REPORT
2024.03.20
唯一無二の世界観を誇る女王蜂による2023年から続くツアー”十二次元+01”の追加公演にして千秋楽となるライヴが2024年3月1日、東京国際フォーラム ホールAにて開催された。近年はTVアニメ『【推しの子】』ED主題歌「メフィスト」やTVアニメ『アンデッドアンラック』OPテーマ「01」など、アニメ主題歌においても強烈な爪痕を残してきた女王蜂。昨年リリースされたアルバム『十二次元』とシングル「01」を伴うこのツアーで見せた世界とは何か――“生”と”死”が美しく交錯し、一体となったステージの模様をレポートしよう。
TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 森好弘
開演前の東京国際フォーラムは、緞帳で覆われたステージ上を前に耳馴染みのあるポップミュージックが流れるなか、時折拍子木の乾いた音が鳴るという独特な雰囲気。そして定刻を告げるように拍子木が連打されると同時に、ステージ上の緞帳がゆっくりとせり上がっていく。そこには白と黒の垂れ幕をバックに、中央には枝垂れ柳を思わせるオブジェが立っている。そして、客席を背に立つアヴちゃん(vo)、やしちゃん(b)、ひばりくん(g)に加え、サポートメンバーのながしまみのり(key)、山口美代子(dr)は皆、白い衣装で統一されている――というもの。セットも含めて「01」のMVを彷彿とさせるモノトーンのルックは明るいライティングに映える一方で、どこか引っ掛かりを感じさせるものだった。
“鯨幕”と呼ばれる白と黒のストライプの幕は、これが紅白だと卒業式などの式典に使われるものだが(奇しくもこの日3月1日は多くの土地で卒業式が行われている)、白黒となると葬儀で使われるものになる。枝垂れ柳は奇談「柳女」などでも知られるように、死や幽霊のモチーフとしても有名だ。そしてメンバーが見に纏う白装束は、死装束としても捉えられ……と、眼前に広がる、それらが集まった光景は改めてこの世のものとは思えない、まるで“あの世”を感じさせるものだった。そんななかで鳴らされたのは、ひばりくんによる「FLAT」の柔らかいアルペジオだ。アヴちゃんは冒頭から躍動感溢れる歌唱を聴かせる。そこにラウドなドラムが鳴らされ、モノトーンの世界に色が加わっていく。死の世界で生が躍動するような、独特の雰囲気が冒頭から展開されていった。
板の上の“あの世”は地獄か極楽か――そんな想いを馳せるように、ステージを挟んだ観客という“この世”のものたちは、陶然としたようにステージ上の光景を見守っている。続いて「FLAT」が終わり、「火炎」の祭囃子が聴こえてくる。TVアニメ『どろろ』OPテーマである屈指のアンセムが早くも鳴らされると、客席は大きな歓声を贈る。そして、サビともいえるあまりに有名なリフレインが聴かれた瞬間、待ってましたとばかりに観客は色とりどりのジュリ扇(ふさふさした羽毛の扇子)を一斉に掲げ、客席は瞬時にカラフルな世界に包まれた。それはまるで、“あの世”と“この世”の境界が消失したようでもあり、あるいは我々がいるこの客席ももとより同じ世界であるかのように、観客はジュリ扇を振り乱し、共にシンガロングするという生命力溢れる光景が繰り広げられた。会場のテンションが一気に上昇し、アヴちゃんもアグレッシブなパフォーマンスののちにマイクを床に落として歓声を煽り、観客もそれに応える。そんな「火炎」のアウトロから、そのままTVアニメ『東京喰種:re』EDテーマ「HALF」へと続いていき、アヴちゃんの「ようこそ」というドスの効いた声と共におどろおどろしいグルーヴが会場を包み込む。そしてそのエンディングでアヴちゃんは拳を突き上げ、それを振り下ろした瞬間に「犬姫」がスタート。アヴちゃんは時折歌舞伎の見栄を切るようなステージングを見せながら、何者かが乗り移ったような鬼気迫るパフォーマンスを展開していった。
