――今回の新曲「愛故」は、TVアニメ『百千さん家のあやかし王子』のEDテーマ。歌詞にはむトさんも関わっていますが(Fziとの共作)、作品のどんな部分に寄り添って作った楽曲になりますか?
むト まず原作のマンガを読ませていただいたときに、全体を通して登場人物たちの「誰かを守りたい」とか「大切にしたい」という気持ちを強く感じました。それは(七守)葵から(百千)ひまりもそうだし、ひまりから葵とか、それ以外のキャラクターからも感じたことで。戦闘シーンや激しい部分もあるんですけど、読んでいて温かい気持ちになれたし、「愛に溢れた作品だな」というのを率直に感じたんですね。なので、そういう部分を表現しようと思ってできた曲になります。
――先ほどの「無知」にせよ「レブル」にせよ、むトさんはこれまで「負の感情」を吐き出すことが多かったわけですが、「愛故」はまさに愛に溢れた曲で、今までとは真逆に近いベクトルの楽曲ですよね。その意味で難しさがあったのでは?
むト さっきお話しした「世の中にきれいなものはない」という気持ちは以前に思っていたことで、ここ1年くらい色んな人と関わっていくなかで、人の温かさに触れる機会が多くて、私の価値観自体がガラッと変わったんです。「人間なんてみんな悪い……!」と思っていた部分が、「世界って素晴らしいとまでは言わないけど、意外と良いところがあるのかもしれない」と思えるようになって。そういう部分を音楽に落とし込みたいと思っていたので、今回は素敵な機会をいただけました。
――そのご自身の価値観がガラッと変わったきっかけが気になります。
むト リアルで本当にどん底に落ちたような出来事があって。そのときに周りの人たちにすごく助けられたし、そういうことが積み重なっていくなかで、「私も人のために何かしたい」と思ったし、助けてもらったぶん、お返しもしたい、助け合っていけたらいいなと思えるようになったんです……今さら気づけたみたいなところがあるんですけど(笑)。
――この楽曲は「愛」についての歌になっていますが、今のむトさんが思う「愛」の形とはどんなものですか?
むト 本当にこの曲の歌詞にある通りなんですけど、“隣で流す涙を分け合うこと”はまさにそのままというか、寄り添っていけるものが「愛」だと思います。さっきお話しした私がしんどかった時期に、私以外にもしんどい人が周りにいたんですね。そのときに「一緒にここから頑張ろうね!」と感じられた部分がすごくあって、それは今思い出してもお互い助け合えたなあと感じますし、どちらかが一方的に「助ける」とか「助けられる」ではなくて、「分け合うこと」や「分かち合うこと」が大切だと思います。
――それは『百千さん』のひまりと葵の関係性にも通じる部分かもしれないですね。
むト そうだと思います。「分かち合う」という部分は『百千さん』の物語でもよく描かれる印象があって、「しんどい」や「つらい」といった気持ちを1人で溜め込まない、というところがこの楽曲と『百千さん』の繋がっている部分だと思います。歌うときも全体を通して温かみを大切にして、サビ頭の高音も痛くなりすぎないように、突き抜けている感じはあっても包み込む温かさが出るようにこだわりました。
――ちなみに『百千さん』の好きなシーンやエピソードはありますか?
むト 原作コミックのエピソードになるんですけど、屋敷の地下に鵺(葵)が閉じ込められて、ひまりが助けに行くシーンが印象的です。危険を顧みず助けに行くところが「愛」だと思いましたし、自分がもしそういう状況になったとき、そんな行動がとれるのかな?と思って。一途ですごく素敵だなって思いました。
――ここからはほかのシングル収録曲についてお聞かせください。両A面シングルのうち、もう一方の表題曲「硝子細工」は、ボカロPの是さんが楽曲提供したガラスのようにひんやりとした質感のロックチューン。
むト 是さんの楽曲は昔から聴かせていただいていて大好きだったので、楽曲を受け取ったときから「わあ、本当に是さんの曲だ……!」と思って感動しました(笑)。今回は「是さんが思うむトを楽曲で表現してください」というお願いだったのですが、本当に解像度が高くて、タイトルの「硝子細工」も私がよく「ガラスのような声」とコメントされることにリンクしますし、私の好きな是さんが私のために楽曲を書いてくださったことの感動が大きかったです。普通にファンです(笑)。
――その中でも特に、むトさんが表現してきた世界観に通じると感じた部分は?
