INTERVIEW
2024.04.05
SACRA MUSICが始めたゲーム×音楽の可能性を探る新たなプロジェクト“SACRA GAME MUSIC”。昨年同レーベルからメジャーデビューして以降、そのティザーソングを担当している京都発のオルタナティブ ・ エレクトロニック ・ グループ・Sawa Angstromが3rdシングル「BUBBLE!」を発表した。今回の「BUBBLE!」はSpotifyとPlayStationのコラボ企画「Spotify on PlayStation」のCMソング。ヒップホップのサブジャンルとしてTikTokなどで流行したフォンクをアイデアのきっかけにしながらも、勝負に向かう誰かの背中を押すような、キャッチーで踊れるSawa Angstrom流のポップミュージックに仕上げている。制作時のエピソードを3人に聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 杉山 仁
――昨年SACRA GAME MUSICでの活動が始まって以降、皆さん自身が変化を感じていることがあれば教えてください。
浜田 淳 変わったのは、ゲームとの距離感なのかな、と思います。僕はSACRA GAME MUSICでの活動は、「ゲームの世界と混ざっていく感じがすごくいいな」と思っていて、自分たちの音楽にもゲームの世界やその快感を取り入れていけたらいいな、と考えるようになりました。それってSawaのサウンドにも合うよね、という話は3人でもしているんですよ。
――ゲームから着想を得て音楽を作ったり、ゲームの魅力を音楽に取り入れたりすることは、これまでの音楽制作とは違う感覚なんでしょうか?
吉岡哲志 もちろん、僕らの場合、まだ具体的に「このゲームの曲を作ろう」という形で曲を作っているわけではなくて、今のところは漠然と「ゲーム」というテーマで曲を作っているんですけど、今回の「BUBBLE!」だと、ゲームのプレイヤーの目線で曲を作りました。特定のゲームの世界というよりもプレイヤーのシーンを表現しているような感覚です。
児玉真吏奈 メジャーデビューしてからリリースしてきた楽曲が周りからもすごく好評で、「ポップさとの絶妙なバランス感が取れていてすごい」と言ってもらえたのはすごく嬉しかったです。
吉岡 ついこの間、友達のライブを見に行ったときにも熱弁してもらったんですけど、「20年くらい前に京都で流行っていたエレクトロニカシーンの雰囲気をまとったまま歌ものの要素を取り入れて、すごくキャッチーな音楽にしているのがすごい」と言ってもらいました。僕らの場合は、そのシーンにいたというより、そのシーンにすごく憧れていた、という感じではあるんですけど。
――今回の「BUBBLE!」は「Spotify on PlayStation」のCMソングになっています。最初にお話が来たときの率直な気持ちを教えてください。
児玉 すごく嬉しかったですね。
吉岡 事務所やレーベルの人たちにも「これは凄い機会だよ」と言っていただいて、本当に嬉しかったですね。
――楽曲の方向性に関しては、何かオーダーがあったんですか?
児玉 最初にサウンドの方向性や歌詞についてのリクエストやキーワードをいただいて、そのテイストに寄せながら、Sawaらしく自由に作らせてもらいました。
――どんなオーダーだったんでしょう?
