声優アーティスト・青山吉能が、2月28日に5thデジタルシングル「Flowery」をリリース。昨年ソロとしては初めて開催したトーク&ライブツアー“こぼればな(し)”のファイナル・東京公演でにて1コーラス分が初披露されていたこの曲は、そのツアーのテーマである「愛」をコンセプトに制作されたナンバー。その初披露を含めて初のソロツアーで感じたものを、青山はどう歌声に乗せ曲に込めたのか――楽曲ができるまでの裏側を、たっぷり語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
――まずは、昨年開催されたトーク&ライブツアーを終えての、率直な感想からお聞きできますか?
青山吉能 最初はやっぱり不安が大きかったです。「完走できるのか?」という不安もありましたけど、今までのライブは「一度きりのものをお届けして、満足していただく」ということばかりだったので、最初は真新しいことに対するエンターテイメント性ばかりを追いかけていたというか……ツアーって、例えば全通してくれる方はセットリストがわかっているじゃないですか?
――複数公演参加される方がいると、必然的にそうなりますよね。
青山 でも、前回のインタビューでお話ししたように「“裏切る美しさ”もあるツアーにしたい」と思っていたので、「そういう“既定路線”みたいなものを、自分の中でどう乗り越えればいいんだろう?」という不安もあったんです。ただ、あまりに変えすぎると「ツアーとは?」ともなってしまいそうで……そういう「ファンの皆さまはどう感じるんだろう?」ということへの不安が、最初はすごくありました。
――それは、どう乗り越えられたんですか?
青山 まず「トーク&ライブ」にしたことでトークコーナーは会場ごとに全然違うものになりましたし、ライブパートについても、大まかなセットリストが一緒であっても間に挟む曲や場所を公演ごとに変えたおかげで、都市ごとにサプライズ感みたいなものも生まれたんですよ。逆に「やっぱりこの流れは通して聴きたいよね」みたいなものについては、それを熊本でも大阪でもやるなかで「東京でもやってくれるんだ!」と物語が紡がれていって……東京公演くらいでようやく、「そうだ、これがツアーじゃん!」と気づくことができました。
――懸念点は、実はツアーの良さでもあった、と。
青山 そうなんです。同じことをやることで起承転結が生まれるというか……「ツアーをやる」ということの良さを、改めて知ることができました。
――そんなツアーの東京公演を取材させていただきましたが、ファンの皆さんもじっくり歌を味わって楽しまれているように感じました。
青山 自分自身もオタクとしてライブに行くとき、オールスタンディングはしんどいと感じていたので、「絶対みんなには座っていてほしい」と思ったんです。ただ、椅子ってあまりライブハウスになくて、特に大阪公演の会場はクラブ営業しているような会場だったのもあり正直椅子が足らなくて。私のメイク中の椅子を「これ使ってください!」と楽屋から持っていったりしたほどだったんですよ。
――そんなにですか!?
青山 でも、どうしてもシッティングにしたかったんです。青山吉能楽曲に立って聴いてほしい曲ってほとんどないですし、みんな足腰しんどいだろうし……「足腰しんどいなぁ」と思いながらMC聞かれてるときの顔って、意外とバレてるんで(笑)。
――そこまで見えるんですね(笑)。さて、そんなツアーを経ていよいよリリースになる新曲がこの「Flowery」です。この曲を制作することになったきっかけについてからお聞きしたいのですが。
青山 そもそも、ふんわりと「何か新曲出す?」みたいな話はあったんですよ。ただ私、リリースのたびに燃え尽きるので、「空飛ぶペンギン」を出したあとは「本当に今度こそ、もう何もない……」みたいな気持ちだったんです。そんななかでこのツアーがあったので、「“こぼればな(し)”ツアーのテーマになぞらえた曲」をコンペという形で、色んな作家さんに募集させていただきました。
――ちなみに、改めてツアーのテーマについてもお話しいただいてよろしいですか?
青山 そもそも“こぼればな(し)”というツアーは、「愛とは何か?」みたいなものがテーマだったんですね。皆さまからこぼれ落ちたものや私の内側から溢れたものが、花のように見えて。それがぎゅっと花束みたいになっているものが、結果として愛だよね……というテーマだったので、元々は「こぼればな」というところに、いっぱい喋りたいから「し」をつけたんです。皆さんからもらった愛みたいなものもすごくたくさん感じていたので、お返しになるような曲にもしたくて。その気持ちは、ツアーをやっていくにつれてまためきめき育っていきました。
――そうして集まった曲の中から、「Flowery」を選んだ決め手になったのはどんな要素だったのでしょうか?
