2023年8月にアーティストデビュー5周年を迎えた絶望系アニソンシンガー・ReoNa。彼女のニューシングルである「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」が2月28日にリリースされた。TVアニメ『シャングリラ・フロンティア』の第2クールエンディングテーマである本楽曲、ここで歌われたのは亡き人に対する想いだった。果たして本楽曲はいかにして制作されたのだろうか?ReoNa自身に存分に語ってもらった。
INTERVIEW BY 北野 創
TEXT BY 一野大悟
――昨年10月から今年1月にかけて『ReoNa Acoustic Live Tour “ふあんぷらぐど2023”』の開催もありました。終えてみての感想から伺えればと思います。
ReoNa 改めてReoNaの原点はアコースティックにあることを痛感したツアーでした。アコースティックによるワンマンライブは久々ではあったのですが、デビュー前からやってきている形であり、デビューしてからも大切にしているもの。今後も続けていきたいと改めて感じました。
――アコースティックライブの魅力はどこにあると思われますか?
ReoNa その瞬間にしか生まれない音楽が聴けるところだと思います。もちろんリハーサルも行うのですが、ライブ当日がリハーサルどおりではない、予定していなかったところに溜めを作るようなことも度々あるんですよ。その結果、そのライブの瞬間でのみ聴ける音楽が作り出される。それはアコースティックならではの魅力ですね。
――一緒に回っているピアノ・荒幡亮平さん、ギター・山口隆志さんがアドリブを入れてくることもあるのでは?
ReoNa かなりの頻度であります。おかげで咄嗟の対応力はかなり磨かれました。ただ、それもこれも長年共に活動し、お互いのことを信頼しているからできること。何をやっても合わせてくれる、そう思っていなかったらアドリブを入れられませんから。
――今年の1月には台湾・香港でのワンマンライブもありました。
ReoNa 初となる海外でのワンマンライブ、お客さんの楽しみ方も日本と違う部分があり、すごく新鮮でした。
――具体的に日本との違いを挙げるとしたらどこになりますか?
ReoNa 一番驚いたのは皆さん日本語で、お歌に合わせて歌われていたこと。アニメを観て、何度もお歌を聴いて歌詞を覚えてくれたんだと思います。そこにはアニメソングの力を感じずにはいられませんでした。
――そんな貴重な経験を経てリリースされるのが「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」。こちらはTVアニメ『シャングリラ・フロンティア』の第2クールエンディングとなっています。
ReoNa 元々お話をいただく前から『シャングリラ・フロンティア』のコミカライズ版を読んでいたので、主題歌としてこの作品に携わることになった時はすごく驚きました。マンガを手に取ったきっかけは、頭がハシビロコウになっている人(主人公のサンラク)が剣を構えているビジュアルに惹きつけられたことで。それで読み始めたら話のテンポの良さと、コミカルさとシリアスさのバランス感に魅了されました。加えて、登場するキャラクターが人間臭いことも面白さだと感じました。
――「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」はどういったコンセプトから制作がスタートしたのでしょうか?
ReoNa まず考えたのは、『シャングリラ・フロンティア』が持つ大きな想いに寄り添って曲を作りたいということでした。そこでキーワードとして浮かんだのが「大切な人との別れ」。セツナやウェザエモン、もしかしたらアーサー・ペンシルゴンも含めて、別れに対して色んな思いを抱えている人が、私がEDテーマを担当する第2クールには登場するので。そこで自分の中にある「大切な人との別れ」に思いを巡らせて最初にパッと浮かんだのが、亡くなった祖父との別れでした。なので、まず私がおじいちゃん、じいじに対しての思いを手紙に書くところから制作をスタートさせて、その手紙をハヤシケイ(LIVE LAB.)さんにお渡しして歌詞として仕上げました。
――その手紙はどういった内容だったのでしょうか?
ReoNa じいじとの別れに対する心残りを赤裸々に綴ったものでした。私の実家の庭にはガジュマルの木が植わっていて、その木陰でじいじがよく涼んでいたんです。お庭で遊んでいる私が熱中症を起こさないよう見守ってくれたり、木にブランコやハンモックを吊るしてくれたりして。今でもその木を見るとじいじのことを思い出しますし、いないとわかっているのにひょっこりじいじが現れる気がするんです。そんな想いを手紙に込めました。
――その手紙を通して楽曲のテーマが浮かび上がってきたと。
ReoNa 手紙を書いているうちに、自分がじいじとの別れに心残りがあることに気づかされて。同時に、この心残りは別れを経験したことのある全ての人が抱えているものだとも感じたんです。それを今回のテーマに据え、制作を進めていきました。
――ReoNaさんが心残りに感じたのは、どんなことだったのでしょうか。
ReoNa 私自身、じいじの最期の瞬間に立ち会うことができなかったんです。最後に会った時も、次会うことはないかもしれないと薄々感じながら、最後のように振る舞うと本当に最後になってしまう気がして、改めて感謝の気持ちを伝えることができなくて。今回の歌詞にある“愛してた ただそれだけのことが たったそれだけの言葉が 言えたらよかったのに”という想いは今でも抱えています。
――ReoNaさんにとっておじい様は大切な存在だったんですね。
ReoNa すごく大きな存在でした。私があまり親と仲が良くない時期は、親代わりのような存在でいてくれたので、心の拠り所でしたし、祖父という立場ですごく見守ってくれてた人だったので。
――歌う際にはどのような想いを込めたいと考えましたか?
ReoNa もう会えない人に、それでも会いたいと思う気持ちを込めたい、そう考えていました。それが上手く表現できるように、今回は事前にどう歌うかの計画を立て、それをノートに書き出してレコーディングに臨みました。ただ、言葉の中に込めた思いみたいなものは私の中にもたくさんあったのですが、こういう壮大でゆったりした曲調の中で感情を込めながら歌うことの難しさを改めて感じました。「HUMAN」のときも感じたのですが、想いだけでは伝わらない部分もあるので。
――曲名にある“Heaven in the Rain”という言葉にはどんな意味を込めたのでしょうか。
ReoNa ガジュマルという木には、レインツリーという別名がありまして。ガジュマルは実の中に花が咲く木で、花の香りがすることはあまりないのですが、雨が降ったときは実が濡れて、独特の甘い花の香りをなんとなく感じるんです。そういう私自身の記憶にもリンクしますし、ウェザエモンとの戦いで登場するキーワードにも繋がっていて。それと、雨の向こうの天国にいるじいじに届いたらいいな、っていう意味も込めています。
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