せていいのだろうかと思って「いいんですか?」って何回も確認しちゃいました。本当に一つひとつの作品に、ちゃんと思い出がのっているんだなと。いつでも僕らを引き上げてくれる、スーパーリベロのような存在だなってすごく思います。
――スーパーリベロ。烏野高校の西谷 夕であり、音駒高校の夜久衛輔がSPYAIRにとっての『ハイキュー!!』、エモい……!そんな「ゴミ捨て場の決戦」の主題歌がきたときのお気持ちを、改めてお聞かせください。
MOMIKEN 本当に、僕らでいいんですか?って気持ちでした。
――でも劇場版がある、ということはご存知でしたよね?「俺たちだろう」とは思っていらっしゃらなかったということ……?
MOMIKEN いやいや、思ってないですよ!そもそも劇場版が発表になったタイミングではボーカル不在でしたし、誰かがやるんだろうなぁって思っていましたよね。お話をいただいたときは、ボーカルが入って間もなかったし、何の実績もなかったので「僕らで大丈夫ですか?」って。だって、日本においてはボーカルが変わったバンドというだけでも離れていくファンもいれば、それまでなんとなく聴いていた人も離れていってしまうと思うし。それでも僕らは抗って戦っていこうという決心はあるけれど、「絶対に大丈夫です。信じてください」とまだ言えるような状況ではなかったですから。だからこそ全力で応えたいと思いました。
――こうして制作に動き出した「オレンジ」ですが、テーマ探しなどはどのように進んだのでしょうか。
MOMIKEN まず、アニメを制作している皆さんともお話をしたのですが、初めて大人数のリモート会議に参加しました。ものすごい数の窓が開いていましたね(笑)。「これは話をまとめられるのかな」と思うくらいの人数がいて。楽曲に関して言えば「SPYAIRらしいものをお願いします」ということでした。“らしさ”を出してくれるなら、そのなかで自由演技で、ということで。なぜこんなに信頼をしてくれているのかな、と思うくらいに。でも1つだけ「青春の終わり」というテーマを渡されました。「イマジネーション」のような「行け―――!」という感覚だけではなく、切なさも欲しいというお話でした。僕らも年齢が上がって「行け―――!」って感じだけではないほうが、今の僕たちのサウンドとしてリアリティがあってやりやすいです、と気持ちが合致したことで作り始めました。
――新体制での初タイアップ。楽曲制作はいかがでしたか?
MOMIKEN 新しい体制になったからサウンドも新しくしようという道と、ボーカルが変わっただけで制作陣は変わっていないからバンドの王道を突き詰めるという道があったのですが、まずは新しい面を見せるべく『JUST LIKE HIS 2023』のテーマ曲「RE-BIRTH」をYOSUKEにも制作に入ってもらって作ったんです。で、「オレンジ」のタイミングではUZと俺で“ザSPYAIR”というものを作ろうと制作を進めていきました。実際にやってみて、大きな自信になりましたね。UZが曲を作って、僕が歌詞を書いている以上、聴いている人も感じたと思うのですが、どうしたってSPYAIRになるんです。そこが1つ、確かな自信になったなと思いました。嬉しかったこととしては、映画を観た人たちが「やっぱりSPYAIRだった」と言ってくださっていること。自分たちがやってきたことは間違っていなかったなと感じましたし、皆さんがそう感じてくださることで、「SPYAIRってこうだよね」という音を積み上げてきたことは間違っていなかったな、と思えました。
――そんな「オレンジ」でMOMIKENさんは歌詞を書かれています。楽曲には“青春の終わり”というテーマがありましたが、歌詞に対してはいかがでしたか?
MOMIKEN 「ドキドキしたいので、そういう方向でお任せします」って言われました(笑)。むしろハードルが高いですよね。その言葉を聞いて、なるほどって言いながらも「どうしようかな」と思って、とりあえずマンガを最初から全部読み直しました。改めてヒントになる言葉はないかなって読んでいたら「バレーボールは“繋ぐ”球技」ってワードが序盤のほうにあって。今まで僕らが関わってきた『ハイキュー!!』の曲を繋いでいったら、それはバレーボールじゃんって思って。それでまだ曲もない段階で「イマジネーション」と「アイム・ア・ビリーバー」と「One Day」の歌詞を入れて、1つの到達点に向かっていくように、これまでの楽曲を繋いだ歌詞にしようというコンセプトが漠然と僕の頭のなかに浮かび、それを成立させるにはどうしたらいいのかなと考えていきました。曲が届いて歌詞を仕上げていくなかで、意外と良いところでそれぞれの言葉を使えたなって個人的にも思っています。
――色んなシーンが浮かんでくる並びでしたが、MOMIKENさんご自身は「オレンジ」にどんな視点を持って書かれたのでしょうか。
MOMIKEN リリースするタイミングは時期的に出会いと別れの季節だと思ったので、卒業ソングにしようかなと思いました。「イマジネーション」も「アイム・ア・ビリーバー」も「One Day」も、「ああいうことがあったよね」という風景を思い出すような歌詞がそれぞれにあったので、それを入れていけばこの曲を聴いた人たちが青春を回顧できるのではないかなと思って。別れがあって、また新しい出会いというステップもあるんだよ、ということを曲に落とし込むようにて書いてきました。
――実際に完成して、レコーディングはいかがでしたか?YOSUKEさんにはどんなことをオーダーしたのでしょうか。
MOMIKEN 「オレンジ」に関しては、特に注文したことはなかったです。そもそもこの曲はYOSUKEの魅力であるファルセットを入れたいなとは思っていたのですが、こちらからそれを言わずともファルセットを使った歌い方でレコーディングに臨んでいたので、オーダーしたことはなにもなかった。みんなが同じ方向を向いて作れた曲だなと思っています。
――実際に劇場で「オレンジ」が流れたときにはどのような感想がありましたか?
MOMIKEN 俺、完璧な歌詞を書いたな、と。本当に、120点だなって自画自賛しました(笑)。この映画の締めの曲としてこれ以上ぴったりなものはないよって思っちゃいましたね。僕、映画が好きなのですが、エンドロールでバーッと音楽が流れてくる瞬間には余韻に浸りたいんですね。「余韻に浸る」という意味でこの楽曲は映画を4分くらいにギュッとしたような1曲だな、という感覚があったから、しっかりと余韻に浸れました。
――公開から時間も経ちました。MOMIKENさんがグッときた場面を教えてください。
MOMIKEN 実は何度か劇場で観ていて、観るたびに変わるんですけど、この間観たタイミングではやっぱりツッキー(月島 蛍)のシーンはエモくて。本当になんでもない場面なんですよ、手を前に出して、上に飛ぶ。グッと胸に刺さって、そこからブロックした瞬間に「あああ!」と胸が熱くなりました。つい先日はそんな感動がありましたが、その前に観た時はそもそもバレーボールに対してそれほど熱量があるわけではない研磨が、だんだん熱を持っていって「バカ!ボール!!! まだ落ちてない!!!!」っていう必死にボールを追い回すところにグッときました。この映画は、観れば観るほどグッとくるシーンが色んなところにあるような気がします。
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