『デート・ア・ライブ』との邂逅、再び。アーティストデビュー5周年イヤーを迎えた声優の富田美憂が、現在放送中のTVアニメ5期『デート・ア・ライブV』のOPテーマ「Paradoxes」をリリースした。前作『デート・ア・ライブIV』のOPテーマ「OveR」で初めて同シリーズの主題歌を担当し、かつてないほど激しく重厚なロックナンバーを自らのものにした彼女だったが、今回の新曲では一転して壮大なバラードに挑戦。物語の核心に向けて大きな動きを見せる作品に相応しい楽曲に仕上がっている。さあ、富田美憂が表現する新たな『デート・ア・ライブ』の歌世界に踏み込もう。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――『デート・ア・ライブ』シリーズの主題歌を担当するのは今回が2度目となります。お話をいただいたときはどう思われましたか?
富田美憂 4期の放送からあまり間を空けず5期のお話をいただいたのですが、『デート・ア・ライブ』は私が学生の頃からアニメが放送されている歴史の長い作品なので、プレッシャーも感じつつ、良い緊張感をもって楽曲を届けられるんじゃないか、と思いました。実はレコーディング自体も半以上前に行っていたので、今はようやく皆さんに聴いてもらえるという気持ちが強いです。
――前作『デート・ア・ライブIV』のOPテーマ「OveR」は、作品や富田さんのファンから様々な反響があったのではないでしょうか。
富田 あの楽曲をきっかけに私のリリースイベントに足を運んでくださった作品のファンの方もいましたし、元々私のことを応援してくださっている方の中にも『デート・ア・ライブ』好きの方がたくさんいらっしゃって。私はデビュー当初から強めの楽曲を歌う機会が多かったのですが、「OveR」でよりロックでかっこいいイメージを持ってくださる方が増えた印象があります。その意味でも「OveR」はアーティスト・富田美憂としての名刺代わりの1曲になりました。
――今回の5期のOPテーマ「Paradoxes」は、「OveR」と同じ作家陣(作詞の渡部紫緒と作曲・編曲の坂部 剛)が楽曲を手がけていますが、前作とはかなり趣きの異なる楽曲になりましたね。
富田 「OveR」は疾走感があって“THE オープニング”という感じの楽曲でしたが、「Paradoxes」はすごくしっとりしていて、なおかつ楽曲自体のスケールは壮大だったので、最初に聴かせていただいたときはEDテーマと勘違いしたくらいで(笑)。こういったいわゆるロックバラードをOPテーマに持ってくるのは、アニメが5クール目まで続いてきたからこそできることだと感じましたし、作家のお二人は歴代の『デート・ア・ライブ』の楽曲を作ってらっしゃる方なので、そのお二人が「富田美憂が歌う『デート・ア・ライブ』の楽曲」像をしっかりと把握してくださったうえで今回も楽曲を作っていただけたことが嬉しかったです。
――楽曲を受け取ったときに「OveR」を踏まえた要素を感じたりはしましたか?
富田 「OveR」と「Paradoxes」に一貫して感じるのは、“あなた”というフレーズが多く使われていることです。『デート・ア・ライブ』にはたくさんのヒロインが登場するので、どのヒロインに当てはめても、彼女たちが主人公の(五河)士道を想う気持ちとリンクするように、どちらの楽曲でも“あなた”という言葉は大切に歌わせていただいています。
――「OveR」のインタビューのときに、4期の物語で大きくフィーチャーされた時崎狂三の心情を特に意識した楽曲というお話しがありましたが、それで言うと「Paradoxes」は特定のヒロインをイメージした部分はあったのでしょうか。
富田 今回は作品サイドからも特にそういうお話はなかったので、私のほうで特定のヒロインに決め込んでイメージすることはなかったです。きっと作品のファンの方それぞれにこの曲への解釈があると思うので。ただ、5期では「さあ――終わりの始まりの戦争(デート)を始めましょう」というキャッチコピーが使われていることもあって、ある種のクライマックス感が楽曲の雰囲気にも反映されている気がしています。
――レコーディングではどのようなことを意識して歌われましたか?
富田 全体的に「歌姫感」を出せるよう意識しました。歌詞の内容も言葉の使い方が上品で、すごく女性らしさがあるので、今までの良い意味でトゲトゲしていた歌い方のトゲの部分を少し減らして、歌声全体が丸くなるようにしつつ、でもどこかラスボス的な強さが滲み出ればいいなと。
――それは今まで富田さんが追及してきた“強さ”を意識した歌い方とは、またベクトルの違う表現だと思うのですが、例えばキャラソンのお仕事を含め、これまでの経験で培ってきた引き出しを活かせた部分はありますか?