むト それはやっぱり歌詞ですね。“無色”という言葉が入っているのもそうですし、“また駄作い子になっちゃった”みたいに自分が好きになれない部分も私自身に通じるところで。自分が経験してきたことなので歌うときに感情も乗せやすかったです。
――歌うにあたってこだわったポイントはありますか?
むト サビの後半の音がものすごく高くて、レコーディングのときは「ちょっと……高い、高い!」って必死でしたけど(笑)、私はTikTokで高音を売りにしていたので、自分自身の強みをしっかり出せたんじゃないかと思います。ファルセットも高くなりすぎるとオペラ歌手みたいになりかねないので、そうならないように気を付けながら歌いました。
――そしてもう1曲、「十日の菊 feat. 梓川」は、同じくボカロPのBCNO(ボクノ)さんが提供された、シャープでグルーヴ感のあるギターロック。
むト この曲はBCNOさんと色々お話ししながら作っていただきました。歌詞にもある通り、焦燥感とか鬱々とした感情が題材になっていて。アップテンポでキラキラ明るい感じではなくて、ミドルテンポでダウナーな感情を表現したくてお願いしました。
――歌声に生々しさが感じられますが、表現するにあたって心がけたことは?
むト ライブ感というか、生歌を聴いているかのような感覚になるように、抑揚や声の感情が伝わるように意識して歌いました。なのでそのときのテンション感を大切にレコーディングしました。
――SINSEKAI RECORD所属の梓川さんがデュエットというかコーラスで参加していますが、こちらはどんなご縁だったのでしょうか。
むト あずくん(梓川)とは以前から仲が良くて。昔、circleという13人組のグループで活動していたときのリーダーが彼だったんです。そのときのメンバーとはずっと仲が良くて、イラストをお願いしたり、一緒に活動を頑張っていて、それこそさっき私がしんどかった時期に助けてもらったのも、そういう仲間たちだったりしたんですよ。今回、「十日の菊」をレコーディングしたときに、自分の声が少し細いので、楽曲としてもっと厚みを持たせたいと思って「男性ボーカルを入れてみたいです」と相談させていただいて。それであずくんにお願いしたら、快く引き受けてくれました。「一緒に音楽を頑張っていこう」と言ってくれている仲間たちの1人と、こうして一緒に音楽を作ることができて嬉しかったです。
――そうだったんですね。先ほどの「愛故」の話しにも繋がりますが、音楽や表現活動は自分と向き合わなくてはならない孤独な部分があるなかで、そういった気持ちを分かち合える仲間がそばにいるのは心強いでしょうね。
むト めちゃめちゃ大きいです。本当に大切な仲間で、活動面でも支えになっていますし、プライベートでもよく遊んでいて、毎日話したりゲームをしています(笑)。みんなそれぞれ尊敬している部分があって、動画で一緒にコラボすると刺激を受けますし、良き仲間でもあり良きライバルでもある素敵な人たちです。
――以上、多彩な曲調の3曲が収録されたシングルになりましたが、ご自身としてはどんな作品になったと感じますか?
むト どれも違う曲調ですけど、どれも「むト」の世界観の1つ。負の感情を含め、それぞれ私が思っていたことや考えていたことが盛り込まれていて、それがあったからこそ「むト」というものになっていると思うし、「むト」を形作るうえでの経験がたくさん盛り込まれた3曲になりました。
――作品きっかけでもあると思いますが、「愛故」のような楽曲がご自身の心境の変化に合わせて生まれたのは、「むト」の世界観の幅を広げる意味でも大きかったのではないでしょうか。
むト はい。私は自分で書いたオリジナル曲もどんどん出していきたいと思っているんですけど、この1年は本当に目まぐるしいくらい心境の変化が大きかったので、その間に思ったり考えたことがたくさんあって、それを全部メモに書き溜めているんです。今後はそういうものを曲にしていければいいなと思っています。
――アーティストとしての理想はありますか?
むト 最初にお話ししたような、誰かのはけ口になれるような、代弁できるようなアーティストになりたい気持ちがずっとあって。私は音楽に助けられてきたので、次は私がそうなれたらいいなと思います。
――最近はリアルでのライブもやられていますよね。
むト はい。やっぱりネットだと顔が見えないのであまり実感できる瞬間がないんですけど、去年の誕生日に初めてワンマンライブを開催したときに、顔が見えるからこそ「私の歌を聴きにこんなに人が集まってくれるんだ」と感じられた部分があって。ライブってすごく素敵だと思ったし、ネットを通じてだけでなく、直接届けたいこともたくさんあるので、ライブも積極的にやっていきたいです。
――立ちたいステージはありますか?
