心を震わすエモーショナルな歌声、抜群の訴求力。これまでもインターネットを通じて数々の歌い手が登場してきたが、彼女の存在はひと際特別な光を感じさせる。2019年9月よりYouTubeを中心に活動し、「泣きながら歌ってみた」「感情を沢山込めて歌ってみた」動画などが話題を呼び、2021年11月にエイベックスからデビューしたシンガー・こはならむ。アニメ『僕の心のヤバイやつ』第1、2期のEDテーマでさらに多くの人が知ることとなった。そして、アニメ音楽メディア「リスアニ!」と、大阪のラジオ局・FM802の番組「802 Palette」がタッグを組んだ、新・音楽メディア「リスパレ!」の「リスパレ!チョイス」第一弾アーティストにも選出されている。
そんな彼女が3月20日(水)、東京・I’M A SHOWにて“こはならむ1st ワンマンライブ ~あなたに届けたかった~”を開催。まだ限られたイベントにしか出演経験がないため、生歌を初めて聴いた人も多かっただろう。本稿では当日の模様をレポートする。
TEXT BY 逆井マリ
PHOTOGRAPHY BY 佐藤俊斗
ステージ中央にあるモニターには、ピンク色の一輪の花を捧げた本ライブのビジュアルイメージが映し出されていた。開演時刻を過ぎると、モニターで始まったのは映画さながらのクレジット入りのオープニングムービー。東京から歩き出すこはならむの後ろ姿から始まり、そこから街や海、公園、プライベートな空間で歌うダイジェスト映像が。最後の連射のようなカットでは、様々な時期の彼女の髪型が並んでいた。そして、別々の2つの手が繋がれる映像で途切れる――。
暗がりのなか、バンドメンバーである幡宮航太(Key)、松本コーキ(Gt)、Shunta(Dr)に続いて登場したのは、ふんわりとしたボリューミーなドレスに身を包んだこはならむ。ステージ中央に用意されたレースとピンク色の小花に彩られたガーリーなボックスに入っていくと、そのシルエットが幻想的に映し出される。
始まったのは、彼女のデビュー曲「不完全花」。理想を追い求める度に、躓いては自身の“不完全さ”を思い知らされる人生だとしても、それでも一生懸命に前に進もうとするその姿こそが美しいというメッセージが込められたこの曲をまずは贈る。観客はその歌声に耳を澄ませつつ、身振り手振りを交えて歌う彼女の一挙手一投足にも注目していた。彼女の表情こそ見られないものの“同じ光で繋がってる”ことをしっかりと感じさせた。それだけで十分である。
再び映像へ戻り、先ほど繋がれたはずの手が離されるところからスタート。「私の元から去っていき、また独りになった」――膝から崩れ落ちるこはならむの映像。そして再び独りで歩き出すが、その背中は先程よりも力がなく、足元は少しおぼつかないように見える。歩道橋から行き交う車や街の様子を覗いていたかと思うと、その足が地面から離れた。
ここで駅の描写へ転換――「なつかしい音 なつかしい匂い なつかしい景色 蘇るトラウマ 見たくない顔 聞きたくない声 許せない人たち もう行けなくなっちゃった、あの駅」
「生きるを選んだ私へ」の冒頭の語りが導入として流れ、ギターの歪さに共鳴するかのように少しのエッジさをボーカルに加えてその続きを歌い出していく。ボカロPでありシンガーソングライターであるΔが、彼女の学生時代の実体験を元に手がけたメッセージソングだ。孤独を感じて涙で喉を詰まらせているときと同じように、声を震わせながら「リセットボタン」を歌い上げると押すと、ピアノをバックに「心做し」、アコースティックギターの奥深い音色も印象的だった「アイロニ」、ドラムのカウントから始まった「天ノ弱」と、1st Cover EP『泣きながら』にパッケージされた彼女の原点を連続で届けていった。
物語、音楽、映像を三位一体で届けてきた彼女のステージが、「これからも私は歌をうたっていくね」という言葉と共に転換。キーボードは鍵盤ハーモニカ、ドラムはパーカッション、ギターはアコギへ、そしてこはならむもスツールハイスルールに腰掛け「着信まち」へ。先ほどまでの緊張感とは打って変わって、牧歌的なメロディーが聴き手の心をゆるませ、自然とハンズクラップが生まれていく。彼女もさらに自分自身を解放していくかのように「クラップありがとう!」と観客に話しかけた。その距離をさらに縮めていくかのように、蔦⾕好位置の変名プロジェクト・KERENMIプロデュースである「数センチメンタル」(『僕の心のヤバイやつ』第1期EDテーマ)を歌唱した。ここでこの日初めてのMC。
「本日は“こはならむ1st ワンマンライブ ~あなたに届けたかった~”に来てくださり、本当にありがとうございます!次の曲は、あなたの相談相手になれればいいなと思ってできた曲です。普段生活をしていくなかで、生きていくことが難しいなぁとか、苦しいなぁとか強く思ったときが何度もありました。弱い自分を見せるのが嫌で、誰にも相談せず、苦しいときも私は音楽に何度も助けてもらいました。そんな歌が私にも歌えたらいいなと思って、前を向くきっかけになればいいなと思って、この歌を歌います。それでは聴いてください」。
始まったのは配信限定のアルバム『Attitude』のタイトル曲。“ありのまま全てを飾ることなく 生き様歌う背に光指す 座席の片隅の涙に気がついて手を差し出せる人になりたい”──彼女のシンガーとしての、そして1人の人間としての心構えを力強く届けていく。それまでライブのキービジュアルが映し出されていたモニターにはライブの画が映し出され、こはならむが佇むボックスはさらに眩しくライトアップ。続く「私の幸せは私が決めるの!」では、チャーミングな歌声を響かせてみせた。ピンクに色づいたチアフルな歌声から、孤独や悲しみのモノクロの景色に少しの色をのせていくような繊細な声色までと、彼女の表情の幅広さを改めて知らしめるようなセトリである。
「『僕ヤバ』のおかげで私のことを知ってくださった方は結構いるのではないでしょうか?今から歌う曲はとっても音域が広くて、ライブのためにたくさん練習したので、『僕ヤバ』と共にたくさん成長したんじゃないかなって思います。サビの後ろのほうに合唱っぽいところが入っているので、歌詞を覚えていなくても、クラップとか、ラララとか、歌ってもらえると嬉しいです。それでは聴いてください」
続く『僕の心のヤバイやつ』第2期EDテーマ「恋してる自分すら愛せるんだ」では、サビ前で「合唱だよ!」とアジテートし、観客と共にシンガロング。「嬉しい、ニヤニヤしちゃう!」と声を弾ませる一幕もあった。ライティングも『僕ヤバ』の世界を表現するかのように、会場を柔らかな夕暮れ色の光のように包み込んでいた。
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