富田 抽象的な言い方になりますが、今までの経験を全部書き集めて踏襲した感じがすごく出ているように思います。先ほどお話ししたラスボス的な“強者感”というのは、アーティストデビュー1年目の私にはきっと出せなかったと思うんです。それは役を演じるうえでも一緒で、私は声優の活動を始めた当初、お姉さん役をやるの苦手だったんですよ。でも、年齢を重ねると共に色んな経験をして、色んなタイプのキャラクターを演じてきたことで、昔は中高生くらいの年齢感のキャラクターを演じることが多かったのが、最近はもっとお姉さん的だったり、みんなをまとめる立ち位置のキャラクターを任せてもらえることが増えました。そういった色んな経験や技術が、この曲の歌にもすごく乗っているように感じます。
――今の富田さんだからこそ歌える歌になっていると。
富田 1つ、すごく印象的なディレクションがあって。ラスサビの1番音が盛り上がるところは、最初にテストで歌ったときはオケの音がドーン!と大きくなるところに合わせて、歌もドーン!という感じで歌っていたのですが、ディレクターの方から「歌姫感を出したいから、あえてそのオケに左右されすぎないパターンも聴きたいです」とご提案いただいて。オケに歌声を乗せすぎないほうが「私の歌声が主役」感が出るんじゃないか、ということで、今までチャレンジしたことのないアプローチを試してみました。「歌に音がついてきている感じ」と言いますか。
――言葉にするのは簡単ですが、表現するのは難しそうですね。
富田 そうなんですよ(笑)。なのでラスサビもあえてやり過ぎず。この楽曲、実は引き算の作業もすごくしていて、それこそ「OveR」や「Broken Sky」は常に臨戦体制みたいな「使える武器は全て使います!」という気持ちで歌っているんですけど、この曲はいつもしゃくりがちなところをあえてしゃくらずに歌ってみたり、あえてビブラートをかけないようにしたりとか、いつもの癖みたいなものを若干制御しながら歌ったんです。その意味では、今までは0か100で歌っていたものを、80パーセントくらいとか、細かい調整をしながら歌えるようになった気はします。
――その余裕がこの楽曲ならではの“強者感”に繋がるわけですね。プラスして歌の組み立て方もブロックごとに変化して、Aメロ・Bメロやサビごとに表現を細かく作り込んでいる印象があります。
富田 そこもすごく気をつけたところで、イントロは静かなピアノの音から始まって、私としては水面が静かに揺れているようなイメージが浮かんだので、Aメロ・Bメロは音符に合わせて歌うというよりも、ちょっとセリフっぽく歌っています。そこからサビのバーン!と広がるところでは歌い上げるようにしていて。特にDメロは「ここだ!」と思って本当に魂を込めて歌いました(笑)。
――個人的にAメロ・Bメロのアプローチは、富田さんらしいハスキーな声の魅力が一層出ていて、儚さも感じられて素晴らしいなと思いました。
富田 ありがとうございます!今回の「Paradoxes」の楽曲とMVでは、“儚くも美しい”というテーマを自分で勝手に設けていたので、儚さを感じていただけたということは自分の狙い通りで100点だなと思いました(笑)。
――そういった歌の表現を作り込むにあたって歌詞の内容も意識したと思うのですが、この楽曲の歌詞についてはどのように受け止めましたか?
富田 まず、この歌詞の主人公には明確に“あなた”という存在がいることを感じたので、目の前の“あなた”に歌っている感じを大事にしました。例えば、作品のタイアップ曲なので、ヒロインたちの気持ちを踏襲して主人公の士道のことを思い浮かべたりとか。楽曲のスケール自体はすごく大きいのですが、あえて歌っている対象を明確にイメージすることで、聴いてくれる方も「自分に歌ってくれている」という気持ちになってくれたらいいなと思いながら表現していきました。
――歌詞を深読みすると、何かの事情で自分の元を離れてしまった“あなた”を強く求めるような、諦めたくない気持ちも感じられます。
富田 私もその解釈と似ていて、“やっと 掴みかけた光”というフレーズもあるので、1番ではダウナーな気持ちを出しつつ、でも楽曲が終わりに向かっていくにつれて、少し希望が見えてくるように歌を組み立てていきました。私もまだ今回のアニメで描かれるストーリーを全部把握しているわけではないので何とも言えないのですが、きっとアニメを全話観たあとに改めてこの楽曲の歌詞を意識しながら聴くと、また違った解釈が見つかると思います。
――この楽曲のMVについてもお聞かせください。どんなコンセプトで撮影されたのでしょうか。
富田 「夢の世界」的なものをテーマにしていて、冒頭は私が眠っているところから始まる、ちょっと非現実的な雰囲気があるMVですね。前作の「OveR」の衣装は黒い感じだったのですが、今回は真っ白な衣装で、対のイメージになっています。お城みたいな場所で撮影したのですが、当日はものすごい嵐の日で、撮影スタートのとき、停電していたんですよ(笑)。一時は撮影できないかも、という心配もありましたが、その後電気が付いてくれて、無事にその日中に撮影ができました。
――そんな苦労を微塵も感じさせない映像に仕上がっていますね。先ほど富田さんが個人的テーマとして話されていた、このMVにおける「儚くも美しい」こだわりポイントも聞いていいですか?
富田 私、一度髪色を暗くしたんですけど、このMVのために色素を薄めに染め直したんですよ。「夢の世界」のイメージだったので、この世のものじゃない感じを出したくて、メイクも「OveR」の時と比べるとナチュラルっぽい、ちょっと透明感のある感じにしてもらいました。
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