むト え~!?いっぱいあるんですけど、変に現実主義なのであまりそういうのを口にするのが苦手で……(苦笑)。もちろん日本武道館とかも立てるものなら立ちたいですけど、ちゃんとステップを踏んで、着実に目指していきたいなって思います。
●リリース情報
「愛故/硝子細工」
3月6日(水)発売
【アーティスト盤(通常盤、CD only)】
品番:SRCL-12781
価格:¥1,760(税込)
ジュエルケース仕様
【アニメ盤(期間生産限定盤、CD only)】
品番:SRCL-12782
価格:¥1,980(税込)
描きおろしアニメ絵柄イラスト7インチサイズ紙ジャケット仕様
スマホサイズステッカー封入(アニメ場面写絵柄2種のうちランダム1種)
<CD>
「愛故」(※TVアニメ『百千さん家のあやかし王子』EDテーマ)
作詞:むト, Fzi / 作曲・編曲:福島章嗣(agehasprings Party)
「硝子細工」
作詞・作曲・編曲:是
「十日の菊 feat. 梓川」
作詞・作曲・編曲:BCNO
●作品情報
TVアニメ『百千さん家のあやかし王子』
毎週金曜24:00~ 放送開始
放送局:TOKYO MX/とちぎテレビ/群馬テレビ/BS11
配信:U-NEXT/ABEMA/アニメ放題 にて地上波同時配信
<イントロダクション>
「僕の姿を見てはいけないよ──」
16歳の誕生日に突如送られてきた遺言状により「百千家」を相続することになった、ひまり。
地図を頼りに「百千家」に辿り着くと、そこには葵と名乗る謎の少年のほか、紫・伊勢と呼ばれる先住人が……!
どうやら「百千家」は”現世(うつしよ)”と”幽世(かくりよ)”の狭間に建っている家のようだ。さらに、その家の中心人物である「葵」にも何やら秘密があるようで――。
あやかし系和風ファンタジー、ここに開幕──!!
【スタッフ】
原作:硝音あや「百千さん家のあやかし王子」(あすかコミックスDX/KADOKAWA刊)
監督:ボブ白旗
シリーズ構成:蒼樹靖子(スタジオモナド)
キャラクターデザイン:岡真里子
サブキャラクターデザイン:天﨑まなむ
キーアニメーター:菊池隼也
和柄デザイン:水野歌
美術監督・美術設定:田尻健一(ムクオスタジオ)
色彩設計:手嶋明美
撮影監督:青木孝司(スタジオトゥインクル)
3D監督:小俣美季(スタジオトゥインクル)
編集:須藤瞳(REAL-T)
音楽:辻田絢菜・狐野智之
音響監督:菊田浩巳
制作:ドライブ
■主題歌
オープニングテーマ 神山羊「鬼灯」
エンディングテーマ むト「愛故」
【キャスト】
百千ひまり:川井田夏海
七守葵/鵺:大塚剛央
紫:立花慎之介
伊勢:小野友樹
火車:八代拓
那智:羽多野渉
<むト プロフィール>
2018年1月に活動をスタートし、活動開始から現在までカバー動画や弾き語り動画をYouTubeやSNSに投稿、さらにソロの活動にとどまらず様々なコラボやfeat.にも参加し、その透明感あふれる歌声が特に若い世代から多く支持されている。
日本テレビ Zドラマ「沼る。港区女子高生」主題歌(須田景凪「いびつな心 feat. むト」)にfeaturingアーティストとして参加、“SNSで最も使われる音楽”を生み出す架空のアパート”MAISONdes”に「トラエノヒメ feat.むト, Sohbana」で参加するなど、いま注目を集めている新世代アーティスト。
©2023 硝音あや/KADOKAWA/百千さん家のあやかし王子製作委員会
むト
公式X(旧Twitter)
https://x.com/temnem_sui
公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCrX-PLaQfugZ3NtHdUKqOHg
TVアニメ『百千さん家のあやかし王子』公式サイト
https://www.momochisan-anime.com
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