そしてこの曲から、セットリストはアルバム『十二次元』へと突入していく。「KING BITCH」では妖艶かつ攻撃的なフロウで観客を煽っていき、続く「回春」では2人の登場人物をそれぞれ歌い分けながら切なく聴かせる。登場人物それぞれを歌うときの表情も含めて、あまりに美しく儚い、絶品のパフォーマンスだ。天井から花びらが舞うなかエンディングを迎えたあとは、「回春」と対をなす「売春」へ。ひばりくんのギターのクリーントーンとシンセも涙を誘うなか、ここでもアヴちゃんのボーカルは様々な表情を見せていく。そうした感動的な2曲のあとは一転してパワフルなバンドサウンドが印象的な「堕天」へと繋がっていくと、最後にはアヴちゃんがステージ上に崩れ落ち、静寂のなかでゆっくりと起き上がり、”降る灰を見つめて 雪みたいって思った”と口にする――『十二次元』収録のポエトリーリーディング「長台詞」だ。1つのモチーフを様々な声色で聴かせていくその様は圧巻で、生々しくもあるその一挙手一投足に、観客は固唾を飲んで見つめていた。そこから楽器隊が復帰してアルバムの曲順通りに「ハイになんてなりたくない」へ。タイトルのフレーズがリフレインされるなか、アヴちゃんは力強く足を舞台に踏み締めたあと、ゆっくりと枝垂れ柳の陰へと消えていった。
エネルギッシュな演奏の「ハイになんてなりたくない」が響き渡ったあと、アヴちゃんが舞台に再登場。キラキラとしたラメが眩しい、ミニのワンピースに和服の羽織のようなものをまとった、実に美しい出たちだ。ライヴ後半戦の狼煙を上げるかの如く鳴らされたのは、シングル「01」のカップリング「02」だ。「01」のインタビューでもこの曲への並並ならぬ想いを語っていたが、このライヴでも個人的にも期待を寄せていたのはこの曲でのパフォーマンスだ。様々な感情が塒を巻くような轟音を聴かせたかと思えば、そこから中盤では”お嬢さん お入んなさい”と少女による縄跳び歌が流れる。そこでアヴちゃんはマイクのコードを縄跳びの大縄にして振り回す。まさに壮絶なパフォーマンスの末に「まかしとき!」とアヴちゃんが叫んで、そこから楽曲はTVアニメ『後宮の烏』OPテーマ「MYSTERIOUS」へ。オリジナルではストリングスも流麗な美しい仕上がりになっていたが、ここではバンドサウンドも重きが置かれたパワフルな仕上がりになっている。思えばこの曲のレコーディングで、アヴちゃんは寝ているような体勢で収録したとインタビュー(「MYSTERIOUS」インタビュー)で語っていたが、ステージ上に立って歌うこの日は、オリジナルとはまた異なる力強さを感じさせるものだった。
そこからメンバーがステージをはけて、アヴちゃん1人で「虻と蜂」を披露。その少女的な、表情豊かなボーカリゼーションにうっとりとしていると、今度は黒装束に身を包んだメンバーがステージに戻ってくる。再びバンドサウンドが加わり「夜啼鶯」へと流れ込んでいくと、ステージ上は一瞬にしてアグレッションを取り戻す。そこからさらにテンションを上げて、破壊力抜群なサウンドを聴かせる「杜若」へと続いていった。
気がつけば、ステージ上のアヴちゃんは羽織を脱ぎ捨てさらなるモードへと突入している。トイピアノのようなフレーズから始まる「黒幕」では語るように、噛みつくようなフロウで滔々と歌ったあとには、物悲しいストリングスのフレーズが響き渡る。TVアニメ『【推しの子】』ED主題歌である「メフィスト」の幕開けだ。改めて、この日のステージはモノトーンのセットでありながら、それによって客席のジュリ扇をはじめ、それ以外のカラフルなあしらいもまた印象に残っていた。それこそライティングによって枝垂れ柳がまるで枝垂れ桜に見えたり、照明効果によって女王蜂のパフォーマンスの魅力がより増幅されている印象だ。そしてこの曲でもその効果は絶大で、ここでもオリジナルを凌駕するパワフルなバンドサウンドのなかで、最初に目についたのは血のように赤いライティング。それはまるでアイの最期を示唆しているような……と邪推したくなるほど想像力をかきたてる視覚効果だった。そのなかで躍動感が加わったボーカルは壮絶の一言だ。