青山 私がさっき言った言葉を音楽にすると、どうしても似通っちゃうんですよ。例えば、どう考えてもパンクロックではないでしょうし(笑)。そんななかでこの曲は、まず温かみのあるギターがすごく印象的だったんです。曲の中で使われている楽器も、ギターとキーボードだけというツアーのバンド編成にもすごく似ていましたし、温かみのある“家感”みたいなものもデモからすごく感じられて……「まさかこんなに私が描きたい世界を、瑞々しく具現化してくださっているとは!」と思って、この曲に決めさせていただきました。
――特にどんな部分に、描かれたい世界が具現化されているように感じましたか?
青山 “花コンセプト”の曲には違いないんですけど、芽吹く前向きさだけじゃなくて、別れや枯れていくことといった切なさもある世界観だったところです。「すごく温かみがあるように花が咲いているように見えるけど、冷たい風が吹いている」のような、あべこべ感みたいなものはあったらいいなぁと思っていたんですよ。あとは、全体的にはめちゃくちゃ温かくてハートフルな曲なのに、Dメロになった瞬間にすごく不思議なコード展開がされているところも、自分の中ではすごくフックになりました。
――その「花」という要素はタイトルにも用いられていますが、「Flowery」は和訳すると「たくさんの花」という意味なので、そこもやはりライブと繋がりますね。
青山 今回のツアーでは、お一人お一人の席に小さな花を並べて皆さんに受け取ってもらったんです。それがぎゅっと集まった状態を、やっぱり私は「愛」と呼びたいので、この「Flowery」という言葉は私がイメージする「愛」の形にすごくぴったりだな、と思っています。しかもこの曲は最初からこの「Flowery」というタイトルだったので、hisakuniさんが完全にすくい取ってくださったというのも嬉しかったですね。始まりのギターの音色もドンピシャで、マジでこの曲気に入ってます。
――その「愛」というテーマを踏まえると、青山さんが音楽活動をするなかでのファンの方への目線が、ファンの方へのラブレターのようなところがあるとおっしゃられていた「たび」の頃から良い意味で変わっていないようにも感じます。
青山 わ、嬉しい。ファンの皆さまにも喜んでいただけたら何よりですね。皆さまには助けられてばかりなので、少しでも恩返しができたら……と思うばかりです。
――そんなこの曲は、ツアーの東京公演で初披露されたわけですが、その頃にはすでに楽曲は完成していたんでしょうか?
青山 レコーディングはツアー後だったんですけど、楽曲自体は大阪公演と東京公演の間くらいに出来上がっていたので、「東京公演に間に合ったら、やってみるか」みたいな感じで披露できた……という流れでした。
――レコーディング前の新曲初披露というのは、初めての試みでしたよね。
青山 そうなんです。なのですごく緊張しちゃったんですけど、まさにライブで感じたことを歌うために作った曲なので、そのままの気持ちで歌うことができました。それができたことによってステージ上からの景色を浮かべながらレコーディングできたので、制作にあたっての大ヒントになったように思います。
――「ライブを意識した」曲でもレコーディング自体は披露前のケースが多いので、その場合は想像だけで歌わなければいけないですからね。
青山 でも今回は、思い描いている正解の世界を頭に置きながら、丁寧にレコーディングしていけたんですよ。制作スケジュールに結構余裕があったのもあって、時間はかかりましたけど、結果的にすごく自分でも納得のいくものになりました。
――特にどんな部分を、丁寧に作られていったのでしょうか。
青山 私はやっぱり、歌の中に皆さんが“魂”だと思っているようなものを込める歌い方が、多分得意で。でもこの曲でそれをやってしまうとしつこいし、曲の世界にそぐわないんですよね。だけど、かといって淡々と歌うのも違うので、最初は自分の中の理想を叶えるバランスみたいなものが全然掴めなかったんです。ただ今回は制作に余裕があったぶん「もう、とことんやったろう」ということで。ディレクターさんとも前向きに意見を戦わせながら3日間くらいレコーディングをやって、最終的には「ここだ!」みたいに、本当にハマる部分を見つけることができました。
――ディレクターさんと意見に違いがあるのは、この曲だとステージに立つ側と観る側との違いみたいなところからくるものかもしれませんね。
青山 でも必ずしも私が正解なわけでもなくて、「結果的には、ディレクターさんのディレクションどおりだったなぁ」と思うこともたくさんあるんですよ。そういった、すごく前向きな戦いみたいなものは、よくありますね。
――良いものにするための共闘というか。
青山 そうですね。お互いが正解を探って光のない洞窟を探り合う、みたいな(笑)。
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