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INTERVIEW

2024.04.07

アニメ『戦隊大失格』劇伴:池 頼広 インタビュー/黄金タッグで挑んだ新しいチャレンジ、“仕組みとしての音楽”の探求に迫る

アニメ『戦隊大失格』劇伴:池 頼広 インタビュー/黄金タッグで挑んだ新しいチャレンジ、“仕組みとしての音楽”の探求に迫る

『TIGER & BUNNY』などで知られるさとうけいいち監督は、劇伴音楽を池 頼広氏に依頼する。それは本作『戦隊大失格』でも例外なくだ。これまで多彩なジャンルの映像作品を手掛けてきたさとう監督だが、今回は監督キャリア史上初の原作マンガからのアニメ化作品で、特撮ヒーローがモチーフとなっている。そこに二人三脚で挑む池氏にとっても、新しいチャレンジがあったという。それは単純に楽曲のモチーフという意味ではなく、ドラマづくりにおける「仕組みとしての音楽」づくり。ハリウッド映画音楽制作規模の豊かな音楽が作品の中でどのように響き渡るのか、制作の模様を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

黄金タッグで挑む――「一緒に作り続けて同じものを見てきた間柄」

――さとうけいいち監督作品の多くをこれまで池さんが劇伴音楽を担当されていますので、特報のPVが流れたときから予想していました。今回のお話はいつ頃届きましたか?

池 頼広 今回、さとう監督としては珍しいことに、原作付きの作品なんですよね。ご自身も「原作モノって、ほとんどやったことがないんだけど……」とおっしゃっていて、「(監督に)決まったら、池さん音楽を引き受けてくれる?」と、監督依頼のお話がきた初期の段階でお声がけをいただきました。そのときに僕が「もしやらなかったら?」と言ったら、「いや、やるでしょ?」って(笑)。そんなふうにお仕事を受けることが前提で話が進んでいきました。

――依頼するとかそういう段階の話ではないと(笑)。

 さとう監督の作品は映画的なアバンタイトルを付けたりするなど演出が独特で、そうなると音楽をシンクロさせる必要があり、絵に合わせて音楽を書かないと成立しない。というよりも、僕が音楽を担当することを織り込み済みで作っているとしか思えない(笑)。

――さとう監督はこれまで多岐にわたるジャンルの作品を作られてきましたが、すべての作品に通じるさとう監督ならではの特徴として、池さんからご覧になってどんなことが挙げられますか?

 やはり1話のアバンタイトル~オープニングの部分ですね。「この作品はこういうふうに見てほしい作品なんですよ」って、最初の数分の間にすべて押し込んでくる。今回の作品も、始まって2分くらいで、さとう監督以外ではありえない映像に仕上がっています。

――さとう監督とは最初にどんなお話をされましたか?

 音楽設計においては僕とさとう監督の間では何も会話はないんですよ。いつもの、「ダニー・エルフマンみたいな感じで」と。僕も好きだからそれでいいんですけど(笑)。

――クリエイター全般に対してですが、「誰々みたいに」というオーダーの仕方はそれが却って独自色を出すうえで難しく働くこともあるかと思うのですが、池さんとさとう監督の間柄だと、その一言で十分なように感じます。

 そうですね。僕は割と何でも咀嚼して自分なりのものにしてしまうタイプなので、そういうオーダーの仕方をされたとしても、どうしたって僕らしい音楽にしかならないんですよ。今回さとう監督は、コメディーらしさをとても意識されていたと思います。

――さとう監督作品といえば、これまで格好良い作品が多かったと思うのですが、原作付きの作品でまだ新しい一面を見せてこられるんですね。それと並走していく楽しみをクリエイターとして感じられているように思えます。

 それは確かにありますね。逆に僕から提案することも多いですし、そういうふうに忌憚なく言える間柄なのも、長い付き合いだからですね。

――池さんからはどんなことをおっしゃいましたか?