浜田 それが、「フォンク」(Phonk:メンフィスラップやトラップから派生したヒップホップのサブジャンル。ダークで荒々しい音やカウベルのサンプルなどが特徴で、EDMなどとも結びついて認知を拡大)の要素を取り入れてほしい、ということだったんですよ。
児玉 日本のPlayStationのユーザーと、海外のユーザーの中で、好んでいるジャンルが色々とあって、特に海外のユーザーさんが聴いている音楽の1つがフォンクだったんです。ただ、フォンクをそのままやってほしいということではなくて、あくまで「Sawaとしてフォンクを解釈した音楽を作ってほしい」というオーダーでした。
吉岡 フォンクは自分たちが触れてきたタイプの音楽ではなかったですし、僕は名前自体もその時点で初めて知った感じでした。そこでまずは、フォンクがどういうものか調べたり、実際に曲を聴いたりしていきました。
――フォンクについての理解度を高めていったんですね。
吉岡 はい。でも、今回の「BUBBLE!」が最終的にフォンクになっているかというと、あまりそうは思っていないんです。最初に作ったデモは僕らがフォンクを意識しすぎてしまって(笑)。スタッフからは「もっとSawaらしくやってみてほしい」という意見もあって、結果的に今回の「BUBBLE!」のような音になっていきました。
――フォンクを最初の取っ掛かりにしつつも、そこからどんなサウンドにするかは皆さんに委ねられていたんですね。
児玉 そうです。曲のテーマ自体は、結構早めに出来たのを覚えています。「これからやるぞ!」というような、「勝負の歌にしよう」ということを話していました。
――確かに、前回のシングル「QUEST」がRPGを連想する要素がちりばめられた楽曲だったのに対して、今回は対人ゲームを筆頭にしたバトルでの風景を連想します。
吉岡 そうですね。対戦ゲームでもいいですし、ゲームじゃなくても、普段の生活での告白前とか、スポーツでの大事な試合前とか、幅広い場面に受け取れる曲にしよう、と話していました。そこから、今回は僕が「こんな感じでやってみよう」とトラックを作りました。そのとき考えていたのは「疾走感」ですね。あとは、そもそもフォンクという音楽をどう捉えたらいいだろう、ということも考えていきました。
――フォンクはとても定義が難しいタイプの音楽かもしれません。
吉岡 そうですよね。でも調べているうちに、フォンクの中でも、各国ごとにその土地のカルチャーを取り入れたりしていることを感じて。極端な話、琴の音を取り入れたら日本っぽくなるように、それぞれのカルチャーを取り入れている面もあると思ったので、僕らが作るなら「日本っぽさ」を入れよう、と思いました。それで、ここからはすごく個人的な好みではあるんですけど、『AKIRA』の芸能山城組の音楽のようなものをイメージしました。
――ポップカルチャーが好きな海外の人から見た「日本のかっこいい音楽」ですね。
吉岡 そうです。そういうテイストが感じられるような楽曲にしたいな、と思っていました。
――そのうえで、ビートはUKガラージやベース・ミュージックでよく使われるつんのめるようなハーフステップになっていたりと、色々な要素が混ざっていてとても面白いです。
吉岡 ちょっと、混ぜすぎたかもしれないです(笑)。
児玉 (笑)。
吉岡 「『AKIRA』っぽさ」のようなものを今の自分なりにどう表現しようかと考えた結果、こういう形の音楽になっていきました。
――そこから、みなさんでどんなふうに曲を仕上げていったんですか?
浜田 僕はじーっと座ってました。
――そんなはずないですよね(笑)。
浜田 (笑)。その後は歌を考えていったりしたんですけど、特にサビの部分は「もっと行けるんじゃないか」と色々と相談しながら進めていきました。
児玉 「もっとキャッチーに」ということですよね。「くるぞくるぞ……!」となって最後に弾けるような、サビでバーン!と弾けるような雰囲気というか。今回はそういう種類のキャッチーさを目指しました。陸上のオリンピック選手が「よーい」とポーズを取っているのがBメロ辺りで、そこから「どん!」と走り出すのがサビのイメージなんです。
浜田 曲としてもっといいものにできるだろう、とみんなで頑張った部分でした。
――歌詞で苦労した部分はありますか?
児玉 ラップのようなパートは苦労しましたし、PlayStationの(初期からある合言葉)「1・2・3」を取り入れたいね、とも話していました。あと、サビの後半部分は、歌もビートの一部になれるように、どうやったら「トラックがかっこ良く聞こえる歌にできるか」を言葉選びから考えました。例えば、(実演しながら)「さ行」の言葉が入っていると「ツッ」というリズムになるので、それを「ずっと積み重ねてきて」という部分に活かしたりしています。
――「⼀向聴(イーシャンテン)でココロアガる」の部分もまさにそうですよね。なるほど、そこまで考えられているんですね。
児玉 まさにその部分も、浜田さんと結構話し合いましたよね。
浜田 そうですね。まぁ、これに関しては、真吏奈ちゃんが麻雀にハマっている、という話でもあるんですけど……(笑)。
――麻雀用語でありつつも、勝利目前の雰囲気が上手く表現された歌詞になっていますね。
児玉 聴いてくれる方に共感してもらいたいと思っていたので、私の中では結構色んな場面を想像して、それこそ麻雀のM.LEAGUEの方とか、オリンピック選手とか、高校生が試験を受けるときとか、色んな場面を想像しつつ、全体としてはなるべく「間口の広い言葉を選びたい」と思っていました。3人で考えながら選んでいきました。
――音の面で他にこだわった部分はありますか?
