INTERVIEW
2024.04.17
ドラマチックRPG「ヘブンバーンズレッド」(以下、「へブバン」)が2周年を迎えた。XAIと鈴木このみという、タイプの違う超強力な二大ボーカルを擁するラウドロックユニットのShe is Legend は、リアルバンドとして精力的にツアーを行い、現実でも存在感を発揮している。セカンドアルバム『春眠旅団』のリリースを機に、今作の音楽のキーパーソン、全楽曲の作詞・作曲を手掛けるプロデューサー・麻枝 准に改めて今作への熱い想いを語ってもらった。インタビュー後編では、麻枝の創作術や、She is Legendの今後について訊いた。
INTERVIEW & TEXT BY 前田 久
――ライブでも時折披露されていますが、「ヘブバン」の2年間を振り返ったときに大きな音楽的な面でのトピックとして『Angel Beats!』との二度のコラボで、Girls Dead Monsterの曲と麻枝さんが改めて向かい合われて、She is Legendバージョンとしてカバーされたことがあると思うのですが。10年以上前の仕事を改めて振り返られて、どんなことを感じられましたか?
麻枝 准 あれは向き合ったというより、向き合わ「された」という言葉が正解で……(笑)。向き合いたくなかったんですけど、ライトフライヤースタジオの熱意に押されて、やるか、ってなったんです。これ、自分は昔から色んなところで言ってると思うんですけど、最新作にしか興味ないんですよ。
――はい。
麻枝 最新作にしか興味がないからこそ、過去作のリメイクだったり、例えば「かぎなど」みたいな過去のものを使ったクロスオーバーものをやるとか、そういう企画にまったく興味が持てない人間だったんです。やっぱり過去にリリースしたものは過去のものであって、だから別に過去のものを褒められても、あまりピンとこない。「最新作が一番良い」って言われたいクリエイターなんですよね。だから、過去の栄光を引っ張り出してきて、向き合わされてるな……って感じで、むしろ過去の栄光を引っ張ってこなくちゃいけないんだったら、クリエイターとしては駄目だな、気を引き締めなきゃな、という思いしかないですね。
――なるほど。しかし、本当に精力的に書かれていますよね。She is Legendだけではなく、やなぎなぎさんとの曲もかなり数が増えてきました。今、麻枝さんは「ヘブバン」の音楽について、どんな想い、どんな狙いで取り組んでいるんでしょうか?
麻枝 それはね、最初から変わってないんですよ。とにかく、自分が作るRPGだったら、ボーカル曲をたくさん聞けるものにしたかった。それをどう表現するかはライトフライヤースタジオ側の課題だったんですけど、それをギリギリで叶えてくれて、月1でライブ動画を作れる体制に今はなっている。環境が整ったのだから、そこから先は自分の中でハードルを上げてとにかく良い曲を作り続けているだけですね。そこは2年前からずっと変わっていません。ただ、She is Legendの新曲は月1ペースで発表できるので、そろそろちょっとだけ挑戦的なこともやっていいかなと思って書いているところはあります。例えば、イベントストーリーの内容によっては、シリアスじゃなかったり、そこまでドラマに寄り添ってない曲をたまには書いてもいいのかな、と。逆になぎさんの曲は慎重に。なぎさんの曲はメインシナリオで流れる曲たちなので、慎重に良い曲のみを粛々と用意していますね。……とか言いながら、ラスボスのサビ毎回、めちゃくちゃな歌詞なんですけど(笑)。「Welcome to the Front Line!」のラスサビの“水回りだけで何十万円請求されるなよ”とか、自分で書いておきながら、五章前編ラスボス戦で流れているのを聴いて面白かったです。
――でも、そのバランスが今作の良い両輪になっている感じがします。シリアスな曲とコミカルな曲が両方あり、しかもそれをハイペースで発表できる。ハイペースで曲を書くことは、忙しくて大変ではあるんでしょうけど、麻枝さんの性に合ってらっしゃる印象を受けますが。
麻枝 なんというか、それは……シナリオ書くのは、完全に仕事脳なんですけど、曲を書くのはもう趣味なんですよ(笑)。仕事で疲れたから何か趣味で遊ぶ、リラックスしよう、気を抜こう……そういうレベルなんですよね、自分にとっての作曲って。「あー、やるか!」って思ってやるものじゃなくて、好きでやってるものなんです。本当に、普通の人がゲームをやる感覚ですよ。
――曲を作らない身からすると、想像できない感覚です。
麻枝 しかも自分って、レコンポーザ(音楽製作ソフトウェア)で数値入力して曲を作るので、結構、プログラミングをしてる感覚に近いというか……最近になって気が付いたんですけど、「これって小中学生の頃にマイコンBASICマガジンを買ってきて、自分でプログラムを打ち込んで、BASICでゲームを走らせてたあの頃の気持ちだな」と。
――もう、そこからわからない部分がありまして……。
麻枝 要は、レコンポーザを使った作曲で、「なんかこの音、変だな?」というところや音のずれを直すのって結構デバック作業的な仕事なんです。自分の作曲って鍵盤をあまり弾いたりせずに、ひたすらパソコンのキーボードで数値入力で組んでいく。それが音となって聞こえてくるのが楽しい、っていう感じなんです。で、1曲できると、さらに燃えてくるものがある。シナリオの執筆とは全然違う感覚で、そっちは「やるかぁ……」と、いつも気が重い感じで始めるんですよ。
――そちらはどういう感覚なんですか?
麻枝 自分の中で「ヘブバン」の世界観に入って、その世界に没入して、そのなかで過ごして、キャラクターになりきって、そのキャラがどんなセリフを言うかを考える。そして、そのキャラがどれだけすごい壁にぶち当たるかを考えて、「もうどうしようもない」というところまで追い込むんです。するとそこに「どんな声をかけてやったら、こいつはもう一度立ち直れるんだろう?」という別の自分が現れて、そいつを助けるまで書く。……そんなことをシナリオのときはやるんですけど。作曲はそんなことは何も関係ない(笑)。気軽に、打ち込んで鳴らして、「あー、もっと良くなりそうだな~」みたいなね。本当にただ、仕事と趣味で完全に違う、それだけの話なんですよ、自分からしたら。
――その仕事と趣味が全体として繋がって「ヘブバン」が作られている。
麻枝 そうです。大きな意味では「Kanon」や「AIR」を作ってたときから、ずっと一緒ですね。仕事でシナリオを書いて、疲れたら作曲をする。そうやって脳の切り替えができる唯一無二の人間だと思っています(笑)。普通の人ってシナリオしか書けないから、シナリオを書いて疲れたら休むしかないじゃないですか。
――はい。
麻枝 代わりに自分、作曲ができるんですよ。すると脳の片方を休められる。作曲している間、シナリオで使うのとは別の脳が働くのかな?脳科学的にどういうことかはわからないですけど、とにかく自分の中では脳の使うところがまったく違う仕事という意識ですね。
――「音楽と数学は実は似ている」みたいな話がありますよね?そういう部分と関係があるのでしょうか。
麻枝 音楽を数学に近いという人と、自分が「音楽を作るのはプログラミングっぽい」というのは、ちょっと違いますね。自分のそれは、完全に自分がレコンポーザのステップ入力という、この世で商業音楽では恐らく唯一自分しかしてないような作曲法ありきですから。
SHARE