 僕はサウンドスーパーバイザーみたいなことも時々ほかの作品で担当しているので、音の面から全体的に見て、効果音をこうしようだとかは言いましたね。レコーディングを海外で行うことは決まっていたので、効果音もあまりアニメっぽくならないようにしよう、といったことはお伝えしました。例えば、ヒーローがポーズをキメるところも、マーベル系の作品は日本のシャキーンみたいな音は付かないのでそっちに倣おうとか、ハッキリ分けています。そういうことをあまり言葉を交わさずに通じるのも、10年以上作品を一緒に作り続けて、同じものを見てきた間柄だからですね。

――本作の劇伴音楽を制作するにあたり、作品全体を通貫するテーマみたいなことは考えられましたか?

 今回は「仕組みとしての音楽」を考えることが多かったですね。そこがこれまでの心情に当てる作品音楽とは違ったことでした。ヒーロー側と戦闘員側があるわけですが、戦闘員Dは擬態して潜入したりするので、Dの姿のまま画面に映ることがあまりないんですよね。そこでDが出てくるときは彼の音楽を当てたり、戦闘員たちのテーマは様々な形に変化できるメロディにしておく必要があったりと、その辺の仕組みを作るのが大変でしたね。

――音楽で視聴者に状況を理解させるわけですね。

 そういうことです。『戦隊大失格』は第1話の前半でヒーロー側を主人公っぽく見せておいて、実は戦闘員Dが主人公であることが描かれるので、それを表現するのには通常の2倍くらい労力がかかりました。あくまでも最初はドラゴンキーパーのメインテーマ音楽で完全にヒーロー作品として押し出したうえで、戦闘員Dが出てきたあとは彼のテーマのほうを印象的に見せるという、すり替えの音楽がこの作品の面白さになっていて、それがさとう監督の言うコメディー感なわけです。これがなかなか難しいオーダーで、作ると言い出したときからずっと考え続けていました。彼がいわゆる日本のヒーローっぽいテイストはOKしないことはわかっていたので、本当にレコーディングの直前まで作っていて、今までで一番時間がかかりましたね。自分としても上手くいったと思いましたし、さとう監督にも気に入っていただけました。

――ドラゴンキーパーのメインテーマはいつ頃作られましたか?

 もちろん、最初に書きました。絵をいただいたときからさとうけいいち節が満載で、そこを音楽でドンと押し出さなければいけないわけですよね。でも先程言ったように、いわゆるアニメっぽいのものや、従来の戦隊ヒーローものもこの作品にとっては違うし、かといってマーベルみたいになっちゃうのも嫌だし……。ちょっと『TIGER & BUNNY』っぽさとハリウッド映画っぽさがあるところがある音楽になりました。

――ドラゴンキーパーのテーマは最初に完全無欠の存在として音楽を当てられていて、そのあとにこの物語の仕組みをわかった視聴者は、同じヒーローのテーマ音楽が流れたときにどんな気分で聞くことになるんでしょうね。

 そこは僕もちょっと悩みました。色んなこの世界の仕組みがバレてしまったあとも彼らはヒーローとして登場してくるので、視聴者の気分と合わなくなってしまうのではと思っていたのですが、上がってきた映像を見るとルックスが綺麗だし、これはこれで仕組みをわかっていてもヒーローとして見られるなと思いました。それが音楽の力なのか演出の力なのか、両方なのかもわからないですけど。

――なるほど。視聴者としてはまた騙されてしまうくらいの没入感を得られる感じになっているんですね。

 だといいですね。僕としては日曜決戦がずっと続いていて、その裏話を時々見せてもらって、また日曜決戦を見るような、ドキュメンタリーチックに見ているように感じました。

――桜間日々輝や錫切夢子といった、戦闘員でもドラゴンキーパーでもない人物についてはどんな音楽を付けましたか?

 彼らについてはテーマ曲ではなく、その時々のドラマに合わせた音楽をつけました。一般的にそういうテーマ曲を用意することがあるかと思いますが、僕もさとう監督もこれまでの作品も含め、そういう作り方はしないという部分は共通しています。それも先ほどのアニメアニメしない考えと同じで、キャラが出てきてテーマがかかるという安定感を良しとしないんです。だから、大きなテーマ以外にあまり印象的な曲を持ってこない作り方をいつもしています。

次ページ:さとうけいいち監督の意外な経歴に裏付けられたコメディー演出に注目!

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