全身が総毛立つような感情が押し寄せるなか、最後にはアクアとルビーの瞳の色を思わせるライトが照らされるなか楽曲はエンディングを迎えた――かと思ったら、そこからインプロビゼーションが演奏され、アヴちゃんの高笑いと「調子はどう?」という煽りとともに「BL」へと繋がっていく。ライヴの終演を真っ向から否定するようなとてつもないヘビィネスのなか、野獣のようなボーカルが響き渡った。轟音のなかで「ごきげんよう、女王蜂です」という挨拶のあと、アヴちゃんが「油」の最初のフレーズを歌い上げる。ここでのバンドサウンドはまさに圧巻で、やしちゃんのベースラインやドラムの強靭なボトムと、和風なあしらいのウワモノが渾然一体となった女王蜂流のダンスビートが、雪崩のように客席へと押し寄せる。観客も”返せ 返せ 借りたら返せ”とシンガロングで返す。楽曲が終わったあと、大歓声のなかでアヴちゃんが“切り裂き引き千切り”とアカペラで歌い出す。そして“そこに舌を入れて 心まさぐられ ふたりだけの……”とつながり、TVアニメ『チェンソーマン』EDテーマ「バイオレンス」がスタート。暴虐の限りが渦巻くダンスビートのなか、会場のボルテージも最高潮に達する。
女王蜂の強靭なフィジカルをこれでもかと見せつけたあとには、ギターのアルペジオのなかで「ありがとうございました。最後の曲です。心を込めて」と告げて「01」が鳴らされる。ストレートなバンドサウンドの疾走感のなか、アヴちゃんのボーカルも真っ直ぐに響き、残像のように耳に鳴るシンプルなメッセージは聴くものにもまた真っ直ぐに届いていく。この曲が最後に鳴らされた意味をエンディングと共に噛み締めていると、アヴちゃんが何も言わずに舞台からはけ、その後ほかのメンバーが観客に向かって挨拶をし、1人1人とステージをあとにする。そして誰もいないステージに、アヴちゃんが再び現れた。『十二次元』のアートワークの衣装をまとったアヴちゃんがステージ中央に座り込み、時折笑い声を上げ、そして立ち上がると満員となった国際フォーラムの客席を静寂のなかしばし眺め、最後に一言力強く「ありがとうございました!」と言うと、背後の鯨幕が落ち、舞台裏が剥き出しとなったステージが露わになる。そして緞帳が再び降りて、これをもって“十二次元+01”ツアーの千秋楽は幕を閉じた。
時間にして90分弱、MCもなし。しかし終わってみるとそれ以上の情報量を受け取った圧倒的なステージだった。女王蜂がライヴアクトとして圧倒的なパフォーマンスを見せつけたのはもちろん、視覚的な要素も含めて様々な想いを巡らせる、興奮させながらもその余韻のなかで何かを考えさせる要素が数多く見受けられたステージでもあった。我々が見つめていたのは地獄か極楽か、それとも“あの世”だと思っていたあの場所は我々が生きる“この世”そのものだったのではないか――ライヴが終わったあともこうして繰り返しあの日を勝手ながら考察している。それが、アヴちゃんが「01」のインタビューでこのツアーを「『恐ろしいもの』を伝えたい」と語っていたものになるのか……。
いずれにせよ心に残ったものは、“死”を感じさせる舞台のなかで『十二次元』というアルバムやアニメ音楽を含む様々な次元を行き来し、最後に「01」という“死”に抗って“生”を掴み取ろうとする、その力強い生命力だ。女王蜂がもたらしたその生命力を受け止め、我々はこの世を生きていくのだと、鯨幕が落ちて現実に戻されたときにそう感じたのだ。
そして女王蜂は、まもなく国立代々木競技場第一体育館にて、“結成15周年記念単独公演「正正正(15)」”を迎える。そのとき女王蜂が我々に見せるものとはなんなのか。そこにはまた恐ろしいまでの世界と、そしてこのうえない祝福が待ち構えているに違いない。
●ライブ情報
女王蜂 結成15周年記念単独公演 「正正正(15)」
※SOLD OUT
日程:2024年4月20日(土)
会場:国立代々木競技場 第一体育館
時間:16:00 / 17:00
<特設サイト>
https://www.ziyoou-vachi.com/15/
女王蜂
公式サイト
http://www.ziyoou-vachi.com/
SHARE