INTERVIEW
2024.04.03
次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」およびスマートフォン向けゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」(以下、「ガルパ」)発の幼馴染5人で結成されたガールズバンド・Afterglowが、約1年ぶりの新作となるミニAlbum『忘れらんない日々のこと』をリリースする。そこに詰まっているのは、高校3年生に進級し、少しずつ変わっていく“青春”の中で揺れ動くメンバーたちの心情や葛藤を反映した楽曲たち。それらを激情渦巻く歌唱で表現しているのが、ギター/ボーカルの美竹 蘭役を演じる佐倉綾音だ。Afterglowと蘭に出会って7年が経った今、彼女はどんな想いでその役柄に向き合い、演技と歌に取り組んでいるのか。そこには共に成長してきた2人だからこそのシンクロがあった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 三橋優美子
――「ガルパ」は今年3月で7周年を迎えました。それだけの長い時間、1人のキャラクターを演じ続ける機会は稀だと思いますが、今の佐倉さんにとって「美竹 蘭」はどんな存在になっていますか?
佐倉綾音 7年前は私もまだ20代前半で、今思い返すと自己を確立しようとして考えが少し凝り固まっていた時期でもあったのですが、そんなときに出会ったのが美竹 蘭というキャラクターでした。その時期、私は役者の矜持として「キャラクターと自分を同一視してはならない」という戒めを自分に強く課していたのですが、蘭はあまりにも自分と似すぎていたんですよね。それがCraft Eggさんとブシロードさんによって謀られたものなのかはわからないんですけど(笑)、髪形も背丈も一緒だったし、そしてこれは絶対に偶然なのですが、誕生日がうちの父と同じだったりして。
――それはちょっと運命的なものを感じますね。
佐倉 あまりにも共通点が多かったので、最初の頃は「いつか自分と一体になってしまうんじゃないか?」という警戒心が生まれました。自分が演じるすべてのキャラクターに優劣を付けることなく平等に愛を注ぎたいし、ほかのキャラクターに申し訳ない気持ちもあったので、取材でも「(蘭と自分が)似ている」と言うことを避けていた時期があって。でも、7年一緒に歩いてきたなかで、蘭もストーリーの中で成長し、私も役者としても人間としても成長するなかで考え方に変化が生まれて、今となっては「私とあなた、似てるね」と言えるようになったと思います。世界に平等なことなんてないし、一緒に7年間歩いてきたことでほかのキャラクターには辿り着けない境地になったとしても、誰にも怒られることはない。ここ1~2年で、そう思えるようになって。蘭はいつも「変わらないために変わっていく」と言っていますが、それを実際に体感した7年間でもありました。
――その意識の変化には、何かしらのきっかけやタイミングがあったのでしょうか。
佐倉 自分が掲げている信念は、自分が思っているほど他人には関係ないのかも、と思うようになったんですよね。その信念が「変わらないために変わる」ための弊害になっている可能性もあるな、と。私は今年で30歳になったのですが、何かもう1つ上のステップに行くためには、きっと私自身も変わる必要がある。例えば、「バンドリ!」を支えてくださっているファンの方たちが前に進んでいるのに、私が自分自身の変なプライドを守るために立ち止まっていると、いつかみんなに追い越されて、大切な人たちがいなくなってしまうんじゃないか?と思って。それが「変わらないために変わる」ということなのでは?と感じたんですよね。
――「変わらないために変わる」ですか。
佐倉 周りが「変わらないこと」を信念としていないのであれば、一緒にいるために私も変わっていかないと、「変わらない」ままではいられないのかもしれない。もちろん私自身が今まで大切にしてきたことには感謝しているし、後悔もしていないし、「正解だった」と自分に言ってあげたいのですが、「変わらない」ために進んでいくことも大事なのかなと考えています。
――なるほど。今のお話を聞いて、それこそ蘭が最近の「ガルパ」のストーリーで直面している問題と、それに伴う成長や心境の変化とリンクしているような印象を受けました。
佐倉 そうですね。これは多分、私が無意識下で蘭に影響を受けているんだと思います。最近のバンドを解散するかしないかというストーリーは、私も演じながらとても苦しくて……ただ、昔なら「なんで無闇に解散なんて言い出すんだろう?」と蘭に対して怒りの気持ちが沸いたかもしれないのですが、蘭と一緒に7年歩いてきた今の私には理解できることがいっぱいあって。だからこそ私も蘭と一緒に苦しんでいますし(苦笑)、今は彼女のことをキャラクターとしてではなく、ちゃんと1人の人間として「美竹 蘭」を見出してしまっているところがあります。今さらながら二次元と三次元の境目が曖昧な中学生の時期みたいな気持ちになりながら(笑)、とても不思議な気持ちで蘭と向き合っています。
――先ほど、蘭と自分は似すぎているというお話しでしたが、容姿以外の部分で似ていると感じたのはどんな部分ですか?