浜田 デモをどんどんバージョンアップしていったり、サビを作り直したり、という積み重ね自体がこだわったところと言えると思います。あと、真吏奈ちゃんは歌いまわしが難しいと言っていましたね。
児玉 サビの後半の4つ打ちになるところは、レコーディングでも結構頑張って歌った部分でした。最初は歌がどこか平らに聞こえるというか、前に前進していくような感覚が出せなかったんです。それで色々試して、トラックと歌のリズムがガチっと合うものを考えました。あと、これは自分が担当した部分じゃないんですけど、3人でちょうどスクリレックスのアルバムを聴いて、「パーカッションみたいな音をシンセで作るかっこ良さ」について話していて。今回吉岡さんが作ってくれたトラックのデモも、その匂いがするものでしたよね。
吉岡 シンセの音作りの流派というか、その昔、モジュールシンセ(のメーカー)で、アメリカの東海岸と西海岸で違いがあったりしたじゃないですか。東はムーグ(Moog)で、西はブックラ(Buchla)というような。最近僕はずっとブックラにハマっていて、シンセパーカッションのどこか奇妙な倍音を含んだ音というか、音階にも聞こえるようなパーカッシブな音に興味を持っていて。この曲ではそういう音にこだわりました。それが最初に言っていた『AKIRA』っぽさという意味でも、自分の中でリンクしやすかったんです。
――そもそも、フォンクもパーカッシブな音を加工しているのが特徴ですよね。
吉岡 そうですね。フォンクの場合は、ローランド・TR-808のカウベルの音を使ってそういう表現をしているのかなと思うんですけど、「BUBBLE!」ではそれを僕らなりに解釈してみた結果、こういう音楽になりました。
児玉 そもそも、「どの要素をフォンクと感じるか?」って、多分3人の間でも全然違っていたと思うんです。それを話し合いながら作っていくのもすごく楽しかったです。
――「BUBBLE!」の場合、フォンクのダークさや荒々しさも取り入れつつ、全体の印象としてはすごくキャッチーなポップソングになっていて、とても不思議な感覚になります。
吉岡 自分たちでも、変な曲だなぁって思っているんです(笑)。
児玉 でも、そうやって言ってもらえるのはすごく嬉しいですよね。Sawaの場合、キャッチーな曲でありつつも、詳しい人が聴いてくれたときには、音楽家としての深みのようなものも感じてもらえる曲になっていたらいいな、と思っているので。
吉岡 自分たちはもともと比較的実験的な音楽が好きな人間なので、その部分とキャッチーさのバランスをどう取っていくのかは、ずっとテーマになっていくと思います。
――「Spotify on PlayStation」のプロモーションムービーの感想も教えてください。青年が音楽を聞きながら歩いている都会の風景と、比叡山延暦寺を舞台にした皆さんの演奏風景と、ゲーム作品『FOAMSTARS』などが1つに繋がっていくような映像が印象的です。
児玉 色味もすごくいいな、と思いました。ゲーム感とSawaの好きなところをぎゅっとした雰囲気が、個人的にはすごく気に入っています。
吉岡 僕はイントロの部分で東京の街が映るシーンが、曲を作るときにイメージしていた『AKIRA』っぽさというか、アルファベットの「TOKYO」という感じが出ていていいなぁ、と思いました。あとは、僕らが演奏シーンを撮影してもらった比叡山延暦寺の大書院(延暦寺大書院)の雰囲気も、すごく良かったです。
――撮影は大変だったんじゃないですか?
吉岡 すごく寒かったです(笑)。
児玉 実は撮影の日は雪が降っていて、外は白銀世界だったんですよ。
浜田 でも、撮影チームの皆さんがすごく気遣ってくださって、スムーズに進めてもらいました。寒さにも気を遣っていただいたりして。
――お寺での演奏風景に『FOAMSTARS』のキャラクターが重なっているシーンなどは、SACRA GAME MUSICのテーマでもある音楽とゲームの融合を特に感じました。
児玉 後半の“ずっと積み重ねてきて/すべて泡に溶け出しても”のところで『FOAMSTARS』のキャラクターと泡が出てきて、すごく感動しました。
浜田 全編を通してシーンが目まぐるしく切り替わっていて、都会の風景とお寺と僕たちの演奏とがバンバン出てくる中で、僕らもその中に登場人物として出してもらっている感じで。すごくかっこいい映像にしていただきました。
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