佐倉 最初に蘭の資料をいただいたのは、池袋サンシャインシティ噴水広場で行われた「バンドリ!」のプロジェクト発表会(2016年12月)の控室で、その資料には身長・体重・誕生日・キャラクターデザインや「人見知り」「友だちを大切にしているけど、心を開ける人は限られている」といった類いのことが箇条書きでまとめられていたんですね。私も一度ふところに入ることのできた人に対しては自分を全部さらけ出せるタイプなんですけど、特に学生の頃は初対面の人とコミュニケーションを取るのが苦手なところがあって。今も「バンドリ!」に新しいバンドの子たちが入ってくるとドキドキしてしまうのですが(笑)、そういう部分が他人事とは思えなくて、一番共感できる部分でした。でも蘭はどんどん人とコミュニケーションが取れるようになって、いつの間にか仲良くなっている子もいたりするんですよね。自分と同一視しつつ、親心みたいに見守っている部分もあって、不思議な距離感で彼女のことを見つめています。
――「ガルパ」のサービス開始時は高校1年生だった蘭ですが、現在はストーリーの進行と共に進級して高校3年生になりました。そのなかで成長や変化を感じる部分はありますか?
佐倉 それこそ色んな子と仲良くなっているのもそうですし、前まではAfterglowの中だけで成立していた世界が、コミュニケーションの幅がすごく広がっていて、どんどん他人と触れ合うことで、Afterglowの作る音楽も進む道も変わったし、それに伴って悩みも増えていったように思います。でも、ここは私と違うところなのですが、蘭はその悩みに対して1つ1つ立ち向かうし、他人とちゃんとぶつかるんですよね。(宇田川)巴やAfterglowのメンバーとケンカしたり、湊(友希那)さんにつっかかっていったり、(丸山)彩ちゃんとの出会いがあったりして。「私はこんなに真っ直ぐに人とぶつかれないかも」と思ったときに、ちょっと憧れみたいな感情もあり、初期にはできなかったことがたくさんできるようになっている蘭に、お芝居や歌で食らいついていくのに必死なところがあるかもしれません。
――蘭を演じる際に心がけていること、あるいはこの7年のなかで演じ方に変化があるのであれば聞いてみたいです。
佐倉 これはお恥ずかしい話なのですが、蘭の声は非常に変化していて……初期の蘭は声が今より高めで、途中からどんどん低くなっています(苦笑)。グラデーションで徐々に低くなっていったので、現場にいるスタッフさんも気付いていなくて、生放送か何かの機会で初期のイベントストーリーを観返したときに「あれ?蘭の声、高い!?」と気付いたんです。たしか一番最初に蘭のキャラクターを作るとき、スタッフさんから「少しかわいくしてください」というオーダーがあったのを覚えていて。なので最初は少しかわいさを残した、幼い女子高生像を作ったのですが、だんだん「蘭は声質的なかわいさを意識する必要はないかも」と思うようになって。
――というのは?
佐倉 蘭の成長が著しかったことと、Afterglowの楽曲がゴリゴリめの曲、カバーでは男性ボーカルのものが多かったこと、それと蘭は無愛想で、ぼそぼそしゃべったり、ちょっと斜めに構えた返答をする子だけど、セリフの端々でかわいらしさを表現してもらっていたので、そこに声質で足し算する必要はないかも、とどこかで感覚的に思ったんでしょうね。気づいたらどんどん声が低くなっていました。私の地声はどちらかというと初期の蘭に近いので、だんだんやりにくいほうに変わっていったはずなんですけど、それは良く言えば蘭の成長と共に変化した部分なのかもしれないと思います。
――蘭に向き合っていくなかで自然とそうなっていったと。
佐倉 はい。そういえば「That Is How I Roll!」(2017年)が最初に録ったオリジナル曲だったのですが、あの曲は当時、自分の中でとても背伸びして、めちゃくちゃかっこいいつもりで歌っていたんです。「こんなに攻めた歌い方をしていいのかしら?」と思っていたくらいだったんですけど、でも今聴くとまだまだなんですよね(笑)。「このときはこれが精一杯だったんだな」と思うと、自分と蘭の成長がニアイコールになっていることを認めざるを得ないなと感じます。
――Afterglowに関してはどのように感じますか?
佐倉 最近のストーリーでは、Roseliaやパスパレ(Pastel*Palettes)はプロとしてやっていく話になっているなかで、Afterglowはまだまだ青春をしていると思うんですよね。本人たちは自覚していないと思うのですが。元々のAfterglowのコンセプトも“王道青春ガールズロックバンド”という感じですが、今はそのなかでも“苦い青春”をやっているのかなと。Afterglowは定期的にこの苦い波がくるんですよね。学生ならではの粗削りな青春感がAfterglowらしくて、演じていて苦しいし、嫌になることもあって「私だったら逃げ出してるなあ」と思うのですが、この子たちは真正面からぶつかって、ケンカもして、諦めることをしないのがとてもいいなあ、と思います。
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